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七話、乙女ゲーム


◆◆◆


「私の、出るゲーム?」

「外に出た時に、丁度見かけたんだ」



 少ししたある日、らいかはそんなことを言ってゲームを買ってきた。

 娯楽の少ない田舎なので、最近の子供はゲームが好きらしい。


 私も以前、一つやってみたがあまり楽しめずにやめてしまった。なのでダークソ◯ルリマスターズというゲームしか持っていない。



「あ、そっか。

 私の世界、乙女ゲームの舞台になってるんだっけ」


「ああ、子供の頃、叔母さんがやってるのがリメイクされたらしい」



 乙女ゲームのパッケージ、その表面をなぞる。

 元いた世界が、物語になっている…不思議な感覚だった。



「あ、神社の手伝いでもらったので買ったやつだからな」

「大丈夫だよ、そんなこと考えてないから」



 らいかは行方不明だから、売店とか作業はお願いできないけれど、(魔力を少しこめて)品出しとか、在庫管理とか、メールの応対などをお願いしてもらってる。


 その分の報酬としてお金を渡してる。

 お小遣い制、なんてのも考えたけれど…それは嫌らしい。




「じゃあ少し、やってみていい?」

「ああ、そう思って買ったんだ」



 押入れの奥にしまってあったゲームを取り出して…充電があることを確認してから……私はらいかの膝に座った。



「し、しずく!?」

「こっちの方が画面見やすいでしょ」



 悪戯っぽく笑うと、顔を赤くしながら大人しくなるらいか…やっぱり好きだ。


 そんな想いを少しだけ抑えて…ゲームのカセットを差し込んだ。


◆◆◆


 救済の聖女 〜眠れる四人の獣たち〜



 リメイク版だから映像が綺麗になり、専用のオープニングムービーが流れる。

 そして物語が始まり…軽い舞台説明が終わると…主人公マーガレットのプロローグが始まる。




マーガレット

『え、私が…聖女!?』


王子様?

