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旅の始まり編 20.「また、わたしたち……“噂”になるんでしょうね」

 村を後にして三日。

 街道沿いの通商路に沿って、ふたりは南へと向かっていた。


 日差しの強い日だった。道は舗装されておらず、車輪の轍が干上がった溝を作っている。

 風に舞う砂埃を、リリィは指先で払った。


 「……今日はやたら荷車が通りますね」


 「街が近い。物が流れている証拠だ」


 「でも、どれも見張りが多い。こんなに兵が護衛に付いてるの、ちょっと異常じゃありません?」


 ガルドはしばらく無言で歩いていたが、やがて低く答えた。


 「恐らくは人買いの馬車だな。荷ではなく“中の人間”の監視だ」


 「……そうですか。つまり、商人が“売ってる”んですね。人を」


 風がまた、埃を巻き上げた。

 道の先に、大きな荷車が停まっているのが見えた。


 その荷車の周囲には、十数人の男たちが集まっていた。

 明らかに武装している者もいれば、鋭い目で周囲を警戒している者もいた。


 リリィの視線が鋭くなる。


 「あの荷台……檻がついてます。中、見ますか?」


 「待て」


 ガルドが手で制した。


 「ただの商人の護衛か、人間を攫う野盗か――不明なまま近づくのは危険だ。動きを見ろ」


 そのときだった。

 荷車の周囲で、わずかに声が高まった。


 「おい、あの白髪……高く売れそうだな。生け捕りにしろ」


 「……年端もいかねぇな。だが、妙に整ってやがる」


 「へへっ、在庫不足だったんだ、ありがたい」


 「待てよ……まさか、“あの噂の二人”じゃねぇだろうな」


 リリィが顔を伏せ、こっそりと口元でつぶやいた。


 「ガルドさん、気づかれました。どうします?」


 「囲まれる前に仕掛ける」


 「了解です」


 《≪縛れ≫》


 リリィの詠唱とともに、地面から生えた魔力の帯が、ひとりの足を絡め取った。

 男が悲鳴を上げて倒れる。次の瞬間、ガルドのツバイヘンダーが前衛を切り裂く。


 「くそっ、襲撃だッ!」


 「構うか、応戦しろ! あいつら、“黒鎧”と“白髪”だ!」


 戦いは激しかった。

 男たちは剣と斧、クロスボウに火薬瓶と、あらゆる手段で応戦したが――


 ≪砕け≫

 ≪凍れ≫

 ≪折れろ≫


 リリィの詠唱と、ガルドの剣閃が交互に襲いかかり、敵はひとりまたひとりと沈んでいく。


 黒鉄の重鎧が血で濡れ、白髪の少女の瞳が敵の動きを正確に捉える。


 最後に残った商人風の男が、腰を抜かしながら叫んだ。


 「た、助けてくれ! こ、これは正式な許可を得た輸送なんだ!」


 「運んでいたのは人間か? 動物か?」


 「ひ、人だが、買われた者たちだ! 俺たちはただ――!」


 「……なら、死ね」


 「ま、待て……金ならいくらでもある……! お、お前ら、分かってるのか!? 俺は正規の奴隷商だぞ! ひィ……ひぎゃああああああッ!!……!」


 ガルドは迷わずその喉を貫いた。


 「金と物を取っていけ。食料も積まれている」


 「はい。……けど、ちょっとだけ悲しいです。こんな風に、人が荷物になるなんて」


 リリィが荷車の鍵を壊し、檻の中の人々を解放する。

 何人かは怯え、何人かは涙を流していた。


 彼女たちに名前を聞かず、ふたりは立ち去る。


 「また、わたしたち……“噂”になるんでしょうね」


 「構わん。――その噂が、次の悪党を近づかせる」


 「……そしたらまた、叩き潰せますもんね」


 「そうだ」


 ふたりは、陽炎に揺れる街道を進み続ける。

 赤錆びた刃を持って、無数の火種の先へ。



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