日替わりダンジョン(2)
ダンジョンを日替わりで用意してみたら、誰も踏破できなかった。
「…なんでっ、誰一人としてっ、ボス部屋までたどり着けねぇんだよ……!!」
おかしい。
こんなはずじゃなかった。
だまし絵とか、坂道とか、ボス部屋までやって来た冒険者たちに「お前、俺達のこと馬鹿にしてんのか!?」と第一声で怒られるんじゃないかと、正直、ヒヤヒヤしながら待っていた………のに、全滅だと、おまえら!?
「…まだ初日だから慎重にいこうとか、非常口があるから今日はここで引き返しておこうとかなら、まだ分かる!
…だがッ!!
みんながんばれ! ガンガンいこうぜ! な冒険野郎どもが次々に突撃しては、次々に穴へと落ちたあげく……全滅!?
おい、どうした冒険者!?
そこに穴があるんだぞ!? よく見ろ!!
別に隠しちゃいないんだぞ! なのに、なぜ落ちる!?
おまえら、全員、バカなのかッ!?」
「どう、どう。落ち着いて、アルジィ」
おれは暴れ馬じゃねぇぞモルフェ! これが落ち着いてなんていられるかッ!
「じゃぁ、もう、毎日【蜘蛛の糸の日】で良いんじゃねぇのか!?
上にあるゴールを目指して一本のロープを奪い合う冒険者たちが、いっぱい登ってきたところでロープを切る、またロープをたらして、いっぱい登って来たところでロープを切る。そういうやつだ!
一定の重さで切り離すような仕掛けにすれば、たぶん自動化できるんじゃねえのか!?
ぼんやり眺めているだけで銀貨がどんどん増えていって、あっという間に億万長者だ! ステキだな、おい!!」
「それはさすがに、バカにしすぎだと思うよ?」
そんなモルフェのツッコミに、思わず八つ当たりするおれ。
「じゃぁ、どうすりゃ良いんだよ!?
いまのこれで全滅だぞ!? 難易度調整むずかし過ぎるぞ!?」
「う、うん。どうすれば良いんだろうね?」
バカにしない程度で、バカでもクリアできるダンジョンをつくれだと?
一体、バカとは何か?
それはもう、哲学の領域だ!
あと、それはそれとして、また別の問題も発生した。
「それはそれとして、ちょっとアルジィに、お願いがあるんだけど……」
「ん? どうしたモルフェ?」
モルフェは心配した。
このままではうちのダンジョンに来た冒険者たちはみんな、高所恐怖症になってしまうのではないか、と。
「みんな次々に穴に落っこちちゃうから、大丈夫なのかな、って…」
「大丈夫では、無さそうだな」
冒険者である以上は、危険を冒す覚悟くらいは当然あるのだろうけれど。
ただあまりにも全滅率が高くて、かつ同じ「落下死」という方法に偏っているのが、よろしくなかった。
「……確かに、モルフェの心配も一理ある。
ふつうは魔物と戦ったりして、命を落とさないまでも負傷して、途中で引き返したりするもの……なんだよな?
すべて落下エネルギーで一撃必殺というシンプル構成が、完全に裏目に出てしまっているかもしれない」
眉をひそめて困った様子で、モルフェがおれに提案した。
「それでね、ボクが彼らに『夢をみせて』あげようと思うんだ」
「ゆめ?」
モルフェは夢魔である。
つまり、全滅した冒険者たちに良い感じの夢をみせて、死の恐怖を薄めてやった方が良いんじゃないか? という配慮だった。
そんなモルフェが見せる夢は、登場人物から内容まで自由自在である。
それはダンジョン調査隊の迎撃作戦時に実験済みだ……あの時たいそうお悦びになったという隊長は元気でやっているだろうか? …彼の性癖が変な方向に加速していなければ良いのだが……
「…コホン。
でも、それは、モルフェにはメリットがあるのか?
たとえば夢を見せた相手の精を吸い取る、とか?」
そういう事情なら、じゃんじゃん夢でも何でも見せてやれば良いと思うけど?
「違うよ!? ただ望む夢をみせて、死んだ恐怖をちょっとだけ減らしてあげたいだけだから!
