おだやかな日
次の定休日は、モルフェといっしょにティアを連れてお出かけすることにした。
すると、最近はティアの首以外も活動範囲になってしまったソリューがニョロリと文句を言ってきた。
「…おい、ダンジョンに定休日って、おかしいじゃろ?」
「なんだソリュー? むしろ休みが無い方がおかしいだろう?
こんなに(冒険者にとって)苛酷な肉体労働なのに定休日なしだなんて(冒険者側に)いつ死人がでてもおかしくないだろ?」
「もう出ておるがな」
自分で適当なこと言っておきながら、実は本当に休みが足りてないせいで冒険者たちがバタバタ死んでるんじゃないか? と不安になってきてしまった。
蘇生してるから良いや、という問題ではない。
でも、こいつにとやかく言われるのはなんかムカつく。
「そこまで言うなら、定休日あらため【ボーナスデー(Bonus Day)】に変更だ。
ダンジョン周辺に出没する、希少な『角の生えたしゃべるヘビ』を捕まえて落とし物センターに持って来ると、なんと魔氷3つと交換してもらえる日だ。
なお、ヘビの生死は問わない」
「せめて生死は問え! 魔氷3つで殺すでないわっ!!」
そこにうるさいやつがもう一匹のこのこやって来やがった。
「ソリューは分かってないニャー。
我が輩は毎日が定休日でも問題ないニャー」
毎日が定休日で疑問に思わない生き物は、おまえとアテナの二体だけだ。
「…【ボーナスデー】に希少な『やる気のない白ネコ』を持ってきた場合は、なんと特別賞として良い感じの石5個と交換してもらえる。
もちろんこちらも、生死は問わない」
「異議ありだニャ! せめて魔氷と交換するニャ!?」
いつもうるさい二匹である。
……二匹とも「休日出勤」の方に異議が無いなら、本当に勤務させてやろうかな?
◆ ◆ ◆
モルフェと一緒に買った「アテナ用の服」は、そのままティアの服になった。
街の服屋のクロッシュさんに、モルフェから受け取った採寸メモを渡して頼めば、彼女はよろこんで服を手直ししてくれた。
手直し代を受け取ってくれなさそうだったので、代わりにアテナとティアの追加の服を数着、追加で購入することにした。
アテナとティアは身長はほぼ同じで、おれとモルフェよりも低い。
体形は……アテナはいまでこそ「おもしろ枠」に移籍済みだが、もともと「美人枠」に所属していたと言っておこう。
そんなアテナ用の服は、ほぼワンピース一択である。
ボタンや紐のない「着るのが楽な服」しか着ない、とはモルフェ談。
…下着を「半分しか」着てくれないのも、同じ理由からなのか?
購入した服をアテナがぜんぜん着なかったので、そのままティアの服になった。
おれもアテナがいつもの服以外を着ている姿は見たことが無い。
「…そういえば、君もほとんど同じ服だな?」
「アルジィに言われたくないよ? それにボクはちゃんと色んな服を着てるよ?」
モルフェがタンクトップの上におれのシャツを着るスタイルは、勤務時の制服みたいなものらしい……って、朝から晩まで着ている気がするのだが?
話を戻して、アテナの「いつもの服」。
実はこれ、服の方から体に自動で合わせてくれるという、かなり高価な服だった。
いや、かなり高価どころではない。
こちらの世界の服は『服化』の魔法で、少しくらいの原状回復機能がつくのだけれど、アテナの服はそれらの機能が別格だった。
それがバレると、各方面に多大なご迷惑をおかけすることになるから、ここだけの話にして欲しいとはモルフェ談。
「…それは、アテナ本人に言わなくちゃだめなんじゃないの?」
「言ってる! 言ってるよ!?
言ってるんだけど………言ってるのに………………言ってるんだよ……」
悲痛な五段活用である。
(主張、念押し、逆接、絶望、諦念)
「…そ、そうか。
うん! 大丈夫、おれもちゃんと応援するから、な?」
がんばれ! よし。
そんなアテナは、次の休日のおでかけも、やはり「お留守番」を迷わず選んだ。インドア派だ。
きっとおれがいない間に、またおれの部屋のクローゼットにスライムを隠したり発見したりしているのだろう。
アテナと一緒に、ネコとタコもお留守番を選んだ。
移り変わりつつある権勢をみるや元の主人から我が家の裏派閥である「自由派」へとあっさり寝返らんとするあさましきケモノたち。
このままフリーダム派は、あらたな臣下を手に入れて力を増していくのだろうか?
あるいは、その臣下すらも容赦なく駆逐するがゆえのフリーダム派なのか、はたして……
「…アルジィは、アテナちゃんをどうしたいの?」
「それは、アテナ本人に聞いてくれ」
それでもあえて答えるならば、もう少しだけ、おとなしくして欲しい。
ティアが真似すると困るから。
すでにおれの部屋に隠れるスライムの数は2つに増えてるから、手遅れなのかもしれないが。
◆ ◆ ◆
おれとモルフェ、ティアとその他精霊とで出かけた先は、ダンジョンから森の中を少し離れた場所まで歩いた、川のほとりだった。
サウスティアの街に行かなかったのは、ティアに気をつかわせないためだ。
あの女魔術師こと「呪いの魔女」を倒した件は魔女ばあさんから街に伝わっているはずだ。
そんな状況の中で、クロスティア地方の語源となった「勇者ティア」様がご来訪なさっては、街をあげてのお祭り騒ぎになりかねない。
そんなノリがティアも好きなら連れて行くけど……ティアも街も、もう少し落ち着いてから行った方が良さそうだ。
そんなこんなで川へと到着したおれたち。
歩いて渡れるくらいの浅い瀬の、やさしいせせらぎの聞こえる河原だった。
何をしているかというと、特に何もしていない。
…水面にキラキラ反射する光に目を細めている、くらいである……
水辺に大亀のイアを浸して、うれしそうにニコニコしているティア。
その横で、大きなオレンジヒヨコのクーンを抱えて、ニコニコ見守っているモルフェ。
………やっぱり街にいくべきだったか?
