神と信徒と、わるい人(1)
「助けて、アルジィ君!」
「あ、はい。助けます助けます」
町長さんが悲鳴を上げたので、とりあえず安請け合いするおれ。
いつもの町長宅での情報交換。
どうやらあの帝国兵達が街で迷惑をかけているらしい。
「彼らが邪魔で、このままでは街の住民たちの生活に支障がでてしまいそうだよ……」
ここサウスティアの街は比較的のどかな街といえるだろうが、それでも住民たちは決して暇というわけでは無い。
街のことはすべて、街の住民たちでやって行かなければならないからだ。
公務員的な役割がここサウスティアには存在しないからだ。
具体的には治安維持を担う警官や、街の点検・修繕・清掃を行う役人など。
それらはすべて住民たちで、自主的に分担してやっていかなければならない。
だから街の住民たちはまめに「散歩」する。
空いた時間に街の内外を巡回して、汚れたものは清掃、壊れたものは修繕、動植物が増えすぎないように適度に間引き、問題があれば町長に報告、等々と……具体的に上げてしまえばそれはもう「忙しく」散歩しながら、いろんな問題を未然に防いでいるのである。
ちなみに、うちからも最近はスライムたちを派遣している。
昼は清掃、夜は街の各所でぼんやりと光って道を照らす街灯として活躍させている。
…という背景があった上で、
「兵士たちが、街の住民たちにからんでくるんだ」
散歩や仕事の邪魔をしてくるらしい。
中には住民たちの力仕事を手伝ってくれる兵士もいるらしいが、それは少数派。
全体で見れば、町長さんがおれに「たすけて!」と言いたくなるような惨状になってしまっていた。
そもそもこのサウスティアの街、冒険者区画と住民区画で明確に分かれた作りになっている。
冒険者たちも暗黙のルールとして、住民区画には勝手に入らないように気を付けているくらいなのに。
つまり帝国の兵士たちが、住民の生活を踏み荒らしているような状態で……
「彼らは何を勘違いしているのか『暇ならば俺達に付き合え』みたいなことを言っているんだ……」
「なんですかそれ? ナンパですか?」
そういうのはもっと都会でやれ、と思ったら、
「…それが、宗教の勧誘なんだよ」
「えっ。あれ、いつもやってるんですか!?」
まさかの宗教勧誘。
よりにもよって軍という国家の武力が、宗教勧誘という恐ろしい事態だった……
「このまえ、英雄神のことは話したよね?」
「ティアをその英雄の関係者ということにして、クロスティアを取り込もうって話、ですよね?」
町長夫妻に帝国皇女が、いろいろと裏事情を教えてくれたそうだ。
「そう。その前段階としてサウスティアに信徒を増やすか、この街の『邪神』について情報を集めたい、らしいのだけど……その前段階でつまづいているみたいでね」
「なんだか色々とおかしいですよね?
そもそもそれって、軍を派遣してやるようなことなんですか?」
仮に諜報や工作をやるにしたって、それ専門の人員を使ってやるような話だ。
下手に門外漢の部隊を使っても効率が悪いどころか、むしろ失敗して逆効果にもなりかねない。
「言われてみれば、そうだよね?
皇女殿下の話だと、帝国内部でかなり揉めているみたいだから……どれかの派閥が無理に軍に働きかけた結果なのかもしれないね?」
「なんでもかんでも軍事で解決って、帝国は軍事国家なんですか?」
「うーん…? 私は他の国家を知らないから分からないけど……」
そんな中で、ノック無しで部屋の扉を開く者。
「あの野郎共っ、ちょっと聞いてよメイヤー!
…あらっ? いらっしゃいアルジィ君!」
「おじゃましてますソニアさん。何だか荒れてますね?」
「そうなのよ! あいつら、私の顔見た瞬間、逃げるのよ!?」
「ソニアには街の巡回警備を頼んでいるんだ」
……それならある意味、目的は果たせたようで、良かったですね?
「なんかあいつら、軍団長の命令で嫌々やってるみたいよ?
