表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/55

旅の始まり編 11.「叫ばないでください。うるさいので」

 翌朝。

 少女を北の街道沿いの農村に送り届けたふたりは、再び旅路へ戻っていた。


 乾ききらない泥の匂いと、微かに残る血の臭いを乗せた風が吹く。

 丘を越えた先に見えたのは、小さな村――


 「……あそこ、壊れてます。柵が焼け落ちてる」


 リリィが指をさす。

 村の外周に建てられた木柵の一部が炭になり、野犬のような足跡が泥の中に深く残っていた。


 「侵入痕。……魔物の類いか、それとも……」


 ふたりは無言で歩を進めた。


 村は静まり返っていた。

 家々の扉は閉ざされ、窓も内側から釘打ちされている。

 それでも、確かに“人の気配”は残っていた。


 「隠れてますね。見られてる」


 「村のどこかに“匂い”も残ってる。血の臭いと、硝煙」


 広場の手前で、リリィが立ち止まった。


 「ガルドさん、あれ」


 指差す先――

 焼け焦げた井戸の横に、無造作に積まれた袋と荷車。

 その影に、数人の男たちが身を潜めていた。


 「――そこまでだ。武器を捨てろ」


 飛び出した男のひとりが、いかにも慣れた手つきで剣を抜く。

 汚れた鎧と、片方欠けた胸当て。腰に吊った金属の紋章は、明らかに偽物だった。


 「お前ら、どこの部隊だ?」


 ガルドの問いに、男は鼻で笑った。


 「……ああ? 徴収隊だよ。通行と保護の名目でな、滞納村の“整理”に来ただけだ」


 「その整理に、火を使ったか?」


 「魔物が出た形跡を作るのも仕事のうちさ。そっちのガキ――整ったツラしてんな。ずいぶん手入れされてる」


 仲間のひとりが、口元を歪めて小声で呟いた。

「……あのガキ。顔だけで金取れるぞ」


 もうひとりがニヤリとし、

「育ちが良さそうに見える奴ほど高く売れる。従順なら特になぁ・・・」


 リリィの眉が動いた。

 だが、表情は崩さず、軽く首を傾ける。


 「お仕事中、すみません。ご挨拶だけ済ませたら、通していただけませんか?」


 「――“挨拶”だと?」


 ガルドが、背のツバイヘンダーを静かに抜く。


 「……お前らがここでしてることの、“挨拶”だ」


 敵のひとりが短く吐き捨てた。


 「ちっ、やる気か。殺せ!」


 それが合図だった。


 最初に動いたのはリリィ。

 敵のひとりが弓を構えたのを見て、素早く地を蹴った。


 「《目を塞いで》!」


 光を伴う霧が弓手の視界を奪い、狙いを狂わせる。

 その隙に接近し、腕の腱を正確に断ち切る斬撃。弓が落ち、悲鳴があがった。


 「ぐあっ……あああっ!」


 「叫ばないでください。うるさいので」


 リリィは静かに首を切り裂いた。


 一方のガルドは、二人組のうち槍を持つ男に狙いを定めていた。

 重装気味の革鎧を着ていたが、腹の動きが甘い。


 「隙だらけだ」


 突きを捌き、ショートソードで脇腹の継ぎ目を斬る。

 呻き声と共に体勢を崩したところに、ツバイヘンダーの水平斬り。

 刃は鎧ごと胸を裂き、地面へ血を撒いた。


 「二人目」


 リリィの声が届く前に、残る男たちが散開した。

 だが、霧のなかで動く音、泥を踏む音――すべてがリリィの耳には届いていた。


 「右後ろ、草の中に一人。左から回ってます」


 「任せろ」


 ガルドが斜めに飛び出し、木の影から現れた男の首を叩き落とす。


 最後のひとりが逃げようとした瞬間、リリィが先回りしていた。


 「……もう逃げないでください」


 男が振り返るより早く、喉元に突きが入った。


 斃れた男たちの上に、また霧が静かに降りていく。


 村の窓から、一人の老婆がそっと顔を覗かせた。

 リリィと目が合うと、震える唇で呟いた。


 「……あんたら、何者なんだい……?」


 ガルドは答えず、剣を布で拭いながら村の奥へと向かった。


 戦いの跡に花はない。

 ただ、次の戦いがあるだけだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