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日替わりダンジョン(3)

 町長の娘さんの言葉に、おれは少し驚いた。


「もう来てるのかよ、上級冒険者」


 冒険者の等級は初級、中級、上級の3つに分かれるそうだ。


 初級は仮免許みたいな扱いで、まじめにコツコツやって生き残ったら中級に昇格できる。

 基本的に命をかける商売しかできない荒くれ者の集団である冒険者たちが、常識やルールを学ぶのが「初級」の期間になる。

 冒険者としてもやっていけない者たちは、この段階ではじかれる。


 中級が一般的な「冒険者」と呼ばれる者たちだ。一人前と認められた段階。

 上級はさらに技術、能力に優れた者たち。国やお金持ちに高額の依頼料で雇われて、ものすごく難易度の高い仕事を引き受けるそうだ。


 その上に「特級」というのがあるそうだが、これは最上位というより別枠(べつわく)という扱いだ。

 一芸に(ひい)でた者たちが、その人にしかできない依頼をこなすらしい。



 なお、サウスティアの街にはそんな冒険者たちを管理する施設──冒険者組合の、その支部が存在しない。



 その理由は、ここに組合支部をつくっても採算がとれるほど依頼が発生しなかったからだ。

 うちのダンジョンができた後も、結局、魔氷しか採れないわけだし、冒険者組合はいらないのではないか? というのが冒険者たちも含めたみんなの本音のようだ。


 …町長が商会にこっそり流した「町長はダンジョンマスターと交渉に成功している」という情報も、きっと冒険者組合の上層部にも伝わったのだろう。

 それを踏まえて、わざわざダンジョンマスターを刺激せずにそのまま魔氷を生産するダンジョンとして残せばいい、という裏事情もあるみたいで……


「…まぁ、なんにしても冒険者たちには好評で、初心者向けのダンジョン(?)あつかいされているのは良かったです」

「はい」


 すでに来ている上級冒険者も、ダンジョンコアを奪うために本気で攻め込んでくるわけでもなく、穴場としてそっとしておいてくれているみたいだし………これはこれで成功なのか? 地域密着型のダンジョンとしては?



 サウスティアの住民たちも、このまま人や金がたくさん集まってやがては大都市に! みたいなことを望んでいる訳では無さそうだ。

 やっぱり今の、ほどほどくらいの状況がちょうど良いのかもしれない。



「そ、それで、ですね……」

「はい」


「あの……その……」

「?」



 なんだか顔を赤らめてうつむいてしまった娘さん。

 なんだろう?



 …女の子にすぐ目の前で恥ずかし気にうつむかれてしまうと、おれも思わず、恥ずかし気にうつむいてしまうのだが……?


 そんな彼女を、ずっと後ろで温かく見守っていた男性使用人のオットーさんが、スッと前に出てきて助け舟を出した。



「実は少々、問題になっていることがございます」


「……なんでしょう、ぜひ教えてください」



 ほんとは、あんまり聞きたくない。

 でも、悪い知らせこそ最速で知っておかねばならないので、続きをうながす。


「ダンジョンで命を落とした者は、夢を見るという(うわさ)があります」

「ゆめ?」


 なんだろう、いやな予感がする。

 予感もなにも、つい最近そういうシステムを導入したような気がしないことも、ないような気が……


「その夢は、とても良いもので、決して()()()()()()()()()()()なのだとか」


 おれは即座に謝罪した。


「その件につきましてはっ!!

 驚愕(きょうがく)かつ不測の事態をわたくしも大変、遺憾(いかん)に思っており、持ち帰った上で早急に対処を検討いたしたい所存につき、誠に身勝手なこと重々承知の上で恥を忍んで、今しばらく、いましばらくのお時間を頂きたく存じます!!」


「「あ、はい」」


 とりあえず謝り倒しておいて、急いでどうにかすることにした。




  ◆ ◆ ◆



「おい! モルフェ!!

 おまえ冒険者どもに一体、どんな夢を見せた!!」


 我が家の広間で、アテナと一緒にスライムをころころ転がすスポーツ(?)に(いそ)しんでいたモルフェのもとへ、思わず怒鳴り込んだおれ。


 おれの剣幕に驚いたモルフェだったが、おれの言葉に事情を察したのか気まずそうに……目をそらした。


「えっと……彼らが望む夢を、見せたはず、だよ…?」


 つまり、エロじゃねぇかよ!?


「やっぱり、エロじゃねぇかっ!!」


「それはアルジィの偏見(へんけん)!! ……なのかも、知れない、日だって………きっと、あるよ……?」


「そこは力強く否定しろよ!?」


 もちろん、おれの偏見でもある。

 だが根拠はあるというか、歴史的にみてもそういうものだ。


 エロの歴史は長い。


 それは古くは(中略)だいたい絵画(にじげん)だろうが石像彫像(さんじげん)だろうが、足の露出も卑猥(ひわい)だと言われていた時代に、全裸だぞ!?

