事情聴取(後編)
「それで? どうするんだい?」
どうする? と魔女ばあさんがおれに聞いたのは、あの呪いの魔女の処遇についてだった。
「どうするって、あとは町長さんにお任せするつもりですけれど?」
「その町長夫妻があんたに任せるって言ってるんだ」
「なんで!?」
「あれを倒したのはおまえさんだ。だからおまえさんが決めた方が後腐れも無いだろう、ってわけさね」
「ええぇ……」
なんでおれなのか分からないけど、その言葉の裏には……町長夫妻には後腐れがある、後味の悪い選択肢の想定もあったことだろう。
では、あえておれに決めさせる理由は?
それならば……
「…第三者である私としては、適切に罪を償わせたら良いと思いますが?」
町長さんやティアたちの立場であったなら、極刑未満はあり得ない。
みんなの苦しみを知らない第三者であるおれだからこそ言えてしまう言葉を、あえて選ぶ。
「具体的には?」
「法にのっとるか街の慣習法にしたがって処分する、ですかね?
…懲役刑とかになるのでは?」
それでも「死刑が妥当」ならば、もう仕方ない。
他に償いようがないのなら、あの呪いの魔女にも観念してもらうしかないだろう。
これで解決、と思ったおれに、魔女ばあさんはさらに質問を重ねてきた。
「なら、あんたが第三者ではなく、当事者だったら?」
「フォルトゥーナさん!」
モルフェが割って入って抗議する。
「そんなつまらない話をしに来たのなら、もう帰って」
モルフェに横やりを入れられて、言われてみればと、おれも思った。
即答するのは簡単だけど、たしかに不毛な質問だ。
もし許せない相手がいたらどうしたい? なんて、後味の悪い、古傷が開くだけの問いかけだ。
それなら素直に、「あなたの好きな拷問は何ですか?」とでも聞いた方がまだ建設的(?)だ。
「あんたには聞いてない、引っ込んでな」
「ボク、怒るよ?」
それでも妙に食い下がってくる魔女ばあさんと、初めて見る、怒りをあらわにしたモルフェ。ちょっと怖い。
…別にこの二人のケンカなんて見たくないし、そんなに聞きたいなら答えてやる。
「モルフェ、良い、大丈夫だ。
一体なにが知りたいのか分かりませんが……」
「「………」」
「…あの女の立場からすれば、あと一息で願いが叶いそうなところを横から暴力で叩き潰された形です」
「そっちじゃない。あたしが知りたいのはあんたの方だ。
それに、『ティアの立場』が入ってないよ!」
「同じことです。私があの場でティアを失って『当事者』になってしまったら、どうするか?
あの女魔術師を捕まえて、終わること無い永遠の責め苦を浴びせ続けたとして……それで?
私の自己満足と引き換えに、次の火種をサウスティアに呼び込むことをお望みで?」
そもそもクロスティアが戦争がらみで生まれた土地で、ティアにちなんで改名した地域なんだろう?
今回の一件はもう、次の火種として十分だ。
そこに「残忍なダンジョンマスター」なんて味付けまで加えてみろ、帝国も魔王国も喜んで喰らいにくるぞ?
「正直、ダンジョンにティアがいるだけでかなり危うい。
どうするのが政治的に最良なのかは分かりませんが、私がうかつな行動をとれば、血に飢えた連中が近寄ってくるのが早くなることくらいは分かりますよ?」
「………」
「それはさておき……これでも私は色々と気を遣っているんですよ?
冒険者たちだって、その大半は略奪者です。
そんな彼らが相手でも、暴力や憎しみが周囲に漏れ出さないように、ご近所迷惑にならないように配慮しているつもりなんです。
…モルフェや町長さんが止めなければ、私だってもっとのびのびとやっていましたよ」
異臭や騒音をばらまく迷惑住民のように、やりたい放題のダンジョンマスターになれば良い。
あの女魔術師を、冒険者を、すべての敵を、あらん限りの拷問にかけて恐怖と怨嗟をばらまけばいい。
「ここにサウスティアがあって、人が暮らせるだけの営みや文化があって、冒険者たちとの交流があるのは、あの街やクロスティア地方の皆さんの積み重ねの成果あってのことです。
ここが荒野で、衣食住のすべてを私が自力で確保し、冒険者たちを招き入れたのもすべて私の力によるものならば、何をやろうが誰にも文句は言わせませんが……」
おれが最強だ―、なんて暴れ回っている迷惑野郎は、ただ周囲にべったり甘えているだけの恥知らずだ。
それでも、同じことを誰一人いない世界で、同じ系統のやつらだけを集めて殺し合うぶんにはぜんぜん問題なんて無い。
「…私には……ダンジョンコアにはそれができる」
衣食住のすべてをダンジョンコア一つでまかなえる。
すべての望みを叶えて、そこで世界を完結できる。
サウスティアとの関係を完全に断って、地下深くか別の土地にでも広大なダンジョンを作り、憎しみと暴力にあふれた理想郷をつくれば良い。
そう、うろ覚えだが、覚えている。
「私は、あの女魔術師の言い分は正しいと思っています。
私と彼女のわがままで、互いの暴力を用いて、ティアを奪い合ったに過ぎません」
どいつもこいつもクズばっかり。
正義なき力は暴力? それ、本気で言ってるの?
