夢魔(後編)
(脳内音声:
やぁ、みんな!
ボク、2.5次元系超絶美少女、
モルフェちゃんだよ!
…あっ、あんまり見つめると、
おまえの脳を殺しちゃうゾっ!)
「勝手にボクのセリフを脳内再生しないでくれないかな?」
「今そんな感じに変身しちゃうわけ? サイテーだな、おまえも」
昔々、あるところに。
「…ボクは、相手の望む姿になっちゃうから」
「…少しずつゆるむ包帯姿に、性別くらいは察しはついていたけどな」
桃から生まれた少年は、
犬、猿、雉よりもまえに
彼女に出会ってしまいました。
「つまり、おれが毎日じっとり、ねっとりエロい視線でおまえを見ていたから、その姿に進化しちゃったわけだ」
「そ、それは! ……えっと……
…アルジィがちゃんと『健康に動ける体になって欲しい』って思ってたのは、知ってるよ?」
一方その頃、はるか西へ、
ありがたい教典を求めて旅立つ偉い僧。
彼は、猿、豚、河童を仲間にするまえに
彼女に出会ってしまいました。
「おまえ、一歩間違えれば、おれの望む姿に……
『アクション映画で、崖から落ちても銃で撃たれてもわりと元気な変態系ヒーロー』の姿になってたぞ?」
「…じつは、ちょっとだけその要素も入っちゃってるよ」
「マジか」
彼女は夢魔でした。
「ほら! なんだか体がものすごく健康で……」
「待て待て待て!! そんな格好で暴れるな!!
それ以上、見せるなっ!?
分かった! 分かったから!
ていうかもう、どんな体型か察しはついたって言っただろ!!」
うっかり仲間にしてしまった彼女と一緒に、
彼らは二十四時間イチャイチャしました。
それはたいそう幸せな日々だったそうな。
「…今のうちに、ちゃんと確認しておくよ?
アルジィは、今のボクの姿と『わりと元気な変態系ヒーロー』、どっちが好き?」
「おまえ、ついさっき、自分で答えを言ったよな?
なぜ、今の姿になっているかが、その答えだろう?」
「………アルジィの口から聞きたいな?」
「聞くな」
村人たちは心配しました。
あの人は一体、
いつになったら旅立つのだろうと。
そして……
「ねぇ、アルジィ? ……どっちが好きなの?」
「…」
…ある朝、
彼の家をたずねた村人たち。
干上がった空気と臭気、怖気の中で、
彼らがそこで、見たものは───
「アルジィ──」
「──……っ!!!」
───BAD・END──────
◇セーブした場所から再開できない
◇タイトル画面に戻れない
◇なにもかも、どうでもよくなる
◇かおを、わしづかみにしてやる
────────────────
「痛い痛い痛い痛い!?
アルジィ、われちゃう、かお、つぶれちゃうっ!?」
「フフフ……答えが分かっていて、あえて獲物を弄ってやろうだなんて、イイ趣味してますねぇ、モルフェさん?」
「ご、ごめん!
アルジィが! わたし! ほんと! うれしくてついっ!?」
「私もモルフェさんに謝らなくちゃいけないことがありまして……実は私、ドSなんです」
「知ってた! 知ってたよ!? アルジィ!!」
…どうにか怒りで塗りつぶして反撃してやったが……危ない、危なかった……!
……むせかえるピンクの靄に包まれた、墓場の真ん中、キングサイズのベッドへと誘う小悪魔……そんな心象風景を幻視しちまった……ある意味、真実の愛欲の果てだけどなっ!
ただ……ふと悟ってしまった。
では逆に、おれの理想の「無敵系イケメンヒーロー」がおれの助手として現れた場合はどうなるか?
その場合のおれの答えは「じゃぁ、もうおまえがダンジョンマスターやれよ」である。
あとはそのままイケメンに手厚く介護される日々の始まり──…と思ったら、イケメンがどこかから連れ帰って来たヒロインたちにおれは刺されるか追放されるか、その前に、おれは一人で旅立って……ささやかな幸せの探求へと行き着くのだろう……
「………理想とは、儚い」
「アルジィ! わかんない! とりあえず手! 手をはなして!?」
それでもモルフェさんかわいい。悶える姿もエロい。もてあます。
クソ神の完璧な人選を前に、おれはただただ困惑し、翻弄されてしまうのだった……
◆ ◆ ◆
翌日。
なんだかドキドキして眠れなかったなんてことはなくて、ただ余った食材をはやくくかたづけようとほとんどねむれずはやおきしてしまった早朝。
もう「姿が確定」して隠す気が無くなったモルフェさんと、なぜか床を雑巾で水ぶきしているアテナさんがいた。
「…おはよう。
なに? 朝っぱらから、罰ゲーム?」
難癖つけて床を拭き掃除させている極悪女主人と薄幸の美少女プレイ、かな?
「違うよ!?
お、おはようアルジィ。
これはアテナちゃんが………アルジィの朝ごはんをたくさん食べるために、運動を、ね?」
そうか……そうなの!? …そう、なのか……?
