すてきな仲間達
◆ ◆ ◆
突然だけど、おれの新生活をサポートする素敵な仲間達を紹介するヨ!
夢魔が二体だ。
ヨロシクネ!
◆ ◆ ◆
…最初におれがこの世界の、我が家予定地にファーっと降臨してきた時になんだか二人が目の前にいた。
「あ、あの。はじめまして」
「………」
「あ。うん? はじめまして?」
性別不明の全身包帯の子と、黒いワンピース姿の女の子だった。
おれを手助けするためにクソ神の手によって送りこまれたのだとか。
先に挨拶してきた性別不明のほうは、声からも包帯姿からも分からなかった。
なんとなく中性的な美男美女っぽい気配もあるけど、それよりも全身ミイラみたいな姿がとても痛ましい。
…しかもよく見ると、包帯になんだか呪文っぽいものが書いてある。こうなってくると別の意味で「痛い」属性が増えてしまう。
もう片方の無言の子は、お人形さんみたいな女の子。
美人だ。腰まである銀の長髪。漆黒のワンピース。妖艶さがなんだか日本刀の刃文を連想させるようで。
…それらを台無しにするのがみょいんと主張する前髪のクセッ毛。寝ぐせか? あと服の袖口がなぜかボロボロ? こっちも妙な属性が多い。
つまり怪我人と、おもしろ幼女である。
とりあえずおれは、キレた。
「フフッ……ハハハ。
私を手助けするために、あのクソ神が送り込んできたのが、怪我人と、子供?
すごいじゃないか、どうしてこう私の、逆鱗にふれるような真似を、次から、次へと……」
「待って! 違うから主!」
それは違うと包帯さんがおれを止めた。
全身グルグル巻きなのは、怪我ではないけど「体が崩れるのを防ぐためと、隠すため」だそうだ。
それにそっちの幼女は実は結構な年齢らしい。
「………」
「えっ、アーセナちゃん!? そこはちゃんと説明しないと話がこじれちゃうから!?」
無言で抗議する幼女(幼女じゃない)。包帯さんはその通訳も担当するらしい。大忙しだ。
あと説明によって謎と不安がよけいに増えた。すでにお腹いっぱいだ。
「…ご、ごめんね? ボクたちがお手伝いだと……不安、だよね?」
「不安以前に、まずはあなたは、ちゃんと体を休めてください?」
そんな彼らがなぜやって来たのかといえば、彼らの能力がおれを助けるのに向いているからだと説明してくる。
他の世界、異文化からこちらへとやってきたおれの「記憶を共有できる」彼ならば、おれの考え方や願望について正しく理解して共感できるという理由、なのだとか。
「神様でもなんでもできるわけじゃなくって、ボクじゃないとダメみたいで」
余談だけど、おれの方にもこっちの世界の必要最低限の知識は事前導入だか同期だか(?)されているそうだ。
こっちの文字や言語も、読めば多少は理解はできるらしい。
もう、何がなんだか……
…眉間に指をあてる、おれのクセ……なんだけど、眼鏡が無かった。
そのまま頭をおさえているおれに、彼は続ける。
「…ボクがたまたま、そういうのが得意なのもあるんだけど」
「…そういうの?」
少し混乱気味のおれに、彼はちょっと言い辛そうに付け加えた。
「ボクがやってたお仕事が、その、それ関連で」
「それ関連?」
「えっと……人の願いや……欲望、を夢の中で見せる、みたいな?」
「………」
「えっとね! あんまり良い印象はないかもしれないけれど! ボク、がんばるから!」
……人の欲望を夢の中で見せる魔物。
つまり夢魔。
別名、淫魔(男ならインキュバス)とも呼ばれている。
「ハハッ………そうか、そうか。
私を手助けするために、あのクソ神が送り込んできたのが、怪我人と、幼女の、夢魔!?」
「待って! 神様は悪くないから!
あとボクは夢魔じゃ……だいたい同じだけど!? 違うから!」
「おまえもおまえで、さっきから否定派なのか肯定派なのか、はっきりしろ」
怪我人(怪我じゃない)、幼女(幼女じゃない)、夢魔(夢魔じゃない)、とおれの謎を増やすんじゃない!
良く分からない状況に混乱していると、悲痛なつぶやきが漏れ聞こえた。
「…やっぱり、ボクなんてもう……」
…………しまった。
やっちまった。
あっちがクソ神なら、こっちはこっちで謎のクソ異世界人だぞ? 自覚しろ。
そして目の前の二人は、そんな得体の知れないおれのもとに上からの命令で送り込まれてしまった被害者なんだぞ?
