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主人公は己を磨きたかった

モブに──モテてぇ…!


たまに来るんだよな。ドデカいモテてぇ欲の波が。最近ヒロインに構われまくったせいかもしれない。僕に一人の時間をください。だめ?そっか…


なにはともあれ、俺は初志貫徹をしたい。モブにモテる。モテるにはどうすれば良いか。そう、外見を磨くことだ。


俺はハーレム(?)系主人公というだけあって顔立ちは整っている方だと思う。だが、無差別にモテるほどではない。立ち振る舞いや身だしなみを磨く必要がある。


いや分かってる。それ以前にコミュニケーションを取ろうとする方が大事だってことは。でもさぁ、俺がヒロイン以外の女の子に話しかけようとすると凄まじいブーイングが撒き起こるんだよ。ヒロインから。実際にされてるわけじゃないけど。


つまり俺の理想は平等院みたいに歩いてるだけでキャーキャー言われることだ。素でそうなってる平等院はほんと何??


ただここで問題が起こった。俺はスキンケアだとかファッションだとか、身だしなみ関係に全く興味がない。露ほども、欠片も、ミリも。まぁそりゃそうだよな。興味があったらもうやってるし。うちの高校、私服登校もメイクも可だし。


そんなわけでにっちもさっちもいかねぇと、俺は近所のショッピングモールでフリースペースのソファーに座り虚空を見つめていたというわけだ。


これ一番の解決法は誰かに教えを請うことだが…俺の交友関係狭いんだよな。つららのファッションセンスは俺と同レベルだし、富麗さんは店ごと買い与えてきそうで怖いし、平等院にはなんか頼み事したくないし、小山内先生は休日出勤中だ。お疲れ様です。


「わしを思い浮かべてくれもせんとは…悲しいのう」


なぜ居る江西。


「ちょっと用があってのう。ほんの偶然じゃ」


ほんとか?


「なぜ疑うんじゃ!」


「ストーカーの前科があるからだが」


いついかなるときも視線を感じたあの恐怖忘れてねぇからな。


「で、なぜわしを脳内でスキップしたんじゃ?」


「古風な趣味してると勝手に思ってたわ。のじゃロリだし」


「まぁ言わんとすることは分かるがのう。それと、わしは平安生まれじゃ。のじゃロリというよりはロリババアじゃな」


それ自称するやついるんだ。


「そもそもロリ体型というほど幼いわけでもないがの。身長は低い方じゃが…ロリなのは我らが顧問じゃろ」


「それはそう」


にしても意外だな。江西って学校では制服を校則通り着てるし、ファッションに詳しいようにも思えないんだが…


「めっちゃ頑張ったに決まっておるじゃろ」


「めっちゃ頑張ったのか」


「ふっるい神が現代の、しかも高校生に化けねばならんのじゃぞ!?感覚を合わせるのにどれほど苦労したことか…!こういうのは暗黙の了解に近く、知らなすぎても不自然じゃが、知りすぎても不自然なのじゃ!ファッションに詳しくないおなごも勿論おることにはおる。じゃが、話さえ弾めば、他の不自然には目をつむってもらえるものじゃ。その点、ファッションは高校生から勉強し始めたとて不自然はない。付け焼き刃の知識で一番違和感がないのはファッションなのじゃ!!普段制服なのはなんも考えなくてよくて楽だからじゃ!」


「お、おう…」


熱弁に若干引いてしまったが、そんくらいこいつなりに真剣だったってことだよな。


「もちろん、好きなのは大前提じゃがな。好きこそものの上手なれ。着飾るのはいくつ年を重ねても心躍るものじゃ」


「へえ」


「相槌から興味なさがにじみ出ておるのう。そうじゃな、お主に合わせて言えば、ゲームで装備とキャラのシナジーを考える感覚に近いのじゃ。キャラが一番効果を引き出せる装備を着せる。ファッションも本体…容姿に一番合った服装やアクセサリーを付ける。装備同士のセット効果もあったりするのじゃ」


「めっちゃ分かったわ、天才?」


「ふふん、そうじゃろ。もっと褒め称えよ!」


ミステリアス美少女がドヤ顔で胸張ってる絵面面白いな。


「詳しいなら頼んで良いか?コーディネート」


「うむ、任せよ。買い物デートじゃな」


「デートって言うとつららが怒るぞ」


「あの子も難儀じゃのう」


事情を分かってくれる人間と会話すんの楽~~~~。


「さて、とはいえわしはメンズファッションには詳しくないのじゃ。ある程度応用できると見込んではいるが…お主の好みに合わせた方がやりやすいじゃろ。お主は自分で買ったりせんのか」


「親のチョイスorマネキン買い」


「それが無難じゃの。分かった、ならばまずは何件か周り、試着をして候補を決めるところからじゃな」


「一つの店じゃダメなんですか…?」


「ダメじゃ。良いと思った物が最適とは限らんじゃろ。慎重に決めることが肝心じゃ。学生は財力に限りがあるからの――」


「——あら、お二方、ごきげんよう」


例外来ちゃった。


「富麗さん、こんにちは」


「こんにちは…」


「江西さんと博人さん…あまり見ない組み合わせですが、遊びに行くところでしょうか」


「ううん…たまたま会っただけ…」


その設定貫くのか。


「部活が一緒なんだよ」


「まぁ、そうなんですの。知りませんでしたわ」


「服…分からないって言うから、コーディネートしてあげようとした…」


「あなた方なら好きな物を持っていってよろしくてよ?」


「Whats??」


「このショッピングモール、両親の所有物ですの。詳細な権利関係は複雑なのですが…ともかく、服くらいでしたらお好きなように持っていってくださいまし。代金に関してはお気になさらず」


「お気になさるよ」


「規模…おかしい…」


(江西、協力してくれ)


(む?)


本来はつららと一緒にやろうと思ってたが、以心伝心(ガチ)ができる江西が協力者としては最適だ。


題して、富麗さんに庶民の感覚を知ってもらおう作戦!!

作中一ファッションセンスがある平安時代生まれの神様

つらら→親チョイス。小さい頃は博人とお揃いの服を親にねだってた

富麗さん→たしなみとしてそれなりに知っているが専属のスタイリストに任せている

平等院→店員さんに話しかけて全身コーディネートしてもらう(完成した着こなしの美しさに店員は卒倒する)

小山内先生→中学のとき成長を見込んで大きめのサイズで買ったジャージを今もだぼだぼのまま着ている

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