『君が、聖女か…どうでもいいことだ。

 あと俺王子(雑自己紹介)』




 物語序盤、十歳のマーガレットが聖女だと認定されて、そこから攻略対象との出会いが展開されていく。



マーガレット

『私が聖女なんだから、みんなを救わないとっ!』



 小さな魔物が出てきて、王子様が負傷…それを魔法で助けることで聖女として頑張ることを決意するという展開になったことでプロローグは終わった。



 …


「…聖女って、国守ってたっけ」

「…どちらかというと、全員国滅ぼしてた」



 雷鳴ノ聖女は国を丸ごとクレーターにしたし、真理ノ聖女は滅んだ故国の最奥でずっと歌ってたし、嫌悪ノ聖女は強いやつ見ると所構わず滅多刺しにしようとする。


 本当に聖女は全員壊滅的で絶望的な人格破綻者しかいなかった。




「雫はこの時、何をしてたんだ?」

「山脈いってドラゴン退治してた」

「ハードすぎる…」



◆◆◆


 物語は進み、学園に入学する。

 その中で悪い噂の絶えない悪役令嬢…アラストールと邂逅する。



マーガレット

『あなたが…アラストール』



 あかりのついてない、暗い理科室で、女性徒の頭を踏み躙っている銀髪の少女…アラストールがいた。



アラストール

『…お前、誰だ』



 静かなのに荒々しく、敵意に満ちた声色のアラストールに、マーガレットがビクッと震える。



マーガレット

『わ、私はその子の友達ですっ!』



 そう宣言するマーガレットに————アラストールは首を掴みドスの効いた声で問いかける。



アラストール

『違う。

 ————お前は誰だと、聞いているんだよ』


 これが悪役令嬢アラストールの初登場シーンである。

 その後、心で願った攻略対象が来てくれて退治するという展開である。


……


「これなんで足蹴にしてたの?」

「この子、天使で王国民十人くらい人体実験してて、この後五百人くらい殺すとか言ってたんだよね」

「ああ…なら殺さないとな」




◆◆◆


 物語が進んで、モンスターの大量発生が起きる事件があった。

 総数三百の魔物を全員で協力してなんとか倒した後……魔物たちの死体の奥に、アラストールが立っているのが見えた。



マーガレット

『あれは…アラストール!?』


カイン王子

『奴が魔物の群れから出てきたということは…ここにいる皆だけの秘密にしよう』



 聖女マーガレットと、その仲間たちでその日見たものを秘密にするという話にうつる。



騎士クリフト

『ですが殿下、奴は民の平和を脅かしたんですよ!?』


カイン王子

『クリフト…私の怒りが分からないか』


騎士クリフト

『っ、失礼しました』



 腕を震わせる王子、そのシーンで悪役令嬢アラストールへの怒りがよく描写されていた。


 …




「魔物十万体を三百程度になるまで減らしたんだけどなぁ…」


「本当…アレは死ぬかと思ったぞ。

 結局これ、なんで起きたんだ?」


「平和を脅かすとは…って怒ってる騎士が起動スイッチ押してた、無自覚に」


「戦犯じゃねかーか」


◆◆◆

 物語の後半になるタイミングでアラストールが実はマーガレットの姉だと知らされる。



パパ

『私が…間違えていたんだ。

 あの子から母を奪ったのは私だ…愛していた、愛していたんだ』


マーガレット

『そんな…アラストールが、私のお姉さん?』


パパ

『アラストールも、私の愛しい娘なんだ…あの子を歪めてしまったのは私だ…』



……



「愛してたって本当?

 なんかしょっちゅう決闘してた気がするけど」


「愛は分かんないけど虐待はされてた。

 あと母、エルフの王族だから監禁してんのバレたら即戦争なんだよね…」


「誘拐した上で責任取りたくないからそのまま殺そうとしてただけじゃねーか」



◆◆◆




 物語中盤、学園祭の夜、パーティをして…その最後にアラストールの断罪劇が始まる。



カイン王子

『お前の悪事もこれまでだ! マーガレットのイジメにスタンビート、言い逃れはできんぞ!』



アラストール

『構わんさ…いい加減、ケリを付けねばならないと思っていたところだ』



 断罪に対して、アラストールは毅然とした態度で向かい…マーガレットへ歩を進める。



アラストール

『私の妹を、返してもらおうか』



マーガレット

『わ、私…!?』



 困惑する主人公に対して、アラストールは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。



アラストール

『……ッ、ああ、何も分からないなら、こういえばいいか?』



 瞬間、殺意に満ちた瞳でそっと近付いたアラストール。

 



アラストール

『彼女の身体を、返せと言っているんだよ』



 画面全体にアラストールがドアップされ、画面を指で触れるように演出される。


 画面にヒビが入る演出、怒りに染まったその瞳。



アラストール

『マーガレットの中に神がいることは知っている、お前だよ、お前————そこ(・・)にいるお前に言ってる』



 数あるキャラクターの中で、彼女だけは明確に〝プレイヤー〟の存在を感知していた。




アラストール

『マーガレットの身体で戯言を吠えるな

 マーガレットの身体で幸福を謳うな。

 マーガレットの身体で世界を見るな』



 ピシ、と画面のひび割れが強くなる。



アラストール

『マーガレットを、今すぐ解放しろ』



 ピシャッ、とヒビがさらに大きくなりメッセージウィンドも見れないほどに破滅的になる。



アラストール

『本当に驚いたよ、久しぶりに妹に会えると思って帰ってみれば、全く知らない別人が中身に入ってやがる』




 主人公を操作するプレイヤー自身が、その物語に組み込まれているという斬新なシナリオに加えて、紛れも無く明確に〝マーガレットを真の意味で救おうとしていた〟というアラストールの背景に……胸を打たれた人は多かった。



 …


「人気投票一位の悪役だ…視点が違うな」

「あ、私人気投票一位なんだ…」



◆◆◆



 そして、物語終盤…世界を滅ぼさんとした悪役令嬢アラストールを討伐し……瓦礫に血塗れで倒れるアラストールと、マーガレットが対面する。




アラストール

『もう好きにすればいい。

 だが忘れるな、物語は終わるものだ』


アラストール

『エンドロールのその先に、お前はいない』



 こぷっ、と血を吐き……自らの最期を悟る。



アラストール

『私の勝ちだ』






 そうしてアラストールは死に、国に帰ったマーガレットは王子様と結婚して、幸せになった。




 Happy end




 ???  ————え…?



