クソ竜、クソ猫、あと二匹
夜、おれの体調が回復したからなのか、おれの部屋にティアとケモノたちがやって来た。
いつものようにティアの首には角付きの青ヘビ、抱きかかえた白ネコ。
そして両肩には、小さな羽根つき小人……
「…おい!? そこっ! 増えてる!!
ちょっと目を離した隙に、勝手に新メンバーを増やすんじゃないっ!!」
一難去ってまた一難!
ようやく変な魔術師を一匹追い払ったのに、今度は小妖精!?
それでまた、今度はそっちの関係者がクレーム付けにうちにやって来るんだろう!?
「…きっと、いかにも面倒くさそうな紳士がやって来て『そこの妖精さんを渡したまへ、さもなくば……分かるね?』みたいなわけの分からねーこと言い出すんだろ!? 昨日の、今日で、またっ!
お願いだからもう、おれを、一人に、してくれっ……!!」
「「!?」」
「だ、大丈夫! アルジィ、大丈夫だよ!
この子たちはただのご近所さんだから!
ほら! ティアちゃんもアテナちゃんも、やっぱりまだ早いから!
その子たちのあいさつはまた今度、今日は身内だけ、ね?」
モルフェの仕切り直しによって、一度、ケモノ軍団はぞろぞろと退場した。
…退場してるうちに、もう二度寝に入っちまって良いかな?
モルフェに二度寝を阻止されて、また戻って来たケモノたちの相手をする。
「…おいアテナ。その頭の上の危険な帽子は捨ててきなさい」
「おやぁ!?」
おれの警告に帽子サイドから苦情が上がった。
「私の事、お忘れですか!? ほら! タコさんです!」
「にゅるりと寄ってくるな! おまえのような危険極まりない帽子のことなど、記憶にない!」
たとえ忘れようのない地面から襲い掛かる触腕の思い出があったとしても……むしろだからこそ、よりもよってそこにアテナを足し算(かけ算?)させてなるものか。
「ほら、アルジィ。話が進まないから、そろそろ、ね?」
そんな楽しさよりも不吉さ重視のサーカス団の、その引率役であるモルフェがおれに切り出した。
「アルジィ、ティアちゃんが話があるって」
そのままモルフェにうながされて、ティアがおずおずとおれに言った。
「……あの」
「……どうした?」
「……ごめんなさい!」
「……構わないから、気にするな」
「………」
「………」
…うん。なんて言えば丸くおさまるんだ?
おれは本当に、子供が苦手なんだけど……?
モルフェもニコニコしながら見守ってないで、いい感じに仲裁してくれないかな?
……あれか? 許される理由があれば良いのか?
まだ計画がまとまってないんだけど、先に話して安心させてみる。
「……あのっ」
「…近々、ダンジョンの仕事を手伝ってもらうつもりだから、よろしく頼む」
「…! はいっ!!」
輝くように笑うティア。よかった。
同じく笑顔のモルフェと、いつも通りのアテナの二人に祝福されながら、そのままティアは部屋を去って行った……
「…ちょっと! ちょっと、待つニャ! ティアにゃん!」
「おい、待て!? まだ話は終わってないであろう!」
良く分からないが、そこの二匹は黙ってろ。チッ。
頼んでも無いアンコールで、三度、戻って来た不吉なサーカス団。
こいつら、ひとの部屋で何度も行ったり来たり……
今度はそのサーカス団の団長ティアが、おれに頼みごとをしてきた。
「あの! お名前をつけてほしいです!」
おれにどうぞとクソネコを差し出しながらティアが言う。
ティアの首に巻き付いたままのクソヘビまでもそれに追従する。
「わらわたちに命名する栄誉を与えてやろう」
「………モルフェ?」
引率役に「どういうことだ?」と視線を送ると、その理由を説明し始めた。
「えっとね、今回のこともあるし、一度むこうと縁を切った方が良いと思って」
ティアにつきまとっている四匹のケモノたちは、魔王国のとある地で祀られていた精霊らしい。
それを奪おうと襲ってきた呪いの魔女の件もあるので、また同じようなことが起きないように、そちらの土地との「つながりを切ってしまおう」という話だった。
その為に、魔力的にもっとも分かりやすい結びつきである「名前」を変える。
だからおれに新しい名前を考えろという流れらしい。
「なるほど、理解した。最後の部分以外は」
「最後が一番重要ではないか」
「ステキな名前をお願いしますニャ」
その上さらに、ティアがせっせと残りの二匹、巨大ひよこと大亀までも召喚しだした。
手品みたいにティアの両手からフッと現れる生き物たちの姿は、不思議というか、なんというか……
…うん、名前をつけるにしてもさ。
それならせめて、いきなり本番ではなく事前に相談してくれた方が良いと思うよ?
「…じゃあ順番にケモノA、ケモノB、ケモノC、ケモノDでいいか?
範囲攻撃で一掃されそうで不吉だが、『仲間を呼ぶ』でケモノEがかけつけてくるかもしれないという利点(?)もある……
…それでいいな? モルフェ?」
「良くないニャ!」
「マジメにやらぬか!」
おれが確認をとれば、どうやらモルフェもいきなり頼まれてしまったらしい。
「ご、ごめんね、アルジィ?
