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町長の最期?(2)


  ◆ ◆ ◆


「待ちな、あんたらまるで分かっちゃいない」


 老婆はそう言って、皆をにらみつけた。


「問題は、上手くいった後の話だよ」

「「…あと?」」


 皆が(まゆ)をひそめる中で、老婆は警告した。


「仮にだ。

 あんたの恋人が、妻や娘が、目の前で暴漢に襲われそうになっている時。

 その手に、何もかもを焼き尽くすことができる禁忌の道具があった時。


 使うだろう? そいつを燃やせと叫ぶだろう?

 その代償(だいしょう)(かえり)みずに!


 一度使ったが最後、もうそれは、あんたの手から離れない。

 それはあんたの人生を、永遠に、(しば)り続ける。


 …これはそういう選択だ。

 これから先も、いつか再び、もっとひどい決断をせまられる時がやって来る。

 それを踏まえてなお、今それを手に取るのか?

 『摂理を曲げる』覚悟があるかのかと──」



 ──あんたら()()()聞いてるんだよ。




  ◆ ◆ ◆




「邪魔するよ」


 そう言いながら大扉を開けた者。


 シンプルで飾り気のない黒の衣装。黒いつば広帽子に、黒のローブ。

 まさに魔女、という雰囲気の姿だった。


 そんな感じに見える背筋の伸びた老婆が扉から現れた。

 そしておれは、思わず叫んだ。


「見ろ!! モルフェ! 来た!? やっと!!

 やべぇ、何も用意してなかった!? くす玉? ファンファーレ?

 こっちの世界だとどういう歓迎が一般的なんだ、モルフェ!?」


「落ち着いてアルジィ。

 大丈夫だから、まずは一度、落ち着こう?」


「………」


 そんなおれたちを(いぶか)しげな顔で見つめる老魔術師。

 …いや、見ているのはどうやらダンジョンマスターのおれではなく、包帯姿のモルフェの方だ。


「…おい。あんた、まさか……」


 老魔術師が何か言おうとしたその時、今度は反対側の扉、従業員口の方が開かれた。



 やって来たのは背の低い女の子、アテナ。

 手にはその身長くらいはあるサイズの、巨大しゃもじを持っていた──



 ──……なぜ巨大しゃもじなのかというと、晩ごはんのためではない。

 いつもこの時間からは、ここでおれたちの訓練をやっていて、おれとの対戦でその「巨大しゃもじ」を使うからだ。


 神の手によっておれは、武術の達人である祖父(クソジジイ)の技術を継承した。

 おれがアテナに勝っているのは、ただ祖父(クソジジイ)が素手でも武器でも異常なほどに強かったからだ。


 だからアテナはおれに勝つため、祖父(クソジジイ)が「武器として研究したことが無い道具」でおれに(いど)むことを選んだ。


 実は昨日の「泡だて器」には、おれはかなり苦戦してしまった。

 だからアテナもしばらく調理器具シリーズで攻めてみることにしたのだろう………半分は、あの時に苦戦してしまったおれのせいである──



 ──そんな、しゃもじ系ふしぎ少女の登場に老魔術師が目を見開いた。


「お前までっ!? なぜ、こんな場所に!!」

「帰れ」


 塩対応!?

 いつも無口なアテナが、老婆相手にやや食い気味かつ怒り気味に言い捨てた。

 そこに老婆も怒鳴(どな)り返した。


「帰れじゃねぇだろ!? …ちょっと来い、こっち来て説明しな!

 …おい、その()()らをこっちに向けるな!

 一旦(いったん)、しまえ! 顔はやめろ! シャレにならんぞ!!

 いいから、お前の口からまずこの状況を説明しろ──」



 ──…そう言いながら、二人は「ボス部屋入り口」側の大扉の向こうへと消えていった。



「…どういうことなの、モルフェ?」


 どうやらおれ以外の三人はお互いに知り合いのようだ。

 モルフェが言い(づら)そうに目をそらした。


「えっと………お互いに、どこまでしゃべって良いのか……あっちで先に口裏を合わせているんじゃ、ない、のかな……?」

「………そうか」


 どうやらおれが知らない方が良い事情が色々とあるようだ。


「…おれは何も見てないし、聞いてない。それで大丈夫か?」

「ご、ごめんね? いつかちゃんと話すよ?」


「…無理なら無理で、遠慮なく墓場までもって行けばいいからな?」

「そ、そこまで大げさな話じゃないから……」


 死ぬまでしゃべらず隠し通せば、何も無いのと同じことだ。

 秘密を共有した方が仲良くなれるなんて言うけれど、おれはどちらかと言えば、個人情報を尊重する派だ。


 人は誰しも隠し事の一つや二つくらい、あるでしょう?



 …なんて考えていたら、かれこれ三十分ほど経過した。



「…長いな?」

「…そうだね?」


 モルフェと二人でお茶を飲みながら雑談して待つも、そろそろ放っておけない時間というか……もう、放っておいたら良いかなとも思い始めている。

 先に夕食でも食べてようかと思い始めた頃、二人はようやく戻って来た。



 いつも通りお人形さんみたいに整った顔のアテナと、なんだか(つか)れきった顔の老婆。一体、何を話していたのやら?


 そして老婆は、こちらにむかって歩いて来る。


 その姿。

 いかにも魔術師っぽい服装と、二本の触覚みたいな長い白銀の前髪が特徴的だった。

 アテナの前髪(アンテナ)の、二本バージョン?

 そして耳回りの髪は短く刈り上げていて、女性にしては珍しい髪型かもしれない。


 ……そういえば、モルフェもわりと髪が短い方だな?


