十二話、家族との対話
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夏が終わる風、微かな湿気を覚え、秋を孕んだ静かな風。
神坂と書かれた表札の下にある、年代落ちのインターフォンが鳴らされる。
〝ピンポーン〟
やがて、静かな足取りが扉の前に届き…扉を開ける。
「…お入りください」
白銀の髪、愛らしい容姿、その瞳の奥に数えきれない闇を孕んだ少女…神坂雫は、来訪者…ライカの家族と、幼馴染を招いた。
「…来夏は」
「…元気に過ごしておりますよ。」
「あの、お兄ちゃんは…私たちを、なんて言っていますか」
「……らいかは……あなた方のことはなんとも言っていませんよ。
気になるなら、直接聞いてみてください」
「来夏、まだかなぁ…?」
「……まだ、と言うのが何を指しているかは分かりませんが……客間で待っていますよ」
「お互い、話し合いの場を設けている」
◆◆◆
一ヶ月ぶりの、家族。
正直、家族と言っても煩わしい、としか思えなかった。
異世界の経験でからなのか、俺は常に人間不信になっていた。
心を許しているのは神殺しとして共に過ごした仲間と……雫だけ。だから基本的に良い人、だとは思っても苦手意識がどこかにあった。
「…」
「…」
互いに沈黙、それはそうだろう、昨日の一件があったのだから、何を話せばいいか分からない。
「……ふう」
やや沈黙があり、やがて焦ったいと、雫が息を吐く。
「お互い、話し合いをするにはまだ時間が必要のようですね…」
それは事実、冤罪と、勘当、家を放り出して家具を全て捨てる……溝を作るには十分すぎることがこの短い間にあった。
「一度時間をおいて見てはいかがでしょうか」
それは妥当な選択。一度壊れた関係は治すまで時間が掛かる。
「来夏はうちで引き取ります、母の許可も得ております」
「あなた方にも色々な事情があり、はやる気持ちも分かりますが…相手の気持ちを無碍にして事を進めれば碌なことが起きないでしょう」
「そ、それはダメよ!!」
「ダメ、そんなの絶対にダメ!」
「来夏? 来夏と私ずっと一緒だよね」
「…何故でしょう」
「…今すぐ、連れて行かなければならない理由はなんですか」
「そ、それは…か、家族なんだから、一緒じゃないとおかしいじゃない」
「普通ではないことが起きている、なら家族が一時的に分かれるなど……おかしくはないことでしょう」
ああ、ダメだ…抑えよう、抑えて、今は会話することを試みよう。
「勘当する、だったか」
ぽつり、と声が漏れる……思った以上に、冷たい声が自分から出たことに驚いた。
雫に、いてもらって本当に良かった。
「ならそれで構わない…お互い好きな人生を歩めばいい」
それは本音。元々アルバイトしていた金で生活しているような状況だったし、それでも特に問題はないだろう。
「俺は…戻る気はないよ」
俺の意思、それを簡素に、簡潔に伝える。
「散々言われて、勘当だと、家の子じゃないと言われて、大切なものを全て捨てられたんだ…その上で戻れなんて言われて…誰が戻る」
戻るとしても、それは今じゃない。今であるはずがない。
「別に、一緒合わないわけじゃない…いつか、色々気持ちの整理がついたら連絡を入れるよ…それでいいだろう」
それに、半年後には分かることがある。
少なくともそれまでに戻る気はなかった。
「それに…お前らの本当の目的は…」
「ちょっと待ちなさい!」
と、そこまで伝えてから会話の割り込むように母が声を荒げた。
「親と子供が一緒にいる、それが一番正しい在り方でしょう?」
嗚呼、ダメだ…不快感が溢れ出す。
「というかいつまでも拗ねていて、恥ずかしいわよ」
その言葉は、その心情はあまりに汚濁だ。
こっちが〝本当の目的〟に気付いていないと、本当に思っているのだろうか。
「それに雫さん、あなたも来夏の冤罪が分かったら真っ先に連絡をいれるべきよね?
このことは姉さんにも言っておくからね」
ダメだ、ダメだ、ダメだ、ダメだ…気づけてしまう。
「それに子供しかいない環境っていうのも不安だわ、大人のいない環境ほど不健全な場所もないわ」
これは嘘だ、これは汚濁だ…今すぐ焼き尽くさねば、今すぐ相応の滅殺を行わなければと、腕が疼く。
「帰りたくないって言ったけれどそんな我儘が通ると思ってるの?」
「ま、ママ、それ以上は……」
「あなたは黙ってなさい!」
ヒートアップ、ヒートアップ、言葉と熱は止めどなく溢れていく。それが感情を逆撫でするものだから、加護が、加護が廻り始める。
「それにあなたのせいで私たちがどれだけ迷惑を被ったのか…少しも考えないじゃない。あなたおかしいわよ」
————ドンッッッ!!!
「————」
「————」
瞬間、場は静寂に静まり返る。
誰が静寂を齎した。誰が空間を支配した。誰が激怒し、何をした。
そして、その主が……ゆっくりと、ゆっくりと白銀の髪を揺らしながら顔をあげ
「一つ、伺ってもよろしいでしょうか」
底冷えするような怒りを宿した雫が、テーブルを殴った拳を振るわせて…言葉を紡いだ。
個々のシーン、かくの面倒でした。はい。
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