 英雄とか神とか聖女とか、なんでもかんでも全裸に脱がしゃ良いってもんじゃねぇだろ!?

 芸術? 正気か!? 貴族共が「分かってるよね?」の顔で押し通すための言い訳に決まってんだろそんなものは!

 全員が本気で下心無しの「芸術」を謳歌(おうか)していた? ほんとうに、全員が? そうか!?

 それなら! 貴族は「全裸が正装」で、夜会は互いの筋肉の仕上がり具合を(たた)え合う場にでもなってたはずだ!!



「伯爵の腹筋のキレ具合に大盛り上がりの、末期の文化だ! 服が(ほろ)びるッ!!」


「ごめん、アルジィ、なに言ってるかの分かんないよ?」



 …少々、話しがそれたけど。

 だから、これはモルフェが悪いわけじゃない、と言いたかった。

 人類の(さが)である。


「…いきなり怒鳴って、すまなかった。モルフェ。

 ただ望まれるものを見せた結果、そうなったのは分かっている」


「…ボクも、うすうすそんな予感もあったのに………ゴメンね?」


「あったのかよ!?

 …コホン。それはそれとして、このままだと本末転倒(ほんまつてんとう)になっちまうぞ?」


「えっ」


 もともとモルフェは、冒険者たちの恐怖を(うす)めようとして、彼らの望む夢を見せたはずだったが。


「このままではうちのダンジョンが、銀貨一枚でエロい夢を見せてもらえるお店に変わってしまう」

「うわっ!」


「それどころか、エロ目的で(がけ)に飛び込む新手(あらて)の変態まで登場しかねない」

「!?」


 まさか、いないとは信じたいが……こんな事態になるなら銀貨一枚で蘇生できるという価格設定がまずかった。

 お手軽すぎる。崖から飛び降りるスリルも込みでお楽しみになられてしまったら………もう手のほどこしようが無くなってしまう。


「いや、お前だけのせいじゃない………たしかに、おれたちは手段を間違えた、けど……

 …冒険者たちが、おれたちの想像の斜め上をいく変態だったんだ」


「ど、どうしよう……」


 …ああ、待て、落ち着け。

 まだ(うわさ)の段階のはずなんだ。

 なにも冒険者全員がそんな変態だって話では無かった、はずだ。


 とはいえ、このまま手を打たなければ悪夢が現実になりかねないので……



「…よし、次回からは、こうするぞモルフェ」



 おれはモルフェに指示をした。

 三回に一度は、悪夢をみせるように、と。


 特に調子に乗っているやつには、念入りに警告しておくように頼んでおいた。

 具体的には、今日も夢の中でムチムチお姉ちゃんとニャンニャンできるぞい、とか期待してるやつには、鼻息荒いギトギトおじさんと地平の果てまで追いかけっこしてもらえる、みたいな真逆の悪夢をみせるように頼んだ。


 モルフェは最初、「それはポリシーに反する」と難色(なんしょく)をしめした。


「でも、おれもいきなり悪夢を見せろとは言ってない。

 そもそもダンジョンとはいえ、三度も命を落としてしまうようなやつは冒険者以前に人として色々アウトだろう?

 半強制的にでも、大いに反省をうながす必要があるはずだ」


「そうだけど……」


 それに、これまで同様に【いきなりボス部屋の日】は除外している。

 この日は、おれか冒険者のどちらかが死ぬからだ。

 それ以外の日は、死ぬ前にちゃんと引き返せ、という話である。


 悪夢の度合いはモルフェが加減しても良いと言うことで、モルフェもしぶしぶ了承した。



 …ただ、それでも()りない筋金(すじがね)()りの変態……じゃなくて、猛者(もさ)だって冒険者の中にはいるはずだ。



 だから作戦を修正して、「三の倍数と、三がつく回に悪夢」を見せるように変更した。

 …ついに三十回目に突入したド阿呆共(あほうども)には容赦(ようしゃ)なく、そこでしっかり(とど)めを刺せ! とモルフェに厳命しておいた。




 こうして、もともとは良かれと思って始めたモルフェの親切心も、新しい「上げて落とす系の罠」として冒険者たちを戦慄(せんりつ)させることになってしまった。


 一回目の夢でちょっとドギマギして、二回目の夢でまさか! と思う。

 そこからさらにルンルン気分でむかえた三回目で、あろうことか絶望に叩き落としにくる罠に変わって……(なぐさ)めのつもりで始めた事業のはずが、追い打ち系の罠へとしっかり昇華されてしまった。



 結果、我が家はますます「殺意が高いダンジョン」として認識されることになった。



 サウスティアの街の酒場では、新人冒険者が「おい、ここのダンジョンで死ぬと……」とうれしそうに話す姿を、常連冒険者たち(三回目経験済み)が生温かい目で見守るのだという。

 彼ら(いわ)く、かつての自分たちの失敗を思い出し、酒の(ふか)みが増すのだとか。




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