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地域密着型ダンジョンマスターと冒険者達(2)


  ◆ ◆ ◆


 サウスティアの街の裏山に新しいダンジョンが発見された。


 だが、そこを経験したという冒険者達の話を聞いても、とても魅力のあるダンジョンのようには思えなかった。


 推定されるダンジョンの規模は小さく、魔物も少なく、宝物も無い。

 採れるものといえば、魔氷のみ。

 魔氷自体は珍しい品だが、それだけとなると……他には無いのか? と疑ってしまう。


 そのくせ「必殺の罠」ばかりが待つという、こうなってくると行く価値など皆無、と評価せざるを得ないようなダンジョンだった。


 なのに、冒険者の多くはそこの常連になってしまうという。


 もちろん全員がそうなるわけでは無い。

 二度と行くか! という者達だって少なくは無いが、それはそれで、反応が両極端なのがとても気になる。


 一体何が目的で、「常連」達はそんなダンジョンに通うのか?


 おそらくは「少ない魔物」というのが実は希少種で、良い素材でも取れるのだろう。

 それぐらいしか思いつかないし、そういう話は珍しくもない。


 そう予想をつけた他の冒険者達が、希少種ならば口を割らないであろう「サウスティア組」から、どうにかそれとなく話を聞き出そうとする。


 サウスティアのダンジョンには一体「どんな魔物がいるのか?」。

 その質問への答えは、皆、口をそろえてこうだった。



「…迷宮主(ダンジョンマスター)?」



 馬鹿にしている、はぐらかされた、ダンジョンにダンジョンマスターがいるのは当然だろう! と聞いた者達は(いきどお)ってしまった。


 だが、五人に聞けば五人ともが首を(かし)げながら、同じ回答を返してくる。

 どうやら本気で言っているらしい。


 さらに親切な者達は、()しげもなく情報をさらしてくれた。

 数日に一回は「入ってすぐにダンジョンマスターに遭遇(エンカウント)できる日」があるだの、まだ誰一人としてダンジョンマスターには勝てていないだの、蘇生費用が銀貨一枚だの、殺意が高いダンジョンだから気をつけろ、だの。


 一体、どこまで本当の話なのかは分からない。


 だが、複数人に話を聞けば、話の内容に矛盾はない。

 むしろ話に矛盾があるのは「二度と行くか!」と言っていた連中が声高に主張している、サウスティアの街やダンジョンについての悪口の方ばかりだった。


 聞けば聞くほど謎は深まる。

 それならおれが確かめて来てやる、なんて先輩肌(センパイはだ)の中級・上級冒険者達がサウスティアへと意気揚々(いきようよう)と向かったりもするのだが……



 その後、「しばらくこっちでがんばる」というちょっと神妙な感じの謎の連絡だけよこしたきり、そのまま帰って来なくなる。

 それに対して冒険者組合クロスティア支部までも、そうですか、と何の疑問も無いかのようにあっさり了承してしまう。


 冒険者組合がそのダンジョンを放置しているのは、いまだに死者がゼロ人という、それはそれで不気味な理由以外にも、何か事情があるようなのだが……



 とにかく、そんなサウスティアのダンジョンとその冒険者達。

 謎は謎のままに、それでも静かに確実に、かのダンジョンは一部の冒険者達の心をつかみ続けているのだった。




 ◆ ◆ ◆



 今日も朝8時という開店前(?)の早くから、冒険者達はダンジョン入り口に集まり始めていた。


「…あー、最近ちょっとおれ、死に過ぎた……このままじゃ、財布がヤベェ」

「サイフよりもおまえ、悪夢の方を心配したらどうだ?」


「だからだよ。そろそろ講習会受けるために銀貨十枚ためないと、ホントにヤベェんだ」

「死に過ぎだ」


「今日は、今日こそは第二非常口あたりで引き返して魔氷を持ち帰る……!」


「…お前みたいな(やつ)賭場(カジノ)で見たことあるぜ? 次こそは、みたいな」

「そういう奴に限って、一つ目にも届かずに死ぬんだよな?」

「おい、こいつが第二に着くかどうか、()けようぜ!」

「乗った! 着かない方に、銀貨一枚!」


「ふざけんなよ、てめぇら!!」


「じゃあ、おまえ、自分が第二まで着く方に賭ければ良いだろ?

 銀貨をかせぐイイ機会じゃねぇかよ」


「……………着かない方に、銀貨一枚」

「「おい!?」」



「ちょっと待て、静かに」



 冒険者達の中の一人がそう言いながら、後ろを振り向く。


 すると坂の下、街に続く道を一人の男が駆け上って来た。

 …何かの緊急事態だろうか?



