わがやの別荘まで行ってこい~反省会(前編)
ここまでのあらすじ。
クロスティア地方が安定し、力をつけ始めているという事情を知った帝国は、例のダンジョン(=我が家)に邪神だ何だと言いがかりをつけてその力を削いでやろうと、サウスティアの街に軍を送り込んで来た。
これによって諸問題(後述)が発生した。
彼らの思惑は半ば成功しかけていた。
だがそれで黙っているおれたちではない。
そんなに邪神が気になるのなら「お前らの望む邪神を用意してやるから待ってろ委員会」(略称、お邪ま会)を発足し、ちょっと本気のダンジョンを作ってやって、やつらを叩きのめしてやる計画を立てた。
そんな本気のダンジョンこと、我が家の「別荘」。
候補地として選ばれたのはソーク山脈──そこは年中、霧に包まれていて『骨までびしょ濡れ山脈』なんて呼ばれているそうだ。
そこに、かつて廃案となったタコやアテナの「私が考えた初心者向け(?)ダンジョン」のすべてを結集して、さらに町長の奥さんまでもが参戦して、万全の準備で彼ら帝国軍を迎え撃つことになってしまった。
帝国軍も町長夫妻の口車にまんまと乗せられてソーク山脈へと出発。
いよいよ決戦の火ぶたが切って落とされたのだが……
…彼らは、最初の罠で全滅した。
結果、町長の奥さんが拗ねた。 ←いまココ。
「なーんーでぇー!!
なんで、なんで、なんで、なんで!!
なんで、こう、なるの、よぉっ!!」
全身で抗議の声をあげるソニアさん。わりと愉快な人だった。
ここは町長さんの家の応接間で、町長夫妻と、おれとタコが集まっている。
タコはイスではなく、テーブルの上でおれの前。
あと、実況席みたいな位置に使用人のオットー氏と娘のソーニャさん。きっとまた『後学のため』に参加させたのだろう。
とにかく、ソーニャさんの母親がすごい勢いでごねていた。
「おかしい!! なんで!? なに、入ってすぐの場所で全滅してんのよっ!?」
そこにはおれも同意であるが、わりと予想通りなところもあって……この「穴に落とす」展開にはもう慣れてきたという悲しい現状がおれにはあった。
そして町長さんも「予想通り派」の方だった。
「気持ちは分かるけど、私としてはソニアが無事でなによりだよ」
「ズルい! メイヤー!!」
今回、ソニアさんはダンジョンの奥で迎撃役の一人として待機しているはずだった。
服屋のクロッシュさんに特急で衣装を用意してもらうまでして、「謎の仮面剣士」は手ぐすね引いて待っていた。
ダンジョン禁止令を出していた町長さんから、今回だけという条件でソニアさんがどうにか譲歩を引き出したのである。
だが、これは町長さんの作戦だったのだろう。
ソニアさんを納得させるためにあえて「一度だけ許可」を出した。
…かつてダンジョン調査隊を迎撃したおれの腹黒さと悪知恵と、あの軍団の戦力を冷静に分析した上での「一度だけ許可」である。
そして町長さんは、読み勝った。
それどころか圧勝だった。それでソニアさんが拗ねているのである。
「これで終わり!? ねぇ? ほんとに終わりなの!?
わたし何もやってないんだけど!?
