旅の始まり編 22.「旅の途中の、しがない旅人です」
森道を抜けた先に、小さな農村があった。
名もない集落だ。だが麦と水に恵まれ、人々は静かに暮らしていた――少し前までは。
「……やけに静かですね、ガルドさん」
「周囲を警戒しろ・・・リリィ」
ふたりが村へ入ると、目に映ったのは
数軒の農家が荒らされ、老人と子どもが隅で怯えている風景だった。
そして、村の中心で、二人の男が口論していた。
「この領は徴収済みのはずだ! 公印押された書類もある!」
「は? こっちは“特別徴発”の命令だって言ってるだろ。公印? ハンコなんざ知らんねぇよ。金だ、金!」
粗野な言葉とともに、鎧を着た数名の傭兵風の男たちが村人を囲んでいた。
「……偽徴税官ですか。最悪ですね」
リリィの目に怒気が灯る。
「行きます?」
「殺す価値はある」
ガルドの答えに、リリィは小さく頷いた。
「よう、そこのお前ら!」
傭兵の一人がガルドに目を向けた。
「通りすがりか? ちょうどいい、納めてねぇ奴らの代わりに払っていけや。娘のほうは……高く売れそうだな」
言い終わる前に、リリィの詠唱が走る。
《≪沈め≫》
地面が爆ぜ、足元が陥没する。傭兵が悲鳴を上げて倒れた。
ガルドの視線がわずかに鋭くなる。
「薄汚い目を向けるな。貴様らは正規な徴税官ではない」
「チッ、聞いたことあるな……! こいつら、“白髪”もいるって噂の……!」
「噂が本当だったら?」
リリィが一歩前に出る。
その白銀の髪が、陽を受けてまばゆく揺れた。
「“徴税”の意味、教えてあげます。あなたたちの命で」
戦闘は一瞬で地獄に変わった。
ガルドのツバイヘンダーが二人を薙ぎ倒し、
リリィの詠唱と剣技が、逃げる背中に容赦なく突き立てられる。
《≪裂けろ≫》《≪貫け≫》《≪崩れよ≫》
喉を押さえ、地に伏し、逃げ惑う者にリリィは言葉をかける。
「……嘘と暴力で金をせしめるつもりでしたか? その代償は命で支払われるんですよ?」
ガルドの剣が最後の一人を沈めたとき、村に再び静寂が戻った。
村人たちはふたりを囲んだが、誰ひとり近づこうとはしなかった。
その眼差しには恐れもあれば、敬意もあった。
ガルドは淡々と答える。
「正規の徴税まで静かに暮らせ。……偶に、農具の代わりに武器でも降ってろ」
リリィはにっこりと微笑み、農具倉庫の扉を指さす。
「そこに穀物と塩漬け肉、ありますよ。……多分、あの男たちが集めたものです」
「お、お前たちは……!」
「旅の途中の、しがない旅人です」
再び、ふたりは街道へと戻っていく。
風はもう、秋の匂いを含んでいた。
悪意の跡を斬り裂いていく彼らの旅は、まだ終わらない。




