主人公は夕方まで寝たい
「博人!早く起きなさいっ!博人~!」
「あと12時間寝かせて…」
「遅刻どころか1日が終わるわよ!バカなこと言ってないで起きなさいっ」
ガバッと俺の愛する布団を無情にもひっぺがしたのは佐崎つらら。俺の幼馴染み。出席番号が近く、小中高全てで席が前後だったから、自然と仲良くなった。言動に難はあるが、俺の大事な友人だ。
「今日は朝練がないから、特別に起こしに来てあげたの。感謝しなさいよね」
「やだ…ギリギリまで寝る…」
「ひ~ろ~と~っ!」
膨れっ面までかわいいんだからこの幼馴染みは手に負えない。プライドを捨てておねだりモードに入られると俺の敗北は確定する。そうなる前に大人しく起きるのが吉か。
「わーったよ。起きる、起きるから」
「ふ、ふんっ。最初からそうすれば良いのよ。アンタの汚い寝顔なんて、別に見たくないんだから!」
「じゃあ起こしに来ないでくれ」
「昨日のことで聞きたいことがあったの!根掘り葉掘り聞いてあげるんだから、覚悟しなさい!ほら、リュック背負って!行きながら話すわよ!」
「はいはい」
「博人ママ!行ってきます!」
「いてきま~」
「はぁい。つららちゃん、博人、行ってらっしゃい」
俺を起こしに来る幼馴染みに我が母は一切の疑問を持たない。というか、率先して招き入れている可能性すらある。昔から家族ぐるみの付き合いをしてるとはいえ、部屋にまで顔パスなのはどうなんすか…?息子のプライバシーがお亡くなりになってるんですけど…
「博人、ねぇ博人っ。聞いてる?」
「ん?あぁ、俺のプライバシーに想いを馳せてた」
「なにバカなこと言ってるのよ、もうっ…」
バカなことではないだろ。男子高校生の一大事だぞ。
「そんなことより昨日のあれ!なんだったのよ」
「あれ?」
「呼び出されてたやつ。また告白?」
「あぁ、まぁな」
「ちゃんと断ったんでしょうね?」
「ちゃんとってなんだよ…マァ断ったけど」
「ふふっ、なら良いのよ」
つららの満足げな笑みの理由に気付かず「良いってなんだよ!」とキレられる鈍感系主人公なら気が楽だったんだがな。十中八九俺のことが好きで、彼女がいないことに安堵する顔だ。困った。
「なら、あの女とも何もなかったのよね?」
「あの女?」
「平等院遥よ!博人を連れ去ってどっか行ったじゃない!」
そんな誘拐されたみたいな…
「一緒に本屋行った後、普通に解散したけど」
「デートしたの!?!!?」
「デートではねぇだろ」
平等院もちょうど赤本を買いたかったらしく、じゃあ一緒に行くかとなっただけだ。
実は平等院は三年だ。が、告白を振った後から先輩呼びも敬語も使ってない。というか、振られたにも関わらず一ミリもめげずに毎日話し掛けてくるような変人に払う敬意はなかった。
今年受験のはずの先輩がちょっかいを掛けてくるのは面倒を通り越して心配だったが、赤本買ってるのを見てようやく肩の荷が下りた気分だ。なんで俺は先輩に対して親みたいな気持ちになってんだ??
「あんた、私に内緒でデートなんか行ったら許さないんだからねっ!」
「なんでそんなこと気にするんだ?」
「そっ、それは…な、なんでもないわよ!」
ふんっ、と顔を背けて先へ行ってしまった。聞きたいことはちゃんと全部聞けたんかな。後になって思い出してちょっと聞きづらい気持ちにならなければ良いんだが…つららは大丈夫か。聞きづらいという感情を知らない女だ。
そして、これがモブにモテない理由その1でもある。
つららはあらかじめ俺のことを好きそうな子に「あんた、博人のこと好きなの?」とガンガン聞きに行き、場合によっては圧を掛ける。幼馴染みの立場を最大限利用すな。てかそれお前が嫌われないか?心配になる。俺ヒロインに心配掛けられまくってない??
マァそんなつららの行動が有名になった結果、「斎藤博人に惚れるとヤバい」という根も葉もある噂が流れ出した。正直ヒロインズにヤベーやつらしかいないせいでその噂に拍車が掛かってる状態だ。
つまり、モブにモテたがる→ヒロインズが妨害する→噂が広まる→噂があってもなお俺に惚れる個性的なヒロインが増える→俺がヒロインを避けようとする→モブにモテたがる…というわけだ。見事な悪循環。この図、麻薬乱用防止教室で見た気がする。保険の授業だっけ?真面目に聞いてないから忘れたわ。
すたすたと先へ行ったつららの背はもう随分遠い。流石運動部、足が速い。文化部の俺には追い付けん。
と、思っていたら。つららが急に立ち止まった。何かあったのか?
駆け寄ると顔を背けられた。耳赤いのが丸見えなんだよなぁ。
「べ、別にあんたのこと待ってたわけじゃないんだから!勘違いしないでよねっ!」
ツンデレヒロインの鑑かお前。