第一話 The beginning of school life
不幸というのは、思いがけない時に自分に降りかかってくるものだ。
人の死、事故、友の裏切り。色々あるが、どれも例外なく、突然に自らの体に降りかかってくる。
そんな時でも本当に大事なのは、、、
「南翔!もう7時10分よ!早く起きなさい!!」
声が聞こえてくる。
その聞き覚えのある声は、即座に心地よい夢の空間から、俺を引き摺り下ろしてしまった。
誰が俺を起こしに来たんだ?と一瞬、布団の中で考えてしまったが、目を開き、声の出所を確認すると、その答えはすぐに理解する事ができた。
目覚めたばかりのぼやけた俺の視界には、エプロン姿で俺にそう呼びかける母の姿が写っていた。そう呼びかける母に対し俺は返答する。
「はーい!」
「ちゃんと時計見なさいよー」
母はそう言い一階のリビングに降りて行った。
折角こんなにも心地のよい夢を見ていたのに何でそんなタイミングで起こしにくるんだよ!タイミングがバカみたいによすぎだろ!と心の中で文句を言ってしまった。
だが、その眠りから解放された苛立ちは、それは仕方がない、起きるべき時間だったのだから、と心の中で己を説得し、何とか心の中に平静を保った。
早速起きて、顔を洗うために、欠伸をしながら洗面台に向かおうと家の階段を降りていると、起きたばかりの時は特に感じることのなかった、とある妙な違和感に気づいた。
いつもなら感じることのない絶対的な違和感。
「あれ?いつもなら起こしにくるはずのない母さんは、なんで今日に限って俺を起こしに来たんだ?まだ中学校を卒業してから少しも経っていないはずなのに、、、」
全くと言っていいほど俺の頭にその違和感について、思い当たる節は見当たらなかった。
その妙な違和感の正体を、顔を洗いながら、自分の脳ミソを全回転させて考える。
だが何も思い出すことができない。ずっと春休みで、ぐうたらな生活を送っていたことから、おそらく脳が働かなかったのだろう。ぐうたらな生活の中で作り上げた腐り切った脳ミソで、その違和感の正体に俺は気づく事ができず、顔は段々と洗われ洗浄されていく中、時間はただただ過ぎていった。
顔を洗い終え、リビングのテレビの前にある、ふかふかなソファーで、ゆったりと寛いでいると横に、四角の中に、絵と図形と数字が書いてある物体の存在に気づいた。カレンダーである。ふとした時にそのカレンダーに目をやると、俺はすぐにそのさっき感じた妙な違和感の正体について思い出すことができた。
[そうだった、、、!今日は心待ちにしていた、新生活の始まり!!ーー県立ーー高校の入学式だ!!]
あまりの春休みの快適さと長さに身を任せて、ぐうたらな生活を送っていたため、すっかり、ずっと楽しみにしていた高校の入学式があることを忘れていた。
時間というのは恐ろしい。こんな重要な事が間近に迫っているというのにも気付かせることもなく、只々消費させてくるのだから。
俺はそんなすっかり頭の中から消えて失せていた重要なことを思い出し、それに連鎖して更に高校のことについて思い出した。自分が今どのような状況に置かれているのかも一緒に気づくことになるのだが。
[待てよ、、、今日は入学式なんだよな?この家から駅まで10分、ーー駅からーー駅まで35分ぐらいかかるんだよな、、、そこから学校まで約7分だから52分か、、、、、、あれ?今7時20分だよな。もしかしてご飯を食べている時間なんてないんじゃないか?]
彼は直感的に感じた。
ー急がなければ、絶対に高校に間に合わない!ー
と。
どうしても初日の学校を遅刻する事は避けたい!
どう考えても遅刻しては自分に悪い印象がついてしまう!!
