新戦力と変わらぬ日々(前編)
その日の日替わりダンジョンは【鏡だらけの日】。
床も壁も鏡だらけで進行方向を惑わせる迷路の日だ。
このダンジョンは【だまし絵の日】と並んで、とても人気(?)が無い。
不評の理由として「いつ穴に落ちたのか」「なぜ穴に落ちたのか」が分からない、というのがあるらしい。
相手を騙すという罠の性質上、たしかにそうなる。
そして道が分かりづらくて、覚えづらい。
分からないし、覚えられない、対策のしようがないのが不人気の理由なのだろう。
ちなみになぜか人気があるのは【らせん坂の日】。
一本道の単純なダンジョンだからなのだろうけど……この日は「おれに」最も人気が無い。理由は「見るにたえない」から。
さておき、【鏡だらけの日】。
対策のしようがない、と思われがちだが、その罠の傾向は単純だったりする。
罠へのはめ方は「目が慣れた頃に裏をかく」だ。
実は、鏡に映る『映像』の内容を現実と少しだけずらす仕掛けが仕込んである。
つまり、部屋中にあるそれは実は『鏡』ではなく、『動画』であり『ニセ画像』である。
視覚として入ってくる以上は、それを見てしまうし信じてしまうのが人の性だ。
そこで、タイミングぴったりに飛んだはずの穴の位置、そして自分の動きが、現実のものとはちょっとだけズレてしまっていたならどうだろう?
そういう風に『偽造した景色』を見せて感覚を無意識に狂わせる。
そこにさらに床の高低差や勾配も、分かりづらいくらい、ほんの少しだけズラしておく。
結果、冒険者たちがつまずいたり、足を滑らせたりしながら穴に落ちる。
なぜか体勢を崩して、なぜか床に手が届かず、「なぜ!?」という顔で落ちていく……
彼らが落ちていく穴が毎回同じ場所というのが、誰もこの仕組みを見破ることができていない証明だった。
不人気なのも仕方がない。ある意味、狙いどおりのダンジョンだった。
「鏡の日は、あぶないです」
昼休みの放送に備えたのか、ティアも早めにボス部屋に来ていた。
いつものように首にはソリューも巻き付いている。
「…つまり、見なければ良いのだろう?」
「そうだな」
ソリューはたぶん、ヘビのように温度探知とかの視覚以外の情報を得ることもできるのだろう。
そのソリューがティアの『中に入れば』、ティアでも攻略できる……と、までは思わなかったようだ。
「いや、違うな? おぬしがそれで終わりなわけが無かろう」
「おっと、察しが良いじゃないか」
そう、それこそヘビやコウモリのように、熱や超音波をつかっていろいろ感知するような魔法が存在してもおかしくない。
だから後半は、踏むと床ごと落下する場所とかもちゃんと用意した。
「……本当に次から次へと、極悪なやつめ」
「でも、それだって最初は見れば分かるように、落ちる床の色や見た目は変えてある。
だが後半は、進むにつれてその色も徐々に薄くなっていって……よく見ないと分からない、よく見れば混乱する、そういう仕組みでつくっている」
「おぬし、最低じゃな」
「誉め言葉として受け取っておこう」
親切なダンジョンなど、あるものか。
…と思ったけど、よくよく考えればそれはおかしい!
「…いや、違うだろ! むしろ親切すぎるくらいだぞ!?
だいたい、入る前から『落下オチ』って分かりきってるダンジョンなんて、うちくらいだろ!?
なのに、なぜ落ちる!?
これほどまでに親切設計なダンジョンの、その施工主が、さらに親切に攻略法まで伝授してやろう!
