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町長の最期?(5)


 おれは子供が苦手だ。


 おれの周りもおれ自身も、悪魔みたいなクソガキばかりだった。

 もっとも大人も、物理攻撃でも精神攻撃でも暴力上等のクソどもばかり。


 だが少子高齢化の昨今(さっこん)では、下手にクソガキに関われば、即、事案、逮捕、報道までとんとん拍子で進んでしまう(おれの偏見)。

 おれにとってはあらゆる面で、子供なんて危険物以外の何物でも無い、と思っている。



 だから、こうやって目の前で女の子にボロボロと泣かれると、非常に困る。

 まして相手はこの街の、町長の娘さんだ。

 いつ「おれが」怒られるのかとゾッとする。



「ご、ごべんなざい……わだじが……」

「…………」


 おい、どうにかしろよ、と町長さんの方に視線を送っても苦笑されるばかり。


 魔女ばあさんに視線を送れば、腕組みしたまま「よそ見せず向き合え」と()()で指示される始末である。


 仕方がないので、グッと歯を食いしばりながら待ち続ける。


 辛抱(しんぼう)(づよ)く娘さんの話を聞き続ければ、どうやらおれを「サウスティアに連れて来てごめんなさい」という話だった。


 なぜ連れてきたのかは聞くまでもなく、町長である父親を助けるためだ。

 誰が連れてきたかといえば、あのクソ神だ。


 呪いによって死に(ひん)した父親の命を助けるために神に祈り続けたら、あのクソ神に祈りが届いてしまった。

 そして彼女はあの白い空間に神や魔王と一緒にいた。


 そして神が呼んだ──正しくは帝国の誰かが呼んだらしいのだが──渡り人のおれは、無事に「サウスティアに配送された」。


 おれという奇跡を、彼女は手に入れることに成功した。

 ダンジョンコアのことは彼女は何も知らなかったが、何かの奇跡は起きるのではないかと信じ続けていた。


 いつかダンジョンに呪いの魔女がやってきて、それをおれが倒してくれるのだと願っていた。

 あるいはおれも(やぶ)れて呪いで死ぬかもしれないが、もうおれに頼るしかないと祈っていた。


 だが間に合わなかった。

 神の力をもってしても、運命は変えられない……


 …と思っていたら、殺してから生き返らせるという予想外の方法で解決となった。

 そして………解決したあとに残ったのは、おれという問題。


 こっちの世界に強制連行されたおれのことだけは、なにも、解決していない。

 今ここ。


「…だがら゛……わだじのわがままで……ぜんぶ……ごめんなざい……」

「………」


 涙に悲痛な懺悔(ざんげ)をにじませながら、ただただ謝罪してくる彼女。

 なるほど。彼女が言いたいことは、まぁ、分かった。



 だが……それで?

 私にどうしろ、と?



 だから許せ、と? 私はクソ神を決して許しませんが?

 それとも許すな、と? 少女(あなた)を叩きのめせば町長も街の住民も私を許しませんよね?

 では、どうしろと? 自分に何ができるのか提案するのは貴方(あなた)ですよ?

 それすらも私に? すべてを私にやらせるおつもりで?


 私は生憎(あいにく)、危機から救う英雄(ヒーロー)でも心優しき紳士(イケメン)でもありません……悪名高きダンジョンマスターにできることなど……



 …という言葉はぜんぶ、飲み込む。



 おれは自分の心のせまさは自覚しているつもりだ。

 それはもう驚くほどにせまいから、できるだけ()()()()()()()()()必死なんだよ。


 どうにか歯を食いしばりつつ、余計な何かが出てこないようにして、言葉を選ぶ。



「…おれをこちらに呼んだのは──」


 ──しまった。質問を間違えた。

 これの答えが「はい」だったなら、許す理由が一つ減ってしまうだろ? バカか、おれは?


 見かねた魔女ばあさんが助け舟を出す。


「んな訳ないだろ。その子が願おうが願うまいが、召喚の術式なんざ()めやしないよ!」


 彼女の言葉に少しほっとした。

 ほっとしたら、ようやくちゃんと頭が機能し始めた。


 そもそもこの娘さんには選択肢など無かったのだ。


 自分の父親が死にかけている中で、「助かるかもよ?」と手を差し伸べられたら、(つか)むしかない。

 まして相手は神だ。こいつが無理なら、もう無理だ。

 周囲を絶望で(ふさ)ぎつつ、残した唯一の逃げ道で(とど)めを刺す手法。

 まさに一流の軍師か詐欺師の手口である。


 そういう意味では、この子だってあのクソ神の被害者だ……ということにしよう。

 世界で唯一、無条件で八つ当たりできる相手といえば神か、あるいはあのクソジジイである。


「…もし、君が本当に申し訳ないと思っているなら」

「ハァ、すなおに『許す』と一言いってやりな」


 あきれる魔女ばあさん。

 …うるせぇ。じゃあ、あんたがおれの代わりに許してやれよ!

