十五話、異世界での記憶
◆◆◆
深夜三時、ふと、物音がして目が覚める。
「らいか……?」
「ごめん……なんか、寝れなくて」
目を開けると、らいかが起き上がっていた。
気が付けば私の手錠も外されていた。首輪はそのままだけれど。
「……お茶でものもっか」
電気をつけて、あられもない恰好からネグリジェに着替える。
パジャマじゃないのはしっかりと誘惑目的だからだったりする。
◆◆◆
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
居間に行って、お茶を入れてくれる。
あたたかいお茶は、体を芯から温めた。
夜中に目が覚めて、雫の睡眠を妨害したのに、それでもふんわりとほほ笑んでお茶を入れてくれる…本当に頭が上がらない。
「もう、しばらく…あの人たちは来ないから」
「?」
それはある種の確信に近い言葉。
「あんな怒ってるの…久しぶりに見たな」
「そ、そうかな」
「そうだよ…最後に怒ってたのは、いつだったかな…」
————黒い、太陽…アレが、第六の使徒だよ。
脳裏に呼び起こされる禁忌の記憶。
「————あ」
あの黒太陽さえ無ければ…神殺しをアラストール一人に背負わせることも無かった、それなのに俺は。
「…すまん」
「ううん…いいよ、仇は取れたし…もうみんな、蘇ってるはずだから」
雫があの泉に身を投げた事で、術式が完成し…全員が生き返った。
「みんな…みんなか」
蘇ったみんな…そいつらはきっと、今でも雫を探し続けてる。そういう奴らだ。
「みんな…今頃どうしてるんだろうな」
「分かんないや…でも、みんな強かったよね…」
必要な事だった、神を殺すためにはそれだけの犠牲を払う必要があったのだから。
「本当にな…全員を殺して、蘇りを引き起こすなんて…正気の沙汰じゃなかったよ」
「それでも勝ったじゃん、全員に」
全員大切で、大切だから殺さなければならない…みんな笑顔の大円満…それを〝自らがどれだけ傷付いても〟諦めなかった…
それが、全員と死闘を繰り広げることになっても。
「全部ギリギリだったけどな…雷鳴とかの戦いも酷かった」
◆◆◆
「空から数100の超電磁砲、それを避けながら都市を音速で進んで、雷鳴の場所につかないといけなかった」
一秒でも止まれば即死、都市を舞台にした戦闘は正しく戦場だった。
「軍神機巧を使いながら、進んだけれど雷鳴の演算で何回死にかけたかなぁ」
回避先の予測、予測した先の予測、予測の予測の予測…基本的にまず〝絶対に回避できない無限の弾頭〟に吐き気すら覚える。
「雷鳴のいる地下五十層についても殺し合いをしたね…」
「その時も、全身に機械を纏ってたな…機械装甲戦少女-α、だっけ」
「うん…全部オリハルコンで構築されてたから、生半可な攻撃じゃ一つも傷つかなった」
本当に硬かった、伝説の金属でのみ構築された装甲を破るのは至難の技だった。
「それを片手が黒焦げになってた状態で、対峙した時は本当に終わったと思ったよ」
「剣握れなかったもんね、あの時」
片手が封じられてる状態での戦闘だったから酷いものだった。
なんとか戦って追い詰めたとしても…そこからが怒涛の展開だった。
「あと少しのところで雷鳴が転移をして、地下50層から、空に浮かんだ雷鳴の固有世界…人工衛星に辿り着かないといけなかったね」
人工衛星に転移した雷鳴を倒すにしても時間も距離も鬼畜難易度だった。
「100秒以内に辿り着かなければ、大陸の一割を吹き飛ばす超電磁砲で全ておじゃんになるところだった」
「天空までのルートを…らいかが開いてくれたよね」
限界ギリギリで放った大技、あれが無ければ間違いなく死んでいたと思う。
「魔力と、寿命の一割を使った大業…地下50層から、人工衛星までの距離を全て貫通させたあの秘技…」
そこから軍神機巧で強引に飛んで私一人で向かったのだ。
「人工衛星の内部で…半壊した機械装甲を纏った雷鳴と、少しだけ話したよ」
意識もほぼ残ってない…極限状態での会話だった。
「神様を倒すって、そう言った」
なんでそう言ったのか、今でも分からない…ただあの時は、そういうのが、正解だと思った。
「そしたら、どうだったんだ?」
「…分かんないや。全身、プラグが刺されて廃人の状態だったから」
彼女は死にかけだった。死にかけの状態でずっと戦っていた。
「でも、微笑んでいたと思う」
そうして雷鳴は討伐した…死にかけの状態だから、その程度の苦戦で済んだのだと、今ならわかる。
「雷鳴だけじゃない…真理とも、嫌悪とも、神狼、飢餓、諦観…たくさんの戦った」
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「飢餓はどうやって倒したんだ?」
「あれは倒したというより…飢餓の自壊だったよ…飢餓はずっと、自分の加護の暴走に苦しんでたから」
