使い魔召喚(後編)
魔女ばあさんがおれに忠告した。
「そろそろ察しの良いやつは、あんたの力を理解し始めることだろう。
熟練の剣士は魔術を切り裂くこともできるが、あんたの技はもっと高位の魔術師のそれに近い」
「おれ、魔法なんか使えないのに」
「話聞いてたのかい?
つまり、あんたのそれは一足飛びの魔法なんだよ!
詠唱や入出力の基礎はまるで無い、初級魔術師以下。
だが、その身の内に宿した魔力で、相手の影響力を直に削りとっちまうのさ!」
「…それが高位の魔術師(物理)」
「だからせいぜい、厄介な連中に目をつけられないように気を付けな!」
「結論、それなの!?」
その肝心な、目をつけられなくする方法を教えて欲しいんですが!?
◆ ◆ ◆
「厄介な人たちに目をつけられないように、身代わりとして戦ってくれる強くて頼りになる魔物が欲しいです。
魔物の捕まえ方を教えてください」
ダンジョンコアで作れ、って話は無しだ。
そっちは「強いスライム」をすでに研究中なので。
「…………そうかい。
捕まえたけりゃ、その辺で好きなだけ捕まえて来な」
魔女ばあさんのアドバイスは投げやりだった。
「それってつまり、仲間になりたそうな目でこちらを見るまでボコボコにするとか、ボコボコにしてから小さいボールに閉じ込めるとか、そういうやつで合ってます?」
「……どうしてそういう発想になったのか、こっちが聞きたいね?」
おれのファンタジー世界の常識は、どうやらここでは通じないらしい。
あと、さっき魔法は物理だって教えてくれたじゃないですか? つまりボコボコにしてやれってことでしょう?
おれを不憫な子に思ったのか、魔女ばあさんはもう少し穏便に魔物を手に入れる方法を教えてくれることになった。
「魔氷を一つ……いや、二つよこしな」
スライムたちに持ってきてもらった魔氷を魔女ばあさんに渡すと、魔女ばあさんは一つを床に置き、もう一つを手に持つ。
「使い魔と契約する方法がいくつかある。
今からやるのは、その土地に住む力のある魔物や精霊に呼びかける方法だ。
興味のあるもの、好戦的なもの、あんたの呼び声にこたえたものが、ここに現れる」
「…現れたあとは?」
「あんたが説得しな! さぁ、やるよ!」
「無茶ぶり!?」
魔女ばあさんが魔氷を持たない方の手を、天に円をえがくように何度も振り回しながら何かをブツブツと詠唱する。
すると、床にあった魔氷が上の方からサラサラと砂のように削れ散りながら周囲に消えていく。
そして周囲には光の円が縁取られていく。
円はわずかに厚みを増して、キラキラ、くるくると回っていく。
文字? 模様? 美しい結晶がその姿を次々に、その文字の一つ一つが詠唱を歌うように変化しながら徐々に光を増していき、やがて……
「…よし! その円のどこかに両手を触れて呼びかけろ!」
「は、はい!?」
言われた通りに円に駆け寄り、両手をついて呼びかけ……って、呼びかけるってどうやるんだ!?
なんか知らんけど、力をこめるような気分で光の円をにらみつける。
カッと、一斉に赤くなった。
「…制御を奪われた」
「なんですって?」
事故発生らしい。
「かなりの大物が来るぞ! 良かったな!?」
「ポジティブですね?」
「あとはあんたが説得しな!」
「丸投げですか!?」
「ハハッ、ここがダンジョンで良かったじゃないか! いざとなったらあたしも戦ってやるよ!」
「やけくそじゃねーか」
こうなってしまったら仕方がない。
別に釣りたくも無かったサメやらエイやらが針にかかってしまった釣り人の気分で、おれも魔方陣から使い魔を力いっぱい釣り上げる。
フッと光を失い、消滅する魔方陣。
…なんだ? 糸がきれた、か?
そしてボス部屋の、従業員口のほうから入って来たアテナ。
そのままトコトコと歩いて来て、魔方陣の前にいるおれの膝の上にちょこんと座った。
「「おまえか」」
おれと魔女ばあさんの心は一つになった。
使い魔召喚、失敗(ある意味、成功?)である。
「…おい、さっさと次の魔氷をよこしな」
「え。まだやるんですか?」
むしろさっきよりもヤル気が増してしまった魔女ばあさんに、気をきかせてしまったスライムが次の魔氷を手渡してしまう。
一回目のあれは無かったことのように、再び魔女ばあさんは詠唱し、魔方陣がキラキラと形成されていく。
「…何度見てもきれいだなー。
…アテナさん? そろそろどいてもらえませんかね?
ほう? どく気はない、と?
じゃあ、せめてほら、おれが座る向き変えるからちょっと腰を上げろ!
そっちじゃなくて、こっちだ。そう、ほら急げ!
もう召喚が始まっちまうだろ!?」
二回目だからなのか、アテナのせいなのか、さっきよりも雑に魔女ばあさんに目で指示されて、おれはまた魔方陣に手を伸ばす。
眉をひそめる魔女ばあさん。
その姿に、おれも眉をひそめる。
やっぱり真っ赤に変わる魔方陣。
大物か? また大物が釣れたのか?
なんか知らんけど、魔方陣に置く手に力を込める。
やがて、再び、フッと光を失い、消滅する魔方陣。
そして従業員口から現れたのは、モルフェさん。
…なんだか頬をプクーとふくらませて、怒っている?
そのままトコトコと歩いて来て、魔方陣の前にいるおれの、後ろに……柔らかい、感触……ッ!?
「おおぉお……後頭部がッ、モルフェに、食われる……ッ!!」
「…もう帰っていいか?」
「半分はあんたのせいですよね、これ!?」
死んだ目でこちらを一瞥して、そそくさと帰宅する魔女ばあさんをおれは呼び止めた。
「待って、待って。
最後に一つ、教えてください」
「使い魔のことはもう、あきらめな」
「今度はあきらめ早いな!? いえ、それとは別件で」
本人に聞いた方が早かろうと、この前の街での一件について確認する。
「あの時、酒場で見かけたあちらの姿と、今の姿、どっちが通常モードなんですか?」
「……聞くな」
そう言って、振り返りもせずに魔女ばあさんは出て行ってしまった。
…わりと魔女ばあさんも、やりたい放題なところがあるよな?
だからアテナとも気が合うんじゃないのかな?
「…あと、そろそろ二人とも離れてくれない?」
「「………」」
「…夕食の支度しなくちゃいけないし、ね?」
「「………」」
おれを前後からはさみ込んだままの使い魔二名(?)は、そのまましばらく離れてくれなかったのだった。




