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町長の最期?(4)


 あまり自信は無かったけれど、おれの提案は最終的には、どうやら上手くいったようだった。


 町長さんの蘇生。

 これにはいくつかの問題があった。


 まず、ダンジョンコアの魔力不足。

 なにせ最初は全長50メートルが限界のダンジョンだった。


 蘇生ができるっぽいことは「ダンジョン調査隊」のおかげで実験できたが、それはあくまでダンジョンの中だけの話だ。

 町長の家をダンジョン化すれば蘇生できるかも? とは思ったものの……町長の家と我が家まではそれなりの距離が離れていて、さすがにそこまでの魔力は足りて無かった。


 ところがこれは早期に解決した。

 思ったよりも、ダンジョンの成長が早かった。


「それはボクたち三人がここに住んでるからだよ」


 とモルフェが言った。


 モルフェとアテナは、あのクソ神が派遣してきたエリート(?)だった。

 ダンジョンコアの力をもってしても彼らを「読み込む」ことは不可能で、その代わりに、魔力に関してはすごい勢いで増えたらしい。

 なんでも、循環(サイクル)とか相乗効果(シナジー)とか? そんな感じで二人がいるだけでダンジョンコアはかなり元気に(?)なるらしい。


 それに(くわ)えて、おれ。

 渡り人──おれのように別世界から連れて来られた者をこう呼ぶらしい──という特殊な人族(?)は、内包する魔力が潤沢(じゅんたく)な傾向にあるのだとか。

 その代わりに体外に魔力を出力するのが苦手とか、デメリットもあるらしいけど……とにかく、モルフェたちと同じような理由でおれの存在もダンジョンコアに活力を与えてしまった。


 そんなこんなで、なんかダンジョンの魔力が余った。

 それならダンジョンの増設とか色々と使い道の検討の余地はあるのだけれど、それはさておき、蘇生の件。


 蘇生がうまくいくかどうかは分からないし、いったらいったで問題がある。


 というのも、ダンジョンコア蘇生が一般的な話なら、もっと表立って「魔王国では人が死なない」みたいな話になってるはずだ。

 なにせ魔王さんが「生活用品」としておれに渡したダンジョンコアだ。

 希少とは言っても、誰かが大きめのダンジョンを作って、みんなでそこに住めば良い。

 そうすればもう不死の王国みたいなことなって、みんなでハッピーになってるはずだ。


 だが、そうなっていない。

 ならない理由があるはずだ。


 おれはそれは「道徳上の問題」だと推測した。

 そもそも生き物の創造という時点でかなりヤバイ。

 そこにさらに、死の恐怖、不死に(しば)られて、ダンジョンから二度と離れられなくなった人々? ダンジョンマスターが絶対君主であとは奴隷? 永遠に死なない、死ねない、廃人たち?

 …考えれば考えるほど、ろくな未来が見えてこなかった。


 そんな道徳上の問題。

 摂理を曲げることの弊害というか、災禍(さいか)

 これが分かっていて、あえておれは「町長に提案」という形で丸投げをした。


 それを使うしかない人に、使うかどうかは任せますよ? なんて最低最悪な提案だった。


 懺悔(ざんげ)するような気持ちで、おれはモルフェに言った。


「…それでも、街の人はいつか『ダンジョン蘇生』の可能性に気付くだろう。

 だから、おれから先に町長にその責任を押し付けた、とも言える。

 おれのエゴだ。最低だ。

 自分の責任逃れのために、町長を巻き込んだ」


「…それはエゴじゃないよ。

 それでもアルジィは町長さんを助けたかったんでしょ?」


「……実は、各方面に角が立たない最善手は、

 『町長をおれが無理やり連れ去って勝手に蘇生する』、だったのに……」


 悪いのはダンジョンマスター、にしておけばいい。

 すでに冒険者相手に蘇生しまくっているんだから、いまさらだ。


「そんなのボクが許さないよ。

 街の人たちだって納得したって、魔女のおばあさんも言ってたよね?

