わがやの別荘まで行ってこい~決着
帝国側から送りこまれた「所属不明の賊共」はダンジョンコアが余さず喰らい尽くしてやった。
「だから、我々も同じように惚けてやればいい。
サウスティアにやってきた賊? さぁ、一体なんのことでございましょう? と」
ここで狩る側と狩られる側、立場が逆転する。
「さて。
秘密裏に送り込んだはずの部隊が、そのまま消息不明となりました。
クロスティアという重要地域で消えた兵について、彼らはこれを、どうとらえるべきでしょうか?」
彼らを全滅させたのは果たして魔王国か、クロスティアか、ダンジョンか?
あるいはそれらが手を組んだか?
見えない敵、対策が打てない、だが開戦の火ぶたを切ってしまったのは彼らである。
「敵の心に、一握りの疑惑や恐怖があるならば。
有効たりえる戦術の一つは、沈黙です。
その疑惑を、恐怖を、じっくりと熟成させてやれば良い」
「「………」」
敵に手を出した以上は、敵もまた、同じく手を出し返して来るのは必定。
それくらいの頭は回る彼らであると願いたい。
「もちろん、捕虜を有効活用してもいいのですが。
尋問したり、切り刻んで毎日少しずつ帝都へと送ったりは、単純に我々の手間がかかります。
こちらも今は色々と忙しいので、手が空くまでは放置しましょうという提案です。
だいたい半年か一年くらいでの決着を想定しています」
ダンジョンコアは理論上は数年くらいは余裕で「保存」できるらしいが、その保証は一切無い。
だから、一年くらいで返却したいと思っている。
「なので、こちらもまた『別荘で倒した帝国兵』たちとは別の交渉材料として、まだ札は伏せたまま手元におくというのはいかがでしょうか?
サウスティアやクロスティアの利益になりそうな時期と方法で、使いましょう。
もちろん、札を『破棄』して、無かったことにするのも視野に含めて」
そんなおれの提案に、ソニアさんと町長さんがそれぞれに賛成した。
「いいわねぇ。
どう切り刻んでやろうかと思ったけれど、そういう話なら、まだ様子見でもいいわ」
「…一部、賛同しかねる部分もあったけど、私も様子見という案には賛成だよ。
アルジィ君の言う通り、帝国兵の件と足並みをそろえる必要もありそうだしね」
「では『帝国との交渉』はお任せします。
…それとは別に、お願いというか、見逃して頂きたいお話が」
「え゛っ。なんだい?」
顔を引きつらせた町長さんと、期待の目を向けてきたソニアさんに、おれは告げる。
「謎の賊共の飼い主に、こちらも謎の魔物として、一度、ご挨拶しておこうと思います」
「あれっ!? もう敵の正体まで突き止めたのかい!?」
「いいえ、まだです。
ただ、もうじき、付けておいたおいた鈴が彼らの家で鳴りそうなので」
いまタコの足は七本。
西へと帰った斥候分は解呪済みだが、もう一本が東へと向かっている。
「…いやぁ、さすがにね……私も我慢の限界でして……フフ」
マーキングした帰還中のその斥候は……帝国内のどの領都へ向かうのかが、ほぼ確定した。
「邪神のことも、勇者ことも、まったく納得できてないのに……
……それが、その上、サウスティアの街を、略奪?
いやぁ、ハハハ……
…うちのダンジョンを素通りして……大した、度胸ですよ、ねぇ……!!」
「「………」」
怒りで頭がおかしくなりそうだ。
だが……怒りに任せてできないことは、ちゃんと分かって……いる、はずだ。
「…軽率な行動はサウスティアにご迷惑をかけることは承知してます。
それでも、賊共には私からせめて……けじめとして?
