わがやの別荘まで行ってこい~反省会(後編)
おれと冒険者たちの気恥ずかしい爛れた関係性(?)が赤裸裸に語られたところで、話を戻す。
我が家の別荘こと「第二ダンジョン」である。
帝国から言いがかりをつけに来た兵士たちを返り討ちにしてやるために、ちょっと本気のダンジョンを用意してやった。
やつらが邪神がなんだと煩いから、本当に「邪神の祭壇(仮)」を用意してビビらせてやることにした。
…もっとも、そこまでたどり着くどころか、入り口で全滅したのだが。
そんなダンジョンの設営を待ち望み、そして歓喜したのはうちの暗黒タコだった──
「邪神の祭壇はぜひ、私にお任せください!」
「おい、ばか、やめろ! 『邪神の祭壇(仮)』だ!
大事な大事な『仮』の部分を、絶対に忘れるな!
むしろ『(仮)』こそが本体だ!」
──そんなやりとりを経て、第二ダンジョンことうちの別荘、その管理人に就任した暗黒タコ。
それに加えて、今回は意外なことにソリューまでも参戦してきた。
あの時の「私の考えた初心者向けダンジョン案」にはまったく興味を示さなかったソリューが、「ティアのためなのであろう? ならば手伝うのは当然だ」と、積極的な姿勢をみせた。
それならば是非にと二匹にお願いすることになった。
おれも「別件で」手が離せないので、今回の別荘による迎撃作戦は、タコとソリューを中心にやってもらうことになったのだが……
…いつの間にかソニアさんも増えていた──
それで!?
次の打ち合わせはいつやるの!?
──町長さんに別荘建築の件を報告したら、町長邸が「作戦会議本部」になってしまっていた。
…是が非でも参加してやる、という鬼気迫る勢いのソニアさんを止めることは町長さんにもできなかった。
いま思えば町長さんはもう、止めるというより、落としどころをどこにするのか模索していたのだと思う。
一応、おれもすべてを人任せにしたりはせずに、会議にはちゃんと参加していた。
おれ、タコ、ソリュー、ソニアさん。そこに傍聴人として町長さんとモルフェ。
会議の流れとしては、おれ、タコ、ソニアさんの意見に対して残り三人が「やりすぎだ」とツッコミを入れる形となった。
……オブザーバーの二人がいなければ、野党であるソリューが常に負けている流れになっていた。
ちなみに、タコの意見にはおれが「やりすぎだ」とストップをかけて、おれの意見にはタコが「それはちょっと」と自重をうながすという、推進派が内部分裂しているという混沌とした会議になった。
ソニアさん?
彼女はすべてに対して「いいね! やろうやろう!」と言う「超推進派」だ。
邪神の祭壇どころか、邪神召喚であろうとも「やろう!」である。
そんな彼女をお嫁さんにした町長さんを、おれはちょっとだけ尊敬してしまった。
当初の計画では全六十四階層になるはずだった「我が家の別荘」は、短い工期の関係もあり今回は八階層に圧縮された。
それでも、その一階層が我が家「本邸」とは比較にならない難易度だ。
今回は実験的な意味合いもあったので、「ガンガンいこうぜ」よりも「色々やろうぜ」な方向性でダンジョンを作った。
…どうせ最後の階を突破したところで「つづきは本邸でね!」と指示されるだけの最悪なオチが待っているから、細かいことはわりとどうでも良かった。
ちなみに最後の階層は、以前タコが提案した「侵入者に回廊魔方陣を歩かせることで、侵入者自身の命で疑似詠唱させて、侵入者を倒す『何か』を召喚する」という最悪な罠……を大幅に修正したものだった。
召喚する予定の生き物たちとひと悶着あったらしいけれど、タコとソリューでどうにか黙らせたそうである……問題を解決しようとしているそばから、新たな問題を増やさないで欲しい。
そんな感じで色々と考えたわけだけど、結局、帝国軍はそこまでたどり着くことは無かった。
入り口の罠の件を抜きにしても、彼らはそれ以前に多くの問題を抱えていたのである……
ソニアさんが呆れながら考察した。
「集団の移動に時間がかかるってのは分かるけど、でも余裕を見たってせいぜい三日よ?