 すると男は、冒険者達は無視してそのまま、入り口横の「落とし物センター」へと駆け込んだ。



「おい! アルジ──迷宮主(ダンジョンマスター)を呼んでくれ!」


 やっぱり何か街にあったらしい。

 緊張感をともなって様子を見守ってしまう冒険者達。


 何人かはその男に「何があった?」と声をかけようとするも、他の者達に止められる。

 冒険者達には「依頼の横取り」は礼儀(マナー)違反で……なにより、この先の展開が気になってしまう。


 すると今度は「入り口」のほうから、仮面と暗色の長衣(ローブ)姿(すがた)の青年が現れた。



「「(ダンジョンマスターだ……)」」



 おそらく入り口の非常口から出て来たのだろう。

 いつもの「どんな攻撃も受け止める謎の木の棒」は手に持っていない。

 代わりに腰には腰鞄(ポーチ)と、短い鉄の短杖という……外出用とおぼしき姿だった。


 街からやって来た男が、その姿にあわてて叫ぶ。


「た、大変だ! ハンスのやつが、あんたを呼べって──」

「………」


「──あっ」


 ようやく彼も、後ろで並んでじっと見ている冒険者達の姿の方にも気付いた。

 まずいものを見られた、と困惑した様子の彼に、まずいものを見ちまった、と冒険者達もちょっと気まずい顔をして……


「コホン」


 せき払いをしたダンジョンマスター。

 そして彼は、冒険者達に向けて、口の前にそっと人差し指を立てた。


 冒険者達の全員が、うなずいた。

 秘密厳守もまた冒険者の礼儀(マナー)である。


 それを確認したダンジョンマスターは、走って来た街の男に向けてようやく声を発した。


「街に何かあったんですね? すぐに行きます。

 …冒険者の皆さんはお気になさらず、いつも通りで!

 ボス部屋には代理を立てましたから、問題ありません!」


 ざわつく冒険者に彼は続ける。


「あ、もちろん代理は勇者ティアではありませんよ!

 別の、私と同じくらい強い……あー、ついてからのお楽しみです!」



「「………」」



 その言葉を聞いた冒険者達は、それぞれが、同じ結論にたどり着く。


 せっかく日替わりの罠を奇跡的にくぐり抜けて、ついに初のボス部屋までたどり着いたら、見たことがない「新しいボス」の姿。


 …だけど……そこに「いて欲しいボス」の姿は、なんとなく……



 結局そのまま冒険者達の「朝いち集合組」は、そのままダンジョンマスターにゾロゾロついて行くことにしたのだった。


「あれっ!? なんでついて来るんです!?」


「「お気になさらず」」





 彼らが向かった場所は街ではなく、森の方だった。

 先導する街の男の話では、どうやらこの近隣(きんりん)に魔物が現れてしまったらしい。


 その魔物の名は炎狼と氷狼。


 本来であれば両方ともこの一帯が生息域ではない。

 まして、その両方が「同時に現れる」ことなどあり得ない。


 だが、それらは「呪いの魔女」によって使役されたもの。

 その魔女が「討伐された」結果、まだサウスティア周辺に(ひそ)んでいた数匹が使役主を失って徘徊(はいかい)してしまっているらしい。


 このまま増えたり、街に来られたりすると厄介だ。

 数が少ないうちに一網打尽にしておきたいので、ダンジョンマスターの力を借りたいという話だった。


「「………」」


 その話に、冒険者達がお互いの顔を見合わせた。

 ちょっと聞いたらマズいであろう情報が、あまりに多くて──



 ──クロスティアにばら()かれたという呪いの話は、ここに訪れる者達ならば誰もが詳しく知っている。

 ぜんぜん知らないか、良く知っているかのどちらかでなければ、「呪いが怖くて」クロスティア地方には近づくことなどできやしない。


 その元凶である呪いの魔女が、いつの間にか討伐されていた。

 そんな話は初耳だった。


 だが、その話を聞くことで、やっと納得できたこともある。


 毎日、昼休みに流れてくるあの「ティアちゃんのドキドキ勇者タイム」。

 そもそもなぜ勇者ティアがこのサウスティアに、しかもダンジョンにいるのか? という話だったが……


 …おそらく、何らかの形でこのダンジョンマスターと共闘していたのだ。

 そしてついに宿敵である呪いの魔女を討伐した。

 たった一人で軍を退(しりぞ)けたという勇者ティアと、あの意味の分からない強さのダンジョンマスターの二人であれば……

 そういう話ならば、辻褄(つじつま)が合う気がした。


 あと、街にうじゃうじゃいる冒険者達を素通りして、よりにもよって「魔物側」であるダンジョンマスターに、街の住民が救援を要請するというのも……勇者ティアのことも含めて、何か因縁(いんねん)があるのだろう。


 それにサウスティアには冒険者組合支部が無い。

 依頼の取りまとめ役がいないのだ。

 さらに言えば、冒険者達に「初心者講習会」なるものまで開催しているのは、明らかにダンジョンマスターの仕業(しわざ)で………なにせ講師はスライムなのだから──



 ──呪いの魔女の討伐の件も、勇者とダンジョンマスターの件も、サウスティアの街とダンジョンマスターとの関係性と、その複雑な関係性の中にどっぷり()かってしまっている冒険者達(じぶんたち)のことについても……

 それらは何一つとして、他の街では他言できない内容だった。



「「………」」



 困ったような、恐ろしいような……それでいて、楽しい、ような。

 複雑な心境で互いに顔を見合わせる冒険者達だった。




「あらっ?

 いっぱい連れて来たわね!」


 森の向こうで待っていた一人の女剣士の姿に冒険者達はギョッとした。


「「(腕千切りのソニア!?)」」


 (うわさ)には聞いていたが、本当にサウスティアの街にいた!?


 それに「結婚した」なんて冗談までも風の噂に聞いていたが……この目で見れば、事実らしい……

 彼女のその身綺麗(みぎれい)で元気そうな姿に、冒険者達はそれぞれに、結婚できて良かったな、とか、旦那(だんな)の腕はまだ無事だろうか? とか心の中で勝手に祝ったり心配したりした。


 そんな彼らの思いも知らず、ソニアはダンジョンマスター……だけでなく、冒険者の方にも声をかけた。


「向こうでハンスが囮役(おとりやく)やって待ってくれてるから、逃がさないように仕留めたいんだけど……ちょうど良かったわ。

 あなたたち、報酬はあとで支払うから手伝いなさい!」



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