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episode2 認識

「でもさ、ぷうたのその制服って今まで見たことないんだよな〜」

彰人はそう言いながら俺の服を一瞥すると、また正面に視線を戻す。

俺と彰人は病院へ向かうため土手を上がった小道を並んで歩いていた。正確には病院の場所、に限らず何も分からないから彰人についていっているだけなのだが。自分のことはもちろん、家族のこと、友だちのこと、住んでいた場所、通っていた学校、何でもいいから思い出したいが周りの景色をいくら見ようが何も思い出せない。

(というか病院で検査して、そのあと記憶って戻るのか?戻らない場合は?俺は一体どうなるんだ?)

同じ歳ぐらいのやつが何故だか自分のことを構ってくれている現状に多少の安心感はあったが、冷静に考えれば考えるだけ不安が襲ってくる。なんでこんなことになったんだ?何故?事故?事件に巻き込まれた?

「なぁって」

何も返答がないことに痺れを切らした彰人が俺に問いかける。

(あ、話全然聞いてなかったわ)

「ごめん、なんだっけ?」

「だから、お前の制服ってここらじゃ見たことないって話!」

「ごめんごめん、なんでだろ?これってコスプレだったりして?だったら面白いよな〜あははっ」

「・・・まぁ冗談言えるぐらい元気ならいいよ。俺がお前の立場だったら絶対にパニクってるから」

ハハハっと笑いながら彰人は俺の肩を軽くポンっと叩く。

「なぁ。よくしてもらってすごく有難いんだけどさ、なんで俺に構うの?さっきお前は俺の立場だったらパニクるって言ってたけど、俺がお前の立場だったら絶対に俺なんかに構わないと思う」

単純な疑問だった。俺が怪しいやつだったらどうするんだ?今でも十分怪しいとは思うけど。彰人はふむ、と一時考えた後、

「・・・ぷうたに似てる」

とポツリと言った。

「はあ!?」

なんだそれ?そんな冗談聞きたくないわ!と、俺が続けて言う前に先に彰人が口を開いた。

「っていうのは半分冗談で半分本当。なんかぷうたみたいにほっとけない雰囲気があるというか。あとは・・・なんだか・・・」

と、彰人はその先の言葉を続けるかどうか少し躊躇っているようだった。

「なんだよ?」

「・・・不思議なんだけどお前、親父の雰囲気に似てるんだよ」

「え?」

「小さい頃の記憶しかないんだけど、なんかお前を見た瞬間親父を思い出しちゃってさ」

「はぁ」

「まぁ、いいじゃん!俺がしたいようにしてるだけだし」

俺は納得したようなしていないようななんともいえない気持ちだった。犬と親父に似てるって・・・。

「でもそのぷうたっていう名前はやめろよな。なんか、ぷうたって想像するとかわいい系のワンコじゃんか。俺、そんなキャラじゃないし」

「へっ?お前、めっちゃぷうただけど!?さては自分で自分のこと分かってないな?ははっ、じゃあ、丸をとってふうたってのは?漢字は颯爽の颯に太いの太。いいじゃん!これ思いつきにしてはかなりよくない!?」

瞳をキラキラさせながら、いいだろ?と言わんばかりに俺を見る。どう見たってこいつの方がぷうたじゃんか。

「はいはい、分かったよ。すごくいいね。僕は今から颯太です」

俺が棒読みでそう答えると彰人はケラケラ笑いながら、よ~しよし、颯太ちゃん~と俺の頭を撫でてくる。

(親切だが能天気で距離感がバグってる奴だ・・・)

とりあえず彰人に好きなようにやらせていると、彰人のカバンから何やら音楽が聴こえた。

「誰だろ?」

と彰人がカバンから携帯電話をとりだす。そのとき、カバンから学生証が入ったパスケースが地面に落ちた。俺はそのパスケースを咄嗟に拾い何気なくその学生証に目をやった。

ー南部高等学校 高良 彰人 2005年4月1日入学ー

「えっ・・・?2005?」

俺は驚きのあまり歩みを止めその学生証をしっかりと確認した。ベタではあるが目も擦って見てみる。だが何度見てもそこには2005年4月1日入学、と書いてある。パスケースを落としたことに気づかずそのまま歩いていた彰人は携帯電話の確認を終え顔を上げると、さっきまで横に並んで歩いていたはずの俺がいないことに気づき後ろを振り返った。

「どうしたー!?」

彰人は数メートル先から俺に声を掛ける。

だが、そのときの俺は状況が全く掴めずただただ混乱しその場に立ち尽くしていた。

(2005年?なんで!?)

冷や汗が止まらない。パニックで血の気が引くのが自分でも分かる。俺のただならぬ様子に彰人も気づきこちらに駆け寄ってくる。

「おいっ!大丈夫か?顔、真っ青だぞ!?とにかく一旦座れ」

と言い側の土手に一度腰掛けるよう促された。

「なぁ、いきなりどうした?気分、悪いのか?」

彰人は俺の背中を擦りながら優しく問いかける。

「今って・・・」

俺は振り絞るように声を出す。

「今って何年?」

「え?今?平成18年の2005年だけど。それがどうした?」

彰人は不思議そうな顔でこちらを見ている。

(やっぱり2005年なんだ。これは・・・夢、なのか・・?)