こんなんじゃ、魔王国に攻め込まれたら勝てないんじゃないのかしら?
マッシュルーマーって、そんなに強い魔物だっけ?」
ソニアさんの疑問に対して、なぜか詳しいタコが解説する。
「茸人は、ほかの魔物よりは知性がありますね。
でもそれ以上に、場所によっては繁殖力が強いようで、今回はそこで苦戦を強いられたようですよ?」
実は別荘の基礎工事中にも、マッシュルーマーが大挙して攻め込んできたらしい。
そこはタコ、ソリューに加えてアテナまでも一時動員して、どうにか彼らを撃退したのだとか。
それもあって「魔物避け」として別荘の周りはお花畑で囲んだ(?)という報告を受けている。
城壁ではなく、なぜかお花畑である。
タコがマッシュルーマーの生態についても解説する。
「彼らはお互いに殴り合うことで、互いの胞子の放出をうながしていました。
なので、彼らにとっては友好も敵対も、同じ『殴り合い』という行為で表現されるみたいです」
そんなマッシュルーマー豆知識に、おれと町長さんが戦慄した。
「なに、その恐ろしい生態……」
「…うちの街の南に、そんな魔物が住んでいたことが驚きだね……」
それはあれか? 格闘ものや不良ものバトルの「拳で語り合う」的なやつなのか?
…いや、ある意味では繁殖行為なわけだから、もっと生々しい、本能と欲望と死活問題的な行動か何かなのか……?
とにかく、そんな友好なのか敵対なのかで、マッシュルーマーの軍勢が帝国軍に襲い掛かった訳である。
おれもつい、率直な感想を述べてしまった。
「…この時点で、ソニアさんとタコで『謎のキノコ姫とその従者』として、どさくさ紛れに襲いかかったら、彼らは全滅していたんじゃないですかね?」
「「!」」
「それだ! って顔しないでね、ソニア?」
それをやったらもう、邪神とかすらも関係なくなる。
とにかく、どうにかマッシュルーマーの襲撃を退けたものの、彼らの軍はもう全日程の半分を折り返してしまっていた。
偵察部隊(=うちのスライム)からの報告を聞いて、ソニアさんとタコは「もう帰っちゃうんじゃないのか?」とハラハラしながら待っていたという。
「そういう意味だと、あの軍団長で良かったわ」
「ええ、危うく別荘のお披露目すらできなくなるところでした」
「…あの団長に振り回される兵士たちは、たまったものではないでしょうけどね」
おれの言葉に、ソニアさんはちょっと意外な見解を返した。
「あら? そうでも無いわよ?
軍の長がビビってるよりは、強気なくらいがちょうど良いのよ。
ああいう奴を上手く操るのが参謀役の仕事でしょう?
ほら、うちのメイヤーと同じよ」
「私はソニアを操ることなんてできないよ?」
その言葉に、ソニアさんはまだ未練がましく町長さんをジトっとにらむ。
「…ダンジョン」
「それはもう、彼らのせいにしてね? フフッ」
まだ「今回だけダンジョンに関わって良い」と言われた件が、あきらめきれないようだ。
それよりも、あの団長の評価というか、使い道?
それがソニアさん的には「あり」だったのは驚きというか……こういう柔軟な夫妻だからこそ街の運営なんて難題もこなせているんだろうなーと、ちょっと感心してしまった。
一方で、団長なのか参謀なのかに恵まれなかった軍団は、わりと無謀な日程ながらもそのまま行軍を続けていった。
その結果、ついにダンジョンまでたどり着き……
…最初の罠で……
…おれとしては、あれは様式美というか、挨拶みたいなものだった。
そんなおれ発案の罠に対して、一人と一匹の非難の目が来る。
「アルジィ君のせいだ」
「そうですね、すべてアルジィさんに持っていかれてしまいました」
「えっ! いや、待って下さい!
…だいたい、あいつら、おれのダンジョンのことは知ってるはずですよね!?
