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旅の始まり編 12.「ガルドさん……私、喰われる記憶、あるのかな」

 村の裏道から抜けると、ぬかるんだ街道が再び伸びていた。

 馬車が通った形跡は古く、草が舗装を飲み込んでいる。

 誰も通らぬまま放置されたその道は、かえって静かだった。


 「……この、道標もう消えかけてますね。誰も管理してないのかな」


 リリィが道標の表面を指でなぞりながらつぶやく。

 雨に打たれた古い木は、文字がかろうじて読める程度だ。


 「何があってもおかしくない場所だ。足元に気をつけろ」


 「はい。でも、ああいう場所、私けっこう好きです」


 リリィは泥の中でも音を立てずに歩く。

 素材が硬くても、重さを感じさせぬ歩法。

 彼女自身は気にしていないが、魔物にさえ気づかれにくい動きだ。


 日が落ちかける頃、林の奥から微かな呻き声が漏れた。


 「……聞こえました。斜め前、距離は四十メートル」


 「複数か?」


 「一体。でも――ちょっと妙です。獣の足音も、木を裂く音もしないのに、空気が重い」


 ふたりは声を潜めて進む。


 そして、街道脇の茂みを越えた先――


 倒れた旅人のそばに、それはいた。


 ぬめるような黒布を纏い、四本の腕を持つ異形の魔物。

 顔の中央にだけ赤い裂け目があり、そこから細い舌のようなものが伸びていた。


 「“喰念鬼”……人の記憶を吸い取って、なりすます魔物です。珍しいタイプですね」


 「倒す」


 「はい」


 ふたりは即座に動いた。


 リリィが先手を取った。

 地面に指をかざし、詠唱する。


 「《動きを奪いなさい》」


 魔力の鎖が空中に浮かび、喰念鬼の両足を縛る。

 動きが鈍った瞬間、ガルドが正面から踏み込む。


 魔物は四本の腕で迎撃するが――


 「六本あろうが止めるのは無理だろう」


 ガルドはツバイヘンダーで一本の腕を叩き斬り、次いで胴を狙う。

 魔物は滑るように回避するが、その動きは読まれていた。


 「《風の壁を起こして》!」


 リリィの術が、横風を強制的に作り出す。

 魔物の動きがわずかに乱れ、そこを狙ってガルドのショートソードが突き刺さった。


 「が、ぁ……」


 裂け目の口から悲鳴のような声。

 だが、喰念鬼はそのまま自身の体液を飛ばし、後退する。


 「毒です、ガルドさん、後ろ!」


 リリィが詠唱を繋げる。


 「《空気を浄化して》!」


 周囲の瘴気混じりの毒素が、風に乗って浄化される。


 ガルドは構えを取り直し、地を蹴った。


 「もう一度だ」


 魔物は舌を伸ばし、リリィの記憶を狙うが、

 それよりも早く、彼女は詠唱を終えていた。


 「《記憶を奪うな》!」


 魔物の能力に直接干渉する封印魔法。

 記憶の吸収に使う舌が縮こまり、喰念鬼が仰け反る。


 その胸元に、ガルドの剣が深く突き刺さった。


 「お前に喰える記憶はない」


 刃が貫通し、魔物は崩れた。


 しばしの静寂があった。

 周囲の空気が浄化され、再び風が吹き抜ける。


 「ガルドさん……私、喰われる記憶、あるのかな」


 「あるだろう。けど、誰にも渡す必要はない」


 「うん」


 リリィは微笑むと、また歩き出した。



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