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町長の最期?(1)


  ◆ ◆ ◆


「これは摂理(せつり)を曲げる選択だ、と言われてね。

 だから私は、大切な人と相談させて欲しい、と答えたんだ」


 ()にそう告げられた(みな)は、苦笑(にがわら)いしたり(あき)れたりしながら彼に返した。


「それで? 相談した相手が俺達だってことなのか?」

「お前さんにゃぁ、もっと大切な(もん)がおるだろうが!」

「私達までそこに含めるのは、ちょっとズルいのではないか?」


 すると彼はこう答えた。


「この話に娘が反対できると思うかい?」


「「……」」


 皆が思わず口をつぐむ。だが、やがてぽつぽつと皆も彼に言い返した。


「…俺達だって、反対するわけないだろう」

「そうだ! 摂理? それが何だってんだ!」

「心配することは分かる、だが……」


 皆のうちの一人が、重々しく口にした。


「…だが。私達がこの()()()()()()()にはもう、それしかないだろう?」




  ◆ ◆ ◆



 もともとこの地域一帯は「ボーダーランド」と呼ばれていた。

 魔王国と帝国の境界(ボーダー)にあったからである。


 争いの絶えない場所だった。


 それでも東の帝国がそこに住人という名の強制移住者を送り込み、帝国領であると主張した。

 ゆくゆくは魔王国へと攻め込むためにも、国境線を後退させるわけには行かなかった。


 西の魔王国はそれほど人族の領土に興味は無かった。

 ダンジョンコアを作り出すような高度な技術からも分かるように、国力でいえば圧倒的に上であった。

 わざわざ「(おと)った人族」の領地へと攻め込む理由が彼らには無かった。


 それでも魔族が戦場にやってくるのは、彼らの「個人的な」事情によるところが大きい。


 戦争が好きだとか、逃げた奴隷を追いかけて新たな奴隷を捕まえるだとか、人族の国で「遊ぶ」ためだとか。

 そんな野蛮(やばん)な同族たちの蛮行(ばんこう)でも、帝国に対する防壁代わりになるのなら、魔王国もわざわざ止める理由はない。

 ボーダーランドに蔓延(はびこ)る「呪い」も、彼ら魔族の蛮行の結果の一つである。



 そんな訳で、ボーダーランドの住民たちは東西の敵にはさまれていた。彼らに味方はいなかった。



 この状況を(くつがえ)したのは勇者である。



 東の人族も、西の魔族も、双方の軍勢を勇者は退(しりぞ)けた。

 その勇者の名にあやかって、ボーダーランドは「クロスティア」地方と改名した。

 それが中央交易都市「クロスティア」、その都市長の決断だった。

 これにはノースボーダー、サウスボーダーの町長たちも賛同し、クロスティアへと加わった。


 こうしてこの地域一帯は平和になったのである。


 …というのが表向きの歴史で、裏の事情はもう少し複雑だ。

 それは勇者についての話だ。



 ボーダーランドにやって来た「魔族と人族の混血児」。

 両方の国にとって()(きら)われた存在であるその子は、特別な力を持っていた。

 その力によって、たまたま双方の軍勢を退(しりぞ)けることに成功してしまった。


 その結果を受けて、実質的にボーダーランドを(おさ)めていた都市長はすぐに動いた。


 都市長は帝国に決断をせまった。

 我々「クロスティア」の住人たちは、「人族の血()流れている勇者」によって救われた。

 この事実を、新たな領地の名称(クロスティア)とともに、皇帝陛下にも認めて頂きたい、と。


 言い換えれば、認めないならば我々はもう「魔王国の領地になってやる」という(おど)しであった。


 帝国は「人族の勇者」と「クロスティア」の改名を認めて、魔王国と停戦交渉に入った。

 魔王国から見れば勝手に攻め込んで来たあげくに停戦なんて、何を言っているんだ? という話ではあるが、交渉自体には応じている。

 まだ停戦は合意されていない。だが、小康(しょうこう)状態(じょうたい)には戻った。


 魔族がクロスティアにかけた「呪い」はいまだ解けていないし、帝国はクロスティアが自領であると主張しつつもクロスティアをまともに支援していない。

 クロスティアは、これまで通りに二国間の交易中継都市として自力で生き延び続けている。



 以上がクロスティアの現状である……



「…なお、クロスティア地方は北のノースティア、中央交易都市クロスティア、南のサウスティアの3つの地域で構成されている。

 魔王国側の『西のウェスティア』と人族側の『東のイースティア』も自称クロスティア地方であるが、クロスティア側はこれを認めていない。

 …らしいぞ?」


「へー、そうなんだ」


 おれは「タブレット端末(重い)」に映し出された情報をモルフェに読み聞かせていた。

 読み聞かせた、というより勝手に(ひと)り言を始めたおれに、モルフェが(あい)づちを打ってくれている感じである。


「それにしても、このダンジョンコアからの情報って怖くない?」

「アルジィがちゃんと怖いと思っているうちは大丈夫だよ」


 いま読み上げた「クロスティアの歴史」は、ダンジョンに侵入してくる冒険者たちから勝手に読み取ってしまった情報だ。


 侵入してきた生物たちの魔力……おれの感覚だと、心とか魂とか全部ひっくるめたものを魔力と呼んでいる感じ? それらを読み込むことでダンジョンコアは日々、学習を続けているのである。


