episode5 バイトとキーホルダー
「なぁ、お願い!一生のお願い!!」
「やだ」
「お願いお願い!本当にお願い!」
俺は彰人と待ち合わせたあと、彰人のバイト先に一緒についていくことになった。どうやらバイトが入っている日はそこでまかない料理をもらっているらしい。俺のバイトのお願いも兼ねて一緒にいこう、となったのだが、その道中ずっと俺は彰人にあるお願いをされ続けていた。
「颯太さぁ、居候してるんだしさ~、ちょっとした恩返しだと思ってさぁ~」
「だからやだってば。恩返しはもちろんする!バイトで稼げたらお金も渡すし勉強もできるところは教えてあげる」
「勉強はもちろん教えてほしいけどさ・・・」
彰人の声が急に真面目なトーンになる。
「颯太のギターはそもそもレベルが違うっていうか。とにかく神がかってるんだよ!こんなん声掛けない方が絶対もったいないじゃん。一時の間だけだから、なっ?お願い!」
これは俺が首を縦に振るまでずっと続くのだろうか。話によると、彰人は高校のメンバーでバンドを組んでいるらしい。だが、現在、メンバーの1人が腕を骨折していて演奏できないため、一時の間その穴を埋めてほしいようだ。彰人以外の人間を誰も知らないこの状況で、いきなりバンドメンバーの穴を埋めるというのはなんだか気がひけてしまう。
(さっきの演奏も勝手に指が動いただけでたまたまかもしれないし・・・)
「じゃあさ、明日メンバーで練習する予定だから顔だけでも出してよ。そこで決めていいから」
「・・・はぁ、分かったよ」
「やった!じゃあ決まりな~!!あっバイト先はここね」
彰人は俺が根負けしたことが嬉しいらしくニコニコしている。まぁ居候させてもらっている身分でこちらが何か言う権利はそもそもないのだが。彰人が指さす方を見るとこじんまりとした家庭風なお店で既にお客さんが入って賑わっているのが外からでも分かった。入口を開けると店長らしき男性がこちらを見て
「彰人~、お疲れ!」
と、陽気に声を掛けてきた。
「お疲れ様で~す。あっ急なんすけど今日バイト希望連れてきたんでよかったらつかってくれませんか?」
俺は彰人の後ろからぺこりと頭を下げる。
「あ、そうなの?彰人の友だち?名前は?皿洗いぐらいはできる?」
「こいつは俺の親戚でちょっと訳あって今こっちに来てるんです。雑用ぐらいならできます!」
と、彰人がこちらに視線を送りながら答える。俺も続けて
「颯太といいます。あの、皿洗いとか片付けぐらいならできます!よろしくお願いします!」
と答えた。
「元気いいじゃん!オッケーオッケー。じゃあ彰人、着替え場所とか案内してあげて」
(今日から働くとは思わなかったけど、とりあえずよかった・・・)
俺は彰人に厨房奥にある小部屋に案内され、ポロシャツとエプロンを着用した。そのあとは、お店に出て使用済みのお皿を回収したり、皿洗いをしたりなどせわしなく動いた。その日は3時間ほどではあったがあっという間に時間が過ぎた。忙しくしていると余計なことを考えなくて済むのがありがたい。
「颯太、こっちこっち」
彰人に呼ばれて奥の小部屋に行くと、2人分の焼き飯と汁物が置かれていた。
「冷める前に食べようぜ~、いただきま~す」
「いただきます。これ彰人が作ったの?」
「そうそう。まかない作る人はそのとき厨房に入る人なんだけど、今日は俺が厨房だったから」
なるほど。どおりで家でする料理もし慣れている感じだったんだ。焼き飯を一口食べると醤油と少し焦げたお米のバランスが絶妙で思わず笑顔になってしまう。
「おいしい」
「そう?ありがと」
黙々と食べていると1人の男性が俺たちがいる小部屋に入ってきた。
「おっ彰人、お疲れ~」
見ると、俺たちと同じ歳ぐらいの男性だ。骨折しているのか左腕に包帯を巻いている。彰人にあったその男性の視線はすぐに俺に移った。
「あれ?新入りさん?」
「俺の親戚。今日からここでお世話になることになったのよ。颯太、こいつはここの店長の息子で俺の友だちの古瀬七海。さっき話したバンドのメンバーでベースを担当してる」
俺は食べている手を止め、
「颯太といいます。古瀬さん、よろしくお願いします」
と、言い会釈した。
「七海でいいよ、こちらこそよろしく。俺もいつもだったらヘルプに入るんだけど、このとおり今腕骨折しててさぁ。ちょうど人手が足りないんだよね。シフトたくさん入ってくれたら助かるな~」
ニコニコと笑顔で話しかけてくれる。なんだか良い人そうだ。
「じゃあ七海さん、で。よろしくお願いします。俺、いつでもバイト入れます!頑張ります!」
「おっ!やる気十分じゃん!助かるわ~。親父とは話せた?」
「挨拶程度にしかまだ話せてなくて。今日は忙しくて時間とれそうにないからまた後日ってことになりました」
