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episode6 バンド仲間

翌日、俺は彰人に連れられてとある貸スタジオにきた。毎週土曜日はここでバンドの練習をしているらしい。費用はメンバー全員で出し合っているようで、彰人がやけにバイトを頑張っている理由がこれで分かった。スタジオの扉を開けるとメンバーの2人が先に到着し談笑していた。

「おつかれ~」

彰人がそう言い俺も、こんにちは~、と言いながら一緒にスタジオに入る。

「おっ、彰人おつかれ~。えぇ~っと、颯太くん!だよね?昨日ぶり~」

昨日バイト先で会った七海さんが声を掛けてきた。

「颯太です。おつかれさまです。えっと・・・」

俺はそう答えながら七海さんの隣にいる人に視線を移す。黒色短髪の七海さんに対し、隣の人は栗色の髪におかっぱ頭が特徴的だ。小柄でぱっと見は女の子に見間違いそうになる。俺と視線があったその人は、

「僕は田辺翔(たなべしょう)。2年生でボーカルしてるよ。楽器はピアノがちょっと弾けるぐらい」

と自己紹介をしてくれた。俺も、と口を開こうとした瞬間、おつかれ~、と言いながらもう1人スタジオに入ってきた。

(茶髪にピアス・・・ん?)

俺は咄嗟に、あっ!、と大きな声を出してしまった。と同時にその人物もこちらを見て

「あー。もしかして昨日のお散歩マンー?」

と返してくる。昨日ピックを渡しにわざわざ自分を探してくれたあの親切な人だ。この人、メンバーだったのか。

「昨日はすみません!あのあとは大丈夫でしたか!?」

「あ~大丈夫大丈夫、気にしないでー。で、お散歩マンはなんでここにいるの?」

「ちょっと待て。颯太と良ちゃんってどっかで会ってるの?あとお散歩マンって何!?」

彰人がたまらず会話に割り込む。俺は事の経緯を彰人に話した。彰人はなるほどー、と言い

「てかそんな不審者に良ちゃんよく声掛けたね?まっでも良ちゃんは困ってる人ほっとけないもんな~」

と笑う。横で聞いていた2人もたしかに!と言いながら笑い始めた。良ちゃんと呼ばれるその人は、え?そうー?と言いながら何も気にしていない様子だ。彰人はそのまま話を続ける。

「全員揃ったところでみんな聞いてほしいんだけどさ。こいつ、俺の親戚で高良颯太っていうの。年は俺と同じ。ちょっと訳あって今俺ん家に居候しててさ。ギターがうまいから一時の間だけ七海の代打してもらえたらと思って。どうかな?」

みんなが、へぇぇ~、と言ったあと、

「俺は別にいいよー。昨日会ったのも何かの縁かもしれないし。ちなみに俺の名前は岸田良太(きしだりょうた)。2年でドラムね」

と、良太さんが答える。そのあとすぐに翔さんと七海さんからも、もちろんオッケー、と返事がきた。

「おっ!じゃあ満場一致で決まり!颯太ももちろん?だよな?」

と彰人が俺に聞いてきた。俺は、この状況で断れるか!、と心の中で彰人に壮大なツッコミを入れながら

「・・・うん。役に立てるかは分からないけどよろしくお願いします」

と答えた。翔さんがパチパチと拍手をし、七海さんがイエー、と言い、良太さんが、じゃやろー、と演奏の準備をし始める。このメンバーはみんなそれぞれ自由だし堅苦しい雰囲気もないからよかった。ほっとしていると、七海さんが俺の横にきて、ここ座ろう、と声を掛けてきた。俺と床に隣同士で座ると七海さんは

「学祭まで残り2ヵ月切っちゃってさぁ。マジでベース見つからないから焦ってたんだよね~、ほんと助かったわ。あ、てか俺同い年だしタメ口でいいからね。あと名前も普通に呼び捨てでいいから。俺もそうするし」

と喋り出した。

「学祭??」

と俺が返すと、七海はかなり驚いた様子で

「え!もしかして彰人に聞いてない!?・・・おいっ!彰人!お前颯太に学祭の話言ってないの!?」

と彰人に問いかける。彰人は、あっ、と言ったあと

「あは、忘れてたわ~。でも大丈夫!颯太すんごいから!!」

と言いながら俺にごめん、というジェスチャーをする。俺はそんな彰人を半目でじっと睨みながら

「ごめんけど彰人になんも聞いてないから詳しく教えてもらっていい?」

と、七海に尋ねる。

「うわぁ~そっかぁ・・・あはははは・・・。12月にうちの学校で学祭があるんだけどさぁ、体育館でステージ組むんだよね。そのステージは毎年ガチで披露するっていううちの学校独特の文化があってね。今回はうちのバンドが披露する予定なのよ。でも俺の腕がそれまでに治るのは厳しいから誰かいないか探してて。で、ここに救世主颯太が登場したってわけっ!」

