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わがやの別荘まで行ってこい~延長戦という名の本戦(後編)

 東と西からやって来た軍勢を、それぞれ「偽サウスティアの街」へとおびき寄せて、街ごと崩落させて撃滅しました。

 そんな衝撃音声を、町長夫妻に「結果報告」としてお聞かせした。


 あまりの結末に、すっかり血の気の引いた顔の町長さんと、驚きというより(あき)れ顔のソニアさんがそれぞれの感想を述べた。


「……こっちの方が、邪神の祭壇よりもずっと大ごとじゃないか……」

「なにしに来たのよ、こいつら?」


 ですよね?



 うっかり邪神の祭壇とか作って遊んでいるうちに、ある意味、本命がやってきてサウスティアは滅びましたではシャレにならない。


 遊びを計画・主導してしまった罪悪感(?)のようなものもあって、こっちの賊共の件は、何としてでもおれの手でけりをつけなければならないと思ったのである。


 町長さんが頭を押さえてうなだれた。


「…あー、えっと、うん……そうか、それで最初に結論から言ってくれたのか……

 …また街を救ってくれてありがとう……でも、どうして、こんな……」


「ほらほら、しっかりしてメイヤー! 大丈夫、私がついてるから!」


 町長さんの背中をさするソニアさん。


 おれが町長さんのような立場であったなら、東西の敵を前に、きっと胃に穴のあくような気分だろう。

 おれだって内心は、いざとなったらダンジョンコアの魔力を全部ここで使い切る覚悟で、ハラハラしながら迎撃に(のぞ)んだのも事実である。


 まだ復活できない町長さんの代わりに、おれがもう少ししゃべってみる。


「…彼らが攻め込んで来た理由について、私からの見解を述べても?」


「…聞かせてくれるかい?」


 見解と言っても、ある程度は予想がつくであろう話だった。


「まず西。

 私が魔王国側の立場の者だったら。

 一応は敵対国である帝国側の動向には常に目を光らせていることでしょう。

 そんな中で、帝国の軍が国境付近にやってきて、長期滞在。

 となれば、対抗できる戦力を魔王国側からも送り込むのは必然です」


「た、たしかにそうだね」


 国境付近まで進軍した敵に対して、無反応なままでいてみろ。

 (すき)だらけだし、じゃあ、ちょっと攻め込んじゃう? みたいな流れにだってなりかねない。


「あちらの事情は分かりませんが、あの音声を聞けば、どんな集団なのかは分かります。

 あいさつ代わりか、我慢できなくなったのか、なんにせよ敵国への『軽い襲撃』くらいのつもりだったのでしょう。

 言い分としては『おまえらが先に軍を寄せてきたんだろうが!』といった所でしょうか?」


 もちろん、襲われる側はとても容認できる話では無いが。


 おれの見解に、町長夫妻もうなずいた。

 そのままおれは、続きを話す。


「その一方で、東側。こちらの方はもっと分かりやすいです」


「そうなのかい?」

「あら? ふつう逆じゃないの?」


 一見すると「味方であるはずの帝国」が、(ぞく)を送ってきたわけだけど……


「いいえ、そもそも今回のサウスティアへの派兵は、クロスティア地方に対する言いがかりみたいなものですよね?

 クロスティアを手に入れたいのか、勢いを()いでおきたいのか。

 なんにせよその目的に向かって、おし進めていく計画があったのでしょう」


 勇者だ、邪神だと言ってはいたけど、表向きの理由など何でも良かった。

 そしてわざわざサウスティアにまで「進軍」して来た。


「とはいえ、帝国から見れば辺境の地であるサウスティアまで軍を進めるには、結構な費用がかかります」


 別に戦わなかったとしても、糧秣(りょうまつ)や進軍経路確保、兵士や兵器の維持費、等々。

 軍に限らず、大人数が移動するだけでもそれなりのコストが発生する。


「それが十日以上ともなれば、ものすごい金額になるでしょう。

 さらに往復費用も含めて、それだけの金をかけておいて、まるで成果が上がらないなんて許されない。

 ならば……テコ入れが必要だ」


 もともとが言いがかり。火のない所に煙を立てようとしているのだ。

 火付きが悪けりゃ、追加で火種を投げ込んでやればいい。


「そこであの『別動隊』。

 彼らが賊としてサウスティアの街を襲って、あとは臨機応変に。

 それらと協力してサウスティアの街を滅ぼしても良い。

 あるいは撃退してサウスティアに恩を売っても良い」


 帝国軍がサウスティアにダラダラと滞在しなければ彼らの出番は無かったのかもしれない。

 場合によっては、あの軍を帝都へと引かせるための口実づくりの可能性もある。


「いずれにせよあの音声を聞く限りは、最初からサウスティアの街へ攻め込む算段があったのしょう」


 サウスティア、そしてクロスティアへの打撃なり支配力なりで成果が上がれば、もう何でも良かった。



「もう勇者も邪神も関係ない。

 とにかく成果を上げたかった、といったところでしょうか」



 そんなおれの見解に、ソニアさんがピュゥと口笛を鳴らした。


「聞いたわね、ソーニャ!

