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休日(3)

 モルフェと一緒にアテナの服も数着選んでおいたけれど、こちらは予備としての購入だ。

 いつもの服以外はあまり着たがらないだろうとモルフェも言った。なにせ下着もはかない子である。


 服は後日、モルフェに合わせて手直しと仕上げをした後に、我が家に運んでくれるそうだ。


 うちのダンジョンの場所はみんな知っているから大丈夫だと店主さんに言われたので、それなら来た時にはダンジョン入り口横の落とし物センターで、丸くて透明な従業員に声をかけるように伝えておいた。

 そのままスライムに渡すか、おれたちを呼ぶかして欲しい。


 店から出る時、店主さんにたずねられた。


「アルジィさんたちは、この後のご予定は?」

「街をてきとうに歩いて見て回る予定です」


「それなら寄って欲しいところがあるんだけど」


 店主さんが言うには、鍛冶工房のおやじがおれに相談したいことがあるらしい。

 なんでも、ダンジョン向けの武器を作って良いのかどうか迷っているとか。


 ホクホク顔の店主さんに「また来てねー! マジで、絶対、毎回きてね!」と熱烈に手を振られながら店を後にした。


「…店主さんに気に入られて良かったな、モルフェ?」


「ちょっと驚いたけど、楽しかったよ。

 あんなに激しく求められるなんて思わなかった」


「よれは良かった……けど、言い方を選べ」


 おれがドキドキしちゃうだろ? わざとか?


 ともかく、きっと店主にとってモルフェは何を着せても楽しいスーパーモデルか着せ替え人形にでも見えたのだろう。

 …モルフェみたいな「特殊な体型」向けのドレスなんて……


「…なに? アルジィ?」


 エロい目でなんて見てないヨ?