 最初はダンジョンコアはクロスティアの歴史なんて知らなかった。

 でも今は、おれにこうやって知識を(さず)けるくらいに成長してしまっている。


 人から勝手に知識を読み込み、さらに人を超える存在になっていく。

 そんなダンジョンコアを敵に奪われたら? あるいはダンジョンコアに裏切られたら? …あと、成長が早過ぎない?

 もう、どこからツッコめば良いか分からないくらいに恐ろしいダンジョンコア様である。


 これのどこが「便利な生活用品」なんだ、魔王さん?


「そしてそんな便利家電をどんどん手放せなくなっている事実が、一番こわい」

「そんなことより、アルジィ? ちゃんとまじめに待ってなくちゃだめだよ?」


 おれとモルフェが今いる場所はボス部屋で、今日は【らせん坂の日】である。


 侵入者たちがボス部屋までたどり着くのを待ち受けるのがおれの仕事……なのだけど……


「だって!? 今日も誰もボス部屋までたどり着けそうにないだろう!?」


 だからおれはタブレット端末を見ながら時間を(つぶ)して待っていた。

 それがモルフェには不真面目に見えるらしい。


「それでも、ちゃんと()()()を見なくちゃ」


 そう言いながらモルフェが指さしたのは壁に映し出された複数の「実況中継」。

 現在、ダンジョンを攻略中の冒険者たちの姿である。



 地獄絵図、ともいう……

 …画面の向こうで、むくつけき男たちが汗を流しながら坂道を逆走しては、滑り落ちる──



 ──四つん()いで躍動(やくどう)する筋肉、(みなぎ)る勢いのままに坂を()け上る足、血走った目、歯ぎしりさえも聞こえてきそうな鬼の形相(ぎょうそう)


 四つん這いで坂を滑り落ちてくる(しり)、止まらぬ勢い、血走った目、巻き込まれる男達と、阿鼻叫喚(あびきょうかん)


 道連れになって坂の下に用意された大穴へと転落していく男たちを左右の壁に()り付くようにして()けた者たちはそのまま闇へと消えていく転落者たちの姿に明日の我が身を予感して(いか)つい顔に脂汗(あぶらあせ)をじっとり流しながらブルリと震え上がり──


「──……もう、なんなんだよ、この(きたな)い運動会は?」

「だめだよ、アルジィ!? がんばってる人たちを汚いなんて言ったら!」


 ごめん、失言だった。

 …でも、この人たち「がんばっておれをぶっ殺しに」やって来てるんだぞ?


 ちなみに最初は音声も中継していた。

 だが「ふんぬぅぅ!!」「ぬがぁあ!!」「フゴッ!?」とかの男たちの聞くにたえない奇声を前に、すぐに消音(ミュート)に変えてしまった。


 こんなもん、ずっと聞いてたら頭がおかしくなる……画面ごしの遠隔でもおれの精神を攻撃してくるなんて、さすが歴戦の冒険者たちだ。


「…せめてこれが、若い女の子とかの運動会だったなら」

「アルジィは女の子に期待しすぎじゃないのかな?」


 そんなことないぞ? あれがもっとキャッキャウフフした感じの光景だったら………んなわけ()ぇよな、考えてみればモルフェの言うとおりである。


 引っぱり合う髪、引っかき合う(つめ)、ボロボロに着崩れた姿と血走った目、一オクターブ高い音で(ののし)り合う奇声は、まさに阿鼻叫喚(あびきょうかん)の……──


「──…こういうのはむしろ異性の方がドン引きだな」

「アルジィは一体どういうのを想像したのかな?」


「どうすればもっと和気(わき)あいあいとした感じになると思う?」

「ならないと思うよ?」


 そうか、むりか。

 どうやっても、むりか。


 そんな益体(やくたい)もないことを話しているうちに、今日も営業終了時間がせまって来る。

 部屋の入口大扉を見つめても、うんともすんとも言いそうにない。


「…そろそろカウントダウンでも始めようか?」

「むしろ一分くらい遅刻したって、アルジィは喜んで受け入れそうだよね?」



 時計を見れば、17時。

 今日も無事に営業時間が終了した。

 …敵が誰もたどり着かないことは、間違いなく良いことのはずなのに……

 すなおに喜んでいいやら、(むな)しいやら、ちょっと複雑な心境だ。



 すると、


「邪魔するよ」


 なんと、大扉を開ける者が現れたのだった。


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