それならなぜ、『落とし穴』を警戒しないんだ、って話ですよ!?」
すると、意外なことにダンジョンの素人である町長さんからツッコミが入った。
「でも、アルジィ君?
城に入って、まず床の安全を調べる人なんて、あんまりいないんじゃないのかな?」
「「………」」
言われてみれば、おれも町長さんの家に初めて来たとき、「まず床の安全」を確認したりはしなかった。
「そう考えると、やっぱりアルジィ君の作戦勝ちだよね」
皆が沈黙する中、町長さんだけは冷静に絶賛した。
やっぱり彼だけは、前回のダンジョン調査隊の件も踏まえて「早い段階で全滅する」という予測が立っていたようである。
さて、ここまでは戦いの経過の話。
ここからは、戦いの後始末についてである。
全滅して、ダンジョンに取り込まれた帝国軍の扱いをどうするか?
まず暗黒タコが提案した「彼らを生贄にして本当に邪神を召喚する」案は却下した。
「だめですか?」
「ダメに決まってんだろ!?
だいたい誰だ、邪神! おまえの友達か!? それとも上司部下同僚親戚のうちの、どれだ!?」
「あ、いえ、もちろん本物ではなく、邪神役の方を」
「そんなに呼びたきゃ、お手紙でも書いて、もっと個人的に呼べ!」
それともおまえや、その友達は「呼ばれるたびに生贄を要求する派」なのか!? わがままか!
とりあえずタコ案は却下して。
次はおれの「邪神の祭壇の力で兵士たちを蘇生、そして祭壇は消滅した」ことにする案だが……
「…アルジィ君、それはちょっと、いくら何でも……」
「アハハ、それはひどいわねー」
仕打ちがひどい、とは町長夫妻の感想だった。
「だめですかね? 祭壇の件も一度に片付いて楽だと思ったんですが。
なんなら彼らだって、ある意味、祭壇を片付けた英雄っぽい立ち位置に?」
「そうはならないだろうね」
「死んだ方がマシだって目にあうわね、きっと」
その場合に、町長夫妻が予想する彼らの末路──
──そもそも彼らは、邪神を名目に軍を送り込んだ状況だった。
そこにさらに「邪神の力で蘇生(?)」ともなれば、彼らもただでは済まないだろう。
おそらくは帝国の研究所か尋問官のもとにでも送られて凄惨な「取り調べ」を受けることになるか、失態を理由に極刑にでも処されるに違いない。
事実や真実は関係ない、恐怖と醜聞が問題なのである。
邪神の関係者が増えたというインパクトを超える処分を軍に下して、民の不安を払拭しなければならないのだ。
さらにその処分は一族や派閥にまで及ぶ。
前回の「ダンジョン調査隊」の件と同様に、貴族に連なる者たちにとっては個人の問題では終わらない。
邪神がらみの血族、派閥だなんて思われるわけにはいかないわけで……場合によっては滅族に至ることだってありうる──
──そんな町長夫妻の推測に、なるほど恐ろしいと思いつつも……
「…でも、自業自得ですよね?」
「…うん。まあ? その通りなんだけどね?」
「ほんと、それきっかけで帝国が滅んだらもう、傑作ね」
おっと、そこまで大きな話はさすがに想定していなかった。
ただ、言われてみれば、確かにやりすぎかもしれない。
軍の「兵士たち」は上からの指示に従いただ仕事をしただけで、そこに拒否権はない。
なのに、「派兵を指示したやつら」の業まで負わせてしまうのはあんまりだ。
そんな理由で、町長夫妻に従っておれも引き下がることにした。
「それなら、『ダンジョンマスターが邪教の祭壇の力で蘇生させようとしていた所を、町長の必死の説得により取り下げさせた』くらいにしておきましょうか?」
「…そこは、都市長と一度、相談させてもらえるかい?」
やっぱりこれも、サウスティアだけで済む話では無さそうだ。
政治的な調整ごととして、結局また町長さんとクロスティア都市長にお任せすることになるのだった。