 それなのにアルジィが勝手に一人で背負ったら、街の人たちだってきっと怒るよ?」


「……その結果、ある意味『次の呪い』を街のみんなに──」

「──なによりもまず! 町長さんが助かったことのほうがよっぽと大事なことだよ!」


「…………そう思ってくれると、おれも救われるのだけど……」


 優しいモルフェは、おれの行いを擁護(ようご)しつつ、(さと)してくれた。


「アルジィは最悪の事態を想定しすぎだよ。

 なにかに備えるのは大切だけど、もっと気楽に考えて、街のみんなを信じても良いんじゃないのかな?」


 あの時、魔女ばあさんが「街の住民が了承した」と言ったのは意外だった。

 まさか、町長だけに言ったつもりが、もうそこまで話が回っていたなんて。


 …そしてこれから、その「街の住民」をふくめた説明会に参加しに行くところである。


「気が重い」

「やっぱり、ボクも一緒に行くよ?」


「いや、まだ良い。というかまだ早い。

 その話し合いの結果次第で、君ら二人を街の住民に会わせるかどうかを考える」


「……そこまで過保護にしてくれなくても、大丈夫なのに」


 無事にダンジョンが受け入れられたなら、モルフェたちを街の住民たちに紹介する。

 だめなら隠す、あるいは迫害される前に街を離れる。

 おれの前世の二の舞のように、モルフェたちにまで同じ道をたどらせるわけにはいかない……



 …()るし上げをくらうのが目に見えている会議にでも出席する立場弱き中間管理職のような気分で、おれは街へと向かうのだった。




  ◆ ◆ ◆



「それじゃぁ、あんたは町長の家の地下と、街の井戸と、建設中の酒場をダンジョン化しな!」


 なんか魔女ばあさんが仕切ってどんどん話を進めていった。


 町長さんはただ、ニコニコしながら座っている。

 他の出席者、街の住民たちもニコニコしている。

 おれだけがハラハラしている。

 …理由も分からずニコニコなのは、ホラー映画の導入部分みたいな怖さを感じるのだが?


 …っと、まずい、ちゃんとおれも参加しないと!


「えっと、ダンジョン化って……なぜ井戸に、酒場も?」


 たしかに町長の家の地下はもう、(つな)いでしまった。

 だけど、そこに加えて「街の貴重な水源」までもおれの支配下に置いたら……さすがに、ダメだろう!?


 そんなおれの疑問に魔女ばあさんが答えた。


「井戸なんざ干上(ひあ)がっちまったらおしまいさね。いざという時のために、あんたも管理を手伝いな!」

「あ、はい」


「それと酒場は、宿屋も()ねた冒険者どものたまり場として建設中だ。

 ダンジョンに関わる問題が起きたら、ダンジョンの力でねじ()せな!

 あとは、まぁ、緊急避難用さね」


「緊急用、ですか」


 いざとなったら、おれがそこから街へと駆けつければ良いのだろうか?

 あー、はい、がんばります……?