そう思った俺は即座に階段を駆け上がり、自分が寝ていた部屋まで舞い戻る。そして部屋の中で急いで高校の身支度を済ませ、階段をドタドタと駆け降り、玄関に向かった。
早速、遅刻しないように出発しようと、玄関で、この前中学校の卒業祝いで、母に買ってもらった、新しい靴を履いていた時、丁度リビングの方から聞き慣れている声が聞こえて来た。そう、心の中でウワサしていた、母の声である。
「ご飯いらないの?もう時間だもんね。ちゃんと入学式しっかりして、新しい高校生活頑張ってね!行ってらっしゃい南翔!」
「うん!頑張ってくる!行ってきます!」
俺は、そんな母の応援の言葉に元気よく返答し、勢いよく玄関のドアを開けて家をあとにした。
「最初からこんな調子で今後の高校生活はうまくいくのだろうか、、、だが急げばまだ間に合う可能性もある!!」
間に合う可能性に期待してニヤリと笑い、まだ着慣れていない少しブカブカなブレザーを風になびかせ、俺は斜面の高い山の下り坂を、勢いよく地面を蹴って、駅を目指した。
、、、、、、、、、、、、、、、
彼が学校に向かっている間、特にこの物語の展開が進むことはないので、簡単に彼の解説をしよう。
彼の名は、神宮南翔。
ーー県出身の新しい高校生活に期待を寄せる、今はまだ何ということもない、普通の新高校生である。ちなみに誕生日は8月8日で年齢は15歳。
そんな彼も、我々もまだ知らない。
彼が一体どのような存在で、一体これから何を成していくのかを、、、
、、、、、、、、、、、、、、、
「頑張って、、、走って来たから、、、遅刻の10分前に、、、学校に着く事が、、、できたな、、、」
ボロボロな学校の校舎の前で、息を切らしながら俺はそうつぶやく。
けど、朝ごはんを犠牲にして来たから、学校であまり元気にする活力もなくなってきてるんだけどな。と心の中で浮かべ、苦笑いをついしてしまったのだが、今はもうそんな事はクソほどどうでもいい。
とにかく俺は遅刻せずに学校に間に合ったのだ。
それが一番重要なのである。初日からの遅刻を避けるのは、今後の高校生活に支障をきたしてしまい、俺の印象がガタ落ちしてしまう可能性があったからだ。
[本当に遅刻する事なく学校に間に合ってよかった〜]
そう心の中で思い、俺はガッツポーズを決めた。
その後、クラス分けの図と校舎の見取り図、資料を見知らぬ初めての先生から受け取った。その受け取った図と校舎の案内図を見ながら、これから俺が使わせていただくことになる少しボロい校舎を歩いて、今日から過ごすことになる新しい教室へと向かった。
まあ校舎がボロボロなのは、そこそこ歴史がある、田舎の学校だからなんだけどね?
ちなみに、なぜ俺がここまで新しい高校生活や、印象にこだわっているのかというのには理由がある。
その理由とは、俺の夢が「全員が自分に好感を持ってくれるような人気者になる」事だからだ。
俺の中学生時代は、自分の印象が良く、皆からの好感度が高かった中学校生活を送れていたかと言われれば、そうではない。いやむしろ低い方に上限突破していて、絶対にそんなことはなかったと確実に言える。
そんな人気のなかった中学校生活を送っていたからこそ、俺は「人気者」になる事が夢なのだ。
俺はそんな中学校生活を送っていたが、高校は違う。いや、違うようにする。なぜなら今日から始まる高校生活は何も知らない状態から始まるもの。印象なんざいくらでも改変ができて、中学校時代と違って俺の夢である「人気者」な高校生活を送る事が(多分きっと)できるからだ!
そう今後の高校生活の妄想を膨らませていると、早速これから過ごすことになる、新しい教室の前までついた。
[この扉の先には、俺の新しい生活が待っているんだ。この教室の中にはどんな人がいるのだろう。仲良くなれるかな?いや仲良くする!たくさん話しかけよう。俺が「人気者」になるためにも、これから気を引き締めていこう。早速元気で良い印象を出す為にまず深呼吸してから、声を大きく挨拶をして教室に入るぞ!!]
そう心に息巻き、俺は深呼吸をして、心の中でこの単語を反芻する。
きっと大丈夫だ。
と。
俺は覚悟を決め、ガラガラと、新しく生活することになるボロい教室の入り口の扉を開き、その中へ足を踏み入れた。そして俺は先ほど説明したような計画通りに、
「おはようございます!!」
と元気よく挨拶した。
………………
だが、教室であるはずの、その踏み入れた地は、明らかに教室ではなかった。
見るからに自分が居たような、田舎に存在するはずのない光景が、俺の目の前には広がっていた。
明らかに高いビルの数々。
自分の大きな挨拶の声に吃驚してこちらを見ている、山のように俺の視界のうちに存在している人間達。
、、、どこからどう見ても、先程までいた田舎ではない、都会である事は一目瞭然だ。
俺は今なぜ、学校にいたはずなのにこんな場所にいるのか。ここはそもそもどこなのか。今、俺がどのような状況に置かれているのか。それらを今すぐ、この場、この混乱している状況下にて理解する事は、俺にとって、あまりにも容易にできるようなことではなかった。
初投稿の作品を最後まで閲覧いただきありがとうございます。面白いと思っていただけたならこれからも是非読んでいただけると幸いです!これからよろしくお願いします!!