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Riley!  作者: nichialle
6/7

第6話 今日もいい子でいてね

ある男が、鏡の前で身なりを整えている。


鏡の中に映るのは、綺麗な顔をして、どこか壊れかけている青年だった。疲れた目。乾いた唇。整えられたはずの髪も、どこか無造作だった。


今日は、“あの日”だ。


金をくれるあいつの元へ行く日。

身体を預け、言葉を飲み込む日。

そんな日を「仕事」と呼べるほど、彼は器用でも図太くもなれなかった。


それでも、ちゃんと今日のための綺麗なシャツに腕を通す。


部屋には、彼の頭の中に住みついた男がいる。


ベッドで雑誌を読みながら、うんざりしたように言う。


「ねぇ、そんなに嫌なら、やめたら?」


男は、鏡越しに返す。


「……やめられるなら、とっくにやめてる」


______


廊下で小さな女の子とすれ違う


彼女は洗濯かごを抱えていて、笑顔で言う。


「今日はお仕事?」


「……まぁな。ちょっと、金になるやつ」


「そっか、えらいね。がんばって」


ぐさり、と胸に刺さる。

なにも知らないその笑顔が、一番つらい。


(“えらい”わけがない。“がんばれ”ない。)


「じゃあ、今日もいい子にしてなよ」


そう言い残して、男は踵を返す。

“いい子”って誰に言ったのか、彼にもわからなかった。


_____



呼ばれたホテルの部屋は、相変わらず気持ち悪いくらい静かで、

ベッドの上の男は、相変わらず「おまえは美しい」と機械みたいに言った。


男は何も考えないように、天井を見ていた。

そして時が早く過ぎるのを祈りながらまぶたを閉じた。


_____


帰り道、スマホの通知が鳴る。


《件名:205号室 ___》

「“本当の病人は、自分で病名を言わないものよ。”」


意味のわからないメッセージ。

でもなぜか、それを読んだあと、男は泣きそうになるのをこらえた。



_____


マンションの前に戻ると、夜風が少し涼しかった。


プリンの頭をした男が階段に座って、チャイをすすっていた。


「やぁ、王子。今日はなんだか高級感があるね」


「……うるせぇ」


「それになんだか、“壊されてきた”顔もしてるね」


「……黙れよ、マジで」


「はいはい。でも忘れんなよ、王子。壊されたやつは、壊れたやつと仲良くできんだぜ?」


男の目だけが、いつになく真剣で、

それ以上、何も言えなかった。


部屋に戻って靴を脱ぐと、ベランダの方から煙草の匂いが流れてきた。


足の裏が、やけに冷たく感じた。


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