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episode4 日常

『颯太、颯太・・・』

(・・・颯太って誰だ・・・?)

『おいっ、颯太って!』

(うるさいな!だから誰だよ?俺は・・・俺は・・・)


「おいっ!颯太!いい加減起きろって!!」

「わぁぁっ!!!!」

俺は頭上から呼びかけられた大声に驚き飛び上がるように起きた。顔を上げると彰人が呆れた顔でこちらを見ている。

「お前全然起きないのな。朝から声枯れるかと思ったわ、おはよう」

「ご、ごめん、、、おはよう」

ぐっすり寝た気がする。こんなにしっかりと寝れたのは久しぶりじゃなかったか?

「朝ごはん食べて。あと30分以内に俺家出るから」

彰人に言われ台所の方へ行くと、テーブルにご飯と納豆とインスタントの味噌汁が置かれていた。

「ありがとう。いただきます」

俺はまだ半分しか開いていない目を擦りながらご飯を食べる。彰人は今日学校で実施されるテストの勉強をすっかり忘れていたらしく、部屋で呻き声を上げながら呪文のように何かを音読していた。

「いんぽうたんとは重要という意味で、えぇっと・・・あいえぬ、えっ?えむ?んんん?」

俺は部屋から聞こえる苦しそうな彰人の声を聞きながらあはは、と笑った。テスト当日でこれって絶対ダメじゃん。もうそこで躓くなら今さら感しかないが必死なのが面白い。

「ごちそうさま」

俺は朝ごはんを食べ片付け終えると顔を洗い彰人のところへ行った。

「彰人、朝ごはんごちそうさま。あのさ、ごめんけど服って借りれる?」

「あぁ、そっかそっか。うん、大丈夫。ちょっと俺マジで今ヤバいから適当にここから着れそうな服着て」

彰人は昨日床で寝床にするために山にした服を指差しさっさと教科書に視線を戻す。そんなに焦るって、赤点でもとったら罰則とかあるのだろうか。聞いてみようかと思ったが彰人の話しかけるなオーラが凄い。ここは口を閉ざしておこう。俺は適当に服を選び着替えた。彰人はうわぁぁぁ、と頭を抱えながらまだ懲りずに音読を続けていた。目をやると顔に思いっきり絶望と書いてある。

「彰人、着替え終えたよ。家出るのいつでも大丈夫」

「よし!じゃあ出ようか。そういや颯太、時計ないよな?これ、持っておいていいから。あとこれうちの住所と俺の携帯電話の番号と学校の住所やらなんやらメモしといたから持っといて!」

と言って腕時計とメモを渡してきた。

(テストで大変なのに律儀にメモしてくれている・・・)

「あっ、ありがと。テスト頑張って!じゃあ16時半に土手で。いってらっしゃい」

「おぅ、いってきます。あっそうだそうだ!そういや颯太一文無しじゃん。てか言えよ、俺忘れちゃうから。はいっ!」

と、財布から千円札を手渡してきた。

(自分のテストのことは忘れるのに・・・彰人って本当に高校生なんだろうか・・・?)

「使わないとは思うけど、念のため借りとく。ありがとう!」

「使わないとか言わないで昼飯ちゃんと食べろよ?あぁぁ!もう俺いくから!じゃあ!!」

と言い、彰人はダッシュで走り去った。彰人の後ろ姿が見えなくなるまで確認した俺はそこからとぼとぼと行く当てもなく歩き出す。

(さて、どうしようか・・・)

とりあえず昨日の土手の場所は覚えているからそこまで歩いてみよう。町の風景は見覚えがあるようなないような感じではあったが、なんだかここには初めてきたような気がしない。

(元の世界でも俺はここにきていたのかな?)

う~ん、と考え込みながら歩いていると俺の横を自転車が猛スピードですり抜けた。

「あっぶな・・・」

と俺が口に出した瞬間、その自転車は電柱にぶつかりそうになるのを寸前で回避した。が、そのおかげでバランスを崩し見事に転倒した。こんなに間近でしかも単体で自転車ごとずっこけている人を見たのは初めてかもしれない。あっけにとられていると、その人はむくっと起き上がり倒れた自転車を急いで起こすと恥ずかしいのかばつが悪そうな顔をしながらそろそろと辺りを見回している。そのとき、後ろにいた俺と目があった。

「はっ」

と、聞こえるか聞こえないかの音量で声を出したあと、その人は自転車にまたがりまたもや猛スピードで走り去った。

(なんか、色々凄かったな。女性だったけど大丈夫だったかな?・・・ん?)

先程までその女性がいた場所に何やら落ちている。見るとパンダのぬいぐるみのキーホルダーだった。パンダのお腹の部分にアルファベットでAOIと縫ってある。

(あおい、さんかな?あの人、制服だったし彰人と同じ学校かも)

俺はそのキーホルダーを拾い女性が走り去った方向へと歩き進めた。そこから15分ほどたっただろうか。学校らしきものが見えてきた。校門には南部高等学校と書かれている。

(ここが彰人が通っている学校か。やっぱりさっきの女性もここっぽいな、あの人無事に間に合ったのかな?)

