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青崎編 ①

 一方青崎家では混乱が広がっていた。光一が目の前に座る男性に言う。

「その話、本当なの!?」

「もう決心いたしました。私は妻と離婚する考えです」

 光一が声にならない悲鳴をあげてひっくり返る。それを純平が横目で見る。

(今日は真っ直ぐ帰ってきてって、離婚の知らせかよ)

 目の前の男の名前は青崎豊(ゆたか)。旧姓三上。青崎家に婿入りした一般家庭の人間だ。一旦豊を退室させ、光一と純平、二人で話し出した。

「豊くんは僕のいとこのお婿さんなんだけど、前から夫婦仲悪かったじゃん」

「離婚は良いんだが問題は親権ってとこか」

「叔母さん絶対譲るつもりないよ。僕は子供の意見を尊重して欲しいと思うけどね」




 カラクリ屋敷から帰った純と颯斗を待ち構えていたのは意外な人物だった。青崎家の内部でも霊能力が高いとされている青年。

青葉(あおば)、お前何の用で本家に来た」

「颯斗、純、久しぶりだな。親が離婚するんで当主様に挨拶に来ただけだ」

「そうか、じゃあまたな……って、離婚!?」

 しれっと明かされた重大な知らせに一瞬聞き逃した純。青葉は再従兄弟(はとこ)に当たる高校三年生の青年だ。

「ずっと前からこうなると思っていた」

 すると奥から老婦人が歩いてくる。颯斗と純をみて睨みつける。

「青葉さん、この二人に構ってないで行きますわよ」

 青葉は二人に軽く会釈すると黙って老婦人についていった。颯斗は怒り心頭だった。

「あのババア、いつ見ても嫌味なババアだぜ。誰の家だと思ってんだ」

「あのババア確か、青葉のばあちゃんで前当主の弟夫人だったな」

 現当主が前当主の息子、青崎光一であり、あの老婦人は当主の叔母ということになる。老婦人は自分たちこそ本当の当主だと信じて疑わない為、非常に仲が悪い。




 老婦人、青崎栄子(えいこ)を呼びつけた純平。栄子の話を聞く。

「前々からあの男には愛想を尽かしていたのですよ。霊能力を全く分からないのに私たちに口答えばかり。挙句、娘を県外の全寮制の学校に通わせるなんて。青崎の女として教育すべき事がまだまだありましたのに」

 一通り話を聞き終え、今後は青葉を呼ぶ。

「あのババア長ったらしくペラペラ喋ってたよ。てか大学決めた? 何したいとかあるの?」

「いえ、特には。お祖母様は大学に行かず、青崎で霊能者になることを望んでいるようです。おこがましい話ですが、ゆくゆくは私を当主の座につかせたいようです」

 青崎では次期当主が決まってない。本来なら当主の長男である颯斗が継ぐのが望ましいが、栄子がそれを渋っている。自分の孫を候補に捩じ込んだ。

「ババアの話は無視して、お前はどうしたいんだ」

 青葉は少し考え込んで話した。

「ただひたすら袂紳様に仕えるよう教えられてきました。自分の意見は……ありません」




「面倒なことになったなぁ。あいつらこれを機に次期当主決めるつもりだぞ」

 光一に話を振る。「なんで?」と返ってきて純平はため息をついた。

「仮に青葉が父親についていくことになれば次期当主は颯斗にほぼ決定。逆に残るってんなら本格的に青葉と競うことになるぞ」

「それを望んでるんだろなぁ、栄子叔母さんは。僕の時だって酷かったよー」

(お前の性格のせいだろ!)

 と、叫びたいのは我慢して頭の痛い話に戻る。

「こりゃ荒れるぞ」




 暗い夜の闇、青葉と純平は栄子の部屋で話をしていた。その部屋には一人の女性がいる。彼女が話し出した。

「袂紳様は本当は私の子になるはずだったのです。それなのにあの者たちは……あぁ、そうだわ。あの者たちが何かしたに違いありません」

「申し訳ありません。母はとっくの昔に壊れてしまったので」

 青葉が止める。異常に当主の座に執着する栄子に、ついに娘がおかしくなってしまったのだ。娘は産んでもない他人の子を自分の子だと言い張るようになったのだ。

「父が離婚を決意したのも母のことです。母は祖母に袂紳様を産まなかったから当主になれなかったのだと責めました。そして、母は何らかの術によって息子を奪われたと錯覚しているのです」

 そして栄子が部屋に入ってきた。

「お待たせして申し訳ありませんわ」

「なぜここまでして当主になりたいんだ」

 娘をこんな状態にしてまで、と言いかけたが飲み込んだ。栄子はにんまりと微笑み、言った。

「本来なるはずだった座に戻るだけですわ」




 三十五年ほど前、当時の当主夫妻が死んだ。前当主である曽祖父、昂明(こうめい)が当主の座に戻り、まだ幼かった光一が大人になるまでの時間稼ぎをした。案の定それに反対したのは死んだ当主の弟夫妻、栄子たちだった。

「お義父さま、当主が死んだのであれば弟である夫が引き継ぐべきですわ」

「儂は貴様らに当主の座を与えるつもりはない」

 それから仲は険悪になり、とうとう屋敷を追い出された栄子たちは何も言わなくなったが、最近になりまたしゃしゃり出てきたのだ。

「当然でしょう、お義父さまはもうすぐ寿命がきますし、肝心の跡取りは霊能力も使えないというじゃありませんか。そうならば青葉しか居ません」

 不気味な笑みを浮かべる諒子。目を下に逸らし、何も言わない青葉。

(そろそろこの家族はヤバくなってきたぞー)

 それを廊下で聞いてしまった人がいた。

「霊能力が……使えない?」

 その人物こそ、当の本人である颯斗だった。




 それから部屋に戻った颯斗は純にすぐこのことを報告した。

「ってな訳だ。どう思う?」

「いやどうって言われてもなぁ。実際使ってるだろ、霊能力。またババアの虚言だよ」

「ちょっと気になるけど、あのババアだからな」

 その日は話は終わり、眠りにつく。

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