今後とも末永くお付き合い頂けるようにと、軽いご挨拶と自己紹介を……
…なので、お二人とも。
これについては何も見てない、知らないことにして頂けますか?」
そう、今後とも。
末永く、ずっと、長ぁく、お付き合い頂けるように……
「…ダンジョンの奥を覗いた以上は、ダンジョンもまたあなたを覗いていますよ? と。
これから始まる私達の遊びの、ルール説明とでも言ったところでしょうか? フフ……」
「いいわ!! ガツンとかましてきなさい!!」
「…本当に、あいさつだけ、だよね?」
「…ええ、まずは、挨拶から」
こうして町長邸で行われた反省会と今後の打ち合わせはお開きとなり、臨時結成された『お前らの望む邪神を用意してやるから待ってろ委員会』もここで正式に、解散となったのだった。
◆ ◆ ◆
あの場で町長夫妻には言わなかったが、納得していないのはおれだけではなく、タコもだった。
つまり最後のあれは、タコからのリクエストでもある。
別荘の作成こそ主導で関わっていたタコだったのだが、タコ曰く「見せ場はすべて持っていかれた」という主張だった。
具体的には、別荘に集まって来たマッシュルーマーはアテナがほぼ一人で一掃。
別荘にたどり着いた帝国兵は、おれの考えた「最初の罠」で全滅。
せっかくの念願の別荘だったのに(※おまえの別荘ではない)。
なのにタコとしては消化不良も甚だしい終わり方になってしまったという。
それでもおれとしては、むしろおまえこそが縦横無尽の活躍だったと、タコに感謝していた。
別荘の件といい、東西から来た賊の索敵・追跡といい、タコなしでは成功しなかった。
そんな功労者であるタコが納得できないと主張するからこそ、なおさら彼の要望は叶えてあげるべきなので……
タコは巨大ヒヨコのクーンの背に乗って、東の空へと飛び立っていった。
あまりやり過ぎないように、挨拶だけだぞと何度も念を押しておいた上で。
別荘の方で迎撃した帝国兵については、結局、前回のダンジョン調査隊と同じような流れで帝国へ返還することになった。
クロスティア都市長と帝国第四皇女の間でかなり熾烈な戦いが繰り広げられたとは町長談。
この際だから帝都にもっとふっかけてやれという腹づもりの都市長に対し、第四皇女は「そういう交渉事ができるダンジョンマスターだとは思わせない方が良い」と、おれを引き合いに出しつつ応戦。
結果、前回と同様に「団長だけは金貨百枚で蘇生」というお値段すえおき価格となった。
前回と少し違うのは、蘇生費用の請求先は「帝国」だったこと。
失われる金貨百枚の出どころはすべて「血税」だ。
だからこそ第四皇女は必死になって、無駄な出費をおさえたのである。
帝国の民は、第四皇女に感謝した方が良いと思う。
魔王国の方は、あちらの使者が一度、報告を持ち帰ることになった。
謝罪費用の金貨十三万枚──あまりに多すぎるので千枚くらいまで値切る予定のそれは、どちらにせよ分割払いとなるだろう。
そもそもそんな大金は通常、帳簿の上だけで動く額であって、貨幣で直接やりとするようなものではない。
それでも捕虜については、支払い前からさっさと彼らに押し付けてお持ち帰り頂くことにした。
ダンジョンコア任せでおれの負担になるわけではないのだけれど……おれの「心労」にはなるわけだから、さっさと手元からリリースしてしまいたかった。
こうしてひとまず、一連の騒動には決着がついた。
「ものすごく大変だったという疲労感のわりには、ほとんどダンジョンコアと人任せで、あんまり実感がわかないのだけれど」
「そんなことないよ。
いろんな計画を立てたのはアルジィなんだから、もっと喜んで良いと思うよ?」
モルフェだけでなく、ティアも「良かったです」と言ってくれたが、彼女自身もまた当事者だったという実感はあまり無さそうだった。
アテナに至ってはほぼ他人事、終始、まったくの平常運転だった。
疲れた時は、アテナを見れば変な安心感(?)が得られて良かったくらいである。
そんな中で、この決着を首を長くして待ち続け、ものすごく喜んだ者たちがいた。
それは「冒険者たち」だった。
彼らはなぜか、サウスティアの住民以上に大盛り上がりだった。
いつもの酒場兼宿屋ではサウスティアの住民たちと冒険者たちが入り混じり、祝勝会みたいなものが始まっていた。
…良いのか、それで?
何が起こったのか、ちゃんと分かってるのか?
ある意味、帝国が、邪神に、敗北したんだぞ?
そんなに祝っちゃって大丈夫なのか?
「あいつらはそんなにも『ティアちゃんのドキドキ勇者タイム』の再開を待ち望んでいたのか?」
「それだけじゃないと思うよ?」
「…そうなの?」
「そうだよ」
では一体、何がそんなにうれしいのかとおれが問えば、「…ヒミツ!」と言って笑うモルフェ。
……あんまり彼らがうれしそうにしていたものだから。
なんとなく、その酒宴の会場に彼らお待ちかねの「勇者ティア」を投入してみた。
それが間違いだった。
「勇者ティアだ!?」
「ティアちゃんだ!!」
「ティアちゃんが来たぞ!!」
「えっ、わっ、わっ!?」
あっという間に冒険者たちに取り囲まれて、胴上げされてしまうティア。
…ティアの方は驚いてはいるもののわりと冷静、それよりも、彼女にしがみついている蛇のソリューの方は必死である。
そして………終わらない胴上げ。
うん、完全におれの判断ミスだった。
「てめぇら、いい加減にしろ!!」
「「…ダンジョンマスター!?」」
「ダンジョンマスターだ!!」
「ダンジョンマスターまで来たぞ!!」
せまり来る冒険者どもの肩や背中を踏み蹴って、跳躍してティアを回収、そのまま抱いて走り去る。
「…すまん、ティア!」
「……楽しい、です!」
「愚か者めが!! はやく、どうにかせよ!!」
なんだか喜んでいるティアと、すごく怒っているソリュー。
そして追いかけてくる冒険者たち。
「ダンジョンマスターを捕まえろ!!」
「「おう!!」」
「クソッ、さすがに手がふさがってると、やりづれぇ……!!」
ちょっとおれ一人では限界か? と助けを求めてモルフェの方を見てみれば……腹を抱えて爆笑、だと……!?
同じく大はしゃぎするティアを抱えたまま、おれは必死にそのまま走り続けて……
…なんだかそういう感じの「村の奇祭」みたいだなぁ、なんて思いながら。
冒険者たちを引きつれながら、ダンジョンまで、駆け抜けることになってしまったのだった。