 これぐらい腹黒くないと領主なんてなれないのよ!? 見習いなさい!」


「は、はいっ」

「それは現町長としては複雑な心境だなあ」


 おれもです、町長さん。

 褒めてもらった(?)のは分かるんだけど……


 それとソニアさんは、どうやらここが街から「領」になることを見すえて、ソーニャさんを(きた)えたいらしい。



「それで? どうするの、アルジィ君?」


 ヤル気まんまんのソニアさんに、おれは答える。



「実は、魔王国の方とはもう、話がついているんです」

「「えっ」」



 先ほど再生した音声、あの賊共を全滅させたあとの、魔王国側の動きは速かった。


「偽サウスティアの街周辺に彼らはすぐに『交渉団』を送り込んできて、こちらとの接触を試みてきました」


 そうなると、それを無視し続けてさらに軍とか送り込まれると迷惑だ。

 仕方がないので、おれもすぐに対応した。


「その結果、彼らはまず、あの録音音声を『金貨十三万枚で買い取らせて欲しい』と言ってきまして」

「「!?」」


 おれの前世の感覚で千三百億円くらい? ちょっと意味の分からない金額である。


「ああ、ちなみに街に攻め込んで来た賊の人数が百三十名です」


 つまり、一人あたり金貨千枚。

 いつぞやのダンジョン調査隊へふっかけた嫌がらせ価格の、さらに十倍。

 捕虜一人一人に支払うには到底(とうてい)、ありえない金額だ。


 しかも捕虜引き渡しのお金ではなく、録音石の買い取り代金として。

 つまりは口止め料? 彼らの部隊のやらかしを、この金で無かったことにして欲しいという交渉だ。


 どうやらあの交渉役の参謀さんは、それをそのまま「罰金」としてあの賊達に課すんじゃないのか? という雰囲気だった。

 それくらいに彼は激怒していた。


「それとは別に、捕虜引き渡しや賠償金額の交渉を行いたいと言ってきたのですが」

「えっ、賠償金はまた別なのかい!?」


「はい、それでこの交渉、私が『ダンジョンマスターとして』受けてしまって良いでしょうか?」


 サウスティアでもクロスティアでもなく、おれ個人として受けたいと町長さんに申し出る。


「それは、どうしてだい?」


「私が魔王さんに借りがあるからです。個人的な事情で、すみません」


 おれが今、ダンジョンマスターでいるのは、魔王さんからもらったダンジョンコアのおかげである。


 その礼というか、義理というか。

 今回の件で帳消し(チャラ)にしようと思っている。


「魔王と個人的な借りって、すごい言葉ね?」

「……うん。私としても、大事(おおごと)にしないでくれる分には、賛成するよ?」


 魔王国側もこの件を大事にしたくは無さそうだったので、このまま幕引きにしたいと思う。

 それに、魔王国と帝国の両方を同時に敵に回すのは良くないだろう。


「はい。

 なので金貨十三万枚も、千枚くらいまで減額したうえで、そのまま手打ちに。

 それで半分は、町長さんに──」


「やめてよ!? いらないよ、そんな金額!?」


「二人とも、そっちはあとにしましょう。

 で、もう一方の『東の賊』はどうするの?」


 ソニアさんに言われて、話を『帝国』の方へと戻す。


「あー、それなんですが……私の案としては、様子見(ようすみ)で?」


「あら? どうして?」


「その説明にはまず、前提として。

 賊共を撃退するにあたって、『ダンジョンで食った』という状況があります」


「「?」」


 街ごと穴に落っことして全滅させた。

 落ちた彼らは白い炎と化して……その行き着く先は冒険者たちと同じ、ダンジョンによる取り込みである。

 つまりいつも通りの、蘇生待ちの状態である。


「通常ならば、全滅させるにせよ捕虜にするにせよ、なんらかの痕跡(こんせき)が残ります。

 ましてそれがサウスティアという小さな街なら、隠しきれるものではないはずです」


 戦場の跡、兵士の遺体、その埋葬あるいは腐乱の形跡、装備品の処分など。

 戦った何かの痕跡(こんせき)が残ってしまう。


 捕虜にしたなら、あれだけの数の『口』がある。

 捕虜のための食料や住居、それの確保や輸送、街道を移動する物資や書類上の動き、そのすべてを隠すことは困難だ。


「ところが、ダンジョンコアは彼らも戦場も、その痕跡ごと(あま)すことなく食らい尽くしました。

 きれいさっぱり行方不明で、失踪(しっそう)です」


 偽街の偽装技術はまだまだ研究の段階ではある。

 それでも、学者や魔術師を現地に派遣でもしない限りは、見破られないくらいの自信はある。


「帝国に対して攻め込んで来たあの賊共のことを追及したところで、何のことだ? と(とぼ)けられてしまうでしょう」


 それどころか、おれが帝国の立場であれば「なんと!? 所属不明の部隊など取り調べが必要ではないか! 今すぐ我々に引き渡したまえ!」くらいの事は、いけしゃあしゃあと言ってのける。


 賊共を倒した後の対応。

 魔王国は即座に謝罪に飛んで来た。

 帝国は、斥候は放ってきたが、そのまま沈黙。


 ここで明暗が分かれてしまった。


「だから、我々も同じように(とぼ)けてやればいい。

 サウスティアにやってきた賊? さぁ、一体なんのことでございましょう? と」


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