俺は思いっきり自分の頬をつねってみた。普通に痛い。夢じゃないのか?もう訳が分からない。

「なぁ、本当に大丈夫か?横になるか?歩くのが無理なら本当に救急車呼ぶぞ」

そこで彰人がずっと俺の背中を擦ってくれていることに気づいた。

「ごめん、ありがとう。大丈夫」

実際、俺の心臓はドクンドクンと波打ち若干の吐き気もあった。だが、彰人が背中を擦ってくれている部分が温かく、少しずつではあるが落ち着きを取り戻していくのを感じる。俺はゆっくりと呼吸をし息を整えた。

「こんなことって・・・」

俺はまだ収まりきれない鼓動を早く鎮めようと何度も深く息を吐いた。

「・・・こんなことってあるのか?」

誰に言うでもない。俺は独り言のように吐き捨てた。彰人はただ黙って俺の横に一緒に座っている。

何分経っただろうか。少しの無言のあと彰人が口を開いた。

「何かを、思い出せたのか?」

その顔は、純粋に俺を心配している顔だった。さっきまで元気そうだった奴がいきなり顔面蒼白の冷や汗まみれになったんだから無理もない。

「俺さ・・・」

彰人は黙って言葉の続きを待っている。

「俺、マジで宇宙人かもしれない」

一瞬の沈黙のあと、彰人が

「はぁぁっ!?」

と大声を出した。

「ぷうた!・・・じゃなかった颯太!こんなときに冗談はきついぞ」

彰人はさすがに笑えない、と苦笑いしている。

「だって俺、2025年を生きてたから」

「はぁ?さすがに冗談はもういいって!」

彰人が苦笑いから少し怒った表情に変わっていくのが分かる。だが、俺は淡々と続けた。

「俺、2025年を生きてたんだ。それは覚えてる。なぜだか分からないけど2025年は俺にとって何か特別だったような気がする」

俺があまりに淡々と真面目に話すのを見て、彰人も次第に俺が本気で言っているのだと理解し始めた。

「・・・嘘だろ?」

彰人は沈黙し何かを考え込み始めたようだった。しかしすぐにハッと顔を上げ早口で俺に尋ねる。

「に、2025年ってなんだ?えぇっと平成でいうと何年になるんだ?何があるんだ?町はどうなってるんだ?社会は?日本は?」

彰人も混乱してきたようで何を聞けばいいのか分からない、といったようだった。

「2025年は令和だよ。令和7年。何があるって、今が何があるのかも分からないから説明しようがない」

俺ははぁぁ、と溜息をつき土手に寝ころんだ。

「とりあえず、このまま病院に行ってもどうしようもないってことだけは分かったな・・・」

俺はそう言うと、空を見上げながらはぁぁ、とまた大きく溜息をつく。

(これからどうすればいいんだ・・・)

彰人は寝ころんでいる俺の横に座り

「れえわ?年号ってれえわってやつになるの?」

とブツブツと独り言を言っている。彰人はひとしきり独り言を言い終えると、あっ、と閃いたような顔で

「颯太、とりあえずお前俺ん家こいよ」

と言い出した。俺はその言葉に驚きのあまり一瞬固まった。だがすぐに、

「いや、俺本物の宇宙人かもしれないんだぞ?というか未来から来た怪しい奴ってのは確定だよ?」

と当たり前であろうことを答えた。だが彰人は

「いいじゃん!未来人と友だちって最高じゃん!」

と言い笑っている。

(こいつは親切だが能天気で距離感がバグってるだけじゃなくて大馬鹿なのかもしれない・・・)

「颯太は20年先から来た未来人で記憶もなくて行く当てもない。なら考えてもしょうがなくない?」

彰人はまるでそれが普通であるかのように言う。

「でも、迷惑かけらんないし。だいたい家族の人になんて説明するんだよ?」

「迷惑どうのこうのは今さら感あるし。家族、は大丈夫。母親はいるけど仕事の関係でたまに帰ってくる程度だし。家には誰もいない」

「えっ、そうなの?」

彰人のお気楽そうなキャラクターからきっと賑やかで明るい家族なんだろうと勝手に想像していただけに意外だった。

「うん、そう。だから遠慮すんなよ。1人で飯食べるって味気ないしさ。そんなだから俺の状況知ってる友だちもしょっちゅう家に来るし。気にしなくていいよ」

本当にいいのだろうか。ましてやさっき知り合ったばかりのしかも自分でもこの状況が分かってないのに。返事をためらっていると、まるで図ったかのように盛大にぐうぅぅぅ~、と俺の腹が鳴った。一瞬間が空き、彰人と俺の目がバチッと合う。彰人はアハハハハ!と大きく笑い

「決まりじゃん。ほらっ、行こう!立てる?」

と、立ち上がりながら、ほれっ、と手を差し出し俺を引き上げた。俺は立ち上がったあと、

「本当にごめん。けど、とりあえず、よろしくお願いします。助かり、ます」

と答えた。今、この世界で、俺のことを疑わず信用してくれるこの存在に俺は確実に助けられている。恐らく1人でこの状況を抱えていたら発狂していただろう。彰人はそんな俺の心情を察してか満面の笑みで

「言っとくけどいい食いもんはないからなー?俺の愛情入りだから美味いのは確定だけど」

と、明るく返してきた。不安が渦巻いていた心がふっと軽くなるのが自分でも分かる。この彰人という男は本当に不思議な奴だ。

「うん、ありがとう」













































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