ボクもついさっき聞いたお話だったんだけど……だめだったかな?」
だめとは言わないけど……
ははーん、さては君、おれが出合い頭に(てきとうな)名前を付けたものだから、名づけが得意だとでも勘違いしているな?
そうかそうか、それならおれも遠慮なく(てきとうな)名前をつけてやろう。
びっくりするような(てきとうな)名前をいまここで(てきとうに)付けてやる……!
「…なんだか寒気がしてきたニャ」
「…わらわもだ」
「よし。それならそっちはソリューで、そっちはソニャンだ」
「「?」」
全員がおれの突然の返しに、少し首をかしげるが……
…まず、白ネコの方がフッと悟ったように、遠い目をしておれに答えた。
「……これからアルジさんには積極的に忖度していくニャ。だから何の『苦』もなく受け入れるニャ」
すぐに分かった君はなかなか鋭い。その上で受け入れてみせるなんて、タフなやつだ。見込みがある。
そして、もう一匹。
「む? …なるほど、祖竜……なかなか悪くないではないか!」
こっちはダメだ。伸びしろしかない。今後のご活躍に期待したい。
さて、あと二匹。
偶然なのか必然なのか知らないが、よりにもよって竜、虎、鳥、亀……この四匹か……
ここにさらに「黄色い竜」まで増えないよな?
…よけいなフラグが立たないように、代わりにタコでもねじ込んでおこう。
のこり二匹の精霊にも、勢い任せで名前を付ける。
「そっちの巨大ひよこは……
大空、台風に、なぜか英語になってるという大君もかけて、タイクーン……
…だと長いから『クーン』だ。
そっちの陸ガメは、大地を意味するガイアからとって、『イア』だ」
「なんでニャっ!?」
即座にクソ猫からクレームが上がった。
なぜって? それなりにカッコいい名前をつけてあげないと、ティアがかわいそうだろう?
新たな名前を得たクーンが、ピヨッとした頭を下げておれに礼を述べた。
「…かたじけない」
かたじけない!? 武士か!?
あと、予想外に渋い声だなおまえ!?
「………」
その一方で無言のイア。
一応はうなずいたから、納得はしてくれたのだろうか?
そんな様子に他の二匹が補足した。
「…イアの奴は無口……ということにしておけ」
「イアにゃんはめっちゃ早口だから、我が輩が無口キャラにしておくようにアドバイスしたニャー」
無口キャラって………しゃべらない方が良いくらい早口なのか、おまえは?
「……詳しい事情は知らないが、別に無理しなくてもいいからな?」
「………」
イアは無言でうなずいた。
…みんなにいじめられているとかじゃ無いよな?
今度また、それとなく確認しておこう。
「それより! 異議ありだニャ! 我が輩の分も再検討を要求するニャ!」
「どうした? 良い名ではないか?」
「自分で気がつくまで教えてやらねーニャ! ちゃんと危機感もつニャ!」
新たな名前に不満だったり満足だったりの二匹はそのまま放置するとして、問題は、おれの目の前で何か言いたげな二人。
「「………」」
「…なにかね、お嬢さんたち?
そんなにじっくり見つめても、おれは浮きあがったり沈んだり、点滅したりはしないんだぞ?」
なんだ? ティアにも改名が必要なのか? とモルフェの方を見れば、苦笑しながら首を横に振る。
どうやら、ただ便乗してみただけらしい。
「…ティア、君が改名しちゃったら、ここがクロスティアじゃなくなっちゃうだろ?
勢いだけで変な社名に改名すると、社員もユーザーも、いろんな人たちがものすごく迷惑しちゃうんだぞ?
あとアンテナ、どさくさまぎれに便乗するな!」
「わ、わかりました」
「………」
「こっち、こっちを見るニャ! 今まさに被害者が出ているニャ!」
本気でティアが名前を変えたいなら、まずは町長と相談しなければならない。
すると今度は、タコである。
「では、私はなんと名乗れば良いでしょうか?」
「なんだ暗黒タコ? おまえ、暗黒イカにでも改名したいのか?」
おまえももう「暗黒卿」って呼ばれるくらいに各方面から知られてるんだろ?
むしろ、おれに名前を教えろ。
「せっかくなので私も頂いておこうと思いまして」
「……じゃぁ、クトゥルフだ」
それっぽい名前を付けてみた──
──と思った瞬間、おれの肩と、タコの頭をガッとつかんだモルフェ。
「アルジィ?
アルジィがそんな名前をつけちゃったら、冗談では済まなくなっちゃうんだよ?」
「「あ、はい」」
なぜか迫力のある笑顔でモルフェからクレームが入ったので、おれとタコはすぐに従った。
…立派すぎる名前は、ダメらしい……
こうして盛況のうちに(?)なんだか良く分からない名前の授与式が終わってしまった。
その場の勢いに流されたけれど……ティアはともかく、そのお付きのケモノ四匹とタコ一匹までもが正式に、「うちの子」になってしまっていて……
…寝起きドッキリみたいな形で、養子縁組やらペット買い取りやらのわりと重要な契約を一気に片付けられてしまっていた家主の気持ちを、一人だけ遅れて、しみじみと噛みしめてしまうのだった……
「…ところで。
もしかして、君も新しい名前とか欲しかった?」
「なに言ってるのかな、アルジィ?
ボクはもうモルフェ以外は受け付けないよ?」




