一話、日本へ
【初めましての読者様へ!】
数ある作品の中からこちらを読もうときてくださりありがとうございます。
つらい思いをした主人公が悪役令嬢に癒されて、救われて大好きになって元から相思相愛!みたいな話ですのでよろしくお願いします!
【過去作を読んでくれた読者様へ】
今回は大丈夫です。
学校は木っ端微塵になりません。
短パンニーソに剥ぎ取る妖怪も出てきません
現代の恋愛で急に巨大ロボは出しません。
子宮掻っ捌いて燻製にして飾る変態も今回は大丈夫です。
あとなんか、前作ヒロインは…なんか、はい、可哀想なことしたなと反省してます。
色々と抑えたマイルドなものになっているため、もしかしたら物足りなくなるかもしれませんが…面白く書いたはずなのでご容赦ください。
◆◆◆
世界樹の迷宮。
世界樹の内部、そしてその地下に広がる無限の世界。
その迷宮の最深部は、世界のはじまった場所に繋がっている…そんなおとぎ話があった。
「…もう少し…あと、すこし…だ」
その迷宮の、最深部に彼女————アラストール・レヴァンティアはいた。
剥き出しの岩で形作られた洞窟を進むために、壊れた右の義足を引き摺る。
「あと、少しで、世界は救われる。
ほんの少し、あと少し…」
二歩、三歩と…傷口が開く痛みに耐えながら進む。
肩を〝彼〟に支えてもらいながらも…その足取りはあまりにも弱々しい。
「————ついた」
————そこには、宝石の空が溢れていた。
厳密には、白銀に輝く泉なのだろう。
だが、その純白に透き通る泉に、それ以外の表現がわからなくなる。
「…鏡花水月、とは、よくも言ったものだよ…」
ふと、昔知人に言われた言葉を…アラストールは思い出した。
「水面には空が宿り、星を移し…溢れだす。
故に水面は空であり、同時に世界である」
そんな言葉、酷く稚拙な言葉遊びを思い出して…肩を貸してくれた〝彼〟に語りかける。
「ありがとう、らいか…私をここまで、連れてきてくれて」
「…」
らいか…来夏。
ずっと、私のそばにいてくれた異世界…〝ニホン〟から召喚された青年。
「もう、大丈夫だよ」
ふ、と手を離す。
片足は無く
片腕もなく、
片目もなく
耳は千切れた。
満身創痍…全身が包帯まみれ。だと言うのに、今はそれが心地よい。
「四聖女と、七人の厄災加護…そして、神…全ての神威を取り込んだ私が、この泉に沈めば…世界は再生される」
声に力はなく、酷く擦り切れている。
だがもう構わない…終われるのだから、この長い長い旅を…ようやく。
「だからもう…大丈夫なんだよ」
安心させたくて、微笑む。
これで全員助かる…ようやく、みんなを救える…心の底からの安堵が溢れる。
「アラストール」
らいかに声をかけられる。
彼はずっと、納得いっていなかった。
それでも、ここまでついてきてくれた…大切な相棒だ。
「君は、世界樹の泉に命を捧げて…世界が再生し、死者は蘇る…それで本当に…みんなが幸福になれると思っているのか?」
「…」
一昨日も、死なないでくれって泣きついてきた癖に。
まだ諦められないのだろう…その瞳には確かな意志がある。
「違う、こうじゃない、俺が言いたいのは、クソ」
言いたいとこが上手く言語化できない。
その癖優しくて、覚悟がある男の子…
それがあまりにも愛おしいから、
————私はそっと、抱き締めた。
そっと、怯えないように、優しく…もう半壊している義手と、残ったぼろぼろの片手で抱きしめる。
「大丈夫、大丈夫だよ、らいか…ぜんぶ、分かってるから」
「ぅ、あ、ぁ…」
ポロポロと、泣き出した。
こんな私なんかのために泣いてくれる、可愛い勇者様…
「死なないでくれ…アラストール」
