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わがやの別荘まで行ってこい~延長戦という名の本戦(前編)

 ソーク山脈の中に作った別荘での迎撃戦の話については、決着は町長さんとクロスティア都市長にお任せすることになった。


 ここからは、おれが受け持つことになった「別の話」だ。


「さて、皆さんに任せっきりにしていた間、私が担当した事案についてですが」


「ああ、うん、詳しくは知らないけれど、アルジィ君は別の仕事をやってくれていたんだよね?」

「街の周辺に魔物が出た、って話よね?」


「はい。

 結論から言うと、無事にすべての迎撃と捕獲に成功しました」


「迎撃?」

「捕獲?」


 テーブルの上に広げたサウスティア周辺地図をもとに、説明に入っていく。


「少々、説明が長くなりますが、順を追って説明します。

 ことの発端は帝国軍を別荘へとご招待する、五日前にさかのぼります」


 地図のある地点、サウスティアの街の北西に位置するそこを指しながら説明する。


「うちの巨大ヒヨコがリハビリのために、タコを乗せて飛んでいるときに、ここで敵の斥候らしきものを発見しました」


「ごめん、アルジィ君、何を言っているのか分からないよ」


 いきなりつまずいた。

 …もう少し詳細に、説明しなおす。


 現在は療養期間中であるティアの精霊、(おおとり)のクーン。

 そこそこ回復してきたので、彼の背に暗黒タコをのせて練習がてらサウスティア周辺を飛ぶことを日課にし始めていた。


 すると、上空から怪しい人影を発見。

 タコと一緒に追跡した結果、どうやら魔王国側からやってきた斥候役か何からしい。


 機転をきかせたタコが、自分の足を一本千切(ちぎ)って、上空からそいつに投げつけた。

 タコ足は、みごとそいつの背中に貼りつくことに成功、ひとまずそのまま斥候の動きを監視する流れとなった。


 その話と、先に続くであろう展開に、町長さんは青ざめた。


「…それってもう、『魔物』じゃないよね?

 …いや、ひとまず最後まで、続けてくれるかい?」


「はい、続けます」


 この時点ではまだ敵か味方か、そしてその目的も分からない。

 とはいえ、いまサウスティアの街はもう十分に大変だった。


 街の住民をなだめたり帝国兵に対応したりで町長さんはもう限界。

 だからひとまず、この「魔物の件」はおれとモルフェで対応し、別荘の件はタコとソリューへと委任する方針に決めた。


 最悪、ちょうどここに来ている帝国兵に「魔物」と戦わせるという案もあった。


「ひとまず様子見と防衛をかねて、街の東西に『偽サウスティアの街』を生成しました」


 地図上に印をつけながら説明する。

 その箇所、それぞれ4つずつの合計8カ所。おおざっぱに街道も書き足していく。


「前回の『呪いの魔女』の時の経験もふまえて、今回はより本格的にやりました。

 特に、交易都市クロスティアとの街道と、サウスティアの街の外観とをいかに再現するかで苦労しまして……」


「おかしい、話の規模が、おかしいから!」

「そっちはそっちで、面白いことやってたのね」


 なかなか大変な作業だった。


 いかにここに敵を誘導し、かつ、サウスティア(本物)を訪れる一般人を巻き込まないようにするか、モルフェと頭を悩ませた。


 でも、それほど大変でも無かったとも言える。

 結局のところ作業自体はすべてダンジョンコア任せなので、計画さえしっかり立てれば、あとはダンジョンコアが全部やってくれた。


「今回は霧と水魔術を応用した大規模術式を投入しました」


 それぞれの街の周りを大き目の円で囲む。

 場所によっては円が重なる部分もあった。


 画布(キャンバス)は大地。画家はダンジョンコアと、スライムたち。

 だから描画や偽装はお手の物。細かい模様も、「紙」が大きければ難なく描けた。


 ただし魔力の総消費量はものすごい。そんな魔方陣が完成した。


「常駐型の魔術で人の接近を検知してから、起動型の幻術を発動、侵入者を偽の街へと誘導できる仕組みを確立しました。

 ただし現時点ではまだ人型生物の検知のみという制約があって、前回のような狼とかの使い魔には対応できていないのが今後の課題です」


 おれの説明にソニアさんが質問した。


「アルジィ君、魔術も覚えたの?」


「はい。まだ魔方陣の基礎だけですが」


 魔力の入出力が苦手らしい「渡り人」のおれでも、魔方陣を書いたり読んだりは問題なくできてしまう。

 おれにとっては詠唱よりも魔方陣の方がずっと楽なので、まずはそちらから勉強している。


 すると不穏(ふおん)な空気がソニアさんから、部屋の隅っこに座っているソーニャさんへと向けられた。


「ソーニャ?」

「はっ!? はい! がんばります!?」


 あ。これって「アルジィ君ができたんだから、あなたも当然」の流れ?

 おれはあわててフォローに入るが、


「いや、ソニアさん、おれはプログラミングの、コホン……私には下地になる知識がありますので」

「ふうん? なら、下地さえ作れば問題ないのね?」


 やぶへび!?


 ブルブルとマナーモードで震えているソーニャさんに、隣のオットーさんが「私もお手伝いしますよ、お嬢様?」と優しく声をかけていた。


 救助に失敗した申し訳なさから、少し強引に別の話題を振る。


「あー、えっと、これは話すかどうか迷ったのですが、軍事機密的なやつも投入しましたので……聞きますか?」


 その言葉に目を丸めた町長夫妻。


 互いに一瞬だけ目を合わせると、すぐにおれの言葉に応じた。


「聞かせてくれるかい?」

「あなたも、口外禁止よソーニャ」

「は、はい!」


 彼女も同席させるのかよ。

 この夫妻、やっぱり娘にかなり厳しいぞ?


