episode9 それぞれの日々
ー南部高校での一幕ー
「颯太って謎が多いよねー。学校のこととかさぁ、詳しく聞こうとするとなぁんか話逸らされるし。才能の塊みたいにギター上手いけどどっかでバンド組んでる訳でもないしさぁ。すごい不思議ちゃんだよねー。ねぇ、良ちゃん聞いてる?」
「・・・んーそだねー」
「良ちゃん絶対聞いてないじゃん!」
「聞いてる聞いてるー。颯太ギター上手いよなー」
「もう・・・やっぱり聞いてない・・・あっ!彰人!ちょうどいいところに来た!ねぇ颯太ってさぁ、本当に学校とか大丈夫なんだよね?本人に聞いても大丈夫しか言わないしさぁ。要らないお世話なのは分かってるけど一応俺先輩だし心配になっちゃうんだよねー」
「翔さん良太さん、お疲れ様です!颯太に関しては、まぁ大丈夫です。あいつ頭も良くて俺、家ではみっちり勉強教えてもらってるぐらいですし」
「そっかぁ、まぁ大丈夫ならいいんだけどさぁ。てか彰人、颯太に勉強教えてもらってるんだ?あーだから最近赤点補習回避してるのかぁー」
「ははは、そうなんですよ。うちに颯太が来てから補習1度も受けてないですもん」
「ふぅ~ん。そしたらあおちゃんますます彰人に惚れ込んじゃうかもねー」
「・・・翔さん・・・」
「翔、そのへんにしとけよー。彰人はそっち方面の耐性ゼロなんだからー」
「えー。もしかしたら将来の義弟になる可能性だってあるんだし今からちゃんと鍛えとかないとー」
「・・・翔さん、俺、用事あるんでいきますね・・・」
「えー?用事ぃー?ほんとにぃー?」
「ほんとです・・・」
「あっ!そうだ!今度土曜に彰人ん家にみんなで泊まるやつ。さっき七海に会ったから聞いといたよー。彰人と颯太その日バイト入ってるんでしょ?2人がバイトあがったらそのまま七海も一緒にみんなで食べれるもの持参で彰人ん家に行くって言ってたよー」
「オッケーです。じゃあ久しぶりに全員参加ですね!いつも通り夜用に防寒着とか持ってきてくださいね」
「はーい。俺はいつも通り良ちゃんの借りるから大丈夫!良ちゃんお願いねー」
「はいはい」
「じゃあ俺いきますね、それじゃあまた」
「はーい。またねー」
ーバイト先での一幕ー
「あのさ、七海はどうしてベース始めようと思ったの?」
夕方までの喫茶でのバイトが終わりロッカーで着替えをしていたらちょうど七海が部屋に入ってきたので俺は以前から聞きたかったことを七海に尋ねてみた。
「え?始めた理由?うーんとねぇ。俺と彰人って中学からの付き合いなんだけどさぁ。彰人が小学生の頃からギターやってるって聞いて、何かにのめり込むのって単純にカッコいいなって思ったんだよね。で、俺も一緒にギターしようかな?って思ったんだけどどうせやるなら違うやつがいいかなって思ってベースにした」
「そうなんだ。初めてRANSでバンド組んだの?」
「あー、いや。お遊戯会レベルだけどさ、中学の時に彰人と俺ともう1人ボーカルでバンド組んでたんだよね。でも高校進学でそのボーカルのやつが俺たちと違う学校に行くことになって続けるの難しくなっちゃったんだよね。で、高校でもバンド組みたいって彰人と話してたら良太さんと翔さんがバンド仲間探してるって聞いて。俺たちギターとベースでちょうどいいじゃん!ってなってさ。で、めでたくRANS結成ってわけ」
七海はまだ完治していないであろう腕の一部を触りながら答えていた。以前は七海の腕全体に巻かれていた包帯も今は手首付近を固定するだけになっており完治までにはさほど遠くはなさそうに見える。
「そっか。腕はどんな感じ?初めての学祭、やっぱ出たかったろ?」
七海は「うぅーんっ」と大きく背伸びをしたあと椅子にもたれかかり天井をぼんやりと見つめる。
「腕はねぇ、だいぶいい。ほーんとあと10日ぐらい早く治ってくれたらよかったのになーって感じだよ。そりゃ学祭は出たくないって言ったら嘘になるけどさぁ、俺のせいで演奏が中途半端になるのが一番嫌だったんだよね。そんなときに颯太が来てくれてマジで助かったんだよ。しかもめっちゃくちゃうまいしさぁ!これ、俺が腕治っても出る幕ないかもな、ははっ!」
「それはない!七海がいなきゃRANSじゃないし!俺、七海の分まで頑張るからさっ!それで学祭成功させて良い形で七海に返したいと思ってる」
「えっ!なにそのイケメン発言!てかさ、颯太こそなんでギター始めたの?前にさ、知り合いにうまい人がいて教えてもらってたって言ってたろ?その人の影響?」
(そうだった。俺そんなこと言った気がする・・・)
俺は日頃から応用力がなく、ふいに言われるといつも反応が遅れあたふたしてしまう。
「えぇ~っと・・・そうそう!ギターを教えてくれた人がね、すごくて、さぁ・・・。弦を弾く手は優しいんだけどなぜかすごく音色が心地よく響いてて。それがいつも不思議でね。しかもすごく安心できるんだよね。そんな手に俺もいつかなりたいって思ったんだ・・・よ?」
(あれ?俺、なんでこんなこと話してるんだ?)