厄災加護…暴食を冠する加護を所有していた飢餓…彼女はずっと暴走した加護に悩まされていた。
「〝一周目〟の時…飢餓はね、
〝勝ってね、神様なんかに負けないでね〟って言ってたんだ」
一周目、敵の攻撃をエネルギードレインで吸い取り、無効化をした時…身体が限界を迎えて死んだ。
「だけどあの時…飢餓はこう言ってた」
————生きてね…世界の終わりが来たとしても…生き続けてね。
「きっとあの時…飢餓は私がしようとしてたことに、気付いてたんだと思う」
「…そうか…あいつ、勘は本当に鋭かったしな」
◆◆◆
「神狼は…うん、酷かった」
「なんか空でばちばちやってたしな…ロボット映画のクライマックスでしか見たことないぞ、あれ」
軍神機巧に乗りながらの超速戦闘…空に飛びながらバチバチやった記憶がある。
「お互い神速の域に入ってたからね…。
しかも神狼、触れた相手問答無用で〝貫通〟するから回避するのも一苦労だよ」
憤怒の厄災加護を冠するからこそ一撃一撃も重かった。
「神速で迫ってくる防御不可能の牙…本当に狂気だ」
「最後は何とか空中戦で落下しながら斬り合って…地面に激突させて倒したんだよね…」
落下しながら斬り合いをしてそのまま地面に激突した…正直下手したらそこで死んでいたと思う。
「あのクレーター…凄かったしな…。
木が根っこごと吹っ飛んでたの初めてみたぞ」
「…ソニックブームで色々飛んでたからね…」
戦闘後は酷い災害の後みたいになっていたのはいつものことだった。
◆◆◆
「諦観に関しては倒したの、らいかだよね。
どうやったの?」
「あー、あの時は」
祭壇の奥底で無数の亡骸を前にケラケラ笑う一人の女がいた。
『珍しい能力だといいのだろう?
スローライフとか言ってドラゴンぶっ殺すのが好きなのだろう?
なんか俺だけ使えてればいいんだろ?』
それは酷いメタ。雑に、遊び感覚で〝チート〟を量産していた女の煽り文句。
『俺だけ使えてなんか無双で最強目指してSランクであればいいのだろう?
雑に人型上級精霊を侍らせてハーレム気取りかよ、おい』
無差別に、楽し気に、遊びのように他人の人生をいじっていく。
それが諦観、この世全てが神の傀儡だと気付いた女の末路だった。
『なんかスラムで産まれて王族の落ちこぼれで追放されて無能で錬金術で道具持ちでスライムで王で魔王で勇者で姫で中ボスなのがたまらなく好きなんだろうがヨォ!!
テメエらはさぁ!!』
咲う、笑う、嗤う…
『あひ、ゃあひゃびゃひゃにゃひゃ』
酷く悍ましく、ケタケタと笑う。
『あははははははははは————臭えよ、手前ら』
そして、弩級の殺意が降り注いだ。
…
「…もう二度と戦いたくない…」
地獄の光景だった…本当に必死で何をしてたか覚えてない。
「…総数一京の精霊を使った超火力と超範囲の圧殺…確か上級精霊だけでも一兆いたんだよな…」
「空を精霊が埋め尽くしたのは気持ち悪かったよ…本当に」
全ての精霊を束ねる〝星ノ軌跡〟は星そのものを飲み込むことを可能にしていた。
「大陸ごと消えたよな…」
「しかもあれが必殺技とかじゃなくて通常攻撃なのが、本当にひどい…」
◆◆◆
「あとあるとしたら…」
「真理との戦い、かなぁ」
四聖女の一人、真理の聖女…彼女も彼女で厄介だった。
「世界を上書きする能力、だよな」
「森羅万象掌握能力…こっちの攻撃を五感で捉えた瞬間、全部無効化だったしね」
意思のないもの全てが適応するがゆえに意思の保てない中級以下の精霊は視界に入っただけで消滅する…諦観の天敵だった。
「隕石降らせたり、急に大陸沈めて海にしたり、あとは…」
「…天と地がひっくり返ったやつ。
空に墜ちながら戦っただろ」
「…あれは地獄だったね」
世界どころか物理法則すら適応するそれは、言わばなんでもありだった。
「魔法はダメ、矢を降らせても無理…果ては身体強化を消してくるから本当に肉弾戦しかできなかった…のに」
近接戦闘をしようとしても…
「伊達に千年以上生きてなかったよな…徒手空拳で剣壊してくるわ、岩破壊するわで散々だった」
「あと素手の技術だけで空間を捻り壊す…とかもやってた」
人間の可動域から繰り出される〝武術〟の極み…赤子の手をひねるよりも容易く空間ごと捻じ曲げた時には絶望した。
「結局最後は殴り合いだったしねえ…」
「あいつの能力の特性上…〝ループ前〟の記憶全部持ってたのもしんどかった…」
◆◆◆
「あとあったのは…嫌悪かな」
「あー、嫌悪か…嫌悪は」
嫌悪ノ聖女…四聖女最後の一人も簡単には…というより、一番しんどかった。主に精神的な面で。
『そうかそうか、加護の略奪か。
————で、だから?』
奥の手を発動して加護を略奪しても何も構わないという態度だった。
『略奪の奥秘、ありとあらゆる祝福の剥奪なのだろう?