と、俺の肩をポンっと叩いて七海はにっこり笑う。俺はそれを聞き、すぐさま彰人を睨みつけたが恐らく彰人は今俺がどんな表情をしているか分かっているのだろう、こちらを1ミリも見ようとしない。

(まぁ、今さらどうこう言ったってしょうがないか・・・)

そうこうしていると音合わせが始まった。ボーカルの翔さんがマイクテストをしつつ彰人と良太さんに目配せをする。カウントをとったあと演奏が始まった。アップテンポなイントロで始まり、ギターと徐々に加速されていくドラムの音色が心地よい。それに加え翔さんの歌声がマイクによく通るうえに幅広い音域で聴き手を飽きさせない。ベースありきで作った曲なのだろう、少し間の抜けた感はどうしても否めないがそれでも曲調と演奏の強弱、声質がよく嚙み合っている。演奏が終わり俺は自然と拍手をしていた。

「いいじゃん!すごくいい!」

「だろ?ベースが入れば完璧なんだよ。颯太もちょっとやってみない?」

と、七海から言われ俺は少し弾いてみることにした。

(ベース、やれるだろうか・・・)

手書きのコード進行を渡されざっと目を通し弾いてみる。

(んー弦が太い。やっぱり根本的なところがギターとは違うな)

とりあえずな感覚でしばらくの間弾いていると、周りが練習を止め自分に注目していることに気づいた。

「あっ、ごめん、集中してた。音むちゃくちゃでうるさかった?」

俺は自分の弾いている音が騒音になっているのかと焦った。が、七海は目を丸くし

「いやっ、その逆だよ!颯太すごいじゃん!リズム感もバッチリだし!もしかしてベースもやってた?」

と俺に聞いてきた。

「えっと。ベースの経験は、多分、ない、かなぁ~。あははは」

「ギターだけ?すごっ!もう俺超安心して任せられるわ~」

七海はテンションが上がったのかスタジオの中を軽くスキップし始める。

(というかギターもしていたという確証もないんだけど・・・)

「ちなみにギターはいつからやってるの?独学?どっかでレッスンとか受けてんの?」

七海は興奮しているようで矢継ぎ早に質問をしてくる。

「ギター、は小さい頃からして、て。知り合いに、うまい人、が、いて、教えて、もらってたんだ」

俺が演奏したら絶対に質問攻めにあうだろうからと、彰人が事前に設定を考えてくれてはいたが、いざ話すことになるとどうもたどたどしさが消えず棒読みになってしまう。あぁ、本当に俺は演技とか向いてないな。

「何?どしたの!?急に宇宙人降臨!?ははははっ!!」

七海が笑いながら、ワレワレハ、と話し始める。あとの3人は、また始まった、という顔をしながらそれぞれ練習を再開し始めた。俺も、変に否定したらややこしくなると思い、そこからは七海と宇宙人の真似をする遊びをしたり、練習したりを繰り返した。短時間の間だったが七海とは今日だけですっかり打ち解けることができたように感じる。

「颯太、俺のベース好きなときに使って!スタジオ以外でも練習したいだろうし。持って帰っていいから」

と言われ、当分の間、七海にベースを借りることになった。練習もひと段落したころ翔さんが俺に話しかけてきた。

「ねね、颯太くんってさぁ、学校はどこ通ってるの?」

「あ、えーっと、今ちょっと訳あって学校は通ってないんです・・・。そんなことより翔さん歌めっちゃうまいですね!翔さんの声、すごい好きです!」

「え、ほんとー?ふふっ、ありがとう!」

翔さんはニコっと満面の笑みを見せる。翔さんのあの声とこの笑顔を見たら、老若男女好きになってしまうだろうな・・・と、俺もニコニコとしていたら、良太さんが

「犬同士が挨拶してるみたいー」

と、話しかけてきた。そこにすかさず彰人が、わかるわかる!と入ってくる。すると七海はワンワン、と犬の鳴き真似までし始め、翔さんは僕犬なら何犬?と良太さんに何度も聞いている。俺はその光景を見ながらただただ笑った。

「じゃ、時間も迫ってるし今日最後の音合わせしようかー。颯太も入れるところだけでいいから入って」

良太さんの声掛けでふざけていた空気が一瞬で引き締まる。イントロが始まり、俺もどうにか演奏に喰らいついていく。一瞬、演奏の中で全ての歯車があうようなそんな感覚があった。ギター、ベース、ドラム、ボーカルの全ての音が合わせようとしなくても自然に調和されていくようなそんな感覚だ。この感覚はなんだかとても懐かしいような気がする。

(俺は、この感覚がたまらなく好きなのかもしれない)

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