既に朝のHRが始まっているようで外には誰もいない。とりあえず来てみたのはいいもののそこからどうしようもないことに気づく。しばらく校門付近でうろうろしていると、

「なにしてんの?」

と横からふいに声を掛けられた。完全に気を抜いていた俺は、

「えっっ!?」

とかなり大きな声で返してしまった。声を掛けられた方を見ると、彰人と同じ制服を着た男性が驚いた顔でこちらを見ている。

「えっと、、えぇっと、、、」

(やばい、なんも考えてなかった・・・)

一気に汗が噴き出す。そうか、普通に考えたら高校生っぽいやつが高校前でしかも私服でうろついていたら完全に不審者だよな。

「あの、俺、あの、ただの、お散歩ですっっ!!!!」

振り絞った言葉がこれとは。そう思った瞬間にとんでもない恥ずかしさが込み上げてくる。俺は握り締めていたキーホルダーをズボンのポケットにねじ込み逃げるようにそこから走り去った。後ろから、おぉ~い、と呼ぶ声が聞こえたような気もするが。しばらく走ったあと、一気に喉が渇いた俺は、とりあえずで借りたお金を使うのはかなり気が引けたが自販機でお茶を買うことにした。

(彰人ごめん、早速借ります)

近くの公園のベンチに腰掛けお茶を飲む。子どもたちが公園中を走り回っていて楽しそうだ。その光景を見ながら一息ついていると

「あーいたいたー」

と遠くの方で声がした。声の方を見ると、さっき校門で会った男性がそこにいた。俺の方にどんどんと近づいてくる。

(えっ!?なんで?)

俺はぎょっとした。もしかしてカツアゲでもされるんじゃ?と思ったが、その男性は俺に近づくなり

「はい、これ」

と片手を差し出してきた。俺は手を出し受け取ると、それは俺が持っていた貝殻模様のピックだった。

「あっ!俺、落としたんですか?」

「そうそう、ポケットから落ちたから声かけたんだけどさー。走ってどっかいっちゃうからさー」

「す、すみません。ありがとうございます!!え、てかわざわざこれ届けてくれて、学校、大丈夫ですか!?」

「ふふふ、大丈夫じゃなかったらそのときはよろしくー。じゃあねー」

と言うとその男性は笑顔のまま手をひらひらさせ去っていった。

(茶髪にピアスの・・・凄く親切な人じゃん・・・)


結局俺はそのあと彰人との待ち合わせ時間までぶらぶらと歩いては休憩してを繰り返し過ごした。先に土手で待っていた俺に

「おまたせ~」

と彰人が駆け寄ってくる。

「お~お疲れ!テストどうだった?」

と、返事は分かっていたが一応聞いてみた。

「それは・・・聞かないでくれ・・・」

思ったとおりうまくいかなかったらしい。うん、ここはそっとしておこう。

彰人は、もう終わったことはいいからそれより、と言うと

「俺、バイト前にここでギター弾くのが日課なんだよ。ほら、うちって壁薄いから練習できなくてさ」

とギターを取り出す。

「でもそのギターさぁ、学校持っていってどうしてんの?」

「ん?あぁ。学校にあまり使っていない物置小屋みたいのがあってさぁ。先生に頼み込んで置かせてもらってる。盗られても自己責任ってことで」

「なるほどね~」

彰人は手慣れた様子でチューニングを始める。そうだ、昨日もこの光景見たな。

「ギターはいつからしてるの?」

「10歳ぐらいから。このギターは最後に親父が俺に買ってくれたものでさ。あっ俺のうち離婚してるんだけどね」

「そう、なんだ。じゃあもう6年ぐらいやってるってこと?じゃあ結構うまいんじゃん?」

「ん~どうかな~、ほぼ自己流で弾いてるし。高校入ってギター上手い先輩に教わり始めたからちょっとずつ上達してる気もするけど」

そう言うと彰人はポロン、と弦を弾き始め、次第にそれは曲になっていく。彰人が弾くギターの音色はとても心地がいい。一曲弾き終えたところで俺は思わず拍手した。

「すごいいいじゃん!俺、めっちゃ好き!」

心の底からそう思った。彰人のギターは人を安心させる作用でもあるのかもしれないと思うほどいい音色を奏でる。

「そうか~?あははっ、ありがとう!・・・そうだ!颯太ピック持ってたし、ギター弾いてみたら?」

そう言いながら彰人は俺にギターを渡した。

「う~ん、じゃあ俺も弾いてみようかな?」

俺はポケットからピックを取り出しギターを受け取った。ポロンと弾いてみる。

(あ、弾けるんじゃん俺)

そう思った瞬間、俺の頭に電流が流れたかのような衝撃が走った。ギターがかき鳴らされる音だけが響いて、どう弾いたのか、彰人がどんな顔をしていたのか全く記憶にない。ひとしきり弾いたあと、目を開けると呆然とした表情の彰人が俺にこう言った。

「お前・・・天才じゃん・・・」

































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