「…うん、ごめん」
「生きてて、欲しいんだ…」
「ごめんね…」
「好きだ、ずっと、好きなんだ」
「わたしも、だいすき」
おっきくて、やさしい温もり。
抱き締めてくれる、確かな仲間。
こんな時だからか、以前口にした言葉を思い出した。
「神は人に寄り添う」
覚えてるかな…君と、君の世界の話をしてた時にそんなことを言ったよね。
「厄災加護も、聖女もない。
あるのは漠然とした絶望に、微かな幸福」
幸せな人が多いとは言えないけれど…神様の悪戯なんてなくて…気分で世界が滅びかけることもない…そんな世界。
「そういう世界が、見たいんだ」
君の言葉で、目的が定まった気がした。
「何かを邪神にして、滅ぼしても…それは次の邪神を探すだけ、それじゃあダメだって思えたんだ」
だから、私はこの場所で生贄になって
「神のいない、神が寄り添う世界、それを創っていくよ」
抱きしめる手を解いて…優しく突き飛ばす。
体格差があるから、負けるのは私…だから…そのまま、私は泉に落ちた。
幻想的な泉に、これから始まる最期の仕上げの…微かな寒さを覚える。
…世界は、この場所から始まった。
この場所から、世界は広がった。
この泉に捧げられたものは、世界へ広がる。
故に、泉は世界そのものと干渉ことを可能としたある種の魔道具。
ここに私が入れば、長い長い夜は、ようやく明ける。
加護を大量に取り込んだ私を…世界が飲み込む…最上の栄養素として…溶けゆく意識の中で…私は
満足して…そのまま消えた。
◆◆◆◆
そして————夏の日差しが、私の頬を照り出した。
「ん…ぅ…?」
意識が消えたはずなのに…目を覚ませばそこは不思議な森の中だった。
「…? 誰か、いる…?」
意識が何故残っているのか、何故、森の中で眠っていたのか…そんな数々の疑問より先に、〝取り戻した〟視覚が新たな疑問を運んできた。
「(男の子…? 小さい、五歳くらい…の)」
誰かの面影がある、五歳くらいの男の子が呆然と…森を眺めていた。
「ここ、は」
声が、漏れる…その声は幼い子供特有のものなのに、何故かすごく聞き覚えがある声だった。
「————俺の、故郷だ」
そんな声を漏らして、男の子は身震いをしていた。
「…………らいか…?」
「!?!?」
そんな男の子の様子が…あまりにも〝彼〟に似ていたから…ポツリとつぶやいた。
「…え、き、きみ、は…?」
男の子が困惑するように私を見つめてくる。
とても、困惑している…なんとなく、それで彼が〝来夏〟だと、私は確信に近い予感をしていた。
「アラストール…なの、か…?」
彼も私に気付いたのか、名前を呼んでくれる。ただ、その次の言葉に…私は新たな疑問を持つこととなる。
「なんで、幼くなってるんだ…?」
幼く、なってる…?
不思議に思い、自らの〝切り落とされたはずの右腕〟を見ようとして
「————若返ってる」
小さな、それこそ、らいかと同じ…五歳くらいの小さな手のひらで。
「そうだ、俺は六歳の頃、夏休みで、叔母さんの家に遊びに行って…それで、神隠しにあって、そうだ…それで、俺はあの世界に…」
困惑する私とらいか…だが、現状を答えるなら、そうとしか考えられない。
「…もしかして、ここが…〝ニホン〟…なの…?」
私は役目を終えて…相棒の青年と、異なる世界に来てしまったらしい。
読んでくださり誠にありがとうございます。
少しでも評価いただけたらとても嬉しいです、よろしくお願いします!
【世界樹の迷宮】
エルフが守っていた迷宮の最深部に入り口があった異空間の迷宮。
泉には世界中の地脈に繋がっているとされる泉がある。
作中ではその特性を利用して〝世界そのものに接続する魔道具〟として使用される。