そう言って今は、住人たちに泣き落とし。
軍団長に怒られるから、助けると思って協力してくれ、ですって!?」
軍人の泣き落としって、正気か? 怖いしキモイ。
武力をチラつかせながら「助けてくれるよな?」なんて脅迫、逃げるしか無いだろ。
「その軍団長は、なにしてるんです?」
おれの疑問に町長さんが返す。
「軍団長含めて、彼らは街の外に駐留してるよ。
もともと街に彼らを収容できる施設なんて無いことは、事前に知らせていたからね」
そして皇女様は交易都市クロスティアに引っ込んだそうで、もうここにはいないらしい。
「皇女殿下はあいつらに強引について来たっぽいのよね。
軍の指揮権は軍団長だし、彼女には手駒も無いしで、余計な火種を生む前に撤収しておくって」
そんな皇女は各所で情報を集めつつ、クロスティア都市長と裏で手を回して、軍が「帰る理由を作っている」最中らしい。
「…まぁ、軍がそこにいるだけで結構な維持費がかかるでしょうし。
その滞在費用は国の予算というか、民の税金からまかなうのでしょうし」
「そうだよ! 食糧だってうちで用意してるんだから!」
「足りないから毎日のようにクロスティアから手配してるのよ?」
このままでは水も枯渇するんじゃないかと、町長さんはハラハラしているそうだ。
「水の方は、私で調べておいて、足りなさそうならダンジョンコアで追加しておきますね?」
「本当かい!? 助かるよ!」
すごく喜ぶ町長さんの一方、ソニアさんが不機嫌そうにつぶやく。
「…もう皇女殿下の助言どおり、ちょっと行ってとっ捕まえて、ダンジョンに放り込んで来ようかしら?」
「ソニア? ちょっと助言の内容が変わってるよ?」
「ソニアさん? そこ、おれんちですよね?」
皇女の助言は、あの団長ならいつかのダンジョン調査隊の隊長と同じ方法で撃退できるのでは? というものらしい。 …どちらにせよ、おれんちの話である。
おれももちろん協力はするけれど……やり方を失敗すると、また別の火種が起きそうで面倒だ。
「…今となってはもう冒険者たちがいるので、そっちと混ざらないように撃退しなくちゃいけないんですよね……」
「あら、ダンジョン経営って大変なのねー?」
「…わざわざ分けなくちゃいけないくらい、酷い方法を使う気なのかい?」
察しがいい、じゃなくて、やだなー町長さん、そんなわけないじゃないですかー。
…地域密着型アトラクションと、地獄を、混ぜたらダメに決まっているじゃないですかー。
この際だから、二人に話を切り出した。
「…別荘をつくる案は出ていたんです」
「「別荘?」」
これは、アテナとタコからの要望だった。
以前、ティアに「わたしの考えた初心者向けダンジョン」を書かせて以来、頼んでも無いのにアテナの上に乗ったタコがおれに改善案を持って来るようになってしまった。
もう、新しいダンジョンを作ってやれば静かになるんじゃねぇのかな? と押し切られ気味のおれである。
「前に、偽サウスティアを作ってしまった時に、土地の権利とかは気にしないで良いって言ってましたよね?」
「ああ、うん。私の手には負えない、管轄外の話だね」
「この旧ボーダーランド自体、魔王国とも帝国ともいえない場所なのよねー」
本来は領主や帝国の所有地であるはずの土地も、この地に限れば、誰の土地でもないような状況が続いてしまっている。
名目上は、クロスティア都市長や町長の管轄にはなっているけれど、正直なところ管理する余裕なんて無いというのが町長さんの本音である。
いっそおれが周辺地域に手を伸ばして、警戒網代わりになってくれるなら都合が良いと言っているくらいだ。
「それで次は、実験的にダンジョン二号店を計画中でして。
候補地についても、実はもう、いくつか目星はついてるんです……」
二号店といっても地下では繋がってるから、同じ店? …別館?
「なにそれ!? いいじゃない、二号店!?」
「いくつかって……まだ二号店、だけ、だよね……?」
「ごめんなさい、二号店は言い過ぎで、まだ実験段階ですね。
ダンジョンコアでどこまで作れるか、試作してみて情報を収集しておきたいな、程度の」
「あー、うん、好きにしてくれて構わないよ?」
それをふまえて、本題に入る。
「それでですね………もし、そっちの軍団がもう手に負えないようでしたら、いっそのこと、その別荘の方で始末しようかと」
「「!?」」
ダンジョン調査隊の悪夢、再びである。
具体的な作戦については、まだ何も考えてはいないのだけど。
すると、何かの琴線に触れたのか、ソニアさんが目をキラキラ輝かせて町長さんに詰め寄った。
「行きたい!! メイヤー! 『そっち』なら私も行って良いわよね!?」
「言いわけないだろソニア!? 君は『ダンジョン禁止』って約束しただろう!?」
実は元冒険者のソニアさんは、我が家にずっと興味津々だったらしい。
だが、たとえ蘇生ができたとしても、そんな危険な場所(※我が家です)に行かせるわけにはいかないと、町長さんは猛反対しているのである。
「何よ! まだダンジョンになってないダンジョンなんだから、良いでしょ!?」
「だめに決まってるじゃないか! ダンジョンはダンジョンだろう!」
わがままを言う嫁と、危険なことは許せない旦那。微笑ましい光景ではある。
…でも二人の会話を聞いてると、はたしてダンジョンとは何か? いったいどの段階からダンジョンなのか? 少し混乱してしまうのだった……
「…そして我が家とは……?」
「ちょっとアルジィ君!? 君もソニアを止めてくれよ!」
「ちょっとアルジィ君! あなたもメイヤーを説得してよ!」
……犬も食わないから、よそでやってください。