ボクはそういうのは得意だから。
…ボクの魔力が減るとかの心配はしなくても大丈夫だよ?」
単純に善意かららしい。モルフェさんは心優しい包帯さんだった。
「…そうか。それでモルフェの気が済むのなら、別にやっても良いと思うよ?」
「ありがとう!」
そんなわけで、ボス部屋で倒れた場合以外は、モルフェが蘇生前の冒険者たちに夢をみせて心を癒すことになったのだが……
「……せめて、夢の中では幸せに、ね」
…モルフェ?
それだと、少し方向性が違うような気もするのだが?
ただ、その言葉がなぜかモルフェにしっくりきたような気がして、おれはモルフェの願うままにさせたくなってしまったのだった。
……そして、これはこれでまた別の問題を引き起こすことになろうとは。
この時のおれには想像もできなかったのだった。
◆ ◆ ◆
それからしばらく経ったある日。
いつもの町長さんの家での報告と相談の場での話。
その日は町長さんの体調がよろしくなくて、娘さんと使用人さんが対応した。
おれに紅茶っぽい飲み物を出してくれた娘さんが、テーブル正面に座っておれに切り出した。
「えっと、殺意が高いダンジョン、って言われてます」
「あ、はい」
彼女は街でダンジョンについての噂話を集めて来てくれたそうだ。やさしい。
だが、内容の方はやさしくなかった。
なんだ、殺意が高いって?
かわいらしい娘さんの口から出てくるような単語じゃないだろ。
「冒険者の皆さんが、回復薬を使うひまも無いって」
「……それは、たしかに、そうですね」
言われてみれば、その通りだった。
うちの日替わりダンジョンの死因第一位は「落下死」だ。
そして二位は無い。
すべてが落下オチ。まんねりネタである。
床に叩きつけられると同時に白い炎となって消滅すれば、回復薬も何もなかろう。
いきなりボス部屋の日も、似たようなものだ。
少し心の余裕ができたおれは、できるだけ初手は相手を牽制する。
こちらの手の内を少し見せた上で、「お帰りは後ろですよ?」と確認する。
それでも来るなら、できるだけ一撃で殺っている。
死を弄ばないのがせめてもの礼儀と心得ているので……結局、回復薬を使う暇など与えなかった。
……どっちにしても、たしかに、うちのダンジョンは殺意が高い。
「……大変、申し訳ありません」
「いいえ! それは別に、冒険者の皆さんも分かっていて挑戦してますから!」
分かっていて来ちゃうドM野郎どもも問題ではあるのだが。
各地から屈強な変態共をおびき寄せている我が家? 地域住民が青ざめないか?
「…うちは地域密着型ダンジョンを目指しているのに、一体どこで間違えたんだ……?」
「そ、そこは大丈夫です。みなさんにもちゃんと好評ですよ?」
それはドM限定ではなく、ちゃんとふつうの冒険者たちにも好評らしい。
特に初級から中級の冒険者に人気があるのだとか。
さすがにうちのダンジョンの仕組みを理解したのか、特に初心者は、無理せずに途中の非常口から引き返して、帰り道にある「魔氷」を採って帰るのを目標にしている。
初心者でもどうにか稼げるダンジョンとして、早くも人気が出つつあるのだとか。
街の住民たちも、冒険者たちが街に売却する「魔氷」のおかげで助かっているようだ。
集めた魔氷を都市部に流通させて利益を得る、というのもあるのだけれど、サウスティアの街の中でも消費できるのが良いらしい。
燃料、簡易照明、特殊な建材、魔術の触媒や道具の部品、等々。魔氷の用途は幅広く、誰もが使えて無駄にならない。
……うちのダンジョンは魔氷だけしか採れないけれど、それでも全く問題なさそうなのは意外だった。
「冒険者の皆さんは、サウスティアのダンジョンを『穴場』にしたいみたいです。
他の上級冒険者に来られたら困る、って上級冒険者の方が言ってました」
なるほど、それは何よりだ……
…ん? まて? なんて言った?
上級冒険者? もう来てるの?




