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四話、雨の再会


◆◆◆



「…」


 一ヵ月が経ち、私はその間眠れない時間を過ごした。



「(もう、梅雨なんだ)」



 身体は丈夫だから、倒れはしない。

 だから眠らずに、空いた時間でらいかの情報を探していた。



「(ニュースでもネット記事でも、若者の犯罪がどうとか、ネット依存による影響とか、そんなことばかりだ)」



 今日、学校の先生から休めと言われてしまった。

 私の家の事情を汲んでくれたのだろう。





 梅雨の、酷い豪雨…庭の池に叩き付けられる雨粒の群れを、その余りにも非情な四季をガラス越しに触れる。



「…ねえ……らいか…どこにいるの」




 事情を聞くために、らいかの家族に連絡を入れたけれど…既読もつかない。

 週末、電車で家に行ったけれど追い返されてしまった。



 ————あんたがお兄ちゃんを駄目にしたんだ!!

 ————もう来ないで、顔も見たくない。あの子も…貴女も。



「…あいたいよ、らいか」



 ————瞬間、微かな物音が聞こえる。


 時刻は夜9時を周り…豪雨の中、外を出歩く人はいない。



 だけど、確かに




「(この、気配は)」




 玄関の前に、覚えのある気配を感じる。

 小さくて弱弱しいけれど、私には気付けた、私だから気付けた。



 玄関へ急いで向かった。



「(もしかして、まさか)」



 ガラガラと、力任せに引き戸を開けて————




「————」

「————」




 目が、あった。



 私は今、どんな顔をしているのだろう。

 涙を流していたから、きっと変な顔になっている。



 彼は今、どんな気持ちで私を見ているのだろう。

 雨の中、苦しみながら歩いたのか…全身がずぶ濡れだった。



 ————けれど、瞳の奥で、酷く怯えていたのを…きっと私は忘れない。



「…」

「…ぁ…」



 怯えるような、瞳。

 私の吐息が…少しだけ白くなる。



「……らいか」

「っ…」



 名前を、呼ぶ。

 この一ヵ月、何度も独白した名前を呼ぶ…呼べた…呼ぶことのできなかった名前を、呼べた。



「っ、ごめん…ッ…」



 らいかが背を向けて、走り去ろうとする。




「だめ、まって」



 それが嫌で、あまりにも息苦しくて、走り去るライカの腕を掴もうとする。


 けれど彼の方が早くて…服の端、濡れた袖の端だけを小さく摘む。




「…っ…はぁ…はぁ…」



 身体が雨に打たれる。

 息が苦しい、彼が今ここにいて、今すぐにでもどこかに行ってしまう、それがあまりにも怖くて…息が苦しくて、上手く呼吸できない。




「ッ」


「————」




 袖の裾を掴んだ手を、振り払われる。


 胸がズキンと痛む。



「まって…!」



 逃げだすらいかを、追いかける。


 雨なんてどうでも良い、風なんてどうでも良い。



「らいか…!」



 今はただらいかを追いかけたい、追いかけて手を取ってあげたい。



「どこ、どこに…」



 近接戦と身体能力で私はらいかに敵わない。走っていくらいかにたどり着けない、追いつけない。



「いやだ、いやだ…らいか、らいかは、何処に————」



 そうしないと耐えられない、そうしないと気が狂いそうになる。



「————あそこだ」



 らいかの事を考えて、どこに行ったのか分かると足は勝手に行先を決めた。



 ………

 ……

 …



「……みつけた」



 森の中…それは、私がこの世界が来た時の座標で…らいかが、異世界へ飛ばされた場所。



「違う…違うんだ」



 森の中で、膝を降り、視界そのものを壊すように手で顔を覆っている。



「違う、違う違うッ!

 違う、俺は、違う、俺じゃない、俺じゃない…ッ!!」



 怯えている、気が狂いそうになっているのが肌でわかる。


 滲み出る彼の力が、彼を中心に草木を〝消滅〟させ始める。



「俺じゃ………ないんだ………」



 壊れそうな声…何一つ感情のない…感情が死に始める声を聞いて…彼はこのままだと、消えてしまうと、気付いた。




 だから、わたしは————後ろからそっと抱きしめた。




「————」




 抱きしめた、体が酷く冷えているのが分かった。


 だから、壊れないように



「……ごめん、らいかの気持ちを何も考えずに、追いかけてきた」




 囁くように、耳元で伝える。


 服が泥で汚れようがどうでもいい、今はそばにいたい。



「ごめん…怒ってるのも、わかるんだ…。

 らいかが、こういう事されるの嫌いって、気付いてる…だから、これはわたしの我儘」



 頭を撫でて…少しでもあたためようと、身体を寄せる。



「いかないで…逃げないで、わたしの我儘を、少しだけ聞いてほしいの」



 これは、わたしの怒りだ…


 どんなにらいかの現状に怒りを覚えても、それはらいかの怒りじゃない



 だから、これはわたしの怒りで、らいかの怒りじゃない…



 怒りでどうにかなりそうだったとしても、それを忘れたら人は獣になってしまうから、ただ怒りを抑え込む。



「………アラストール」



 勝手に調べて、勝手に追いかけて、勝手に抱きしめた…自分勝手な私自身に怒りすら覚える。

 



「…ね、らいか」



 らいかの気持ちを、無視する最低な言葉を、今からいう。


 嫌われても文句を言えない、そんな覚悟すらして、告げた。



「わたしのお家に、おいでよ」

読んでくださり誠にありがとうございます。


少しでも評価いただけたらとても嬉しいです、よろしくお願いします!


【加護】

 神の寵愛、あるいは呪いといわれる力。

 加護の所有者は肉体が全盛期になると成長が止まり、そこから不老となる。


 異常なまでの回復性能の向上、加護の能力によってばらつきはあるものの、所有者は全員超人……または、精神異常になる。

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― 新着の感想 ―
何となく目にとまり、何となく読み始めてみましたが……このまま読み進めようと思います。 執筆頑張ってください。応援しています!
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