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ダンジョンの外の戦い(3)


 サウスティアの街の酒場兼宿屋で兵士達と冒険者達がケンカしていた理由は、酒場の店主から聞くことができた。


 冒険者達が宿泊しているのにも関わらず、帝国からやってきた兵士達が「この宿は我々の貸し切りとする」なんて主張し始めた。

 予約とかしていたわけでもなく、いきなりやってきて、問答無用で退去命令である。


 それに対して冒険者達も当然怒った。

 そんな横暴は認めないし、なにより「お前らのせいで昼休みの放送(=ティアちゃんのドキドキ勇者タイム)が中止になったの知ってんだからな!?」と激怒した。 …おもに、後者の理由で冒険者達は荒れていた。


 最初は怒鳴り合い、それから殴り合い、やがてイスの投げ合いへと、本気のケンカへとエスカレートしていった。


 仮にも、兵士達は帝国からやってきた軍属だ。

 その辺の冒険者風情(ふぜい)に負けることなど無い……と、完全に(たか)をくくっていた。


 ところが、冒険者達は強かった。

 魔物相手の専業戦士というのが一般的な冒険者に対する共通認識なのだけど、どういうわけか、サウスティアの冒険者達は恐ろしいほど「対人戦」に慣れていた。


 驚く兵士達に対して、ティアを奪われて(※別に誰も奪ってない)怒り心頭の冒険者達。

 兵士の圧勝で終わるはずが、戦力はすっかり均衡(きんこう)、あるいは冒険者側がやや押し気味になってしまい……



 …ついに兵士が、腰の剣を抜いた時に、どうにかおれが間に合った。



 あとは適当に、全員倒した。

 倒したは文字通りに、横倒しにしたり転倒させたり。



 さすがに店にも迷惑をかけたので、全額おれ持ちで酒宴を開いて、店主に対しては謝罪した。


「ご迷惑をおかけし、申し訳ございません」


「アルジィさんは気にせんで下さい。

 冒険者たちが集まる酒場なんて、まー、こんなもんでしょ」



 そんなおれの謝罪の、(した)()(かわ)かぬ内に、今度は「謎の薄着の女神官」と「ごつい大男二人」を酒場の店主に押しつけることになってしまった。


 おれの家に運ぶかどうかも迷ったけれど……結局、この街で唯一の宿屋の方を選んでしまったおれだった。

 男二人はともかくもう一人は、ダンジョンという魔物の巣に連れていくのは問題があるので。


 そんなおれに、やっぱり店主は優しかった。


「あー……まぁ、アルジィさんは気にせんで下さい。

 たしかにサウスティアじゃ珍しい話ですが、大都市なら、まぁ、こういう事件もあるもんです」


 そして、この女神官のためにもあまり大ごとにはしないであげて欲しいと店主が言った。

 どうやら店主はこういう()め事にも慣れているようだ。本当に(ふところ)が深い街である。



 ついでに店主にいろいろと聞いた。

 あの兵士達は、あれから酒場で問題を起こしたりはしていない。

 だけど、今度は街の方でなにやら不穏(ふおん)な動きを見せているという。



 そもそもあいつら、まだ帰って無かったのか? という話であるが。




  ◆ ◆ ◆



「…にゃに、もるふぇ?」


「アルジィ、顔。怖くなってるよ?」


 モルフェにムニっと顔をつねられたおれは、帝国兵の駐屯地なる場所を遠巻きに(なが)めていた。

 街に彼らが宿泊する施設は無い。だから街から出た場所に彼らは陣地を作って宿泊している。



 そこには馬車が何台もあった。

 そしてこちらの馬車は「そり」だった──


 ──車輪とそりが半々くらい。軍用の場合はそりの方が「馬車の主流」だというのが町長夫妻から聞いた話。


 なぜならこっちの世界のそりは、魔術で「ちょっと浮く」からだ。

 魔術を使うならそりの方が性能が上。多少の左右の傾きならば、それも術式で持ち直すから転倒しない。


 さらに軍用ならば「圧殺術式」なるものまで搭載(とうさい)している。

 その馬車(?)が街道を進んでいけば地面を()()()効果もあって、道路整備みたいな役割を軍用馬車が(にな)っているのだとか。


 あとは、移動を補助する魔法の杖とかもあって、身軽な旅ならそちらを使う。


 さすが魔法がある世界だなー、なんて思ったのだけど、馬がいない『自走車(つまり自動車?)』はあまり人気が無いらしい。

 それは馬が動力というよりも、護衛の一人として周囲を警戒してもらう役割があるからで──



「──それはさておき、あいつら早く帰らねぇかな?」

「アルジィ、また顔」


 モルフェの手がそーっと伸びてくる前に、自分で顔をもみ直す。


 ティアを馬鹿にしたり酒場で暴れたり、悪い意味で大活躍だった帝国兵は(いま)だに帝都に帰っていない。

 名目上は「勇者ティアとの面会」だったはずなのに、理由もないのに居座っている。


 一体なんで? ということで、休日の今日、モルフェと様子を見に来たのだが。


「…分かんないし、街に行こうか」

「うん、そうだね」




 そして街に行ったら行ったで、また帝国兵の姿があった。


「アルジィ、顔」

「…むぃ」


 モルフェにムニっとつねられてると、こちらに気付いた二人の帝国兵が「おーい、君達!」と声をかけながら走って来る。


 …いつものおれなら「あ、急いでますから。あ、あ、ほんとに、祖父の命が」くらいのことを言って逃げ出すのだけど……今回は事情を知っておきたいので、どうにかその場に踏みとどまった。


「アルジィ、その笑顔はちょっと」

「うるさい」


 おれの会心の笑顔にビクッとした失礼な帝国兵たちは、それでもおれたちに、何やら怪しげな勧誘を始めて来た。


「あー、アナタハ神ヲ信ジマスカ?」

「おい、黙れ。ああ、ちょっと君達、時間があるかな?」


「ありまー……さ?」


「さ? …えっと。

 俺達はいま、邪神についての情報を集めているんだ」


 うん、いきなりアウトっぽいやつらが来たな?