 膝から崩れ落ちるマーガレットの姿が、ハッピーエンドの後に映し出される。



 しかし名前は表記されず、? で埋め尽くされている。


 メッセージウィンドもなく、ただ文字ばかりが表記される。




 ???  お姉、様…




 震える手で、自分の身体を見る…マーガレット。


 マーガレットの絶望した表情…それで、物語は終わった。



……



「…くそげー?」

「…アラストールの最期の言葉通りになって、プレイヤーはゲロ吐いたらしい」



 ゲームの作り込みが上手く、操作性に加えて戦闘システムも充実していた。

 そのため乙女ゲームというよりRPG寄りになっており、多くのファンがいる。



「エンディング後は名前の表記が???の状態で各地を散策して、アラストールの噂が全部嘘で寧ろ人助けのみに尽力していた…なんていう情報が回収できるらしい」



 そのハッピーエンドなのに何故か絶望的な終わり方にネット上では朽ちない名作、として知られている。



「あ、もうこんな時間、洗濯物お願いできる?」

「分かった」



 そしてゲームに没頭して、気が付けばもう夕方になっていた。

 もうじき日が沈む…その前に夕飯の準備をしようとアラストールは髪を一纏めにする。



 ゲームはおいて、すぐに準備に取り掛かる。

 また、日常が再開される。

 だから、ゲームに特殊なメッセージが浮かんでいることに気づきはしなかった。



『side:アラストールが解放されました』



 そして後日、他のソフトでも同様の現象が起こり、作り込みが凄いと大ブームへと繋がるのは別の話…。



◆◆◆


 夕飯を食べながら、ふと今日やったゲームを思い出す。



「雫も、かなり温和になったよな…」



 ゲーム内のアラストールは常にキリッとしていた。


 ご飯を食べてほわほわな笑顔を浮かべている彼女からは想像もつかない。



「それは、らいかがいてくれたからだよ」



 以前に比べると、本当に温和になった。

 いや、以前が追い詰められていただけなのだろう…これがきっと、彼女本来の気質なのだろう。



「でも、懐かしい気持ちになったよ。

 そういえば昔、あんな格好してたなー…なんて、思い出せた」



「ならしてみるか? コスプレ衣装とか、側だけなら作れるし」



 加護の影響か、俺は昔から何かと〝作る〟ことには秀でていた。メンバー全員の服を縫うのも俺だったし…と思ったところで、雫がキラキラしている目をこちらに向けているのが分かった。



「コスプレ…」



 その目を見た瞬間、俺はなんとなくこの後、どうなるのか読めてしまった。



「私————コスプレしてみたい」

読んでくださり誠にありがとうございます。


少しでも評価いただけたらとても嬉しいです、よろしくお願いします!


【アラストール(ゲームの姿)】

 ゲーム序盤から終盤までその悪辣さに陰りのない悪役令嬢。

 主人公の友人を殺しのうのうと生きているため、主人公は彼女に強い敵意を抱いていた。


 ––––––その実態は強がりの上手なだけの女の子だった。

 妹のマーガレットに幼少期あっており、その頃にマーガレットに恋をしたという。

 親からの壮絶な虐待に耐えながら家を逃げ出して、冒険者として生きていた。


 学園に通ったのはマーガレットに再開するため、ただそこで彼女が見たものは、


  マーガレットの身体を使っている、ナニカだった。



 物語終了後、彼女の手記を見つけることで彼女の苦痛、彼女の絶望を見ることができる。

 また、サブクエストをクリアすることで各地でアラストールが人助けに奔走していたことが分かり、学園での事件はすべて冤罪だと明かされる。

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