国の終わり
その日、一つの国が滅んだ。
妖精に愛された美しき国、メイア。
緑深き森に、穏やかな青き海を持つメイアは、隣国からも羨ましがられるほど資源豊かな国だった。
その恩恵はひとえに、妖精たちの加護によるものだ。
妖精たちは草木を育て、雨を降らせ、火を守る。
人々の生活を守ってきた妖精たちが育てた国。
それが今、妖精たち自身の手によって滅ぼうとしていた。
「――どうして……」
草木は燃え、家畜は命を落とし、水は枯れた。
美しかった国はもう、見る影もない。
人々は逃げ惑い、国は大混乱の渦に飲み込まれた。
「どうしてなのよ――!」
そんな中、大理石の美しき王城で一人、そう叫ぶ少女がいた。
陶器のような美しかった肌は傷だらけ。
桃色の艶やかな髪は切り刻まれ、高価なドレスは土に汚れていた。
――妖精姫。
そう呼ばれ国民から愛された少女は今、その妖精によって全てを奪われていた。
絶望に涙を流す少女は、自分を愛し支えてくれていたはずの妖精を見つめる。
彼は静かに、少女を眺めていた。
その瞳に怒りを灯して。
『僕らの大切な人を傷つけた。僕らは君を許さない』
「大切な人……?」
妖精たちはなにを言っているのだろうか?
彼らが大切にすべきは妖精姫である自分のはずだ。
だというのに妖精たちは、自分を傷つける。
「……誰のことを言っているの……?」
『決まってるじゃないか』
美しき妖精は黙って右を見る。
なにを見ているのだろうかと同じようにそちらを向いて、そして気がついた。
向こうには隣国、マグリアがある。
そしてあちらには自分の代わりに嫁いだ姉、パンドラがいるはずだ。
死神と呼ばれる王子が恐ろしくて、姉の婚約者を奪ってまで身代わりにした、呪われた女。
『君たちは僕らが愛したパンドラを引き剥がした。――だからこの国を滅ぼす』
「……パンドラなんて、呪われた女じゃない」
あんな女のせいでこの国が滅ぶのか?
そんなはずはない。
自分がいればこの国は今までどおり豊かに過ごせるはずなのに――。
「――私こそ、妖精に愛されたプリンセスよ!?」
そう大声を上げた時。
ふっ……と顔に影が落ちる。
大きな大きな、白亜の瓦礫。
愛する美しき城。
その残骸が、頭の上に降り注いだのだ。
『君はなにか勘違いしているね? 僕らが君に力を貸したことなんて一度もないよ』
もう、聞こえていないだろうけれど。
妖精はそれだけ言うと光の粒子となって消えた。
白亜の城は赤く色づく。
終わらせないと。
全てを綺麗に壊さないと。
――僕らの【女王】が帰ってきた時のために、全てを綺麗に消さないと……。




