表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/90

日替わりダンジョン(2)

 ダンジョンを日替わりで用意してみたら、誰も踏破(とうは)できなかった。


「…なんでっ、誰一人としてっ、ボス部屋までたどり着けねぇんだよ……!!」


 おかしい。

 こんなはずじゃなかった。


 だまし絵とか、坂道とか、ボス部屋までやって来た冒険者たちに「お前、俺達のこと馬鹿にしてんのか!?」と第一声で怒られるんじゃないかと、正直、ヒヤヒヤしながら待っていた………のに、全滅だと、おまえら!?


「…まだ初日だから慎重(しんちょう)にいこうとか、非常口があるから今日はここで引き返しておこうとかなら、まだ分かる!

 …だがッ!!

 みんながんばれ! ガンガンいこうぜ! な冒険野郎どもが次々に突撃しては、次々に穴へと落ちたあげく……全滅!?

 おい、どうした冒険者!?

 そこに穴があるんだぞ!? よく見ろ!!

 別に隠しちゃいないんだぞ! なのに、なぜ落ちる!?

 おまえら、全員、バカなのかッ!?」


「どう、どう。落ち着いて、アルジィ」


 おれは暴れ馬じゃねぇぞモルフェ! これが落ち着いてなんていられるかッ!


「じゃぁ、もう、毎日【蜘蛛(くも)の糸の日】で良いんじゃねぇのか!?

 上にあるゴールを目指して一本のロープを奪い合う冒険者たちが、いっぱい登ってきたところでロープを切る、またロープをたらして、いっぱい登って来たところでロープを切る。そういうやつだ!

 一定の重さで切り離すような仕掛(しか)けにすれば、たぶん自動化できるんじゃねえのか!?

 ぼんやり(なが)めているだけで銀貨がどんどん増えていって、あっという間に億万長者だ! ステキだな、おい!!」


「それはさすがに、バカにしすぎだと思うよ?」


 そんなモルフェのツッコミに、思わず八つ当たりするおれ。


「じゃぁ、どうすりゃ良いんだよ!?

 いまのこれで全滅だぞ!? 難易度調整むずかし過ぎるぞ!?」


「う、うん。どうすれば良いんだろうね?」


 バカにしない程度で、バカでもクリアできるダンジョンをつくれだと?

 一体、バカとは何か?

 それはもう、哲学の領域だ!



 あと、それはそれとして、また別の問題も発生した。


「それはそれとして、ちょっとアルジィに、お願いがあるんだけど……」

「ん? どうしたモルフェ?」


 モルフェは心配した。

 このままではうちのダンジョンに来た冒険者たちはみんな、高所恐怖症になってしまうのではないか、と。


「みんな次々に穴に落っこちちゃうから、大丈夫なのかな、って…」

「大丈夫では、無さそうだな」


 冒険者である以上は、危険を(おか)す覚悟くらいは当然あるのだろうけれど。


 ただあまりにも全滅率が高くて、かつ同じ「落下死」という方法に(かたよ)っているのが、よろしくなかった。


「……確かに、モルフェの心配も一理ある。

 ふつうは魔物と戦ったりして、命を落とさないまでも負傷して、途中で引き返したりするもの……なんだよな?

 すべて落下エネルギーで一撃必殺というシンプル構成が、完全に裏目に出てしまっているかもしれない」


 (まゆ)をひそめて困った様子で、モルフェがおれに提案した。


「それでね、ボクが彼らに『夢をみせて』あげようと思うんだ」

「ゆめ?」


 モルフェは夢魔である。

 つまり、全滅した冒険者たちに良い感じの夢をみせて、死の恐怖を(うす)めてやった方が良いんじゃないか? という配慮(はいりょ)だった。


 そんなモルフェが見せる夢は、登場人物から内容まで自由自在である。


 それはダンジョン調査隊の迎撃作戦時に実験済みだ……あの時たいそうお(よろこ)びになったという隊長は元気でやっているだろうか? …彼の性癖(せいへき)が変な方向に加速していなければ良いのだが……


「…コホン。

 でも、それは、モルフェにはメリットがあるのか?

 たとえば夢を見せた相手の精を吸い取る、とか?」


 そういう事情なら、じゃんじゃん夢でも何でも見せてやれば良いと思うけど?


