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episode7 家族

スタジオでの練習を終えみんなと別れると、俺は彰人と一緒にいつもの土手に向かった。七海がベース一式を貸してくれたおかげでこれからいつでも練習ができることに俺の心は躍っていた。

(さっきあわせた時、あの小節がまだ噛み合ってなかったな)

俺はとにかく練習をしたい衝動に駆られていた。代役を引き受けたからにはもっともっと上手くなってただただみんなと演奏がしたい。

「そういえば彰人、学園祭の話だけどさ」

「あはは。ごめんごめん。本当に言うの忘れてただけなんだよ」

「いや、それはもういいんだけどさ。俺、外部のモンだし大丈夫なの?俺が出て困ることあるんじゃない?色々と」

「まぁ大丈夫でしょ。学園祭はお祭りなんだしみんな気にしないって」

「それならいいんだけど・・・」

土手にある欅の木の下に着くと俺と彰人はそこに腰掛け早速練習を始めた。彰人のギターと俺のベース音が、まるで呼吸をするかのように交じりあい全くブレることがない。彰人の方を見ると笑いながらとても楽しそうに演奏している。

(彰人は本当にギターが好きなんだな)

ひとしきり弾き終えそろそろ帰るか、と俺は先に片付けを終え土手に寝転がった。なんとなく自分のピックを日の光にかざしてみる。日の光でキラキラと輝くこれは、自分が唯一持っていた物であるにも関わらず今のところ何の手がかりにもならない。

「・・・ん?アール、エー、エヌ、エス。なんだ?これ」

ピックの端に小さくアルファベットが彫られているのに気がついた。

「何?どした?」

俺が何やらブツブツとつぶやいているのに気づき、彰人が寄ってくる。

「いや、俺が持ってたピックにアールエーエヌエスって彫られてるんだけどなんだろーって」

「え!マジ!?見せて!!」

彰人がピックを持っている俺の手を掴む。

「ほんとだ・・・RANS(ランズ)じゃん・・・」

「え?RANSって?」

「偶然なのかな。言ってなかったっけ?俺たちのバンド名RANSなんだよ」

「え!?そうなの!?それって偶、、然なのか・・・?」

なんで彰人のバンド名が俺のピックに彫られているんだろうか。偶然にしては出来過ぎてやいないか。

「もしかして颯太って未来で俺たちのことを知ってるのかもしれないな」

「そう、なのかな?憧れて彫った、とか?」

「憧れてって・・・てことは俺たちデビューとかしちゃってたりして!?それで有名になって颯太も知ってるとか!?」

彰人が興奮気味に未来予想を展開する。

(でも本当に彰人が言う通りなのかもしれない。これからデビューを目指してもおかしくないぐらい実力のあるメンバーだし)

「RANSかぁ。ちなみにこれってどういう意味?なんか由来とかあんの?」

「あぁ、意味は特にない。メンバーの名前の頭文字とってるだけ。良太、俺、七海、翔でRANS」

へぇ、と言いながら俺はまたそのピックを見る。手がかりというより謎が増えただけか。俺にとってこのピックは一体なんなんだろうか。

翌日はバイト先の店長の面談に出向いた。夜のバイトは彰人と同じ曜日に入れてもらえ、日中も可能な限り喫茶の手伝いができることになった。予め七海が店長に話をしてくれていたのか、プライベートな話は全く聞かれなかった。これも彰人が店長から信頼されているからこそなのかもしれない。何か困ったことがあればいつでも頼っていいと言ってもらえたことが心強い。雇ってくれるだけでも有難いのに気遣ってくれる店長の優しさに俺はめいっぱいの感謝の気持ちを伝え店を後にした。

その後、帰路の途中で俺は頭を切り替える必要があった。なんといっても今日は彰人のお母さんに初めて会う日だ。俺も彰人も、本当の事を言ったところで理解されないうえに混乱するだろうと予想していた。しかし、元の世界にいつ戻れるかも分からないなかで、変に嘘をついてもバレるのは時間の問題だろうという結論に行き着いた。あとはその時の状況を見ながら説明しようと決めたのだがそう上手く事が運ぶだろうか。

(最悪、今日から野宿だな)

