弓道部編 ②
嫌な気配を残しつつ、大会当日となってしまった。部長以外の部員たちは応援席にいる。静かで厳格な雰囲気の中、大会は始まろうとしていた。すると他校の生徒が佐久間に近づいた。
「万年予選落ちの緑沢中学の皆さんじゃないですか~。あれ? 今年は山中がいませんねぇ」
応援席の美玲たちは皆静かになった。沸々と怒りが湧いてくる。
「なんだあいつ! ムカつく!」
一番に声を上げたのは颯斗だった。それに続いて山中が爆発した。
「あいつマジでムカつくやつなんすよ! 同じ二年の後藤ってんですけど毎回毎回ああやって! 佐久間部長も怒らないから! 大体ああいうのって同じ中学の奴が注意しなきゃダメでしょ!」
応援席で喚いていると後藤がこちらに気がつき、山中に手を振る。山中はメラメラと燃えていた。
「先輩たち! こんなやつ、けちょんけちょんにしてやって下さいよ!」
「「おー!」」
佐久間は呆れたように、部長は笑顔で答えた。不敵に後藤が笑う。
「ふっ……どうせ誰も勝てやしないのに」
いよいよ佐久間の出番になった。皆が期待している中、佐久間の矢は中らなかった。それも大きく弧を描いて。
「うーん……」
後藤がニヤニヤと笑っている。
(中るわけがないだろ、だって俺には味方がいるんだから)
審判たちも不思議に思っていた。
「今の曲がり方、何かおかしかったような」
「風……でしたかね?」
一方応援席には一人の少年がいた。少年は真剣な目で矢のみを見つめている。
「失敗しちゃ……ダメ。頑張らなきゃ」
一年生が次の矢を放とうとしたとき、少年がそれに合わせて黒い煙の塊を矢にぶつけた。矢は軌道を逸らされる。
「すみません……」
小声で一年生が謝る。それに佐久間が「良いってことよー」と返す。続いて部長の番になった。少年は先程同様、黒い塊を手元に出す。矢が放たれる瞬間、黒い塊も矢に向かって突撃……しなかった。控えていた後藤の表情が変わる。
(何やってんだ、太一郎! まぁいい、二回失敗してるんだ。あいつの能力でもう一度失敗させれば)
しかし、それ以降緑沢中学が失敗することはなかった。
(な、何やってんだ! あいつ)
ふと少年……太一郎の方を見ると、先程山中の隣にいた緑沢の男子生徒が太一郎を引き連れ、応援席を後にしていた。
佐久間が失敗したときのこと、応援席ではこんなやり取りがあった。
「おい、今の見たか」
「あぁ、階段に残っていた呪いの痕跡と同じやつだった。この場に術者がいるぞ」
颯斗と純が何かに気づいたようだった。二度目の失敗の際、黒い塊が放たれた場所を確認し、少年の元に颯斗が移動した。
「おい、お前。ちょっとこい」
「あ、あっ、えっと……」
人のいない会場の裏まで行く。後から純が続き、少年に詰め寄る。
「お前名前は?」
「あっ、ひっ! 比米太一郎小学四年……」
「お前、自分が何やってんのか分かってんのか!」
颯斗の剣幕に太一郎場は泣き出す。純が無言で颯斗の肩を叩いた。
「はぁ……後は任せる。俺はこいつに命令したやつを探す。まぁほぼ分かってるがな」
「ご、ごめんなさい!」
太一郎が泣きながら謝った。ことの全てを説明し出す。
「命令されたんだ、後藤のお兄ちゃんに……」
太一郎には昔から不思議な力があった。望んだことが叶うのだ。それも不幸なことのみ。小学三年生から同じクラスの後藤にいじめられるようになった。いじめはエスカレートし、とうとうこう願ってしまった。
「後藤がいなくなればいいのに」
願いは叶わなかったがその代わり後藤は車にはねられ、大怪我を負った。当分入院生活を余儀なくされ、学校では平和に過ごしていた。だが後藤の兄が小学校にやってきて太一郎は呼び出された。
「比米くんって君? うちの弟が変なこと言うんだよね」
比米に背中を押されて道路に出た。真っ黒い比米が病院にも付いてくる。
「ってさ。馬鹿げてるよね。でも君には不思議な力があるんじゃない?」
「ご、ごめんなさい!」
「あれ? カマかけただけだったのに。謝るってことは、自分が悪いことしたって自覚あるんだ? なに、怒ってないよ。ただその力でやってほしいことがあるんだ」
それから太一郎は後藤の大会のたびに黒い力を使い、後藤に有利に動くように調整をしていた。今回も事前に山中を階段から落とすよう言われていたのだ。
「本当にごめんなさい……」
「酷い話だな。でもな、お前の使っているその力は良い力じゃない。使い方を間違えればお前の命が無くなるんだ」
黒い力……それは呪いの力だ。




