episode1 出会い
この作品が初めての投稿作品です。皆様の隙間時間に楽しんで頂けたら嬉しいです。
(空、綺麗だな・・・)
この一歩がスタートなのかゴールなのか。もうそれもどうでもいい。
空が遠くなる感覚を味わいながら身体はただただ下へ下へと落ちていくーーーーー
「おいっ」
いきなり頭上からかけられた声に驚き反射で身体が一瞬硬直してしまった。
「ここ、俺の特等席なんだけど」
そう言い横にズカっと座りこむ男。制服を着ている。どっかの高校生か?俺と同い年ぐらいか?
(なんだこいつ・・・)
せっかく気持ちよく寝ていたのに。しかも勝手に人を起こした挙句、横に腰掛けるってヤバイ奴だろ。いつもなら面倒な奴に関わりたくない一心ですぐさま立ち去るのだが、なぜか今日に限って腹の虫が収まらない。
「てか俺もここ特等席なんだけど」
そう。この場所は俺にとって本当に好きな場所なのだ。ここはあたり一面だだっ広い芝生でこの土手は町全体を見渡せる。俺が寝転んでいる横には大きな欅の木があり、まるでこの場所を守ってくれているような、そんな安心感もくれる。町と土手の間には川も流れていて陽にあたると水面がキラキラと光りずっと見ていられるほど綺麗だ。今日みたいな気候のいい日はついうたた寝もしてしまう。
「へぇ、いつから?」
その男はこちらを向くことなく通学カバンと背負っていたギターケースを芝生へ置き、そのギターケースを開けはじめた。中から出てきたギターにちょうど陽があたり、弦が一瞬キラリと光る。恐らくチューニングをしているのだろう、ポロン、ポロンと鳴らしては調整してを繰り返している。
「チッ・・・生まれてからずっとだよ」
そう答えた後、その男がポロンと鳴らしていた手が一瞬止まった。なんだよ、こっちは本気だぞ。
「あっはっはっはっ!お前、面白いじゃんっ!」
豪快な笑い声があたり一面に響き渡る。
「はぁ〜、ちなみに俺もそうだけど?それならなんで今まで会わなかったんだ?
ははっ、まぁいいや。お前高校生、だよな?何高?名前は?」
その男は何故か自分に興味を持ったらしい。矢継ぎ早に質問をしてくる。
「普通、相手に聞く前に自分が名乗るもんだろ」
寝転んでいた身体を起こす。ここで初めて相手の視線に高さが合った。
肌は白く髪と瞳は焦茶色。顔のパーツはちょうどよく配置され、睫毛が長く瞳も大きい。ちょうど陽の光が当たっていることもあり何か発光しているような眩しさがある。ニヤニヤと笑いながらもその男はこちらをじっと見つめ口を開く。
「まぁ確かに。俺は彰人。高良彰人。南部高校の1年生」
話しながらも表情は柔らかい。たった数分前に持ったこいつの印象は最悪だったのだが。
「で、お前は?」
真っ直ぐと見つめる瞳に、なんだかこいつは案外悪いやつではないのかもしれない、と俺は思い始めていた。
「俺は・・・」
言い始めようとした瞬間に言葉が詰まる。すぐにでも出てきておかしくない言葉が出てこない。脳が真っ黒な深海に浸かっているんじゃないかと錯覚してしまいそうになる。
(あれ?・・・俺は・・・俺は・・・?)
