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地域密着型ダンジョンマスターと冒険者達(3)


 ◆ ◆ ◆


 その日、いつも通りに朝いちでダンジョンへと向かったはずの冒険者達。


 ところがそこに街の住民が助けを求めて走って来て、ダンジョンマスターが出てきて、今日はそのまま森へと向かうと彼は言う。


 なんとなく、それについていった冒険者達。

 すると、森で待っていた『腕千切りのソニア』に、魔物の討伐を手伝えと言われてしまったのだが。



「え、ちょっと待って下さい!」


 そんなソニアを止めたのはダンジョンマスター。


「勝手に連れて来ちゃったのは私なので、ここは私が……」


「そんなの気にしないで良いのよ!

 それに冒険者がダンジョンマスターに報酬もらったらマズいでしょ!?」


 すっかり仲が良さげなダンジョンマスターとソニア。

 まるで酒場の支払いで「ここはおれが!」みたいことやってる先輩冒険者のようなやり取りだ。


 そんな二人に、冒険者の一人が口をはさんだ。


「…おい、それなら、報酬はその炎狼と氷狼の素材の山分け、ってことでどうだ?」


 その提案にソニアも乗った。


「あら! そうしてもらえると助かるわね!

 …あー、でも、素材にするなら上手に斬らないと、大したお金にはならないわよ?」


「そうなんですか?」


「そうなのよ。

 たしかに毛皮は高値がつくこともあるけど、傷がつけば価値が一気に下がるし、そこそこ(かた)くて斬りづらいのよ。

 その上、炎狼みたいな魔物は死んだ瞬間から劣化が始まるはずだし。

 だから、仕留めるのが面倒なのよねー……」


 ソニアとダンジョンマスター、そして冒険者も加わる会話の中に、さらにもう一つの声が増える。


「お困りですか?」


「あ、おい、出て来るなタコ!」


 ダンジョンマスターの腰鞄(ポーチ)からニョロリと現れたのは、「声だけは」冒険者達にはもうすっかりおなじみの、お昼休みの放送で勇者ティアの相方として活躍中のアイツだった。


「た、タコさんだ……」

「初めて見た」

「本当に、しゃべるタコだ……」


 その様子に、ダンジョンマスターは頭を押さえた。


「ハァ……もう出て来ちまったなら仕方ねぇ。

 おまえ、あの時の地面からブワッと出てくるアレで、また狼たちを一網打尽にできないか?」


「アレは、まだ生きている相手に使うのは、ちょっと……」


「「(地面からブワッと……?)」」


「…ですが、代わりに武器に属性付与(エンチャント)するのはどうでしょう?

 そちらの『バールのようなもの』を出してくれますか?」


「これか? どうするんだ?」


 するとタコは、ダンジョンマスターの持つ鉄の棒に、ブワッと黒い霧を吹きかけた。


「おい!? なに人の武器にスミ()いてんだよ!?」

「炎や氷に負けないように、闇属性を付与しました」


「「(闇属性!?)」」


 不気味な単語が飛び交う中で、三人はとんとん拍子で討伐の準備を進めていく。


「…それなら、こっちの(ひも)の方にもかけてくれ」

「ああ、それがあの『人に向けて投げちゃいけないオモチャ』ですね?」


「面白そうね? 私も頼んでいいかしら?」

「ええ、もちろん」


 ダンジョンマスター、腕千切りのソニア、謎のタコさん。

 異色の三人パーティーの戦いが、冒険者達の前で始まろうとしていたのだった。






 冒険者達は彼らを遠巻きにとり囲むようにして見学……ではなく、待機していた。


 彼らはただ見ていたわけで無い。

 狼達を一匹も逃がさないように取り囲むという重要な役割をソニアに割り当てられたのである。


 だが、決して足場が良いとは言えない森の中で、自由自在に暴れ回る二人の活躍を見てしまうと………下手に加わって足を引っ張るよりも、大人しく待機に回って正解だったというのが冒険者達の本音だった。

