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学校の七不思議編 ③

 三階、部長&ルルカチーム。

「驚くほど何も起きないわ」

 ルルカが呟く。校庭から回り、三階を一通り歩いたが現象という現象は起きなかった。ただ暗いだけの学校がそこにあるのみ。

「むふふ、幽霊どもが俺の高貴さに恐れ慄いたのだ! 悪いな、何も起きなくて」

 ルルカは考えていた。『今ここで行う』か、まだ様子を見て待つか。

(あの一年……何しに来たのよ。怪奇研究部員だけだと思っていたのに。おかげで計画がだいぶ狂ったわ。どうやって円城寺美玲に接触しようかしら、美玲に接触する為に怪奇研究部に入った、目的のために。邪魔が入らないようにしたかったのに予定になかったあずきの登場って……)

「ねぇ、一応確認だけど『ちゃんとわかってる』のよね? あれで納得したでしょ?」

「うん、バッチし! あずきに関しては何もしてないぞ。勝手に向こうが来ただけだ。で、それが何か問題でもあるのか?」

「それは……」

 闇の中、二人きりの会話。さて七不思議も検証し終え、戻ろうかと一息ついたその時だった。トタトタトタ後ろから誰かが着いてきている。

「部員の誰かかしら。みんなもう終わってるのね」

 部長が振り返り確認する。すると突然ルルカの手を引っ張り、走り出した。

「いや違うっ、あれは……!」

「こ、コラ、待ちなさいっ! こんな夜に何をしてるんですか!」

 校長先生だ、今回の七不思議検証も学校側に許可を取っていない。

「ちょっと無断侵入じゃない! 何してんのよ!」

「いやだって、言ったら絶対ダメって言われるじゃん。俺たち共犯な? な?」

 家守(ヤモリ)校長。長らく学校の教員を務めているベテランだ。歳をとっているため巻くのは簡単だろう。そう思って廊下を全速力で走ったがダメだった。




「い、今……放送で……」

 美玲&純チームの二人は震え上がっていた。何故ならこの放送の内容がこれだからだ。

《ザッ……怪奇研究部の皆さん。校長の家守です。ザザッ……勝手に入ったことは知っています。至急職員室まで集まって下さいね。繰り返します……》

 続いてまた別の放送が流れる。

《あー、あー……ヤッホー!……すまん。バレちった! ま、そうゆーことだからっ! レッツゴーレッツゴー!!》

「部長。こんな時に、何で……そんなテンションで……」

「なーんかだんだんイラついて来たわ。俺、今物凄くアイツぶん殴りたい」

 しかし、それとは別に違う問題もあった。

「職員室行くなら私たち、さっき来た道戻らなきゃね。あの幽霊がいたところ」

「あっマジか。まぁ、もしなんかあったらその時は……」

 だがその思いは杞憂に終わる。教室から出て階段を下り、角を曲がれば先程のナニかを遮断した結界がある。不運な事に結界は職員室を通り過ぎてから張った為、職員室に行くには自ずと接触しなければならない。しかし、問題の廊下へ行くとそこには何も居なかった。

「あれっ、いない?!」

「結界だけ残って……誰か他のやつが祓った……のか?」




 職員室。そこでは校長が仁王立ちして待っていた。

「全く皆さんは……話は聞きました。しかしねぇ、いくら何でもねぇ。学校に忍び込んだ生徒は見た事がありませんよ!」

 良かったな、今日見れて。ボソッと部長が呟いたのを美玲は聞き逃さなかった。幸いにも校長は聞いてない。

「しっかりと反省して下さい。罰として反省文原稿用紙四枚です! 一週間以内に持って来て下さい」

 こうして強制的に学校の七不思議検証は終わった、ほとんどの七不思議を検証する事無く。それにしてもあの幽霊のようなものは何だったのか美玲の心に引っかかっていた。




「ふう。何をしでかすか分かったもんじゃない」

 子供たちを見送った後、校長はため息を吐いた。本来ならばいるはずのない生徒たち。困ったように校長は一人の少年に話しかけた。

「今回は助かりましたが、次はこう上手くはいきませんよ。それにしても、あの幽霊は私の友人でもありました」

 家守が切なそうに語り出す。学校の歴史は古い。戦前からこの場には学校が建っていた。時代の流れによって建て替えはしたものの、思い出は残る。あの幽霊は戦時中の教師の霊だった。生徒思いの良い教師だったが徴兵され、戦地で亡くなった。それからというものの、夜な夜な霊として学校に現れるようになったのだ。初めこそは良かった。意思疎通が出来て害もなかった為放置していたが、時間の流れで生前の記憶が薄れていき、とうとう霊体は消えた。しかし、現代になってから『記憶』のみ残ってまた学校に現れ始めたのだ。記憶の存在となってからは意思疎通も不可能だった。

「そこで君に除霊を依頼したという訳ですが、まさか怪奇研究部の部員まで来るとは……」

「まぁまぁ、それは良いじゃないか。結果的に依頼は達成した。面白いものも見れたし」

 あと除霊はその場から追い出すだけで、祓うことじゃない。これは浄霊(じょうれい)だ。と付け足す少年。

「面白いもの……それは交換留学生の佐々木純さんの事でしょうか?」

「あぁ。俺があの霊を見つけた頃には既に結界の内側にいた。やったのは純だろうな。佐々木一族は霊能業界きっての結界術師の家元だ」

「私は何だか不安でなりません」

 フハハハハっ! と笑いのける少年。

「不安とは何だ! 俺が純と学校で好き勝手やるのが怖いのか? それとも……」


ーー何も知らない純に祓われるのが怖いのか?ーー


 その言葉に家守はハッとした。確かに彼と交換留学生がこれからタッグを組み学校で好き勝手されるのも怖いが、何より怖いのはそれだった。彼は笑いながら続ける。

「なぁ、ヤモリの妖怪の家守校長。安心しろ、純に祓われるなんてことは一生ない。さっきの結界を見て分かったがあいつは俺より弱い。第一干からびていたお前を妖怪にして生を与えたのは俺だろ? もともと俺の加護がついてる」

「それは何だか気持ち悪いです」

「なっ?! 光栄に思え!」

 ヤモリの妖怪。八十年ほど前に妖怪になってからずっと校長をやり続けてきた。老人のまま見た目が変わらないので、怪しまれないよう校長は表向き代替わりしながらやっていたが、それが校長室の肖像画は同じ顔という七不思議になったのだろう。そもそも同じ人物なので間違ってはいない。

「はぁ……ともかく、今回は助かりました。さぁ、もう帰りましょう。明日も学校はありますからね。袂紳(めいしん)様」

 こちらを振り返らず、ひらひらと手を振り校門を後にする。家守の命の恩人であり、今は生徒でもある彼は死と転生を繰り返している。




 翌朝【背筋も凍るっ?! 恐怖! 怪奇研究部と深夜の学校でお説教タイム!!】という学校新聞の記事が大々的に報じられた。怪奇研究部員を見てクスッと笑う上級生、ドン引きするクラスメイトなどの視線が刺さった美玲。

「あ、あ、あずきちゃーーーん! ご勘弁を!!」

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