一般的な「休日の過ごし方」を知らないおれには、家族サービス(?)なんてハードルが高すぎる。
こういう時、ふつうの若者? 家族?
とにかく、そういうやつらは休日は街のオシャレなカフェテラスとかでキャッキャウフフしたりするのが正解じゃないのか?
子連れだったらテーマパーク? ショッピングモール? ……公園?
それが迷わず森? しかも近所。
だいたいつい最近、森で襲われたばかりなのに、また森!? なんで!?
おれは森に呼ばれているのか? それとも、おれが森を呼んでいるのか……
…なんて一人で反省したり怯えたりしていると、おれの隣にニョロリとやってきたソリューが、独り言のようにつぶやいた。
「…わらわは、何も分かって無かったようだ」
あちらで幸せそうな二人と二匹の姿を、遠い景色のようにじっと見つめているソリュー。
「ティアが本当に欲しておったものは、あれだったのじゃな」
…そうだな。
それは、見ての通りだ。
だけど。
「…あの姿が今あるのは、これまでの積み重ねの結果だろ?」
「………」
「おまえたちがいなければ、彼女はたどり着けなかった」
「………なんじゃ。
おぬしには蛇蝎のごとく嫌われておるのだと思ったがの?」
大丈夫、いまもキライだぞ? でも、
「…好き嫌いよりも大事なのは、目的の共有だ。
同じ目的で、別の視点や価値観があれば勝率だって上がるだろう?
ティアにはおまえが必要だ。
だからおまえは、このまま存分にティアの首にまきついて、彼女を守り続ければいい」
「…ふん。生意気なやつめ」
そのままスルスルと、ソリューはティアの方へと向かっていった。
いつもの定位置まで登って行くと、ティアがくすぐったそうに、うれしそうに迎え入れていた。
……本当は、ヘビは間違っても、絶対に、首になんて巻いたらダメなんだぞ?
有識者なら決して許さないであろうそれを、見過ごす程度にはおれも……おまえを信頼している、ということだ。
そのまま川で何もせずにいたら、猟師のハンスさんがやって来た。
モルフェについては街の定例会で面識はあるので、せっかくなので、ティアとその他もハンスさんに紹介しておいた。
特にその他は、うっかり狩られて食卓に並んだりしないように、ペットであることを伝えておいた。
「やっぱり、ペットと分かるように首輪でもつけておいた方がいいですか?」
「…さすがに精霊を狩ることは無い」
「あれ? そうでしたか? さすがに食あたりしそうですからね?」
「アルジィ、そういう意味じゃないよ?」
「…そんなに簡単にわれらが人に狩られるようでは、とっくに精霊など絶滅しておるわ」
どうやら正しい順番は「うちのペットに、サウスティアの住人を食わないように伝えておく」方だったらしい。
ハンスさんも誘って、そこでみんなで昼食を食べた。
最近はおれもこの世界の食材に慣れてきた。
今日ご用意したのは、食べやすいようにやや薄めの生地で食材を巻いた、クレープやケバブの亜種みたいな食べ物だ。
ソースの方は食べる前にかけるものが三種類。
ケモノたちにはおわんに入れて、具材だけ出す。ほんとは飲食は不要らしいけれど、雰囲気を味わいたいようなので同じ具材を出している。
クルミみたいな木の実系の食材が、アクセントとしてちょうど良かった。
ホイップクリームと果物でスイーツ風に仕上げるのも良いけれど、きざんだ野菜や肉と一緒に主食として食べるのも、おいしいんだ。
水筒に入れてきたスープは、野菜の皮や切れ端に干し肉も加えてコトコト煮込んで、調味料で味を整えたもの。
こっちの世界の調味料はまだ勉強中だけど、それはそれで量にさえ気を付ければ予想外の味が発見できて面白い。
それと、おやつにはクッキー。
クッキーなんて初めて作ったけれど、火加減のほうはほぼダンジョンコアまかせだったから、おれでも簡単に作れてしまった。
ただ……糖分が……作ってみて改めて、おやつのもつ潜在能力(カロリーともいう)を実感できた……
おれの用意した昼食はおおむね好評のように見えた。一人をのぞいて。
「ぐぬぬ……!」
「…モルフェさん? なにか嫌いな食べ物でも入ってた?
一応、モルフェの好みを意識して、コッテリよりもアッサリ系のソースもご用意してみたのだけれど……?」
「…おいしいから。文句なしに、おいしいから!
だから! ……ぐぬぬ……!」
無口なハンスさんに一言「がんばれ」と助言された。
…一体なにをどう、がんばれば良いのか……もう少し具体的なアドバイスをお願いしたい。