 やがて目の前にやってきた老婆が、おれに名乗った。


「あたしの名はフォルトゥーナ。

 そっちの二人とは古い馴染みだ……あぁ? 古くないだと!? 年齢設定!? いちいちうるさいやつだね、まったく!!

 ……とにかく、こっちのちびっ子とは知り合いだ!」


 アテナに妨害されながら名乗ったフォルトゥーナ氏。


 …そうか、「モルフェとアテナ(そっちのふたり)の知人」、たったそれだけの口裏合わせに三十分もかかったのか。

 それは、この老婆だって疲れもするだろう。


「ハァ。とにかく、街の連中からは『魔女ばあさん』と呼ばれているから、お前たちもそれに合わせな。

 それで、今日あたしがここに来たのはその街の連中と、町長の代理としてだ」


 話しが長くなりそうだからとスライムたちが魔女ばあさん用のイスとコップを運んできた。


 運んでくれるのはうれしいけれど、スライムの身長の関係で食器や食事も地を()うような高さやってくるので……

 …そろそろ手押車(ワゴン)みたいなものを用意した方が良いかもしれない。


 ようやく自己紹介までこぎつけた魔女ばあさんが、今度はモルフェにからんでいった。


「それで? そっちはなんでそんな格好してるんだい?

 そっちの小僧の趣味かい?」


 趣味? …って、モルフェの全身包帯はおれの趣味じゃないぞ? 一体どんな性癖(シュミ)だと思ったんだ?


「えっと、これは……もうじき、ちゃんとできると思うよ?」


 …もうじき、ちゃんと?

 また謎がじわじわと増えてきたな?


「なんだいそりゃ。 ……なんだい、これは?」

「水ようかんです。おれの故郷のお菓子です」


 スライムが持って来たスライムみたいな和菓子に戸惑う魔女ばあさん。

 味は保証するから安心して食べて欲しい。


 お茶と水ようかんを口にしてから、ようやく、おれに向けて魔女ばあさんが話しはじめた。


「さて、どこから話したもんかね。

 まずはあんた、この街についてどこまで知ってる?」


 そんな風に聞かれたものだから、おれもついさっき学習したばかりの歴史をそれっぽく語ってみせた。


「なんだい、思ったよりも分かってるじゃないか」

「ありがとうございます?」


 なんだか追試の生徒みたいな気分だな?


 おれに合格をくれた魔女ばあさんは、そのまま今度は、街の現状について話してくれた。


「町長の代わりに、今日はあたしが教えてやる」


 最近ではダンジョン目当ての冒険者たちが増えてきて、街でもその対応に(いそが)しいのだとか。

 具体的には、酒場兼宿屋を増築したり、中央交易都市クロスティアと協力して必要な生活用品や物資を新たに運ひ込んだり、とか。


 おれのダンジョンで取れた「魔氷」は街で買い取り、街で消費しきれない分をクロスティアに買ってもらうそうだ。

 長距離輸送するとどんどん溶けて()()()してしまう魔氷だからこそ、一番近くて大都市であるクロスティアが喜んで買ってくれるらしい。


「ダンジョンで採れるものを魔氷だけに限定したのは英断だったよ」


 魔女ばあさんにほめられた。

 あれはただ、手抜きで魔氷だけにしたのだったけど、結果的にはそれが良かったらしい。

 下手に高価なものを用意せず、注目を集めないようにしたのが正しい判断だった。


「町長から聞いたが、地域密着型ダンジョン? そんなもの目指してるんだって?

 …あんた、正気かい?」


「はい。おれたちはただ、地元住民にご迷惑をおかけしないように、平穏(へいおん)に静かに暮らしたいだけなのです」


「ふーん……平穏、ねぇ?」


 魔女ばあさんが視線を送った先にはアテナとモルフェ。

 もうこちらに興味を失ったアテナが始めた「スライム転がし」に、モルフェも付き合ってあげている状況だ。ほのぼのしている。


 その一方で、あまりほのぼのしてない雰囲気の魔女ばあさんが、ジロリとおれを見る。


「あんたが本気でそう考えているのなら、あたしも協力してやらんこともない。

 しばらくは、たまに様子を見に来てやるから、聞きたいことがあればその時にでもあたしに聞きな」


「それはぜひ、お願いします」


 なんだか怖いおばあちゃんだけど、とりあえずお願いしておく。

 町長さんが代理でよこすくらいには信頼しているみたいだし、それなら相談にも乗ってもらいたい。


「それなら授業料とかお支払いした方がよろしいでしょうか? 銀貨一枚でどうです?」


「蘇生料と同じにするんじゃないよ!

 …だったら、さっきの水ようかんとやらを用意しておきな」


 しゃべるだけしゃべって、魔女ばあさんはもう帰ると言い出した。

 時間的には、ほぼアテナと言い争うために来たようなものである。


 見送りは要らないと言われたので、非常口で見送った。


「…非常口」


「はい。ここから入り口まで直通です。

 帰りに生えている魔氷は、好きなだけお持ち帰りください」


「……このダンジョンは一体、どうなってんだい?

 ……ああ、一つ言い忘れてたよ」



 去り際に、彼女は大事な話をおれに告げてきた。



 これのために彼女はわざわざおれを見に来て……おれという人物を見極めてから、これを告げるのが本題だったのだろう。

 それはやや低く、重い声と言葉だった。



「町長と街の住民たちは、あんたの提案を飲んだよ。

 だからあんたも、さっさと準備しておきな」



 一つの運命の分かれ目が、このサウスティアに近づいていた。



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