 ともかく、話題を振ってしまったので、おれは用意していた小瓶(こびん)を腰鞄から取り出して、テーブルの上に置く。


「これは魔氷を(けず)って粉状にしたものです。仮に『魔砂(まさ)』と呼称しています」


「アルジィ君のところはそんなものも作れてしまうんだね」

「へー。初めて見るわね」


 魔氷は時間の経過とともに、氷のように減っていくという性質がある。

 それを細かい砂にすれば、砂にしたそばから消滅してしまうことになる。


 これを作るにはそれなりの設備と大量の魔氷による試行錯誤が必要で……だからたぶん、ダンジョンコアくらいにしか作れない代物(しろもの)なのかもしれない。


「まだ検証は続けていますが、どうやらこれ、空気に溶けると数秒間、魔力を阻害する効果があるみたいなんです」

「「!?」」


 つまり「魔封じの粉」である。

 封印系の魔術は、魔法が生活基盤になっているこの世界では取り扱い要注意だ。


「…ねぇ、アルジィ君? これ、欲しいな?」

「ちょっとソニア!?」


 目の前の小瓶にソニアさんが目を輝かせてしまったので、そのまま贈呈する。


「少量ですが、どうぞ」

「やった! ありがとう!」


「確実に効くのは三秒間、微弱に残留し続けるのは三十秒を目安にしてください。

 町長さんの分もご用意しますか?」


「いや、私には使いこなせないから、ソニアの分だけで十分だよ?」


 瓶を手に、しげしげと(なが)めながらソニアさんが問いかける。


「これ、どうするメイヤー?」


「うーん……原理自体はすごく単純なんだよね?

 つまり、条件さえそろえば誰にでも作れるってことじゃないのかい?

 一応、こういう物が存在することは都市長に報告しておいた方が良いのだろうね……」



 本題に入る前に、悩ましい事態になってしまったようだ。

 やはり、この世界ではわりと画期的な兵器だったらしい。



「えっと、少し話がそれましたが、獲物を逃がさないためにそれを使いました」


 地図上の偽サウスティアの一つを指さしながら、説明に戻る。


「この『魔砂』は、偽街の建物の壁や床の内部に、みっしりと仕込みました。

 建物の破壊や倒壊によって砂が舞い散り、魔術の使用を無効化させる仕組みです。

 具体的には、移動系や通信系の魔術を封じて侵入者を一網打尽にする目的で利用しました」


 ソニアさんは獰猛(どうもう)に笑い、町長さんは恐れ(おのの)く。


「へぇ、面白そうね?」

「そ、それで?」



「そして、かかった獲物の音声が、こちらです」



 テーブルに立方体の小さな石を置く。

 これもダンジョンコアに作らせた「録音・再生用の魔石」、通称は録音石である。


 六面体の一つ、再生の刻印を強めに押せば、おれの魔力に反応して「音声」が再生され始めた──



  「──隊長(ボス)! 街を発見しやした!

   例のサウスティアってやつがここだと思いやす!」


  「でかした!

   いくぜ、野郎共!」


  「「ヒャッハー!!」」



  「男は○○セ(自主規制)!! 女は○○セ(自主規制)!!」


  「「ヒャッハー!!」」



  「かかれぇーーッ!!!」



  ゴゴゴゴゴ……



  「お、おい!? 地面が──」


  「「ギャアアアアア…──」」




 ──そして音声が終了した。

 一応、必要な部分だけを抜粋、編集したものだから短いけれど。

 内容としてこれでほぼすべてだから、問題ない。


「「………」」


 …ソーニャさんがいる前で再生するのはまずかったか?

 なんとなく自主規制を入れておいたのは正解だった。


 完全に停止してしまった町長さんの代わりに、ソニアさんがおれに質問した。


「…これって、やっぱり魔王国から来た連中なのかしら?」


「おそらくは。

 西から来たこと、(とが)った耳などの身体的特徴から、こちらは魔王国の関係者であると推測されます」



()()()()?」



「はい。

 では続きまして、東から来た魔物です。

 二つ目の音声をお聞きください」


「「!?」」



 もう一つ別の録音石をテーブルの上に設置して、ふたたび音声を再生する──




  「──なぁ、隊長?

   今回は当然、略奪はありなんだよなぁ?」


  「そうだぜ隊長!

   士気向上には必要だろ!? なぁ、頼むぜ!!」


  「…帝国兵と分かる徽章(きしょう)はすべて外して(けず)れ。

   武器や防具の刻印も、すべてだ。徹底しろ。

   これは特別軍事作戦である。

   敵軍の()()()()()()()を我らが奪還し、

   (すみ)やかに帰投せよ。

   一切の証拠を残してはならない。繰り返す。

   一切の証拠を残すな!!」


  「「了解!!」」




  ゴゴゴゴゴ……



  「な、なんだ!? 地面が──」


  「「ギャアアアアア…──」」




 ──音声が終了した。

 こちらはもう音声の中で自己紹介しちゃっているので、おれから説明する必要もない。


「「………」」


 そんな衝撃音声の連続で、町長夫妻は絶句してしまったのだった。



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