 そして魔女ばあさんは皆にも言い聞かせるように「それ以外ではダンジョンの力は使わない」と言い切った。

 ダンジョン蘇生は町長の呪いの件だけが特例で、今後は原則として使わない方針となったようだ。


「ダンジョンなんざあっても無くても、人は死ぬときゃ死ぬんだ。

 呪いの解呪だってさほど期待はしちゃいなかったさ。

 それがずいぶんと簡単にいって、あたしゃ拍子抜(ひょうしぬ)けだったよ」


 その言葉に顔を引きつらせた町長……だが、おれも魔女ばあさんの意見には同意である。

 もう住民たちもダンジョンコアのことは知っているようなので、おれも真相をここで話すことにした。


「それがわりと、呪いの方も(ねば)りまして」

「おや? そうなのかい?」


 実は「呪い」がかなり頑張(がんば)ったが、ダンジョンコアはもっと頑張(がんば)って、結果、呪いが根負(こんま)けしたのだ。


 呪殺、蘇生、呪殺、蘇生……と一瞬のうちに16回ほど繰り返して、ついにあきらめて「呪いが返った」とダンジョンコアの石板端末(タブレット)に表示された。


 ちなみに呪いが返ったというのは………人を呪わば穴二つ、というやつである。


「というわけで、術者も倒して完全勝利に終わりました……って、余計な情報でしたか?」


「…今の話は、誰も聞かなかったことにしておきな」


 さっきまでニコニコしていた住民たちが顔を引きつらせ、魔女ばあさんが彼らに口止めをした。

 …おれがホラー映画みたいにしてしまったようだ。



 その後は、なんだかおれへの質問タイムみたいになった。


 といっても、非難ではない。

 おれに困ったことが無いかとか、街には慣れたのかとか、そんな話が中心だ。

 …おかしい。

 新入りは放置か洗礼(いじめ)の二択じゃないのか? 三つ目の展開だと?


 そこからさらに、おみやげまで渡される勢いだったので、丁寧(ていねい)にお断りした。

 単純にそんな大荷物は持ちきれないから無理だった。

 長ネギっぽいのだけ二本、装備して帰ることにした。明日の朝食にする予定である。



 あとは、あらためてお礼を言われた。

 街を救ってくれてありがとう、と。

 町長の件だけでなく、ダンジョン調査隊の件とか、冒険者が来ることで街が(にぎ)わうこととか、ぜんぶ含めてのお礼だった。


 …少し気まずくなる。

 結果的にはこうなったけど、おれは街と交流を持つか距離を置くか、今までずっと迷っていた。


 街をダンジョン化しなくても、そこにダンジョンがあるだけで……


「…きっとこれから、ダンジョンがあることによる悪影響も出てきますよ?」


「いちいち心配性だねあんたは!?

 んなこたぁ言われなくても分かってるさね!」


 おれの考えを魔女ばあさんが読み当てるように、説明した。


 予想されうる悪い方の影響。

 それは冒険者を含めた、人の流入による治安の悪化である。


 通常は冒険者組合みたいなのが設置されて荒くれ者たちを管理する。

 だが、町長とクロスティア都市長とで相談した結果、それはあえて設置しない意見で一致した。

 あえて利便性は(ひか)えめなままに、マニア向けのダンジョン(?)を目指す方針である。


 これから起こるであろう問題については町長と、酒場兼宿屋で管理、集約する。

 だからこそ、酒場兼宿屋はダンジョン化しておく。


 そもそもダンジョンができる前からそういう「領地経営」の仕組みはできていた。

 街の周辺の生態系の異常調査とか、(けもの)が増えすぎないように間引きするとか、これまでもずっとクロスティアと連携してやってきた。

 だからこれからもクロスティアとサウスティアとで協力して続けるだけだ、と魔女ばあさんがおれに語る。


「あとは、政治的な問題はそこの町長や都市長どもにやらせときな。

 なに、危険物の一つや二つ、むしろ(かか)えておいた方が交渉材料が増えてやり(やす)くなるんだよ!」


「危険物……」


 やぁ、ぼく危険物君(ダンジョンマスター)! ヨロシクネ!


 …おれの危険性はさておき、そういえばこのクロスティアもわりと最近「改名」したって話だったよな、政治的な問題で。

 たしか、勇者がどうこうって話だったか……?


 おれと魔女ばあさんの口論が生温かい目で住民たちに見守られつつ、お互いの意見や疑問は一通り解消することができた。


 …おかしい。順調すぎる。

 炎上しない。

 このまま本当に平和に、生温かく終われるのか?



 おれがしつこく悪い予感を信じたせいか、そうなった。

 やはり最後は謝罪会見である。



 だが謝罪するのはおれではなく、なぜか町長の娘さんだった。



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