「あー? えっと?

 邪神……邪神? それって、どんな神様なんです?」


「あ? 邪神つったら、邪悪な神に決まってんだろ!?」

「おい、だから黙れって!」


「はぁ。えっと、それなら邪神の信徒って、具体的にどんな悪い人達なんです?」


「だから、邪悪な神を信じて」

「具体的に、何が、邪悪なんです?」



「「………」」


「あ、ほら、どんなことに気を付けたらいいのか分からないと、対処のしようが無いというか?」



「あ、ああ。そうだよな。うん。

 …邪神の信徒は、あれだよ……うん、なんだ?」


「それはおめぇ、目付きが悪くてよぉ」

「私ですね?」


「悪いことばっか考えててよぉ」

「私、でしょうか?」


「…そんでもって、あれだ……凶暴で」

「…私がわりと、該当(がいとう)しますね?」

「大丈夫! ほら! こいつだって全部該当するから!」


 なんだかちっともフォローになってない兵士に、おれは返す。


「た、大変だ……私、どこかの偉くて邪悪じゃない神官様に、しつこい油汚れみたいに浄化されてしまうのでしょうか……!?」


「い、いや! 大丈夫だから! そのために英雄神がいるから!」


 また、おかしなキーワードが出て来たんだが?


「…では、その英雄神様は、一体どんな方なんですか?」


「それはおめぇ、立派な神様でよぉ」

「具体的に、どう立派な方なんですか?」


「それは………悪い(やつ)らを沢山ぶっ殺して?」

「ふむふむ。ぶっ殺して、それから?」


「…ぶっ殺したんだよ」

「殺人鬼ですね?」


「おい、だからおまえは黙ってろ!

 いや、だから英雄神は偉大な神で、具体的には……具体的に? あー、あれだ……なんだ?」



「「………」」



 うん、すごいな。つい、モルフェと顔を見合わせてしまった。

 これで宗教勧誘しようとか、ある意味、もう無敵である。

 論理がないから、論破される心配がない。



 すると今度は、向こうの方からまた別の声がかかってきて、


「おい! お前ら!」


「チッ、めんどくせぇ奴が来た」

「ああ……君達、よろしく頼むよ?」


「はぁ…」


 そしてあっちの方からやって来たのも……やっぱりまた、帝国兵だった。


「君達! すまない!

 あいつら、おかしなことを言っていたかもしれないが、あまり気にしないでくれ!」


「はぁ…」


 今度は何の勧誘か? と思えば、彼はその勧誘を阻止する活動をしているようだ。


 具体的には街をうろうろしながら、住民のお手伝いなんかもしているらしい。


「ほら、俺達はなんていうか、帝国の民と仲良くしたいからさ」


 …こっちの人はわりとまとも……のようで、ちっともまともじゃない。


 軍人の仕事は有事に備える事である。

 ここで災害復興支援とかならともかく、平和な街で雑用のお手伝いとか、彼らが「勤務時間中に」やるようなことでは無い。


 時間があるなら、有事に備えて体を鍛えるか休めるかしておけ。

 休暇中? それならサウスティアから早く出て行け! という話だ。


「…あー……、なんと言いますか、さっきの人たちの分まで名誉挽回したい、ってことなんでしょうけれど……」


「分かってくれる!?」


「それなら、街の中では無くて、あの駐屯地? 自分たちの陣地の中で話をつければ良いんじゃないですか?」

「………」


 おれの疑問に、兵士は気まずそうに視線をそらす。


「…それは、団長閣下が………あっ!? では私は、これで!」


 言うだけ言って、立ち去る兵士。


 彼が最後に視線を向けた先からは、この街の住民が一人、ゆっくりとこちらに向かって歩いて来ていた。

 街で食品店を経営しているお(じい)さんだった。


「モルフェちゃんにアルジィくん、大丈夫だったかい?」


 彼はおれたちの姿を見て声をかけに来てくれたようだ。

 最近あんな感じの変なやつらが増えているから気を付けなさいという話だった。


 それと、なぜあの兵士が逃げるように去って行ったかというと、


「なんでも、彼らの間では『サウスティアの老人には近づくな』って話になってるようでね?」


「……ナンデデショウネ?」

「………」


 モルフェの視線がぷすぷすと刺さるように感じたのだった。




 それからモルフェと二人で街を歩くも、さっきの兵士達みたいなやり取りをさらに二回くらい繰り返した。


 あんなやつらがいるせいなのか、街でみかける住民の数もいつもより少なく感じている。


「………」


 あまり顔色の良くないモルフェの(ほほ)をムニっとつねる。


「…にゃに、あるひぃ?」


「…邪神がどうとかは、君が気にするような話ではないからな?

 ……にゃんら、もるふぇ?」


「アルジィが気にすることでもないんだよ?」



 この日おれたち二人は、帝国兵を見かけるたびに、互いのほっぺをムニムニしあったのだった。



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