結局、最後はみんな仲良く暴力じゃない。
「私はもう、そこに半歩………いいえ、すでにどっぷりと浸かっています。
なぜなら私は、ダンジョンマスターです。
あなたが、彼女が、皆が、それを望むのならば──」
その時は、おれも本気のダンジョンをつくれば良い。
「──その時は。
ダンジョンの果てまで──ッ!?」
おれをベッドに押し倒したのはモルフェだった。
「…アルジィ、疲れてるんだよ。もう休もう?」
…………そうかもしれない。
…なんとなく、モルフェに引き戻されておいた方が良い気がする。
天井とモルフェしか見えなくなったおれに、魔女ばあさんの声が届く。
「…あんたがあいつと繋がったことも、それでも帰ってこれた理由も、これで良く分かったよ」
魔女ばあさんをキッとモルフェがにらむ。こわい。なんとなく止めた方が良い気がする。
だが、今度は魔女ばあさんもすぐに引き下がった。
「…悪かったよ。
あたしだって、そんなことまで望んじゃいないよ。
…あんたの望み通りに、あいつはあたしがちゃんと預かる。それで良いね?」
「え? あっ、はい」
そうなの?
町長さんは……ああ、あんな厄介なやつを押し付けられても町長さんだって困る、ってことか?
それはそれで、今度は魔女ばあさんに押し付けてしまって、申し訳ありません?
なんだか良く分からないうちに、魔女ばあさんは言うだけ言って、さっさと部屋を出て行ってしまった。
いきなり始まって、いきなり終わった感じがする。
「…あのやりたい放題感は、アテナと共通するなにかを感じるのだけど、実は親戚とかじゃないよな?」
「アルジィのことが知りたかったんだろうけど、病み上がりの時にする話じゃないよ、もう!」
「……それと、モルフェさん?
そろそろ離れてくれませんかね?」
「………」
おれにくっついていたモルフェはようやく、離れ……なかった。
なぜかそのままベッドの上に上がり込んで、さら添い寝の形になった。
「あとはもうみんなに任せて、アルジィは絶対安静だからね?」
「あ、はい。
……おれ、眠りたいんだけど?」
「おやすみ、アルジィ」
おれのまぶたの上に、モルフェの手がそっとかかる。
冷たいような、温かいような……不思議と安らぐ感触。
何より、思い出したようにドッと吹き出して来た疲労感に、おれは、気を失うように…………──
◆ ◆ ◆
「…聞こえてたろ? そういうわけだ。
あんた、命拾いしたね」
「…うるさいわね。ちゃんと従うわよ」
「なんだい? うれしくないのかい?」
「は? なんで? うれしいことなんて何も無いじゃない」
「………」
「…ったく、どいつもこいつもクズばっかり………ちょっと、なによ? 何がおかしいのよ?」
「…クックック。
あいつは自覚が無いようだが、おまえを敵のまま、その存在を認めたんだ」
「だから、それのどこが」
「いつでも来い、受けて立ってやると言ったようなものさね」
「!」
「敵のままでいい、生きていていい、なんならまたかかって来い、だとさ。
同じ立場だなんて言っちゃいたが、あんなのと同じにされちゃ迷惑だろ?」
「………」
「やれやれ。
こましゃくれたガキのくせに、本当に、まじめなクソガキめ。
自分がすべて受けて立つ前提でしゃべるんじゃないよ、まったく!
…大した器なのか、呆れた奴なのか……ハァ、これ以上は無粋か。
さあ、帰るよ!」
「…………従うから、さっさと連れていって。
もう、ここにはいたくないわ……」
「おや? 急に威勢が無くなっちまったね?
それとも町長のところに行くかい?
その時はまず、その両腕は無くなるだろうがね……ヒッヒッヒ!」
「いっ!? …いいからさっさと、連れていきなさいっ!!」