 それほどまでに、二人の戦いは(すさ)まじかった。



 剣士のソニアと武術家(?)のダンジョンマスター。

 戦い方のスタイルは違えども、分かりやすい共通点が一つあった。

 一撃必殺である。



 剣を振りまわしながら「属性付与って便利よね!」と楽しそうに狼たちを斬り伏せていくソニア。

 腕千切りなんて二つ名をもつ彼女だが、飛びかかって来る狼達の「首を斬る」のも上手かった。



 同じく恐ろしく強いダンジョンマスターだが、こちらの強さは文字通り「身にしみて」知っている冒険者達。

 あの釘抜きみたいな武器は初めて見るが、そもそも彼に「苦手な武器」は存在しない。


 彼は【ボス部屋の日】に、あらゆるタイプの冒険者達を倒して来た。

 特に「強い武器」をこれ見よがしに振り回して戦う者達からは高確率でその武器を「奪い取って」、持ち主以上の腕前で(ほうむ)り去ってしまうのだ。

 剣、槍、斧、弓、さらには魔術師の杖までも──本来の用途とは違う打撃武器としてだが、見事に使いこなしてみせてきた。



 だから、狼達を次々に倒す姿にも驚かない。

 …驚かないつもりで、いたはずだった。


「本当におまえの(すみ)のおかげで、燃えたり凍ったりしなくなったな?」

「便利でしょう?」


 生け捕りにされた狼達の口や足には、銅貨二枚を糸で結んだだけの「投擲武器(とうてきぶき)」が(から)みついている。


「…生け捕り? 炎狼と氷狼を、いけどり……!?」

「ダンジョンマスターって、実は【獣使い(テイマー)】だったのか……?」


 生け捕り、あるいは首をスパーン。

 意味の分からない活躍を終えた二人は、互いに感想を述べあっていた。


「やっぱり、こう何度も戦っているとさすがに慣れてきますね……」

「そうそう! 今回はあなたもいて、楽で良かったわー!」


「「………」」


 冒険者達は無言になった。

 二人の会話で、ふと気づいてしまった。



 実は彼らは、ダンジョンマスターに稽古(けいこ)をつけてもらっているようなつもりでいた。


 だが、もしかしてダンジョンマスターもまた、「俺達に慣れて」しまってきているのでは無いのだろうか?

 それどころか、よくよく考えてみればあのダンジョンマスターは、【ボス部屋の日】にはすべての冒険者達を「一人で」相手をしているはずで……



 …本当は、狼達と同じように、あの投擲武器なら生け捕りに……



 知ってはならない真実に、青ざめる冒険者達。

 そんな彼らの前で、ソニアとダンジョンマスターはてきぱきと話を進めていく。


「さて、この狼、どうしようかしら?

 …ハンス! いるんでしょ!?

 この狼、どうする? このまま運ぶ? それともバラすの!?」


 ソニアの言葉に、ダンジョンマスターが上を見上げると同時に、返事が上から降ってきた。


「…その数なら運べる」


 ハッとして冒険者達も上を見上げると、木の上に男が一人、立っていた。


「なにハンス?

 あなたなんで、そんなとこに居るわけ!?」


 驚くソニアに、猟師の男は不服そうに答えた。


「…狼たちをひきつけるためだ」


「そうだった!?

 …ごっ、ごめんなさいね? そんな役回り押し付けちゃって……フッ、アハハハ!」


「…運ぶための枝を落とすぞ」


「ちょ!? やめなさいよ! 枝を投げるな!!」



 木の上下で攻防を始める二人をよそに、一人と一匹は森の奥の方を見つめていた。


「……なぁ? あれが見えるのは、おれだけか?」

「あなたと私だけだと思いますよ?」


「なるほど。心が汚い者だけに見えるオバケか」

「いえいえ、魔力探知に()けた我々だけに見える、魔物の残滓(ざんし)です」


「どうしたの、ダンジョンマスターさん?

 ……んん? …私には何も見えないけど、確かに変な気配がするわね?

 ハンス!」


「…俺にも見えない……が、精霊と同じ(たぐい)の気配がする」


「「………」」


 冒険者達が互いに顔を見合わせる。

 彼らは誰も、何も見えなかった。




  ◆ ◆ ◆



 狼達の処理のために猟師の男と数人の冒険者達を残して、他の者達はダンジョンマスターとタコさんが「呼ばれている」という方角に向けて歩いて行った。



 たどり着いた場所は、森の奥にあった小さな洞穴(ほらあな)

