嘘をついてごめんなさい
「奥様が妖精姫じゃなかったー!?」
「ええ!? それはどういう……?」
「騙していたこと、誠に申し訳ございません」
深々と頭を下げたパンドラに、アルとエルは慌てる。
「いやいや! 頭上げてください!」
「そうです。……奥様のことですから、なにか複雑な理由があったのでしょう?」
「…………それは」
パンドラは改めて己の身の上を、アルとエルに話した。
名のとおり不幸を撒き散らす存在であること。
そのせいで閉じ込められて過ごしていたこと。
妹が妖精姫と呼ばれていおり、彼女の代わりにハデスに嫁いだこと。
それらを聞いたアルとエルは、こぞって小首を傾げた。
「奥様と関わると不幸になる……?」
「そんなことないと思うけど……?」
「ありがとうございます。そう言っていただけると安心します」
ほっと息をつくパンドラ。
アルやエルだけじゃない。
ここにいる人たちに被害が及んでいないのならよかった。
「お世辞とかじゃないんすけど……まあ一旦それはおいといて。だから奥様、最初変だったんですね」
「私たち使用人にまで様付けなさったり、食事も王族ならもっといいもの食べているはずなのにとても喜んで……」
「食べる量もスゲェ少なかったし……」
「………………」
なにやら黙り込んだアルとエルは、グッと奥歯を噛み締めた。
「殿下。奥様に最高級のお肉をお出ししてもよろしいでしょうか?」
「殿下。オレからもお願いいたします。たくさん食べてもらいましょう」
「構わない。お前たちの好きにするといい」
「「ありがとうございます!」」
「い、今のままでじゅうぶんですよ……?」
今のままの食事でも、パンドラにしてみればご馳走でしかない。
だというのにアルとエルは力強く首を振った。
「王族でありその妻なのですから、もっと贅沢をなさってください!」
「てかもしかして……。ドレスとかアクセサリーは……?」
「一応嫁ぐ用で用意してもらったのがあるので大丈夫です!」
「あ、ダメだこれ。殿下、洋装店を呼びましょう。奥様にドレスやアクセサリーを買って差し上げましょう」
「わかった」
アルとエルの言うことに頷くハデスに、パンドラは慌てて首を振った。
今ですらじゅうぶんすぎるほどもらっているのだから、これ以上は申し訳がなさすぎる。
「それに嫁ぐ時にもらったドレスはまだ綺麗ですから、たくさん着れます!」
「ドレスはたくさん着るものじゃないです!」
「一回着て終わりって淑女もいるんすよ!?」
「そうなのですか……!?」
それはあまりにももったいなさすぎる。
小さな綻びや穴程度なら縫ってしまえば、ほとんど目立たず着れるというのに。
今ある数着のドレスもそうして着続けようと思っていたのだが、そこまで話して気がついた。
「もしや旦那様に恥をかかせてしまいますか……!?」
妻が同じドレスを着続けるなんて、ハデスの名を傷つけてしまうのではないか?
そうやって慌て出すパンドラに、ハデスは小さく笑った。
「私のことはいい。君が心穏やかに暮らせるよう、努力したいだけだ。だからドレスを受けとってほしい」
「旦那様……。わかりました。旦那様に恥をかかせぬよう、努めてまいります」
改めて妻としてハデスとともにいることになった。
ならパンドラがすべきことは、ハデスに恥をかかせないようにすることだ。
残念ながらパンドラは監禁されて育ったため、普通の令嬢たちとは少しズレた考えを持っている。
それをきちんと理解しつつ、治していかねばならない。
全てはハデスのために。
「それにしても奥様をそんな目に合わせるなんて……。メイアにはなにか制裁するんですか?」
「妖精姫と偽ってパンドラを輿入れさせたんだ。……国王陛下には全てを話すつもりだ」
「…………それ、は……」
大丈夫だろうか?
パンドラが妖精姫でないと国王が知れば、メイアに返されてしまうのでは?
と不安になってしまう。
そんなパンドラに気づいたのか、ハデスが手袋越しに優しく手を握ってくれた。
「大丈夫だ。パンドラと共にいたいと国王陛下には伝える。君を無理やり連れ去ることはしないさ」
「そうですね。元々は妖精姫なら殿下の呪いをどうにかできるかもと思ってのことですし。奥様に殿下の呪いが効かないのなら、むしろよかったのでは?」
「話を聞いているかぎり、妖精姫と殿下は壊滅的に相性が悪いと思う……」
「私もそう思う。……パンドラが来てくれて本当によかった」
まさかそんなことを言ってもらえるなんて思わなかった。
妖精姫でないことを、呪われた存在であることを後悔してばかりの人生だったのに。
まさか人に認めてもらえる日が来るなんて。
「ありがとうございます。私もこちらにこられて本当によかったです」
日々の生活に感謝しなくては。
両手を握りしめ感謝の祈りを捧げていると、いつも通りパンドラの周りがキラキラと輝き始める。
「――それが、報告に聞いた現象か?」
「報告?」
「アルとエルに報告させていたんだ。君が不自由してないか、おかしなところはないかを。そこでその現象を聞いたのだが……」
なるほど。
なんとなくわかってはいたが、双子はお目付役でもあったのだろう。
なにやら気まずそうに視線を泳がせる双子に、パンドラは微笑みかけた。
「お二人のおかげで、私はなに不自由なく過ごせております」
「……奥様!」
「奥様優しい。……感謝」
双子にそろって拝まれた。
きょとんとするパンドラに、ハデスは消えつつある光を見ながら呟く。
「……それが妖精か。まさかこの国にまでついてくるなんて驚きだな」
「奥様のほうが妖精姫って感じっすよね! まあ、本当の妖精姫見たことないからよく知らないんすけど」
「奥様と殿下に無礼なことをした女性でしょう? 知る必要もないですね。関わり合いたくありません」
「……アリーシャと会うことなんて、もうないと思います」
同じ王宮で暮らしていたのに、生まれてからずっと会っていなかったのだ。
他国に行ったパンドラとなんて、会うことはないだろう。
そう、楽観視していた。
なのに――。