「ん~そっかそっか。あ、てか高校生、だよね?高校はどこなの?」
(そうだ、その辺詰めてなかったな・・・)
俺が一瞬迷っていると、すぐに彰人が
「あ~!颯太は訳あって今うちに来てるんだけど学校は通ってないんだよね。だからバイトばんばん使ってやって!」
と、助け船を出してくれた。
「そっか。うん、分かった!俺からも親父に話しとくわ。彰人、うちのイロハを颯太くんに教えといて、ね?」
七海さんはニヤニヤしながら彰人を見ている。
「えっ?教えていいの?じゃあ1年前のあの話でもしちゃおっかな~?」
彰人も負けじとニヤニヤしながら返す。あの話、が何かは分からないが急に七海さんが分かりやすく慌て始めた。
「俺が言ってるのは店のことなんだけど!?お、俺、帰るわ!お疲れ!あっ、明日の練習、俺も顔出すから」
「はいは~い。あっそうそう、明日は颯太も連れてくから!じゃあお疲れ~」
七海さんは逃げるようにバタバタと帰っていった。
「彰人、あの話って、何?」
「ん~?まぁいつか七海本人に聞いてみて!ふふっ。さぁ、俺らも食べ終わったことだし片付けて帰ろう」
彰人は思い出し笑いをしながら皿を片付け始める。俺も一緒に片付け着替えを済ませた。帰り間際に店長に、
「今日はお疲れ!いきなり入ってもらって悪かったね、助かったよ。颯太くん、明日か明後日の午前中30分ぐらいだけど時間とれる?話できればと思うんだけど」
と、声を掛けられた。
「大丈夫です!えぇっと、じゃあ明後日でお願いします。時間はいつでも構いません」
「おっよかった。じゃあ日曜の10時に店、来てもらえる?」
「分かりました。よろしくお願いします」
「はいはい~。彰人もお疲れ~」
店長さんも気がよくいい人そうだ。来る前は少し緊張していたが、程よい疲れもあって今は心地がいい。帰路につくまでの間、俺と彰人は他愛無い話をした。そのなかで俺は思い出せる限りの未来の話もした。俺にとっては普通のことだが彰人にとっては衝撃的だったようだ。
「え!じゃあそうなると未来ってスマホがないとめっちゃ不便じゃん!」
「そうそう。現金もあんま持ち歩かないしな~」
「はぁ、なんか聞けば聞くほど想像できないな。今よりも便利にはなってはいくんだろうけどさ」
彰人は大きく伸びをして続ける。
「でもさ、俺って颯太の世界では36歳ってことだよな?一体何してるんだろ。実は大金持ちになってたりして!?」
(そういや元いた世界で俺と彰人は知り合いなんだろうか?それとも会ったことすらないのか?ここで彰人と出会ったことも、経験したことも、未来に何かしら影響とかされるんだろうか・・・?)
俺がう~ん、と唸っていると、彰人は俺が考え込んでいる姿を勘違いし、
「え!俺がお金持ちってマジなの!?もしかして、億万長者!?」
と、目を輝かせながら聞いてきた。
「あ、ごめん!彰人のことは記憶にないからわかんない」
と言うと、彰人はなんだぁ~、と言い
「でも俺のこと、記憶になくてよかったわ!未来の自分のことは知りたくないし。じゃないと楽しくないしな!」
と俺の目を見て笑う。
「たしかにね、俺も同じだわ。元の世界の俺はどうだったか分かんないけど今楽しいし」
俺もあははっと笑いながら返す。
(なんか忘れてるような・・・あっそうだ!)
「彰人、そういやさ、今日これ拾ったんだけど」
俺はそう言いながらズボンのポケットに入れていたパンダのキーホルダーを出した。
「あおいって書いてあって、多分彰人の学校の人のだと思うんだけど分かる?」
「えっ!!!!あおい!!??」
彰人はなぜだかとても驚いている。
「うん。今日朝方に自転車と一緒にこけた女性がいてさ。髪はボブぐらいで身長は160センチぐらいかなぁ?落としていっちゃったんだよね」
俺の話を聞き、キーホルダーのAOIの刺繍を見るや否や彰人の顔がみるみる茹ダコのように赤くなっていく。
「あの、うん、もしかしたら。パンダ好きって言ってたし、もしかしたら、分かるかも・・・」
先程までの元気ハツラツとした彰人が別人のように変わっていく。なんだよその反応。
(・・・ん?そういうこと?)
色々と勘づいた俺は、我慢しようとはしたがこらえきれずその場で爆笑した。彰人は茹ダコ状態のまま黙りこくっている。
「あ~ははははっ!いや~分かりやすすぎだろ!駄目だっ!お腹痛い!あははは!!」
俺は、うまくいくといいね!と言いながら彰人にキーホルダーを渡した。彰人は
「・・・何がだよ。颯太、今日はお前が風呂準備な!」
と言いさっさと前を歩いていく。こんなに分かりやすい人間って他にいるのだろうか。あんまり笑い過ぎると本気で怒られそうだったので、俺は満面の笑みで彰人に見えない後ろの位置をキープしながら帰路についた。