いきなり弱い立場のやつらをいじめてどうする!?
おれはあれか、新入部員や新入社員を楽しい交流と称していたぶる先輩上司か?
おれのやっているこれこそ、まさに悪魔の所業だ!
愕然としたおれは、すぐに頭を切り替える。
「…古来より」
「…?」
「色欲は悪だ罪だと取り扱われている一方で、豊穣の神と同格に性欲や子宝の神が大切にあがめられてきた。
なぜなら、子孫がいなければ村や国が滅ぶからだ。
七歳までは神のものと言われるくらいに子供の生存率が低かった古来から、飢えや病気で人がバタバタ死ぬ状況がいまだ改善されない現代においても、子宝を願う神の存在は必然と言って良い!」
「!?」
「………」
「その一方で悪魔や邪神といったものの多くは、戦争に勝った側の勢力が負けた側の勢力の神々や文化を貶めた結果である。
神は、善でも悪でもなくひとえに、人のわがままの産物だ。
つまり、考え方は人それぞれで、神や宗教とはそういうもの、ということだ」
「「………」」
「…つまり、君はなにも悪くなんて無い。
正しいも間違ってるも無く、ただ君は君だ」
「あ、ありがとう、主?」
「………」
だめだ、ぜんぜん足りてねぇ。必要な言葉はこれじゃない。
「ありがとう!! よく来てくれた!!
おれは、そんな君たちに出会えて本当に、マジで、うれしい!!」
「「!?」」
気のきいたことが言えないおれは、勢い任せでとにかくもう、思いつく限りの言葉で褒めまくった!
おれはうれしい、君たちを待っていた、夢魔サイコー! と一生懸命彼らを肯定しまくった。
おれの文化や考え方を理解できる助っ人はありがたい、おまえの包帯はカッコイイ、そっちの幼女もかわいい、ほぼ脊髄反射で賛美の言葉を口から次々に垂れ流した。
おれは君たちが大好きだ、君たち無しでは生きられない! と自分の心を染め上げながら、二人を全力で受け入れた。
最後は、三人で力強く抱きしめ合った。
「ボク、主のためにがんばるよ!」
「………」
…おかしい。
なんだかまた初手から間違えてしまっている気がしてならない。
二人とハグしながら、おれはふと思い出した。
実はおれ、休日はいつも一人で過ごす派だった、と。
ぼっちの方が、安らぐのだ。
サボテンの鉢植え一つくらいが人生のパートナーにはちょうど良い。
…二人に抱きしめ返されながら、あー、ハグって温かいものなんだなー、と心を無にしたおれだった。
その場の流れで、包帯ボクっ子がおれに名前を付けてくれと頼んできた。
断れる雰囲気じゃなかったから、良く分からないがそれに応じた。
サキュバス……だと直球過ぎるのから、どこかの神話の「モルフェウス」から取って『モルフェ』と名付けた。
あと、無言で追加を要求してくる黒ワンピース少女……おまえ、さっきアーセナって呼ばれてたよな?
こっちのほうには……『アテナ』と名付けた。
神の名ではない、前髪に「アンテナ」がはえてるからだ。
こうして夢魔二体(?)がおれの仲間になった。
どうだ、すごいだろ?
おれ、夢魔、夢魔の三人編成。
桃太郎から三蔵法師まで裸足で逃げ出すであろう無敵のフォーメーション(?)である。
…ついでにおれは、主と呼ばれそうな流れだったから、以後は『アルジィ』という名前で呼んでもらうことにした。
やけくそである。
おれもなんだか若返ったとか、メガネが無いとか、髪の色は灰色になったとかいろいろイメージチェンジしたらしいけど、あんまり確認する気力が無かった。
まだなにもやってないのに、もう疲れた。
…そしてこの、およそ三時間後。
おれは町長の家でダンジョン調査隊の隊長を、縦に一回転させた。
初日からもう、めちゃくちゃだった。
ようやく三人そろって、(ボケ兼ツッコミ役もでてきて)ここからが本番になります。
主人公の性格がアレなのでわりと危うい会話もあるかもですが、基本的にハッピーエンドのコメディです。
次話あたりから、皆の本性が少しずつ現れてきます。
伏線はとくに隠してません。ちょっと話数多めの予定で、回収は遅めです。