201号室の扉の前で何度か深呼吸をしドアノブに手を掛けようとしたとき、ふいに後ろから声がした。

「あら?彰人の友だち?」

振り返ると少し後ろに女性が立っていた。どことなく彰人の顔立ちに似ており一目で彰人のお母さんだと分かった。

「あっ、はい!そうです。こんにちは!」

お母さんは俺の顔をじっと見つめ

「どうぞ!いらっしゃい」

と言いながら扉を開けてくれた。俺もお母さんに続いて部屋に入る。

「母さんおかえり!あれ?颯太も一緒だったのか」

一緒に帰ってきたことに少し驚きつつも彰人は冷静さを保っているようだ。

「ただいま彰人。颯太くん?は彰人と同級生?お茶でも飲む?」

そう言うとお母さんは食器棚からコップを取り出そうとする。

「母さん、帰ってきたばかりで急なんだけど聞いてほしい話があるんだ」

「何よ~。改まってどうしたの?なんかあった?」

お母さんは笑いながら椅子に腰かける。

「実はさ・・・」

「ちょっと待って!」

俺は彰人が話し始めるのを止めた。どうしても先に自分からお母さんに伝えておきたいことがあったからだ。

「初めまして、颯太といいます。すごく突拍子もない話で信じてもらえないとは思いますが、実は俺は記憶喪失で自分の本当の名前も思い出せません。ですが自分が未来から来たことだけは分かっています。分かるのはそれだけです。ただ、今の時点で分かる確実なことは、彰人は命の恩人だということです。こんな名も知れない俺を救ってくれてこの颯太という名前も彰人がつけてくれました。本当に彰人には、息子さんには感謝してもしきれません!!」

会話の後半は感情が高ぶってしまい、目をつぶったまま話してしまった。恐る恐る目を開けあ母さんの顔を見ると、ぽかんとした表情でこちらを見ている。

「ちょっと!え?どこまでが本当の話?やだ~、これドッキリかなにか?」

お母さんは今の話が本当の事だとは到底思っていない様子だ。子どもたちが騙してからかっているのだろうと微笑んでいた。

(当たり前だ。こんなんじゃ信じてもらえない)

それを見て彰人が続けて口を開く。

「母さん。今の話、信じられないだろうけど本当の話なんだよ。颯太は2025年から来た未来人で多分だけど俺と同い年。木曜日に俺友だちの付き添いで病院に行くって母さんに電話したじゃん?あれは颯太のこと。俺も颯太もそのときは記憶喪失なだけだと思ってたんだけど、あとから未来から来たって分かったんだ。そんで俺が颯太にうちに来いって言ってそこから居候させてる。で、俺はできるならこのまま颯太をうちに居候させたいと思ってる。でもここは母さんの家だし勝手にできないことも分かってる」

真剣に話す彰人に最初は微笑みながら聞いていたお母さんも徐々に顔付きが変わっていった。

「本当に、ただ自分からお伝えしたいのは彰人には感謝してもしきれないということです。彰人からバイト先も紹介してもらいました。費用だけの問題じゃないのは分かっていますが給料が出ればお渡しする予定です」

俺はそう言いながら深く頭を下げた。

「俺からも、母さんお願い!」

彰人も俺と一緒に頭を下げる。お母さんはふぅーっと息を吐き少し考え込んだあと口を開いた。

「未来人で記憶喪失って・・・。はいっ!とりあえず二人の言い分は分かった!彰人がこんな嘘つくとは思えないけどお母さんは今混乱して整理が追いついてないっていうのが正直なところ。詳しい話はまた改めて聞かせてくれる?ただ、今の二人の要望としてはとりあえず颯太くんは当分うちに居候したいってことよね?そこについてはオッケー!分かった!でもそのかわり1つだけ約束して。今までもそうだったと思うけど、これからも何があってもお母さんには絶対に嘘をつかないでね。」

「分かった、母さんありがとう」

俺は緊張の糸が切れたと同時にポロポロと涙が零れ落ちた。

「あり、がとうございます。受け入れてもら、えるのは無理だと、思っていたので本当に、本当に有難いです。よろしく、お願いします」

俺は涙を拭いながら伝えた。お母さんは俺にティッシュを差し出し

「颯太くん。私は高良夏美(こうらなつみ)といいます。彰人から聞いてるとは思うけど、私は週1こっちに帰ってくるだけなんだけど、なんでも困ったことがあったら遠慮せずに言ってね。よろしくね」

と優しく言ってくれた。俺はティッシュを受け取りながら

「はい。本当にありがとうございます」

と答え、もらったティッシュで鼻をかんだ。そんな様子を見ながら彰人は

「颯太、ま~た泣いてる!ねぇ母さん、こいつぷうたに似てない?颯太って名前もぷうたが由来!」

と、ニコニコしながら俺の肩に手を掛ける。お母さんは俺の顔を見ながら

「そうねぇ。たしかにぷうちゃんにちょっと似てるかも!」

と言い、二人でゲラゲラと笑いだした。俺も二人の笑いにつられて泣きながら笑い、息苦しかった。けれどこの息苦しさが嬉しくて嬉しくてしょうがない。久しぶりに”家族”というものを感じたような気がして俺の心は温かい気持ちでいっぱいになった。俺の家族もこういう温かい家族なんだろうか。

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