 本音とかけ離れた言葉を言っても、ボロが出てくるだけなんだよ!


 おれは(かま)わず、言葉を続けた。



「…人は誰しも、思わぬ形で他の誰かに迷惑をかけるんだ。

 他の人にとってはどうってこと無いことが、その本人にとって絶望になる」


 おれの境遇だって、ふつうの人なら「よろこぶ」ことなんだろう?

 死ぬ直前に救われた、思わぬ力を神にもらった、街の人達はみんな優しい。


 まさか「いいから終わりにしてくれ」なんて願うやつなど、神も想定外だった。

 人助けが苦痛で、それでも助けずにはいられない奴なんて、誰も想定しちゃいないだろう。



「…それでも君は選んだ。

 そして後悔はしていない。

 そうだろう?」


「………はい」


 当然だ。父親の命が助かった。

 自分の祈りや願いでそれが(かな)ったというのなら、むしろ(ほこ)っても良いくらいだ。



「ならば、前に進め。

 そして今度は、助かった君が、助ける側になれば良い」


「………」



「いつか助ける誰かのために、知恵を、力を(みが)き続けろ」


 自分ができもしないことを誰かに口にするのは、苦痛だ。



「いつか助けるべき誰かが現れたなら、見逃すな。

 感謝すべき者、()めるべき者、手当たり次第に君の言葉で祝福しろ」


 一人でいたい派のおれが口にして良いようなセリフではない。



「君が助けた者達、手伝った人達、笑顔にした誰かが増えれば増えるほど、街はきっと明るくなって──」


 おまえが言っているのは一体()()()の話だっ!?



「──その幸せがきっと、回り回って、いつの日かおれも助けてくれる……かも、しれない……だろ?」


 もう、むり。


「ちゃんと言いきりな」


 あきれた様子の魔女ばあさんからツッコミが入った。

 うるせぇ! 正論は人の心を、(うそ)と後悔にまみれた(みじ)めな者の魂をガリガリと(けず)るんだよ! 特に、おれを(けず)っている!!


「……ゥ…!」


 あと娘さん、いい加減に泣きやめ!

 おれの心は限界だし、なぐさめの在庫も売り切れなんだが!?


 …一体、この子に何を言えば救いになるのか分からぬまま、それでも言葉を、どうにか本音を(しぼ)り出す。


「…人生は運任せだ。

 (わく)を広げ、枠を勝ち取るのは知識や実力であったとしても……その枠に何が飛び込んでくるのかは……おれたちには、選べない。

 君がいま何かを手に入れたと思うのならば、それはただ運が良かっただけ。

 その幸運を、運命を、すなおに喜んでしまえば良い」


「……はいっ」

「………」


 …どうにか返事をした娘さんの一方で、ものすごく(しぶ)い顔でおれをにらんでくる魔女ばあさん。

 なんでだよ? おれに気の()いた言葉なんて期待するなよ。


 そして、ついに。


「もう十分だよ、アルジィ君」


 あ、やばい。とうとう町長さんに怒られる。

 と、ビクッとしたら、そうじゃなかった。


「娘は、君の優しさがうれしいんだ。

 君の思いは十分に伝わった。

 娘に代わって礼を言うよ、本当にありがとう」


「あ、はい」



 ……町長さんから許しが出たので、もうおれは退場することにした。

 泣かすだけ泣かしてしまったが、もう、親に任せて逃走だ!



 …街の住民たちが、なんだか急に距離感が近くなってきた。

 ネギ二本以外のおみやげを、持ちやすいように(?)袋につめておれに押し付けてきた。


 なんなら今からおれんちまで運んでくれると申し出て来てくれたけれど、それは丁寧(ていねい)にお断りした。

 ちょっとした夜逃げサイズの大荷物だけれど、がんばれば持てないことはない、はずだ。



 そしておれは筋トレ気分で重い荷物を背負って帰宅した。



 …疲れているのは、重い荷物のせいじゃない。

 それでも、足取りが軽いのは、この重い荷物のせいでもある。



 モルフェが「おかえり!」と笑顔で迎えてくれて、アテナがおれの荷物の上にさらにスライムをのせてくれたのだった。



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