「…いや、失礼。

 ふつうは、肉や脂肪を増やすには食べなきゃいけないけど、最初に増える部位は腹のはずなのに……と思って」


 おれでさえ既製服だと肩がきつくて他がスカスカ、それをごまかしながら着ていたくらいだ。

 モルフェはもっと服に苦労しそうだな? …と思ったら、さっきの服の品ぞろえには、驚いた。


「それならアルジィだって、ボクとそんなに変わんないじゃない」


 おれはただ、やせ型なだけである。


 食べる量も、間食も少なめ。酒やジュースよりも緑茶派。肉よりも豆腐を好んで食べていた。

 …あと、ストレスで過食より絶食になる派である。


 こっちの世界に来てからは、業務の関係上がんばって食べるように意識しているが……


「…かつては、心ない知人たちに『修行僧』なんて呼ばれていた。本物の修行僧に失礼だ」


「それは、朝早くから床をからぶきしたり、部屋に何も無かったりするからじゃないのかな?」


 そして街で見かける男たち。


 彼らは腹だけでなく腕も太い。

 ダンジョンに来る冒険者たちも、足も腕も太い。

 それに比べて、戦いを仕事にするはずのおれの体形は……やっぱり食事を増やす必要がありそうだ……


「…きっと肉を増やす魔法とかも、あるんだろうなー……」

「自覚が無いみたいだけど、アルジィだって筋肉はある方だよ?」


「ちなみにモルフェは、ほっそりとぽっちゃり、どっちが好みだ?」

「健康ならどっちでも良いと思うよ? …アルジィは?」


「おれも健康が維持できる範囲なら、好きなだけ(ふく)らんだり(ちぢ)んだりすれば良いと思うぞ?」

「風船じゃないんだよ?」


 少し遅めの昼食は、午前中にパンを買った店で。こんどは肉入りのパンを買う。

 飲み物も買ってそのまま店先で店員や客と話しながら食べる。


 …といっても話すのはモルフェだ。美人さんでコミュ力が高く、早くも街の人気者になりつつあるのが、すごい。

 おれ? おれは路傍(ろぼう)の石とでも思って、お(かま)いなく。


 お店のおばちゃんたちの話だと、この街の食料関連はこの一帯に集中しているそうだ。

 収穫したものや狩った食材はここらに持ち込めば、どの店で買い取るかすぐに話がつく、とのこと。


 手の空いた街の住人が、数人でチームを組んで山菜取りや狩りに出ることも少なくない。

 (みの)りは豊かな土地だけど、反面、周囲をまめに巡回して増えすぎたものを間引いたりして、土地が荒れないように注意する必要がある。

 猟師(りょうし)、兼、自警団? 思ったよりもハードな街の生活習慣らしい。



 二人でとりとめのない話をしながら、鍛冶工房を目指して歩く。

 もともと街を一周するつもりだったから、ちょうどそれで今日一日は終わりそうだ。



「街の壁は、レンガ積みではなくてセメントみたいな一枚岩か?

 やっぱり魔法で作って、さっきの服みたいに『壁化』でもするのか?」


「魔力を浸透(しんとう)させるよりも、術式を()るのが一般的かな」


「家のサイズは大き目か? でも職場や倉庫も兼ねるのなら小さい方なのか? どっちだと思う?」


「地下室もある家が多いだろうから、ふつうじゃないかな? 地下で保管すれば温度と湿度が安定しやすいから」


「…そこに保存関連の魔術も刻むのか」


「そうだね。お店によっては地下冷蔵室を作るはずだよ。

 そういう時にアルジィがつくってる魔氷があると、維持が楽になるんだ」



 そんな風に話しながら歩いているうちに、たどり着いた場所は鍛冶工房。


 工房というより、金物屋(かなものや)

 はさみ、包丁、(なべ)(くぎ)、とんかち。

 台所用品から工具まで幅広い品ぞろえの店だった。


「おう! 今日はどうした!」


 こっちのオヤジさんは、町長宅での説明会の時に顔は見た。

 むこうも覚えてくれていたようだ。

 ちなみに服屋の──モルフェからあとで名前を聞いた、クロッシュさんとはほぼ初会話である。


「服屋のクロッシュさんから、武器のことで相談があるとうかがいまして」

「おお! 悪いな来てもらって! …ちょっとこっち来てくれ」


 奥の方へと案内されると、次の部屋は展示と作業を兼ねたような場所になっていて、そこにはいくつかの武器があった。


「…見事ですね」

「だろ? 腕には自信があるぜ」


「手にとっても?」

「おう! 見るなり振るなり好きにしな!」


 手に持ってみたものは片手剣。

 

 ただし片手で振るにはやや重め?

 チクチク刺すよりも、重さで叩き切るための剣だ。

 切っ先は鋭い。しっかり研いであるから、重さを活かしてスパッと()ることもできる。

 重心の位置も振りやすい。浅く()()く、叩き斬る、この用途だと……


「…対人よりも、重装備の相手や毛皮や(うろこ)の硬い獣向け?

 腕っぷしのある人向けの、第二武器(サブウェポン)って感じですか?」


「…おう。あんた、剣も振れるのか?」

「色々あって、振れるようになってしまいました」


 おれの才能ではなく祖父(クソジジイ)ゆずりの、とって付けた技能である。


「とても良い武器だと思いますけど、何かお悩みでも?」


「おお、それな!

 最近、うちにも冒険者どもが見に来るようになったんだけどよ」


 街の裏山にダンジョン(わがや)ができたことで冒険者を中心とした来訪者が街に増えてきた。

 冒険者が当然のように買い求めるものといえば、やはり武具である。

 この街で唯一の武器屋も兼ねているこの工房にも客が増えてきた。


「けどよぉ、あいつらが欲しい武器ってのは、つまり………()()()()()()()()()だろ?

 本当に、そんなもん作っちまって良いのか?」


「ああ、それ」


 なるほど! そりゃそうだ!