メイヤー、こうなること分かってたんでしょ! ズルい!?」
もはや怒りよりも驚きと困惑の色の方が強めのソニアさんに、町長さんが苦笑する。
「ここは私の勝利を称えて欲しいね。
私が君に勝てるのなんて、こういうのくらいなんだから。
でも、予想が当たって良かった……ソニアになにも無かったことが私は何より、うれしいよ」
「………。
…ズルい、ズルいっ! メイヤー、ズルい!」
なんだかおれも、少し申し訳ない気がしてきた。
ソニアさんに重要な役割──細い通路で後ろから兵士達を追い回す恐ろしい魔物、ダンジョンものゲームに出てきそうな『初期のレベルでは絶対に勝てない敵』役──を依頼していたくせに、結局、何もやらせなかったことになったので……
「あの……」
「いや、いいんだよアルジィ君。ソニアはわざと私を困らせているだけだから」
町長さんに止められて、チラッとソニアさんの方を見れば……たしかに口元が少し笑んでいた。なんだ、仲良しか。
今回は大変だった。
例の帝国軍だけでなく、それに誘発された魔王国の賊や帝国の賊まで集まってきて、すごく面倒なことになっていた。
それでぜんぜん手が足りなくなってしまって……それでソニアさんにまで手伝ってもらうことになってしまったのだった。
サウスティアの主戦力であるソニアさんがこっちに来ても良いのか? という話であるが、むしろ頼んでもいないのにソニアさんの方からこっちに来たという事情もあって……この人、本当にうちのダンジョンに来たかったらしい。
だから一人でがんばっていたのであろう町長さんに確認する。
「それで、街の方は大丈夫だったんですか?」
「ああ、大きな問題は無かったよ。
雇った冒険者たちは皆、君のダンジョンの常連だからね」
帝国軍の件が片付くまでダンジョンを営業中止にしてしまった代わりに、手のあいた冒険者たちを街で雇うことにしたそうだ。
猟師のハンスさんとソニアさんが立てた計画をもとに、冒険者たちがサウスティア周辺を巡回して安全確保に務めたという。
これが町長さんに好評だった。
「それどころか、いつも行けなかった場所の確認にも協力してもらえてね。
危険な場所の把握とか、新たな採取地の発見とか、収穫も多かったんだ」
「へー、それは本当に、良かったですね……」
…とても素晴らしいことなんだけど、それは正直、意外に思った。
おれは基本的に、彼ら冒険者の荒々しい姿──奇声を上げながら穴に落ちていく姿や、ボス部屋で奇声とともに襲い掛かってくる姿ばかりをみているので、それほどまでに住民たちに親身な姿? そっちはあんまり想像がつかなかった。
「これもアルジィ君のおかげだよ」
「え?」
「最近はクロスティアの冒険者組合支部にも好評なんだよ。
サウスティア組には安心して仕事を任せられるって」
サウスティア組? なにそれ?
それが、おれのおかげ?
ちょっと話が飛躍しすぎじゃないんですかね? と思っているおれに、ソニアさんまで同意してきた。
「アルジィ君って、面倒見がいいのよねー。
今回だって私のわがままに付き合ってもらったし」
「それは、ちょっと待って下さい、手伝ってもらったのはおれの方で」
「私のことや、サウスティアのこともいつも助けてもらっているしね」
「それは持ちつ持たれつというか、むしろ助けてもらっているのはおれの方で」
そこにテーブルの上のタコまで加わる。
「私もティアさんを助けて頂いたご縁ですし、現在進行形でも養ってもらっていますからね」
「それは……きっかけはモルフェだぞ?」
あと、タコはいつの間にやら勝手に住みついている、とも言いえる。まぁ、今さら追い出す気もないけれど……
そんなタコが、さらにここに居ない者の名前まで出して来た。
「アルジィさんは冒険者のみんなを育てている、とモルフェ様から伺いましたよ?」
「…育てている?」
……そうなの? なんで?
…おれをぶっ殺しに来る人達を、育てたらちょっとマズいんじゃ無いですかね、アルジィさん?
なんだか思考が追いつかなくなってきたおれに、タコが事実として補足してくる。
「だってアルジィさん、いつも七日に一度は冒険者の皆さんを直接、指導しているじゃないですか。
それに日替わりダンジョンだってとても丁寧につくって、非常口や魔氷まで用意していますし。
悪夢のこととか、講習会とか、もう至れり尽くせりじゃないですか」
「そ、それは……」
…あまりにも見るにたえないからで、と言おうとして言葉を飲む……この流れでそれを言うと、「ティアも見るにたえないから助けた」みたいな受け取られ方をしかねないので……
「ほら、それです」
「どっ?! …どれのことだよ」
なんだかタコの察しが良すぎる。
ちょっといたたまれない気分なので、もうモルフェの方へとかぶせることにする。
「おれを言うなら、ほら! あれだぞ!
ダンジョンの内容を『正しい方向性』にいつも軌道修正してくれたのはモルフェだぞ!?
冒険者に夢をみせてやることだって、モルフェの優しさからの発案だし!」
だがタコはタコで、ここにいないモルフェの言葉を遠慮なく暴露した。
その声色までも真似をして。
「彼女はこう言ってました。
『ボクが失っていく人たちに、せめて夢を見せてあげるのが普通のことのように、アルジィとっては、みんなが失わないようにがんばってあげることは普通のことなんだよ』、と。
私、ちょっと感動に身震いしてしまいました」
「「………」」
…………いまおれは、恥ずかしさに身震いしてしまいそうだが?
あと暗黒タコ、おまえその声、一体どこから出してやがるんだ、ヤメロ。
おれが絶句してしまった隙に、他の皆様はモルフェの言葉に「なるほど」と勝手に納得してしまう。
今日は帝国の兵士達の撃退の件についての反省会のはずが、思わぬ流れからの思わぬ指摘に……おれはすごく、なんだかモニャもにゃと気まずい気分になってしまったのだった。