「え、なんだよ?お前、もしかして・・・」
彰人は腕を組み考えている風を装いながら
「宇宙人なのか!?」
と人差し指を俺に向かって突き出した。彰人は早くツッコミをくれと言わんばかりの表情でこちらを見ている。
「いや、宇宙人ではない、と思う・・・」
恐らく予想していたツッコミがないばかりか真面目な返答に驚いたのだろう。彰人は一瞬目を大きく開けると先程の笑い声を更に倍増させた音量で笑い転げている。さっきまでは俺が寝てそっちが座っていたのに今は完全に逆である。
「は〜ははは、あ〜やばっ。お前、才能あるわっ。うん、あるある。ふふっ」
(なんの才能だよ・・・)
心の中でこの彰人という男にツッコミを入れる自分に気づく。それがなんだか可笑しくて口角が自然と上がり表情が緩んでいるのが自分でも分かった。ふぅっと溜息混じりに口を開く。
「俺自身も分からない」
「は?それ、どういうこと?」
「だから俺が分からないんだって。俺が何者なのか、俺がどこから来たのか。自分のことを思い出そうとするとなんだか頭に靄がかかったように・・・なる」
初めはただの冗談かと思い聞いていた彰人も次第に真剣な表情に変わる。
「それってさ、記憶喪失ってこと?」
彰人の表情から完全に心配していることが見て取れる。この彰人という男は全ての感情が表情に出る生き物らしい。深刻な状況はこちらなのに。見ていてこちらが心配になるほどだ。
「分からない。気づいたらここで寝てて、気づいたらお前に起こされた。ただ、ここが俺にとって居心地が良くて好きな場所だってのは知ってる。あとお前を見て同じ歳ぐらいかと何となく思った。でも、それだけしか分からない」
本当に分からない。これは一体どういうことだろう。確かにこいつの言う通り記憶喪失かもしれない。
「頭打ってるかもしれないし、とりあえず救急車じゃね?」
そう言うと彰人は通学カバンの中に手を入れる。恐らくスマホを取り出そうとしているんだろう。
「いや待って!そんな大事にしたくない!俺、どこも痛くないし元気だし。こんな状況で救急車呼んだら迷惑じゃん」
慌てて彰人の手を掴む。
「そんなわけいかんでしょうよ。今はどうもなくても後から分かんないし。記憶喪失ってかなりやばいじゃん。何にしろ検査してもらわないとだし。どうにか家族にも連絡取らないと」
(こいつ、冷静だな)
冷静に対処している彰人を見るとこちらも冷静になれるのは助かる。本当に第一印象ってもんはあてにならないものだ。
「そういやお前、荷物何もないの?携帯とか財布とか」
言われてハッと、俺はありとあらゆるポケットの中に手を突っ込んでみた。が、ない。何も、ない。俺はおそらく学生服であろうブレザーの上下のポケットを入念に調べた。が、やはり何もない。
最後にシャツの左胸ポケットにも一応手を突っ込んでみる。まぁ何もないだろうけど。
「あっ・・・」
何かが手に触れた。取り出してみると、それは白い貝殻模様の小さな三角形で光の加減で虹色にも見える。
「それ、ピックじゃん」
取り出した瞬間に彰人が口を開く。
「お前もギター弾くのかもな」
俺、ギター弾くのか?でもそれが分かったところで今の状況は好転しない。
「何もないや。申し訳ないけど一番近くの病院教えて。行ってみるわ」
それを聞くや否や彰人は、はぁぁ、と大きな溜息を吐いた。
「あのさぁ、この状況で1人で行かせられると思ってんの?どうしても救急車呼びたくないんなら俺も一緒に行く」
そう言うと彰人はカバンから二つ折りの携帯電話を取り出した。
「え、それって」
俺は彰人が持っている携帯電話をまじまじと見た。
「それ本物?実物初めて見た!まだあるんだ!?」
へぇぇ〜、と物珍しく見ていると、彰人が不思議そうな顔をしてこちらを見ていることに気づいた。
「初めて見たって。そんなやつを逆に俺は初めて見たよ。まだあるっていうか大体皆これじゃん」
(えっ?大体スマホだろ?あれ?そうだよな?)
そう思ったが自分自身の記憶もない奴がああだこうだ言ったところでどうしようもないしそもそも自信もない。
「そんな遠くないところに病院があるからそこに行こう。とりあえず俺、家族に連絡するから」
と、彰人はすぐさまどこかに連絡をしギターを片付け始めた。
「なんか、ごめん。お前、じゃなくって高良、さんに迷惑かけてしまって・・・」
本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
「気にすんなよ。こっちは記憶喪失の宇宙人に会えたかもだし。てか舌打ちまでしてきた奴から今更『さん呼び』って気持ち悪いわ。彰人でいいよ。お前はとりあえず・・・」
「ぷうたでどうだ?」
(・・・は・・・?・・・ぷ・・・?)
「センス、終わってる」
気づいたら思わず口に出ていた。さっき全力で申し訳なく思った気持ちを返してほしい。それほど絶望的なネーミングセンスだ。ただこいつは真剣な顔をしている。
(あ、本気なんだ。やばい、笑けるわ)
今度は俺が腹を抱える側になった。俄然記憶は思い出せないがこれだけ笑ったのはかなり久しぶりな気がする。
「終わってるとか言うな!俺が前飼ってた犬の名前なんだから!」
(イヌ?犬なんだ!なんでそれを俺に!?)
更に腹が捩れる。記憶喪失の男が初対面のやつに出会ってそいつと病院へ行く。これだけでもかなり非日常なのに。そんな状況に思えないほど笑いに溢れたこの現状が更に滑稽さを生み出す。
「あっはっはっはっ!彰人!お前が宇宙人かもよ!?」
笑い転げる俺を見ながらちょっとムッとした顔をして
「俺は宇宙人じゃねぇ!・・・多分!」
と言い、カバンとギターケースを背負うと
「ほらっ、早く行くぞ!ぷうた!」
と俺に向かって手を伸ばした。まだ笑いが収まらなかった俺は差し伸べられた手を笑い転げたおかげで涙で霞んだ目で見つめながら
「あっはっはっ。あぁ、ありがとう」
とその手を掴んだ。