このままでは十数秒で俺は只人に成り下がるのだろう?
それならば簡単だ』
東洋に伝わる刀…それを携えたまま彼女は加護を発動させ
『つまるところ————奪われる速度を超える速度で〝覚醒〟すればいいだけでだろう?』
————そこからは地獄だった。
「はははッ! いいぞ、ここに来て覚醒か、ならば俺も応えるまでだ」
覚醒をポンポンポンポン繰り返して攻撃するたびに強くなるとかいう悪夢。
「命の略奪?
嗚呼好きにしろ————一つ奪われる度に二つ増やせばいいだけなのだからなァ!!」
殺した後で〝命増やせば良くね?〟とかいう謎理論で覚醒して復活してきた時は泣きたくなった。
一人だけ超次元に生きている。それが嫌悪だった。
「「————地獄だった」」
もうそれしか言いようがない地獄だった。
「…あれは酷かった、本当に酷かったよぅ…夢に出てきそう」
「身体半分融解させたのに〝覚醒して死の淵から復活すればいいだけ〟とか言って全回復してきた時は本当に逃げたくなった…」
地獄を思い出す会、なんて何の生産性もない会話をして…思い出に浸った。
◆◆◆
「本当にみんな…強かった…実際、なんで勝てたのかわからないくらいに強かった」
————プログラムコード、入力開始
————真理、故、真理
————この嫌悪を超えてみせろッッ!!
————我、神へ至らん。
————私…ッ、私が、生まれてこなければ…ッ!
————あはっあははははは、あははははははははは、全てが、何もかもが神の玩具であるというのなら貴様は何だ、我は何だ、何もかも無価値であろうがよ。この意思さえも、なにもかも、あはははは————テメエを殺す。
「たくさん、たたかった…たくさん、殺し合いをした…何回死にそうになったか、わからないほどに」
それでも勝った…勝った時のみんなの顔が思い浮かぶ。
「…雷鳴」
————信じておりますです…旦那様の元で、ずっと祈っておりますです。
「…真理」
————私だけのゆうしゃさま…いま、そば、に
「…嫌悪」
————死んじゃだめ、だめ…そんな結末は、何より耐え難い、嫌悪、だから…
「…神狼」
————向こうで待っている
「…飢餓」
————勝ってね…神様なんかに、負けちゃ嫌だよ…?
「…諦観」
————きっと、ね…わたし、ずっと…あなたに、恋を、していたの…ずっと、ずっと…
ねえ…なかないで……?
みんな、優しかった…故に殺すしかなかった。それしか勝つ方法がなかったから。
だから、私の手で倒した…だから、こんなことを想うのは間違いなんだと気付いている…気付いた上で、想わずにはいられなかった。
「みんな、元気にしてるかな…」
「…ああ、元気に、してるといいな…」
…
「なんか雫がいなくて大騒ぎというか…大暴れしてそうだけど」
「……」
雫がかつての仲間を全員殺さなければならなかった理由はいつか書きます。
この作品は、アラストールの旅を書いていたら、あんまりにも救いがなさ過ぎて仕方ないからという理由で始まりました。
ちな、アラストールの旅は人気でないと思うので書きません
書いてほしい、もしくは今のままでいいという人は評価をお願い致します!!