 いま新しい武器をつくるとなると、それは『対おれ殺し(おれスレイヤー)』だ。

 ダンジョンマスターを倒すことに特化した武器になるのは当然だ。


 そうか。なるほど。

 …ただ……そんな武器を作って役に立つのか? と言われると……


「…もし、おれが冒険者側の立場で、攻め入る時に使うのならば……

 たとえば、閃光爆雷(スタングレネード)? 音と光で耳目を奪って、ひるんだ(すき)に殺すやつか?

 あるいは中距離で威力の高い、複合弓(コンポジットボウ)を対人用に……散弾にするとか?」


「「………」」


「でもそういう何かに特化した武器って、ダンジョンコアで解析されて翌日には対策済みになって、下手すると冒険者を迎撃する用の罠にそのまま採用されちゃうんですよね……」


「「………」」


 爆弾とかの道具は人の手よりもダンジョンコアの方が製造が得意だと思うし、なによりダンジョンコアは魔力さえ足りれば製作費が無料である。

 どこかの工場でもないかぎり、ダンジョンコアと競争しても勝てっこない。


 それに、遠距離攻撃系はおれも真っ先に(つぶ)すし、あんまり遠距離が増えるとおれだって最初からそれ系の武器を持って待つことになる。

 祖父(ジジイ)は石ころから弓まで達人だった。

 だからおれも、武器の選択に迷うことはあっても、不足することは無いはずだ。


「ああ、ちなみに。

 もし『鉄をも(エクス)断つ剣(カリバー)』みたいなものを持ってきたら、遠慮なく私は『奪います』ね」


「「………」」


 強力な武器は危険だ。奪われたり、紛失したりが怖いので。


 そういえば。

 そんな同じ方向性で「対おれ武器」のお悩みで、色々と模索していたのがアテナさんだ。

 彼女が試行錯誤の末に見つけた、おれを倒す用の武器(おれスレイヤー)……

 …それは、『泡だて器』である。


 ……泡だて器を? このオヤジさんに勧める?

 バカにするな! と怒られそうだ。


「……うん。

 とにかく、初見で殺しきる自信がない限りは、おれ専用の武器はあまりオススメできませんよ?

 すぐに需要がなくなって、採算がとれなくなる気がしますので。

 もっと汎用的(はんようてき)な、ふつうの狩りでも使えそうな武器でお願いします?」


「あのね、アルジィ?

 そういうのを聞きたかったんじゃないと思うよ?」


 なぜかモルフェに怒られた。


「いや、良いんだ嬢ちゃん!

 うん、作らねぇ方が良いって分かりゃあ、それで良いんだ!」


 でも、オヤジさんは納得してくれたようである。

 …解決したなら、良かったですね?


 ついでだから、少しうちの企業秘密も伝えておく。


「あと、ここだけの話ですが。

 いま、うちのダンジョンっておれ以外にはスライムくらいしか登場しないんです。

 そのスライムだって障害物として設置するだけなので、戦うのではなく()()()のが正解です」


「…またぐ?」


 坂とか細道とか、いちいち武器を振り回せば転げ落ちる場所に出没するうちの従業員たち。

 わりとスライムは重いので、横にどけるよりは上をまたいだ方が楽である。


「だから、うちに関しては荷物にならないように、使い込んだ武器だけ持って来れば十分ですよ?

 もし悩んでる新人さんとかいたら、こっそり教えてあげてください」


「…あんたの所のダンジョンは、一体なんなんだ?」

「こっそり攻略法とか教えたらダメなんじゃないかな、アルジィ?」


 …おや? こっちはかえって混乱させた?

 良かれと思ってアドバイスしたのに。()せぬ。



 あっ。



「「?」」



 …そうだ、そういえば……あった。

 泡だて器じゃないけど、専用の武器。


「…ん? どうした?

 なんか欲しい『工具』でもあったか?」


「…アルジィ? まさか今度は、イスとかも自作しちゃうの……?」


 おれの視線の先、偶然それが目に入って思い出した。

 あのクソジジイがわざわざ自分用に用意していた……



「…すみません。

 一つ、武器の製作を相談しても良いですか?」




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