「じゃあ颯太の憧れはその人なんだ。・・・ておいっ!颯太Tシャツ後ろ前逆に着てるぞ!はははっ!」
俺は焦って着方を間違えていたらしい。横で笑っている七海に「笑い過ぎ!」と注意しながら着直したが、またしても前後逆に着てしまった。それを見て七海は涙を流しながら笑っている。
「七海、笑い過ぎだから。はいっ!もうちゃんと着たっ!笑うの終わり!!」
「もうっ!」と俺は自身を落ち着かせながら再びTシャツを着直す。はぁ、今度はちゃんと着れた・・・。着れたよの証に俺はバンザイのポーズをする。七海は手で涙を拭い俺のバンザイポーズにオッケーサインを出した。
「はぁ~笑った笑った!あっそうだ、土曜に彰人ん家に泊まりに行くとき親父に頼んでご飯持っていこうと思ってるんだけど何がいい?」
「やった!そしたら炒飯!絶対に炒飯がいい!あっでもオムライスもいいしハンバーグもいいし、あっ俺、親父さんが作るポテトサラダも好きなんだよね!」
「ははっ、それ多すぎ!まぁ別にいいけど。俺持てないから持つの颯太と彰人だからな!それでもいいなら」
「えっ、全然いい!いくらでも持つし!めっちゃ楽しみー!!」
俺はえへへ、と笑いながら自分のロッカーを閉める。
「なんか、颯太って本当に犬みたいだな。彰人いいなぁ、こんな犬いたら俺も一家に一犬欲しいかも」
「えっ!なんだよそれ!俺なんかいつも犬扱いされるんだけど・・・もういいや!帰る!七海、お疲れ様!」
七海は「お疲れー気をつけてー」と言いながら俺に手を振る。俺も手を振り返し店を出た。
歩いて家に向かっていると、前方に制服を着た男女のペアが歩いているのが見えた。女性の方は自転車を押しながら歩いている。
(高校生カップルかなぁ?)
絶妙な速度で歩いているため追い抜かそうかどうしようかと考えながらふと男性の方を見ると、なんだか見たことあるような・・・。
「あっ!彰人じゃん!」
はっ!という顔をした彰人が後ろを振り返る。同じく横にいた女性も振り返った。
「あぁ颯太かぁ。びっくりした。バイト終わったの?お疲れ」
彰人がほっとした様子で口を開く。
「うん、今バイト終わって帰ってるとこ。彰人は・・・」
俺はじっと彰人の横にいる女性に目をやった。どこかで見たことがある気がする。
「あっそうそう!こいつ、前話した俺の親戚で居候してる颯太ね。そんでもってキーホルダーひろってくれたやつ。颯太、こちら岸田あおいさん、良太先輩の妹さんね」
彰人が最後まで話し終わるか終わらないかであおいさんが早口で喋り出す。
「わわわわ!あなたが颯太くん!キーホルダーありがとうございました!あと、あの時はお見苦しいものをお見せしてすみませんでした!すっごく恥ずかしかったのは覚えてるのでどうぞ記憶から綺麗に消してください!!」
あおいさんは顔を真っ赤にしている。たしかに、転び方はド派手だった。
「いやいや大丈夫ですよ。それより怪我は大丈夫でした?」
「おかげ様で擦り傷一つなく無事でした。身体が頑丈なのが取り柄なので!えへへ」
あおいさんは自分が自転車のハンドルを握っているのを一瞬忘れたようで、握り拳を作りポーズを決めようとハンドルから手を離した。自転車が倒れかかる直前のナイスタイミングで彰人がハンドルを持ち支える。なんか、いいコンビじゃん。これは翔先輩が言っていたこともあながち間違いじゃないな。よし、ここは空気を読まなくては。
「彰人、俺先に帰ってご飯の準備しておくからごゆっくり~。あおいさんもまた」
俺はそう言い足早に二人を追い抜かす。
「えっ!ちょっと待って!颯太、今日は俺が作る日だよ?」
気遣いというものが1ミリも分からないこの男は過ぎ去ろうとする俺の肩を掴んで離さない。
「颯太、ちょうどいいから一緒に帰ろうよ」
(えー!なんなのお前!?あおいさんからしても俺、めちゃめちゃお邪魔虫じゃん!)
あおいさんの方をちらりと見ると、彼女も「一緒に帰ろー!」とノリノリだ。
(この2人、なんだか似ている・・・)
何を話そうか、と考える暇もなく、家に着くまでの間俺たちはひっきりなしに喋っていた。この2人のほのぼのとした空間が心地よく、あおいさんに至ってはほぼ初めましてなのにすぐに打ち解けることができた。あおいさんは彰人の自宅よりも少し先の場所に住んでいるようで送ろうとする彰人に
「ここでいいよ、ありがとねー。彰人くんまた明日!颯太くんもまたね」
と手を振りながら颯爽と自転車にまたがろうとして失敗しフラついていた。
「気をつけて!ちゃんと前見て漕ぐんだぞ!バイバイ」
あおいさんは「分かってるよー」と笑いながら去っていった。
「はぁ、抜けてるというかなんというか・・・心配になるんだよなぁ」
つい彰人の口からぽろっと出た言葉に俺は「お似合いじゃん」と、ニヤケながら返した。彰人が「・・・はっ?」という声をあげたような気もするがここは聞こえなかったフリをしよう。
「彰人、今日のご飯何?楽しみー」
「できるまでのお楽しみ!ただいまー」
彰人が家の鍵を開け中に入るのに続けて俺も一緒に入る。もうこれも当たり前の日常になってきた。
「ただいま」




