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パンドラ王女と死神王子の呪われた婚姻  作者: あまNatu


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寝室に突撃!

「妖精姫と殿下が会うのがいやだと……?」


「いやというか……。もちろん旦那様の呪いが解けることは嬉しいです。ですが……そうなったら旦那様のために私ができることがなくなってしまいます……」


「なるほど」


 パンドラは髪を丁寧にとかして、オイルを塗りこむ。

 本当はエルがやることらしいのだが、髪もパンドラの一部。

 触れられるのがまだ怖いため、自分でやっているのだ。

 エルはそばで指示を出してくれるのだが、ため息ばかりのパンドラに気づきこの話へと発展した。


「つまるところ、殿下を取られてしまうかと恐れられている……基、嫉妬されているということですね!」


「………………嫉妬?」


「新たな女性の出現で、嫉妬しない女はおりません。妖精姫を殿下が気に入ってしまうのが嫌なのではないですか?」


「…………そうなのでしょうか?」


 いや、エルの言うとおりだ。

 きっとパンドラはアリーシャに嫉妬しているのだ。

 パンドラにはできなかった、ハデスの呪いを解けるかもしれないから。

 そうなったらハデスの関心が、アリーシャに移ってしまうのではないだろうか?

 いや、そもそももっと条件のいい令嬢との結婚話が出てくるはずだ。

 そうなったら呪われたこの身など、ハデスの足手まといになってしまう。

 それはいやだ。


「…………いやなことだらけです」


「んふぅ! 愛し合う二人に迫る危機。……最高の調味料ですね!」


 エルはなんだか口をニヤニヤさせている。

 口角が上がるのが止められないと頰を押さえつつ、ごほんと大きな咳払いを一つした。


「まあ、ひとまず。殿下は奥様のことを大切にされています。同じ境遇を体験したことの、仲間意識的なものもあるかと。そしてそのつらく悲しい体験を共有できるのは奥様しかいらっしゃいません。妖精姫には無理なことです」


「…………ありがとうございます、エルさん。……なんだか少し、恥ずかしいです」


 エルに励ましてもらったことが、なんだか恥ずかしく思えたのだ。

 子どものように誰かに不安を口にするのは、やはりなれない。

 頰を赤らめて照れていると、エルは優しく微笑みを返してくれる。


「不安は口になさった方がいいです。殿下にもそのままお伝えください」


「……迷惑ではないですか?」


「まさか! 喜ばれると思います」


 そう言うものなのだろうか?

 だがエルがそう言うのなら、きっと正しいのだろう。


「ちょうど髪も終わりましたので、殿下の元に行かれてはいかがでしょうか? 明日のパーティーの準備はバッチリですので」


「ありがとうございます。……では、そうします」


 ハデスが喜んでくれるのならば、ここで一人モヤモヤしている理由はない。

 パンドラはエルとともにハデスの寝室へと向かうと、ノックをして入室の許可を待つ。

 部屋に入れてくれるのかと若干期待したが、なぜか慌てた様子のハデスが廊下へと出てきた。


「パンドラ!? ……なぜ、ここに?」


「旦那様にお話ししたきことがあり……きたのですが……」


 パンドラはちらりとハデスが背中に庇う扉を見る。

 ここは確かにハデスの寝室のはずだ。

 実際ハデスは普段のようなきっちりとした装いではなく、シャツにズボンというラフな格好をしている。

 もちろん手袋はつけているが、普段よりも近寄りやすさがあった。

 そんな姿も素敵だと思いつつも、どうしても先ほどチラリと見えた寝室の中が気になってしまう。

 見間違えでなければ今、部屋の中に……。


「…………女性と、お過ごしだったのですか?」


 自分でも驚くくらい低い声が出てしまった。

 ハデスの寝室に女性がいた気がする。

 一瞬だけれど、目があった気がしたのだ。

 もちろんハデスも男性ゆえ、そういう女性がいてもおかしくはない。

 だからこそそう問うたのだが、それに慌てたのはハデスとエルだ。


「違うっ! 違くないけど違う!」


「そうです! あの女性は殿下にお仕えする影のものです! けしていかがわしい女性ではありません!」


「そうだ! 私に触れたものは死んでしまうのだから、そんな相手いるわけがない!」


「…………そう、なの、ですね……?」


 二人の慌てっぷりに、パンドラの胸のモヤつきは小さくなっていった。

 にもかかわらず、慌てふためいているハデスとエルを落ち着かせようとした時だ。

 扉が開き中から女性が出てきた。

 黒く長い髪を一つに結い上げた、口元を隠した女性。

 彼女はパンドラを一瞥した後、ハデスへと向き合った。


「ハデス様。こちらが奥様でいらっしゃいますか?」


「ああ、そうだ。パンドラ。彼女はシオン。私について、さまざまな情報をくれているんだ。今も妖精姫が無事着いたという知らせを受けていてな」


「そうだったのですね」


 ハデスがお世話になっているということなら、挨拶をしなくては。

 パンドラはシオンに向かって深々と頭を下げた。


「はじめまして。パンドラと申します。旦那様のため、ご尽力くださりありがとうございます」


「………………」


 あれ?

 聞こえなかっただろうかと、不思議に思い顔を上げた時だ。

 シオンの冷めた目が、パンドラを貫いた。


「…………――では、ハデス様。私はこれにて失礼致します」


「ああ。……またなにかあれば随時教えてくれ」


「かしこまりました」


 シオンはそれだけ言うと、一瞬で姿を消してしまう。

 あまりに見事な身のこなし、さらにはあの冷たい瞳を思い出し固まっていると、そんなパンドラの肩にハデスが優しく触れた。


「パンドラ?」


「――あ、申し訳ございません。……実は旦那様にお話があってきたのです」


「話? そうかなら中に……いや、部屋を移して話そう」


 そう言って寝室から離れようとするハデスの手を、パンドラは慌てて握った。


「寝室に……入れてくださらないのですか?」


 シオンはよかったのに、パンドラはダメなのだろうか?

 悲しげに眉尻を下げたパンドラを見たハデスが、己の顔を手で覆った。


「パンドラ。流石に私も男だ。……この時間に寝室に入ると言うことを理解しているのか?」


「ダメなのですか?」


「いや、だから……」


「私たちは夫婦です。ならばそういった営みも、普通のことなのではありませんか?」


「…………」


 ハデスは絶句した。

 大きく目を見開いたまま固まり、しばしの沈黙ののちに大きく咳払いをした。

 いや、むせたといったほうが正しいのかもしれない。


「――とにかく! 話をするのなら部屋を移そう。……その話はまた今度しよう」


「…………はい」


 パンドラは背を向けたハデスにバレぬよう、少しだけシュンと落ち込んだ。

 二人は結婚式こそ挙げてはいないが、れっきとした夫婦なのである。

 ならそういったことも、いずれすると思っていたのに……。


「――奥様って時々男前ですよね。そういったことはご存知ないのかと思っておりました」


「本を読むくらいしか出来ませんでしたので、あらゆる書物を読んでおりました。その中にありましたので」


 なにか変なことを言っただろうか?

 エルの言葉に小首を傾げつつも、パンドラは耳まで赤いハデスの後ろをついて行った。

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