あと、おれが朝食をつくるのは確定らしい。
「…………いろいろと言いたいことはあるけど、大事なことを一つ。
ふけてねぇぞ?」
このアテナの雑巾がけ、だいたい秒速5センチくらい? で進んでいる?
そのペースだと終わらねぇし、運動になるのかならないのか、よく分からねぇ。
…こいつ、運動はできる子のはずなのにな?
なにより、床がびちゃびちゃ。アテナの服もびちょびちょ。
ちゃんと雑巾を絞ってからふけ。
見るにたえない。
「…それに床がふきたいなら、別に乾ぶきで良いだろ?」
以前おれがモルフェに見られた時は、おれは乾いた雑巾で床をふいていた。
それ以降も「水ぶき」なんて一度もやったことない。
そもそも床は毎日スライムたちが移動? 掃除? とにかく這いまわっているから常にきれいだ。
つまり本当は掃除とか必要ない。
むしろ水ぶきは逆効果なのだが? と思っているとモルフェが理由を説明する。
「水でふかないと、掃除した気分にならないからって」
「そうか。おれは褒めればいいのか? 怒れば良いのか? どっちだ?」
その気持ちも何となくわかる、だが本末転倒でもある。
アテナのほうへと視線を向ければ、アテナのほうも視線を返した。
「………」
「無言で『ほめて』と訴えるな。そろそろ正面から乾ぶきで阻止するぞ?」
「なんだかんだで付き合い良いよね、アルジィって」
おれが乾いた雑巾をもって前に回る。
だが、ここでまったく別の問題が発生した。
お互いに雑巾がけの姿勢だから、はっきりと判明した。
ワンピースの襟元からチラチラのぞく、見えてはいけないはずのもの。
「…………おい。
おまえ、なぜ下着をつけていない?」
「え!? ちょっと!? アテナちゃん!?」
そう言えば、なんかいつも訓練の時もチラチラ見えてた。
あの時はおれも別のスイッチが入ってるから完全に無視していたけれど。
うん、見えてたよ、たしかに。こいつ。
それに膝の上にいるときに妙に柔らかいと感じたあれも……いやこっちは忘れよう。
ついでにモルフェにも注意しておく。
「…あとおまえも、そろそろ服をちゃんと着ろ」
「着てるけど!?」
別にどんな服装でも良いと思う。
なんなら全裸でも、好きな格好をすればいいとおれは思う。
…思いたい、が……
「…ゆるみきった包帯は、服とは呼ばない。」
「ッ!? ご、ごめん!!」
だいたいこいつ、スタイルが良すぎる。
おれの望み? そうだとしても、もっと自重しろ!
「ひ、久しぶりに健康な体だったから、ボクうれしくて、つい……!」
さっと体を手で隠すように、もじもじするモルフェ。
それはそれで、なんかイラっときた反応だった……
「…周りに合わせて仕方なしに短いスカートやらきわどい服やらを着ざるを得ないこともあるのだろう……だがッ!
勝手に見えそうで見える服装のクセに、登りエスカレーターで振り向きざまに『見てんじゃねーよ』と視線を送ってくるおまえは、一体何だ!?
おまえが、視界から、消えろ!!」
「…誰に対して怒ってるの? アルジィ?」
「じゃぁあれか? 登りエスカレーターでおまえの前に、シルクハット、蝶ネクタイ、ステッキ、葉っぱ一枚他全裸のフル装備の紳士が立っていたら、どうする!?
見るだろ! 安全確保のためにむしろまじまじと確認するだろ!!
その紳士(なぜか後ろ向きに立ってる)がこっちを見ながらニッコリじっとり微笑んできたら、どうだ!?
ゾッとするだろ! 心の底から!!
そうだッ、まさにその心境だよ!!」
「…ところどころ分からない部分があるけど、アルジィが心の底から危機感を感じてるのは良く分かったよ」
「………」
「だから、二人ともお願いだから、おれの前ではちゃんと服を着てください」
「ご、ごめん、服は着るから、ちゃんと着るよ!」
「………」
…もし、ボク家の中では裸族派だから! なんて主張されてしまったら、それはそれで止めづらかったけれど……
家でくらい好きにさせろ派よりも、親しき中にも礼儀あり派なんだよ、おれは。
薄着するなとは言わない、だが、もうすこし防御力を増やして欲しい。
「…別にボクは、まじまじと見てくれても良いんだよ?」
「見るだけで終わるわけ……いいから、服を着ろ」
結局、モルフェはついに包帯姿を卒業し、短パン、タックトップの上になぜか「おれのシャツ」をはおりやがった。
おれはな、モルフェ?
防御力をふやせと言ったのであって、破壊力を増せ、とは言ってないんだよ?
分かってて、あえて煽ってるのか、それは?
そしてアテナの方は、モルフェの長時間にわたる説得のすえ「半分だけ着る」という妥協案に落ち着いた。
……なんだ、半分って? 下着を全部つけると死ぬ呪いか?
そして今日は「上だけ」らしい。
日替わりなのか? 気分によって隠す部位を変えたい派か?
最終的には顔だけ隠すとか、それ系の変態なのか?
いいから、はけ。