 ダンジョンマスターが頭を抱えた。


「そうか、これかー……だから狼たちは呪いが解けたのに帰らなかった……帰れない事情があったのか……」


「あらあら、これは」


 氷狼の「霊」に連れられるように歩いた先。

 そこには……炎狼と氷狼の子供が一匹ずつ、眠っていた。


 この子狼のエサを求めて狼たちは徘徊(はいかい)していたのかもしれない。

 あるいは住みついた結果として子供が産まれた可能性もある。


 その様子にソニアは苦笑した。


「なるほどねー……でも、こればっかりは、ねぇ?」


 いずれにせよ、放置するという選択肢は無かった。

 他の獣ならばまだしも、この二匹は本来ここには生息しないはずの魔物である。


 このままうっかり成長してしまったら、この地域の生態系を(くず)しかねないし、やがてはサウスティアの街を襲う害獣にもなりかねないから……ここで殺しておくしかない。


 だが、冒険者の一人が申し出た。


「な、なぁ、ソニア、さん?」

「ん? なに?」


「これって、おれたちで使役(テイム)できねぇかな……?」


 その言葉にソニアは「領主夫人」として少し考える。


「ん? …んー……。

 …まだ子供だし、できないことも無いんじゃない?」


「ほ、本当か!?」

「じゃ、じゃあ! おれたちが!」


 ソニアからの少し意外な返答に冒険者達は驚いた。

 だが、さらに想定外な方向から待ったがかかる。


「待って下さい。

 ペットを飼うのは大変ですよ?」


 それは「魔物側」ともいえるはずの、ダンジョンマスターからの警告だった。


「それが可愛(かわい)らしい子犬なのは今だけです。

 食うもの食って、出すもの出して、その処理も大変。

 エサ代はかかるし、ペット禁止の場所だって沢山あるはずです」


「…そ、それくらいのことは分かってら!」


 そこからさらに「分かってなさそう」なことにまで彼は踏み込む。


「それに問題は育ったあと。

 うっかりそれが街の人を襲えば、すべてあなた方の責任ですよ?

 飼えなくなったと森に放つなどは論外。

 それが脅威となる前に、大事に育てて来たその命をあなた方の手で……()り取る覚悟も、ありますか?」


「「!?」」


 一度捕まえた魔物を再び野に放つなど論外。

 それは村落を滅ぼす脅威へとなりかねない。


 冒険者組合の新人講習で、眠りながら聞いて怒られた「冒険者の心得(こころえ)」。

 まさかそれを、よりにもよってダンジョンマスターから言われて思い出すことになるなんて……


 …完全に忘れていたし、そんな覚悟など欠片(かけら)も無かった。

 言われて初めて気が付いた、思い出したような話だった。


 だが、だからこそ。

 冒険者はかえって意地になって返してしまった。


「い、言われなくても分かってらぁ!

 分かってて、育てる! それで良いんだろ!?」


「お、おい!?」

「落ち着けって!」

「お前、本気か!?」


 その言葉にダンジョンマスターも静かにうなずく。


「…ええ。約束できるのなら、私からは何も」


 仮面で表情は見えないが……その優しい声色はなぜか、彼が微笑(ほほえ)んでいるような気がして……


 そのやりとりを見守っていたソニアは、ニヤニヤしながら指摘した。


「あらあら、それなら、その子達が大きくなる前に、あなた達は強くならなくちゃね?」


「「!?」」


 …しまった、そっちは完全に盲点。

 大人になった炎狼、氷狼を単独(ソロ)で倒せる冒険者に、俺達が……なれる、のか……?


 顔を引きつらせた冒険者達に、タコさんが陽気に告げたのだった。


「これはますます、【いきなりボス部屋の日】に鍛えてもらうしかありませんね?」


「そこで、あとはおれ次第ですね? みたいな振り方をするな、暗黒タコ」





 そんな色々なことがあったその日の夜。


 いつもの酒場兼宿屋に冒険者達が行くと、なぜかその日から急に宿屋の地下に「使い魔専用、(あずか)り所」なるものが営業していた。


 基礎工事も無くいきなり地下に増設された、土魔術の使い手もびっくりな地下施設。

 しかも従業員として受付に座っているのはスライムである。


 一体どういうことなのか?

 冒険者達はこぞって首をかしげたのだが……


 森から戻って来たという冒険者達が二匹の珍しい子狼を抱えている姿に、皆が納得した。

 その経緯(いきさつ)まで聞いてしまえば、地下施設を作ったのが一体「誰」なのか、それは確信へと変わってしまう。



 サウスティアの街の下までダンジョンマスターの支配圏なのか? なんて野暮なことは、もう誰も口にはしない。



 ここの冒険者達はただ、サウスティアの街もダンジョンも気に入っていて、そして「秘密」には口が堅い。

 それだけで、十分だった。



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