足元にッ、気をつけろ! 以上だっ!!」
「………」
「はい! 気を付けます!」
「納得するでないぞティア? そなたはやめておけ」
「そ、そうですね、やっぱり鏡の日はやめておきます」
思わずおれもティアにツッコむ。
「…他の日もやめておかない? ティア?」
「それは………ダメです!」
鏡の日はあぶない、ではない。毎日が危ないダンジョンなんだ、うちは。
だから営業時間外にアテナと一緒にダンジョンで遊ぶのはやめて欲しいのだけど……「それはダメ」らしい。
悩ましい問題である。
そして昼休み、ティアがタコと一緒に、いつもの放送をやる。
『みなさーん、こーんにーちはー♪
ティアちゃんのドキドキ勇者タイム、
はっじまっるよー♪
……や、やっぱり、これ、恥ずかしいです……』
『そこは大事な部分なので、ぜひ、がんばってください』
このダンジョン内放送、なんだか冒険者たちにカルト的な人気が出始めているらしい。
中にはこの放送を聞くためだけに、無理してダンジョンまでやって来るやつまで出て来てしまっているようだ。
うちは一撃必殺型のダンジョンだけど、【らせん坂の日】に転げ落ちたけど生き延びたやつとか、ふつうに怪我人も出ているわけで……そういう体調不良のやつまで放送を聞きにやって来るという、困った事態が起き始めている。
その対策として、放送はダンジョン入口でも流すように変更した。
あまり出入り口にたむろさせるような習慣は、一般の通行人(?)の迷惑になるからさけたかったのだけど……昼休みだけは特例として目をつぶることにしておいた。
だからもう、落とし物センターのスライムさんに「街でも聞けるようにしてくれ!」と直談判するのはやめて欲しい。
言ったところで、そいつらはプニっとか、ムニっとかしかしないだろう?
あきらめろ。
…そういう『クレーマー対策』として、わざとスライムさんを受付に配置しておいたんだ。
言いたいことがあるのなら、【いきなりボス部屋の日】に直接、おれに言いに来い。
あと、街でも聞けるようにする計画は、実はある。
クロスティアの勇者であるティアに人気が出ることは良いことだから、後押ししたいとは思っている。
ただ、時期が悪いんだ。
町長さんからの情報で、帝国から勇者ティアとの面会を「かなり強引に」要求されているという話があるそうなので……そっちの件が片付いてから、街での放送は検討したい。
お昼の放送を終えたティアは、少しおそい昼食をこのボス部屋で食べて、そのまま午後の業務に移った。
「では、くれぐれも頼むぞ、ティア」
「は、はい! がんばります!」
重要な任務。それは「アテナの監視」である。
どこで何をしているか分からないあいつを捜索し、監視し、そしてできればやり過ぎる前に止めて欲しい、という重要な任務である。
「すなおに一緒に遊んでおいで、って言えばいいのに」
「それはダメだモルフェ、ティアはともかく、アテナが図に乗る」
そう言ってるそばから、その日の午後。
斥候担当スライム用につくった調査通路を使って、巨大スライムに乗ったアテナが、はるか南へと旅に出ようとするところをティアが止めてくれたようだ。
ティアには良くやったと、いっぱい褒めておいた。
アテナには、おまえその通路はスライム用なんだから小さくて通れないだろあきらめろ、え、広くしろ? だから防犯上、侵入経路にもなりかねないから無理だ! と、前も言ったはずの同じ説明を繰り返した。
そこにタコがやってきた。
「アテナ様は、別荘の候補地に興味があるのではないですか?」
「………」
「…おまえ、いま適当に相づち打っただけだろう?」
別荘候補地というのは、もし「2つ目のダンジョンをつくるならどこにするか?」という話を以前、食事の時にうっかり口にしてしまった話題である──
──周辺の地図や地形を調べるためにスライムを派遣しているのだけど、そのついでに、街やダンジョンから避難するならどこにするかも調べているという流れで、つい、別荘についてもしゃべってしまった。
実際、「偽サウスタウンの街」は常に3つくらい、作ったり消したりの実験を繰り返している。
ダンジョンコアもその作業がすっかり慣れてしまっていて、今となっては一晩あれば、街へと続く「昔から存在しているっぽい街道」までセットで作り込めるようになっていた。
この話に、タコとアテナが反応した。
特にタコが、興味を持った。
この二人はまだ、ティアに出した課題である「私の考えた新しいダンジョン」の件を引きずっていた。
おれがもし第二のダンジョンを作るのならば、タコとアテナが考えた「ちっとも初心者向けではないダンジョン案」も採用してもらえるのではないか、と思ったわけで──
──という話をふまえて、タコが続ける。
「それできっと、アテナ様も一度くらいは、現地を視察してみようと思ったのでしょう?」
そんなタコの指摘に、おれもアテナの反応を待ってみるが……
「………」
「…どうやら、その話自体、覚えてないようだぞ?」
「おやぁ!?」
この子はただ、おれに禁止されたスライムをこっそり乗り回したいだけなのだ。
まだタコは、アテナの自由っぷりを理解できていないようである。




