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三話、神坂雫

◆◆◆


 神坂 雫として生きてきて、もう10年が経った。


 戸籍の問題や、家の問題は思ったよりスムーズに片付いた。



 異世界人は、何か力を一つ得る、私にとっては〝戸籍〟というのがそれだったのだろう。




「(神は人に寄り添う…なんていうには、余りにも大きな贈り物だと、思う)」




 高校生になって、世の仕組みを学んで…その贈り物の大きさを知る。

 


「(平和な生活を謳歌できている…私には、最上の贈り物だ)」



「神坂さん、こちらの問題をお願いします」

「あ、はい」



 先生へ指名されて、前に出る。


 歩きながら、黒板の問題を読み解いて演算して…



「————はい、正解です」



 チョークをおいて、一息つく。


 人前に出るのは、今も昔も変わらず苦手だった。


 できればもう当てられたくない。



 そのまま授業を終えて、放課後になる。



 ここは田舎町だから、娯楽らしい娯楽はない。


 あるとしたら数年前に駅前に出来たショッピングモール。


 二階がゲームセンターになっているようで、よくそこに中学生が集まっているのを遠目に目かける。



「(…今度来た時用に、水着とか買っておこうかな)」



 帰る前に、そんなことを思い更けて…ショッピングモールの衣料品エリアにきた。



 水着は数年前に買ったけれど、きっともう入らないだろう。

 だからちょうど良い機会だとも、思う。



「ええと、水着…」



 その中で、ふと、目に止まったフリルのついた水着。


 黒色で少し大人っぽいけれど、可愛いと素直に思った。



「(これ、かわいい)」




 フリルの水着を手に取って、値段を見る



「(うん、想定内。

 そこまで高くないし、他にも見てこれ以上のが無かったら)」



 と、思った矢先。すぐ隣の水着が視界に入り、頭が真っ白になった。




「————ぉ、ぉわあ」




 ————布面積が極端に少ない。


 なんなら変な声が出た。


 アダルトコーナーとかの端にあるコスプレグッツ、その棚にあるタイプでは? と言いたくなるような破廉恥さに顔を真っ赤にして、ふと、手に取る。



「(ちょ、ちょっとこれは攻めすぎてるかな…)」



 着ている自分を想像して、大惨事になる未来が見えた。

 それくらい布面積が少ないし、色々と丸見えだった。




「…よし、ふりるの水着買おう、可愛いし」



 そう決めて、ふと歩を進める。



 が、やっぱり少しだけ立ち止まって




「………らいか、よろこぶかな」





 ————結局、水着は二着買った。



「(つ、次に来た時に着るとは限らないし)」



◆◆


 放課後の寄り道を終えて、夕飯の食材を買ってからようやく本来の帰路に着く。


「(さて、寄り道もしたし、神社の手伝いに行こう)」



 私が引き取られた神坂家は、この街にある神社を代々守ってきた一族だそうだ。


 敷地も広いとは言えないけれど、小さいわけでもない規模のもの。


 月に一度、町内会にイベントで場所を貸してほしいと言われる程度には地域との交流がある。



 私はそんな神坂家に引き取られたので、よくその手伝い…というか、管理をしている。




「お疲れ様です」

「ふにゃぁ…? おわぁ、おかえり、雫ちゃん」



 気の抜けた返事が返ってくる。


 髪を金髪に染めてからしばらく経ったのか、頭の先が黒髪で、その下が金髪…そんなプリン頭の巫女なんて、うちくらいなものだろう。



「今日は何か問題はありましたか?」

「いいや、掃除もしたし、お客さんが売店きたら対応してるよぅ」



 アルバイトの春風琴子さん、13時から18時までの5時間、週6で出てくれているから助かっている。



「お守りはどのくらい売れましたか?」


「うん、なんか50個くらい売れたよー。

 全部くれっていっつも言ってくるあの人きてさー」


「ならまた在庫出さないとですね」



 在庫を出すのは私の仕事だ。


 御守りは街の職人さんに外注として依頼している。

 それを倉庫にしまっており、毎日50個だけ店に並ぶように調整している。



「さてと…」



 蔵のなかにしまってある在庫の前に行くと、50個分のお守りを前に手を翳して。



「良いことが、ありますように」



 少しだけ、御祈りをする。


 少しだけ力を込める、この作業も慣れたと思う。




「うん、これで一年は保つかな」



 御守りにほんの僅かだけ力を込める。

 一年、少しだけ運が良くなったり、少しだけ頭が良くなりやすくなったりする…本当にそのくらいの力。



「(でも、気付いてる人もいるみたいなんだよね…気を付けないと)」



 その後も品出しや、神社にきた町内会からの依頼を整理、掃除をするとあっという間に18時になってしまった。




「お疲れ様です〜また明日」

「はい、また明日もよろしくお願いしますね」



 巫女服から着替えた春風さんはペコリと頭を下げて帰っていった。




「さてと、夜ご飯の用意しないと」



◆◆◆


 エプロンをつけて、テレビを付ける。


 冷蔵庫から野菜を取り出して包丁を取り出す。



 なんてことない、いつもの日常。



『東京でも有名なおうどん、今回は料亭を営む◯◯夫妻に一日密着…』



 とんとんとん、手際よく水洗いした野菜を切っていく。



 基本的に一人での生活だから、凝ったものは作らない。



「あ、魚焼けた」



 ご飯は冷蔵庫に冷凍保存していた分が残っていたのでレンジへ入れる。



『次のニュースです』



 簡単なサラダと、ご飯と魚を盛り付けてテーブルへ運ぶ。




『近年問題になっている若者の違法薬物の取引、その犯人はまさかの高校生でした』



「(あ、ここ、らいかの住んでる街だ)」



 食事中で行儀が悪いけれど、大丈夫かな、とスマホで事件の情報を探す。



「(まだ既読ついてない、忙しいのかな)」



 LINEを開いてしまうのは、いつもの癖なのだろう。

 ライカと養母、あとは学校の友人との連絡が稀にあるくらい。



「(ええと、らいかの街の名前と…違法薬物、事件…と)」



 ネットで軽く検索して…その中で



「…————」


 一番上の記事に、こんなことが書かれていた。



「え…?」



『今話題の◯◯市の違法薬物事件、犯人は◯◯高校の佐々木来夏』



 名前、ネット上で特定された犯人の名前。


 それは紛れもないらいかの本名で。



「————これ、冤罪だ」



 その真実に、誰よりも早く気付いた。

読んでくださり誠にありがとうございます。


少しでも評価いただけたらとても嬉しいです、よろしくお願いします!



【神坂家】

 歴史ある家で、神社を代々引き継いできた。

 現当主は神坂愛、雫の養母である。


 雫が仕事を手伝いでほぼ覚えてしまったので、会社から望まれていた海外出張の話を受けた。

 そのため当主不在の神社である。

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