「違うよ!? ただ望む夢をみせて、死んだ恐怖をちょっとだけ減らしてあげたいだけだから!

 ボクはそういうのは得意だから。

 …ボクの魔力が減るとかの心配はしなくても大丈夫だよ?」


 単純に善意かららしい。モルフェさんは心優しい包帯さんだった。


「…そうか。それでモルフェの気が済むのなら、別にやっても良いと思うよ?」

「ありがとう!」


 そんなわけで、ボス部屋で倒れた場合以外は、モルフェが蘇生前の冒険者たちに夢をみせて心を(いや)すことになったのだが……



「……せめて、夢の中では幸せに、ね」



 …モルフェ?

 それだと、少し方向性が違うような気もするのだが?


 ただ、その言葉がなぜかモルフェに()()()()きたような気がして、おれはモルフェの願うままにさせたくなってしまったのだった。



 ……そして、これはこれでまた別の問題を引き起こすことになろうとは。

 この時のおれには想像もできなかったのだった。




  ◆ ◆ ◆



 それからしばらく()ったある日。

 いつもの町長さんの家での報告と相談の場での話。


 その日は町長さんの体調がよろしくなくて、娘さんと使用人さんが対応した。

 おれに紅茶っぽい飲み物を出してくれた娘さんが、テーブル正面に座っておれに切り出した。


「えっと、殺意が高いダンジョン、って言われてます」

「あ、はい」


 彼女は街でダンジョンについての(うわさ)(ばなし)を集めて来てくれたそうだ。やさしい。

 だが、内容の方はやさしくなかった。

 なんだ、殺意が高いって?

 かわいらしい娘さんの口から出てくるような単語じゃないだろ。


「冒険者の皆さんが、回復薬を使うひまも無いって」

「……それは、たしかに、そうですね」


 言われてみれば、その通りだった。


 うちの日替わりダンジョンの死因第一位は「落下死」だ。

 そして二位は無い。

 すべてが落下オチ。まんねりネタである。

 床に叩きつけられると同時に白い炎となって消滅すれば、回復薬も何もなかろう。


 いきなりボス部屋の日も、似たようなものだ。


 少し心の余裕ができたおれは、できるだけ初手は相手を牽制(けんせい)する。

 こちらの手の内を少し見せた上で、「お帰りは後ろですよ?」と確認する。

 それでも来るなら、できるだけ一撃で()っている。

 死を(もてあそ)ばないのがせめてもの礼儀と心得(こころえ)ているので……結局、回復薬を使う(ひま)など与えなかった。


 ……どっちにしても、たしかに、うちのダンジョンは殺意が高い。


「……大変、申し訳ありません」

「いいえ! それは別に、冒険者の皆さんも分かっていて挑戦してますから!」


 分かっていて来ちゃうドM野郎どもも問題ではあるのだが。


 各地から屈強な変態共をおびき寄せている我が家(ダンジョン)? 地域住民が青ざめないか?


「…うちは地域密着型ダンジョンを目指しているのに、一体どこで間違えたんだ……?」

「そ、そこは大丈夫です。みなさんにもちゃんと好評ですよ?」


 それはドM限定ではなく、ちゃんとふつうの冒険者たちにも好評らしい。

 特に初級から中級の冒険者に人気があるのだとか。


 さすがにうちのダンジョンの仕組みを理解したのか、特に初心者は、無理せずに途中の非常口から引き返して、帰り道にある「魔氷」を採って帰るのを目標にしている。

 初心者でもどうにか(かせ)げるダンジョンとして、早くも人気が出つつあるのだとか。


 街の住民たちも、冒険者たちが街に売却する「魔氷」のおかげで助かっているようだ。


 集めた魔氷を都市部に流通させて利益を得る、というのもあるのだけれど、サウスティアの街の中でも消費できるのが良いらしい。

 燃料、簡易照明、特殊な建材、魔術の触媒や道具の部品、等々。魔氷の用途は幅広く、誰もが使えて無駄にならない。


 ……うちのダンジョンは魔氷()()しか採れないけれど、それでも全く問題なさそうなのは意外だった。



「冒険者の皆さんは、サウスティアのダンジョンを『穴場』にしたいみたいです。

 他の上級冒険者に来られたら困る、って上級冒険者の方が言ってました」



 なるほど、それは何よりだ……

 …ん? まて? なんて言った?


 上級冒険者? もう来てるの?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